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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生58巻6号

1994年06月発行

雑誌目次

特集 骨粗鬆症の予防戦略

骨粗鬆症の定義と診断基準

著者: 細井孝之

ページ範囲:P.379 - P.382

◆はじめに
 骨は成長期以降も骨吸収と骨形成の両方が進行しており,極めて動的なバランスの上にある代謝的に活発な臓器である.このことは骨が単なる身体の物理的支持体として機能しているのではなく,カルシウム代謝の中心的臓器の一つとしても重要な働きをなしていることを反映している.
 高齢化が急速に進む現在,骨粗鬆症の予防と治療法の確立は医学的のみならず社会的にも大きな課題となっている.ここでは骨粗鬆症の定義とその診断基準について述べる.

骨粗鬆症の早期発見—骨折の予防

著者: 橋本勉 ,   笠松隆洋 ,   清水教永

ページ範囲:P.383 - P.386

◆はじめに
 厚生省長寿科学総合研究「骨粗鬆症の予防に関する総合研究班(班長:折茂肇)」が医療機関を対象に実施した1992年の全国調査1)によると,わが国の大腿骨頸部骨折の発生数はおよそ男20,000人,女60,000人,計80,000人と推定された.この発生率は厚生省シルバーサイエンス研究「老人性骨粗鬆症の予防および治療法に関する総合的研究班(班長:折茂肇)」により行われた2)1987年の53,200人(男13,500人,女39,700人)に比べて増加している.2時点における調査方法が若干異なることから厳密な意味では直接比較できないかもしれないが,この5年間で増加していることは事実である.今後,人口の高齢化が着実に進むことは明らかであり,老人性の骨粗鬆症に罹患する者の数は増加の一途をたどると考えられる.骨粗鬆症やそれに伴う骨折の予防対策が急務となるゆえんである.骨粗鬆症そのものは古くから知られていたが,長い間,生理的老化現象と考えられていた.単なる老化現象だけでなく,種々の要因により発症する骨の病的老化現象として本格的な研究が開始されたのはつい最近である.したがって発症のメカニズムについても解明されていない部分が多い.

骨量減少のリスクファクター

著者: 伊木雅之

ページ範囲:P.387 - P.390

◆はじめに
 骨粗鬆症の最も重要な所見は骨量の減少である.近年,優れた非侵襲的骨量測定法が開発され,骨塩量や骨密度が正確,かつ容易に測定できるようになった.骨塩量の減少に伴って骨の物理的強度は低下し,骨折のリスクが上昇するので,骨塩量減少のリスクファクターは骨粗鬆症のリスクファクターとして扱ってよい.本稿では,主に退行期骨粗鬆症における骨量減少のリスクファクター(表参照)について今日までの知見を概括したい.

骨粗鬆症の検診方法—DXA法

著者: 藤井芳夫 ,   藤田拓男

ページ範囲:P.391 - P.393

◆はじめに
 骨粗鬆症において腰痛や骨折を起こしたものを治療することは重要であるが,リスクの段階で患者を早期発見し,骨量測定によるスクリーニングを行うことが望ましい.閉経後数年は急速な骨量減少が起こることが知られており,約10%はその速度が異常に大きく急速骨喪失者と言われ,何年か後に重症の骨粗鬆症を発症するのはこれらの人々であるとされる.このような急速骨喪失者をリスクの段階で早期発見し治療を開始することは骨粗鬆症を減らし,腰痛や圧迫骨折を有する骨粗鬆症患者の治療とともに重要である.骨粗鬆症をリスクの段階で早期発見するためには,骨量測定によるスクリーニングを導入することが必要である.国立療養所兵庫中央病院(藤田拓男病院長)では,三田市および三田保健所から市内の希望者について平成4年4月より骨粗鬆症検診として骨密度測定(50歳検診)を実施している.本稿はその50歳検診,主にDXAによる検診結果について述べる.本稿が骨粗鬆症の疫学的観点から,また実態把握に役立てれば幸いである.

