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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生58巻7号

1994年07月発行

雑誌目次

特集 母子保健と福祉

母子保健における保健・医療・福祉の連携システム

著者: 飯島久美子 ,   日暮眞

ページ範囲:P.460 - P.464

◆はじめに
 近年におけるわが国の母子保健事業は世界的にみても高い水準にある.しかし,今日の母子保健活動の大きな問題である障害児の早期発見・早期療育をみると,必ずしも満足のいくものではないといえる.確かに早期発見という面では,例えば一部の先天性代謝異常などにみられるように,発見技術,およびその後の治療,あるいは障害を軽減するための技術が,主として医療面ではあるが開発され,進歩してきたために,その体制は各地域ですすんできている.
 ところで,療育という言葉を初めて提唱したのは高木憲次であるが,その概念は「療育とは,医療,訓練,教育など現代の科学を総動員して障害を克服し,その児がもつ発達能力をできるだけ育て上げ,自立に向かって育成することである」と高松は述べている1).すなわち,なんらかの障害をもつ子どもに対して,必要な医療,訓練,保育・教育,さらには社会的,経済的な援助を提供することと考えられる.高木が当初「療育」を用いた頃に比較すると,障害の内容も変化し,また社会意識も変化してきてはいるが,こうした変化に対し保健,医療,教育,福祉が有機的なつながりをもって十分に機能しているとはいい難い.

子育て支援のネットワークづくり—主として行政管理的な対策について

著者: 安藤延男

ページ範囲:P.465 - P.468

 昨年の秋だったか,ある新聞の朝刊で,次のような見出しの記事を見た.「わが子が発熱…どう対処?/薬頼み,新人ママ/伝わらぬ育児体験/背景に核家族や少産化(久留米大学医学部小児科:吉田一郎助教授調査)」という内容であった.とにかく,“子育てがストレスの原因になっている,しかも,それが親の意識や行動を規定し,ひいては親子関係の正常な発達をも阻害している,そのため,幼児虐待などの子育て燃え尽きシンドロームを誘発しているのでは…”というのが,その記事の趣旨である.
 一方,最近の子供の出生率低下についてはいろいろな議論がある.しかし,それらを総括すれば,若い人たちの意識が,「子供=子宝」から「子供=コスト(費用)」へと,大きく変化していることに帰着するだろう.

保健婦への母子保健福祉の教育研修

著者: 山下文雄 ,   吉村皓子 ,   高野陽 ,   小山修 ,   江井俊秀

ページ範囲:P.469 - P.472

◆はじめに
 母子の保健と福祉は国家,国民の存続を望むかぎり社会が永遠にサービスを続けるべきシステムであるが1),最近の老人問題の深刻さ,切実さに圧倒されて軽視の傾向にある.この分野でも社会のニーズは大きく変化しつつある.少産,少死,働く母親の増加,結婚年齢の上昇,第1子の出産年齢の上昇,親の育児体験の減少,親同士のふれあい・子供同士のふれあいの減少,子供への過剰期待・干渉,育児産業・教育産業の影響,過剰情報時代の親たちの迷いや育児不安の増大,子供世界での心の問題増加とその低年齢化,親子関係とくに母親と子供との歪んだ関係(虐待症候群のひそかな増加,母性遮断症候群の出現),子どもの世界の大人化1)などがある.このような社会現象の先進国(?)である米国では多くの社会的問題が発生している.
 そのような時代には「不安に満ちた子育て時代」の対処に必要な対人関係技術,特にカウンセリング的態度と技術研修へのニーズが極めて高い.しかしながら現任研修形態においても,あいかわらずの大集団の聴衆を対象に一方通行の講義形式のみで行われている所が多いのが現状である.

母子保健福祉の実践—八千代助産院の活動

著者: 神谷整子

ページ範囲:P.473 - P.476

◆八千代助産院の概要
 “助産院”という名前が地域のあちこちから消えて久しい年月が経つが,最近また少しずつ耳にされてはいないだろうか.“八千代助産院”という名称からか,「どこに在るのですか」とよく聞かれ,「東京の千代田区富士見という場所にあり,駅でいえば飯田橋から,歩いて4〜5分の所です」と答えると,「へぇ,そんな所にあるのですか」と驚かれるのが常である.きっと東京のど真中に助産院がまだあったのかという感じなのだろう.
 “八千代助産院”は個人で開業している助産院ではなく,(財)東京都助産婦会館という財団法人の経営になっており,5階建てのビルの3階にある(写真1).院長を除いて5〜6人の助産婦(常勤・パート含めて)がローテーションを組んで業務を行っており,他の職員は事務員1人(パート),調理2人(常勤・パートが交代で),掃除1人である.周囲は会社や学校のビルが建ち並び,物価も決して安いとはいえない.住民も減少する一方なので,幼稚園や小学校も統廃合されている地域である.