骨粗鬆症の検診方法—CXD法(改良型MD法)

著者: 浦野純子

ページ範囲:P.394 - P.397

◆はじめに
 高齢化社会が進行する中で,骨粗鬆症は老人の寝たきりへの引き金となる骨折の主要因であり,またQOL(生活の質)を低下させるものである.
 人口約50万(平成6年3月)の板橋区でも寝たきり老人の数(老人福祉手当受給者)は平成5年度末で2,149人で,中でも骨折によるものが目立ち始めた.このような現実を踏まえ,志村保健所では平成5年6月より「骨粗鬆症予防検診」を開始した.
 この検診については,区広報により募集したが,区民の要望が強く募集300名に対して1,985名の応募があった.この状況に応じ板橋区では,他保健所(板橋・赤塚)および保健相談所(上板橋・高島平)でも同年11月より実施することとなった.今回は平成5年6月より平成6年3月までの検診状況について述べることとする.
 機種の選定に関しては,保健所の機能・目的等から考え,スクリーニングであること,なるべく多数の人が受けられること,簡便であることを選定基準として考慮し,CXD法を用いることにした.CXD法(computed X-ray densitometry)はわが国で開発された骨密度定量器である.

骨粗鬆症の検診方法—超音波法

著者: 田崎正善 ,   岡本不二子 ,   中江初恵 ,   山本逸雄 ,   奥井貴子 ,   大庭真佐子 ,   平井和夫 ,   森田陸司

ページ範囲:P.398 - P.401

◆はじめに
 寝たきりの原因疾患として脳卒中に次いで多い骨折は,その多くが骨粗鬆症を背景として発生すると考えられている.高齢化の進展に伴い,骨粗鬆症はますます増加することが予測され,今後の主要な保健医療課題である「寝たきり予防対策」の中における骨粗鬆症対策の比重は今後さらに高まってくるものと考えられる.現在,全国的に取り組みがなされている「寝たきりゼロ作戦」の推進を図るうえにおいても,骨粗鬆症の予防や早期発見・早期対応を目指した施策の推進が望まれているところである.
 骨粗鬆症対策としては,本疾患の予防のための健康教育,食事・運動指導の推進,疾患の早期発見・早期治療体制の整備等が考えられるが,なかでも,その中核となるのは他の成人病対策と同様,疾患の早期発見を目的とした検診の実施であると思われる.
 滋賀県においては,「寝たきり老人ゼロ作戦」のなかにおいて骨粗鬆症対策を主要な柱の一つと位置づけ,その推進を図ることとしている.具体的には,骨粗鬆症の早期発見と予防に向けての健康教育,栄養指導等の骨折防止対策を積極的に推進するとともに,骨密度測定検診体制の整備に努めることとしている.

検診方法の特徴と課題

著者: 林𣳾史

ページ範囲:P.402 - P.405

◆はじめに
 骨粗鬆症の予防戦略に用いる検診の流れの中での主な骨量計測法のそれぞれの特徴については,各担当筆者により記載されている.そこで本稿ではこれら3つの骨量計測法を,骨粗鬆症検診システムの中でどのように特徴づけて生かしていけばよいのかについて述べていく.また,今回の特集で,項目としては取り上げられていない問診表,臨床血液・尿検査による骨代謝マーカー計測を,骨量計測とどのように組み合わせていけば各骨量計測法の欠陥を補い,より有効な予防戦略となりうるのかについても述べていく.

骨粗鬆症—生活の中での予防戦略

著者: 黒田研二 ,   鈴木雅丈 ,   高山佳洋 ,   多田羅浩三

ページ範囲:P.406 - P.409

◆骨粗鬆症の予防
 近年,骨粗鬆症の予防と治療に注目が集まるようになった背景には,いくつかの要因が考えられる.第1に,診断と治療方法の発展がある.種々の骨密度測定装置が開発されるとともに診断基準が検討され,ホルモン補充療法やその他の治療薬の開発も進みつつある.第2は,高齢人口の急速な増加である.かつては,老化という一般過程の中で見過ごされてきたものが,診断基準が作られ有病率などの疫学知見が集積されるにつれて,わが国の骨粗鬆症の有病者数は1000万人に達すると見積もられるようになった1).今後の高齢人口の増加を考慮すると,骨粗鬆症の予防は急務である.第3に寝たきり予防の戦略の中での重要性があげられる.脳卒中の年齢調整死亡率はこの30年間に3分の1に低下した.一方,骨粗鬆症や大腿骨頸部骨折に起因する死亡率は詳しいデータはないが,低下しているという証拠はない.寝たきり状態を作り出す疾患のうち予防可能な疾患として骨粗鬆症が新たに注目されている.
 人口の高齢化が進みつつある欧米諸国でも事情は同様で,骨粗鬆症の予防の方法についての議論もさかんになっている.

骨粗鬆症治療—最近の知見

著者: 高岡邦夫 ,   橋本淳

ページ範囲:P.410 - P.414

◆はじめに
 骨粗鬆症の薬物治療の目標は,骨量減少に由来する易骨折性の防止と易骨折性からの回復である.骨粗鬆症の発症は女性に優位であるが,その原因的因子としては,低いpeak bone mass,閉経後の急速な骨量減少,さらに老化による萎縮による骨量減少であることは周知のとおりである.薬物療法は,この閉経後の急速な骨量喪失の防止(予防的治療ともいうべきか)と骨折危険域に達してしまっている患者での骨量回復または骨の物理的強度の回復による骨折危険域からの脱出が,大きな目標であろう.骨量減少のメカニズムは,骨代謝回転での骨吸収量と骨形成量の負のバランスすなわち骨吸収の相対的優位であるとされる.したがって理論的には,骨吸収の抑制(骨代謝回転に抑制を伴う)または,骨代謝回転での骨形成促進(骨代謝回転の抑制を伴わない)による負のバランスの解消が薬物でできれば,治療が可能ということになろう.
 骨粗鬆症の薬物治療は,骨粗鬆症の発症メカニズムに関する研究結果や仮説の変遷とともに変化してきた.古典的には,カルシウム出納の負のバランスにその病因を求めて,カルシウム補充摂取やビタミンD投与が行われてきた.

視点

看護の時代

著者: 野村陽子

ページ範囲:P.377 - P.378

【量から質への転換】
 平成という年号に入ってから看護婦不足という大波が再び押し寄せ,社会問題となり,突然“看護”が脚光を浴びた.看護婦不足の解消に向けて,厚生省は新たな法律を制定するなど様々な対応が取られ,現在でも看護学校の増設や医療機関での看護業務の改善等が行われている.
 米国も数年前までは日本と同様の看護婦不足問題を抱えていたが,現在ではほぼ解消しており,看護婦はどこの州へ移動しても職の得られる安定した職業として人気すらある.

公衆衛生医師—その現状と課題 座談会

保健医療情報の活用を考える(1)

著者: 尾島俊之 ,   田上豊資 ,   永井正規 ,   坂田清美

ページ範囲:P.415 - P.419

 坂田 本日ご出席の先生方は,保健医療情報についてはそれぞれ先駆的に取り組まれ,いろいろと実績を上げておられます.今日はその具体的なお話も交えながら,公衆衛生,特に保健所を中心とした公衆衛生医が,これからどのように保健医療情報を活用していくべきか,そのためにはどういう技術や知識を身につけていかなくてはいけないのか,などを明らかにしていきたいと思います.
 保健医療情報と一言でいっても非常に広く,例えば長い歴史をもつ人口動態統計,伝染病統計,食中毒統計,あるいは栄養調査,国勢調査,さらには国民生活基礎調査,患者調査といったものがありますが,最近ではこれに加えて,コンピュータの普及により結核・感染症サーベイランスのネットワークも確立されておりますし,また脳卒中やがん登録,地域によっては心筋梗塞など様々な疾病登録が各地で展開されております.それから,健診事業が普及し,多種多様な項目で行われるようになっております.その代表が老人保健法による健康診査事業でしょうが,これなどはデータの宝庫と称されていますが,その活用という点からみると,必ずしも十分に活用されているとはいえないと思います.