母子保健福祉の実践—ダイヤル・サービスの活動

著者: 永瀬春美

ページ範囲:P.477 - P.479

 ダイヤル・サービス(株)では,1971年に日本では初めて,電話による育児相談「赤ちゃん110番」を開設した.同サービスは,(株)西友が社会貢献の一貫としてスポンサーとなり,利用者は通話料の負担のみで育児相談を利用することができる.続いて「子ども110番」,「熟年110番」といったライフステージに対応した相談や健康相談など,利用者のニーズに伴ってジャンルも広がり,現在は30種近いサービスを提供している.
 1988年に開設した「ファミリー・ケア・ダイヤル」は企業の従業員を対象に,妊娠・出産あるいは介護を乗り越えて働き続けることをサポートする福利厚生サービスである.

母子保健福祉の実践—障害児相談・指導体制

著者: 橋本勢津

ページ範囲:P.480 - P.483

 保健所は,医療・福祉・市町村との連携を密にして,昭和35年から地域母子保健システムの構築に取り組んできた.母子保健活動の一環として,心身障害児の早期発見・早期療育が子の自立に影響を及ぼすことが示唆されたことから,在宅障害児に対し療育相談・指導のシステム化を図った.これに関連するいくつかの間題を検討し,保健所における療育相談・指導事業の効果的推進と思春期からの保健教育を実施した.

母子保健福祉の実践—寝屋川市の取り組みと連携—乳幼児健康診査と療育の保障を中心に

著者: 高城寛志

ページ範囲:P.484 - P.488

◆はじめに
 地域保健福祉の推進がいわれ,保健所が中心になってすすめてきた保健サービスの実施主体を市町村へと移管することがその主眼となっているようであるが,母子保健領域での福祉と保健の実態はそう単純なものではない.
 保健所が追求・努力してきた内容・課題がなんであったのか,市が福祉行政の中で実現に向け努力してきた内容がどのような形で結実しているか.それらのことをあらためて確認し,その成果の上に立って新たな結合をさせることこそが重要と思われる.行政機構を単純に一本化すれば新たな機能が生まれるわけではない.保健所の機能,あるいは事業の一部を市町村に下ろせばすむというものではない.高齢化対策に市町村の力が大きく向かおうとしている今日,母子保健領域での成果達成から多くを学ばなければならない.
 また,母子保健の領域で残されている問題や,新たに生じている諸課題,少産化,虐待,若年出産,離婚の増加などに対応するためにも,これまでの成果と教訓を明らかにしておくことは,この領域の事業を充実・発展させ,住民要求に応えるものにしていく上で重要になっている.

乳幼児の健全育成への新たな展開に向けて

著者: 田中邦代

ページ範囲:P.489 - P.492

◆はじめに
 母子保健法が制定されて約30年になるが,「乳児死亡の改善」を大きな目標に各県・地域で様々な取り組みがなされ,本県においては,よい子を生み育てる対策室の設置,母子愛育班の育成など多くの事業が実施され,その結果,乳児死亡率をはじめとした各種指標の改善がみられた.このような成果は,一朝一夕にして成し遂げられたものではなく,医療技術の進歩や生活環境の改善等のほか,私たちの先輩の努力の賜物である.
 しかし,近年,人口の高齢化により「老人保健」,「在宅ケア」等の対策が急務となり,医療・福祉・保健の連携のもとに多くの施策が実施されようとしている.
 このような現状の中で,母子保健について,今一度活動を見直し,将来を担う子どもたちをいかにして健やかに生み育てていくか,そして地域における保健所保健婦の役割はどこにあるのか等を本県独自の「乳幼児保健指導事業」をとおして考えてみたいと思う.

近年における母子保健と福祉の動向

著者: 三觜文雄

ページ範囲:P.493 - P.496

◆母子保健行政のあゆみ
 わが国の母子保健行政は,大正の当時出生1,000人に対して170人もあった乳児死亡を減少させるため,大正5年に保健衛生調査会が設置され,母子衛生に関する実態調査を数年間にわたって行ったことに始まる.その後の歩みは表に示すとおりである.

視点

地域保健法—国民の健康はこれからどのように守られるか

著者: 草野文嗣

ページ範囲:P.457 - P.459

【はじめに】
 昭和22年に現在の形で制定された「保健所法」が,大幅に改定されようとしている.それは,「地域保健法」と題名を改めた法律とし,関連法律も改定するというものである.この法律案が現在国会に上程されている.
 このことは,戦後の新しい公衆衛生活動を引継ぎ,国民の健康を守るために展開されている現在の公衆衛生活動にとって非常に大きな問題であり,国民の健康にとって重大な関心事である.