連載 地域精神保健の展開—精神保健センターの活動から・6

家族会,精神保健ボランティアの育成と地域精神保健活動—愛媛県精神保健センター

著者: 青木眞策

ページ範囲:P.420 - P.424

【はじめに】
 昭和44年3月の精神保健センター運営要領において,協力組織の育成がセンター業務の通称“6本柱”の一つとされている.「地域精神保健の向上を図るためには,地域住民による組織的活動が必要である.このためセンターは,精神医療施設や保健所その他の関係機関を単位としてつくられた協力組織の育成を図るとともに,他方,都道府県単位の組織を強化することに努め,地域精神保健活動に対する住民の協力参加や各種社会資源の活用を円滑有効に行う」と説明されている.地域精神保健に当事者はもとより住民の参加が不可欠なこと,およびサポートネットワークシステムの開発が必要なことを示していると理解している.各地の精神保健センターは幅広い領域で組織育成や支援に取り組んでいるが,今号では,愛媛県において昭和59年より始まった精神障害者家族会の育成と,平成3年度から始まった精神保健ボランティアの育成について御紹介したい.

シンポジウム リハビリテーションと保健活動—障害の受容をめぐって

4)地域リハビリテーションの視点から

著者: 浜村明徳

ページ範囲:P.425 - P.429

 障害を持つ老人たちの自発的な機能訓練会を支援する活動を通して,昭和53年,リハビリテーション(以下,リハ)専門職や保健婦などが中心となり,長崎のリハ協議会が発足した.活動の基盤となる法制度もなく試行錯誤の中で月1回の連絡会が始まり,今日まで続いている.退院時の報告や退院後の生活状況に関する検討,様々な情報の交換が行われている.また昭和58年より,老人保健法を基盤にして地域リハ推進の事業を県下の各地で行っている.
 病院におけるリハ治療,デイケア,地域での諸活動を通して,障害の受容を考えてみたい.

疾病対策の構造 生活環境を支えるシステム—水道・1

健康と病気を運ぶ水供給システム

著者: 小林康彦

ページ範囲:P.430 - P.433

1.はじめに
 「公衆衛生」の皆さんとほぼ同じ目的を掲げ,その課題に工学的に取り組もうとするのが,水道,廃棄物など施設を軸に据えての生活環境の分野で,「衛生工学」をバックグランドにしている.しかし,両者の間の意思疎通は必ずしも十分でなく,もう少し積極的に共通の場での議論を盛んにすべきではないかと常々感じていた.
 一方,水道,生活排水処理,廃棄物処理いずれも,健康を守り公衆衛生を向上させるためという役割のほかに,都市や産業を支える基盤サービスという性格がある.その側面に焦点を当て,「ごみ処理の基本は衛生対策を卒業してリサイクルにおくべきである」とか,「飲料水は容器入りか家庭での浄水器でよく,水道の水質は飲用を基準にすることはない」というような主張が一部で行われるようになっている.
 それに対し,水道とは何か,ごみ処理の基本は何か,と,機会あるごとに内部への問題提起を行ってきたのが,東京都衛生研究所の倉科周介所長の目にとまり,今回の筆者の登場になった.

進展する地域医師会の公衆衛生活動 在宅ケアの取り組み—大村市医師会・1

大村地域医療研究会と地域のネットワークづくり

著者: 福田律三 ,   南野毅 ,   朝長昭光 ,   中澤和嘉

ページ範囲:P.434 - P.435

福田会長「医師会長の立場で申しますと,保健所の運営委員を担当したり,地域医療対策協議会の会長を務めておりますが,そのような会合を通じて,また国が打ち出したゴールドプランへの対応をはじめ高齢社会における医療のみならず保健・福祉のあり方をめぐって大きなうねりがあります.そのようないろいろな動きのもとで,自治体の現場の職員は勉強をしているようですが,市レベルの行政サイドから出てくることは,相変わらず医師会主導の対応を期待する動きがまだ強いわけです.」
 「他方,高齢化社会での医療のあり方について医師会の内部でも従来と違った空気になりつつあり,新たな視点でこれからの医療を追求しようとしていたわけです.」

研究ノート

In vitroで細菌および人癌細胞の増殖を阻害する清酒に含まれる因子についての考察

著者: 滝澤行雄 ,   伊藤玲悦 ,   吉田有子 ,   工藤行蔵

ページ範囲:P.437 - P.440

●はじめに
 近年,問題視されている種々な環境要因のうち,発癌のメカニズムや発癌の疫学的研究から突然変異作用をもつ物質の存在1)が報告されて以来,環境衛生問題と共に食品に含まれる変異原にも関心が寄せられている.種々な変異原の検索はRec-assay2)やAmes試験3)で行われ,食品には添加物以外に加工行程で複製されるニトロソアミン系物質4)や,ヘテロサイクリックアミン系物質5)などの変異原が含まれることが明らかにされている.それらと共に,酸化剤や還元剤などの突然変異抑制物質6)や,変異原によるDNAの突然変異誘発頻度を低下させる抗突然変異物質7)も食品に検出されている.また,特定の食品の摂取とある疾患との因果関係について多くの疫学報告があり,例えば清酒多飲地域住民の肝硬変死亡率は,清酒以外の酒類多飲地域住民のそれと比べ有意に低いと報告8)されている.
 以上の観点から,食品に同様な作用を有する物質を検討することはすこぶる意義が大きいと考えられる.よって我々は,清酒に含まれる同様な活性をもつ因子について検討した.

調査報告

保育園におけるアトピー性皮膚炎と食物アレルギーに対する対応

著者: 古田加代子 ,   古田真司 ,   深田朝美 ,   松本広美

ページ範囲:P.441 - P.445

●はじめに
 近年の小児のアレルギー疾患の増加は顕著で1,2),その中でもアトピー性皮膚炎の罹患率は高く,多くの母親の関心事となっている.しかし,その原因や治療方法については現在もなお論議があり3),特に食事アレルギーの問題や食物制限の方法・効果については,マスコミ等でもかなり取り上げられ,社会問題化している.また専門家の側も,特に皮膚科医と小児科医との間にアトピー性皮膚炎と食物アレルギーとの関連において立場の違いあると言われており4),保健所などの行政機関がこの問題を指導する際の指針が明確でなく,母親への指導に苦慮している現状が多く見受けられる5)
 一方,こうしたアレルギー疾患を持つ子供を預かる立場の保育園の側では,近年の少子化に伴う園児の減少傾向で,経営上からもこうした問題に対するなんらかの対処をせざるをえない状況におかれている.こうした中で1987年には全国保母会が全国2,000施設,約18万人の園児を対象としたアレルギー疾患に関する調査を行い6),この年すでに全国の約20%の保育園で,食物アレルギーに対する特別な配慮(特別な給食や弁当持参など)を行っていることを報告している.

海外事情

スウェーデンにおける公衆衛生上の課題

著者: 黒沢洋一

ページ範囲:P.446 - P.449

●はじめに
 1992年9月より約半年間,公衆衛生分野(主に産業衛生)の研究のため,スウェーデンに滞在したので,その報告としてスウェーデンにおける今日の公衆衛生の課題について若干述べたいと思う.スウェーデンの今日の公衆衛生の課題は,生活様式が欧米化する日本のこれからの課題を考える上で参考になると考えられる.
 スウェーデンの国土は日本の約1.2倍,人口は860万人で,日本の12分の1に過ぎない.また,65歳以上が約20%を占める超高齢社会である.しかし,近年,ストックホルムの街行く乳母車の多さに驚かされるほど,出生率が回復しはじめているので,高齢化社会にも光明が見えはじめている.
 ここで,スウェーデンの保健医療サービスについて簡単に説明する.外来患者の診察は初期医療地区に組織されている保健センターで行われる.保健センターには,地区医師,地区看護人,助産婦なども含まれ,一般診療,小児科,産婦人科などがあり,4歳児検診,子宮がん検診等の予防医学も行っている.保健センターからの紹介,救急の疾患,特別な疾患等による入院患者は地区および中央ランスティング(県に相当)病院が担当している.

保健活動—心に残るこの1例

脳性麻痺のあるK君の成長を支えて

著者: 澤登智子

ページ範囲:P.436 - P.436

 平成2年3月に36週1,562gで出生したK君は,SFD(在胎週数に比較して体重の少ない新生児)のためクベース(保育器)に収容され,出生翌日から光線療法を96時間受けた.その後,体重増加は良好で生後42日目で退院でき,その時は神経学的な異常所見は認められないとのことだった.
 K君の家は,両親と父方の祖父の4人家族である.祖父は農業,父は自営業で忙しく,母親は家事をしながらK君の育児となり,負担が大きかったのか4kgも痩せてしまったとのこと.実は,母親は手と足に軽い麻痺があり,話し方も少しぎこちなさのある方である.だが,K君の定期健診や保健所での育児学級には必ず出向き,本当に熱心に育児に取り組んでいた.K君が5カ月になっても首がすわらないため,訓練を受けるようにと定期健診の折に指示が出た.母親は「どこか悪い病気でしょうか?」と心配そうだった.乳児が訓練を受けるということがよくイメージされず,紹介先の施設もどんな所なのか不安な様子だったので,保健婦より施設へ連絡をとり,初回は同伴することにした.

新しい保健・福祉施設

栃木市保健福祉センター

著者: 石橋勝夫

ページ範囲:P.450 - P.451

 栃木市は,関東平野の北部,栃木県の県南にあって,海抜43m,東西14km,南北11kmで,西北部は山岳地帯となっており,出流,三峰,晃石,太平の山々が連なり,東南部は開けて関東平野に続いている.市街地の中心部には,かつては江戸とを結ぶ舟運の大動脈として利用された巴波川が貫流している.明治の初期には,栃木県庁が設置され商業活動も一段と活発化し,豪商の出現とともに見世蔵や土蔵が建てられ,そして蔵の街としての街並みがつくられ経済活動は隆盛を極めた.市街地の中心部には,今でも多くの蔵が軒をつらね,巴波川の川面に映る黒塀や白壁の土蔵,また,10万尾をこえる錦鯉の群遊する景観には,往時の栄華をさえ感じるものがある.
 こんな歴史の息吹くなかにあって,本市では21世紀を展望した将来都市像を「活気あふれる産業文化都市」と定め,その具現化に向け,健康で住みよい街づくりを行っているところであるが,これに比例するかのごとく人口の高齢化が着実化し,これは避けては通れないものとなってきている.

保健行政スコープ

老人訪問看護事業の現状について

著者: 関山昌人

ページ範囲:P.453 - P.455

1.はじめに
 日本の高齢化のスピードは先進諸国に比べ早く,寝たきりや痴呆といった要介護者になりやすい後期高齢者の人口比率は平成4年で5.2%,平成32年12.5%と増加し,高齢化社会から高齢社会に向かっている.このため,今から高齢者にとって住みやすい環境を整備しておくことが必要である.高齢者にとっては,病院や特別養護老人ホームといった施設での療養より,住み慣れた家庭や地域社会での療養が,高齢者のQOL(生活の質)の確保につながるところである.そこで,平成4年診療報酬改定から,介護を必要とする老人が安心して在宅療養が送られるよう,かかりつけ医との連携の下に老人訪問看護を提供するシステムとして,「老人訪問看護事業」が創設された.老人訪問看護ステーション数は,平成6年1月末には340カ所,平成11年には5,000カ所を目標としている.本稿では,老人訪問看護事業の今日の状況を紹介したい.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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