公衆衛生医師—その現状と課題 座談会

保健医療情報の活用を考える(2)

著者: 尾島俊之 ,   田上豊資 ,   永井正規 ,   坂田清美

ページ範囲:P.497 - P.500

●何の目的かが重要
 坂田 前回の田上先生の話では,組織の認知ということが非常に大事なキーワードのような気がします.高知県でそれを進めるに当たって,その下準備の段階でコンセンサスを得ることとか,老人保健事業関連のいろいろなデータを県で管理するには大変な苦労があったということですね.その点で,大学でも人材を養成するために研修会なども開いていますけれども,必ずしも行政の場で求められているものと大学で提供しているものとがかみ合ってないということはないですか.
 永井 私はそれほど難しい話ではないと思います.最初に言ったように,目的がまずあるはずです.高知県の場合にしても,老人保健福祉計画策定のためにこれが必要だということで,このシステムをつくったわけですね.この目的のために使うということがはっきりしていれば,大学から何か提供しないと動けないというほど難しくはない.市町村でも十分対応できる.研修が必要ないとは言いませんが,具体的な目的がある場合の研修は,一般論としての「情報処理研修」よりずっとやりやすいし,役に立つ.現場が求める研修と提供される研修がかみ合っていないとすれば,それは互いの目的の認識が違っているか,または目的の認識ができていないということです.

連載 地域精神保健の展開—精神保健センターの活動から・7

「痴呆性老人デイケア」から地域ケアへ—福岡県精神保健センター

著者: 小野ミツ ,   小山宏子 ,   小松原百合子 ,   中村興睿

ページ範囲:P.501 - P.504

【はじめに】
 わが国の高齢化は,人類がかつて経験したことのない速度で進行している.今や痴呆性老人問題は,極めて大きな社会問題である.
 さて,福岡県精神保健センター(以下,「センター」と略す)では,地域老人精神保健活動の一つとして「痴呆性老人デイケア」を,昭和62年6月から平成5年3月まで実施した.その結果,平成5年度末では県内4保健所と1市(保健所と市で共催)で「痴呆性老人デイケア」が実施されており,平成6年度からは,さらに4保健所で取り組みが計画されている.
 また,保健所における「痴呆性老人デイケア」の実施だけでなく,市町村の機能回復訓練事業における痴呆性老人の処遇やボランティアを中心とした痴呆性老人の集団の場づくり等が,センターの「痴呆性老人デイケア」の経験を生かす形で実施されるなど,広い分野での展開をみている.

シンポジウム リハビリテーションと保健活動—障害の受容をめぐって

5)QOLとリハビリテーションの関係から

著者: 大川弥生 ,   上田敏

ページ範囲:P.505 - P.509

 リハビリテーションとは機能回復ではなく,本来人間らしく生きる権利の回復,すなわち「全人間復権」を目指すものであり,具体的にはQOLの最大限の向上が究極の目標である.そしてこのQOLは表1に示すような構造を成しているが,客観的QOLと主観的QOLのどちらか一方ではなく,その両者ともに重要である.そして障害の受容は,特にこの主観的QOL向上のためのまさに決定的な要因といえる.本稿では障害の受容について,特にリハビリテーションにおけるQOLの位置づけを明確にしながら論じることとしたい.

疾病対策の構造 生活環境を支えるシステム—水道・2

安全でおいしい水のために

著者: 小林康彦

ページ範囲:P.510 - P.514

1.水系伝染病からの解放
 水道の機能は,原水の取得,水質の変換(浄水),輸送に区分できる.水系伝染病に対して砂濾過の有効性が確認され,さらに塩素消毒で細菌類からの脅威は取り除かれ,人によりカルキ臭いといわれる塩素の臭いを気にすることはあっても「塩素のにおいは安全のしるし」と消毒の効用を説いてきた.1950年代から1970年頃まで,水道に起因する集団赤痢等の発生が相当数みられ,原因はいくつかの不備が重なったケースが多かったが,必ず塩素滅菌機が動いていなかったといってよいであろう.現在,水道による水系伝染病の発生がほとんど見られなくなったのは,塩素消毒が徹底したためと考えられる.
 水道の普及と便所の改善により,水系伝染病の発生をどの程度抑えることができるかをWHOの報告は数値化している(表).特にコレラ,チフスなどには著しい効果があり,安全で十分な水の供給と適切な公衆衛生は,乳幼児の死亡率を50%以上減らすことができるし,また,すべての下痢患者の4分の1は防ぐことができるとしている.

調査報告

建設土木作業員共同宿舎に多発した結核症例の検討

著者: 京極新治 ,   森亨 ,   尾形英雄 ,   渡辺タヱ子 ,   阿部千代治 ,   高橋光良

ページ範囲:P.515 - P.519

●はじめに
 わが国の結核罹患率の減少速度に鈍化傾向がみられるようになってすでに数年になるが,一般住民において結核は過去の病として忘れさられようとしているばかりでなく,医療従事者の間でも認識が低下してきていると言われている.一方において,未感染の感受性者は近年増加してきており1),集団発生の報告が散見される2〜8)現状である.今回われわれは,某建設土木作業員共同宿舎において多発した結核症例について調査する機会を得た.症例個々の検討に加え,いわゆるハイリスク集団での発生という観点から,今後の対策も含めて考察したので報告する.

進展する地域医師会の公衆衛生活動 在宅ケアの取り組み—大村市医師会・2

大村市在宅ケアセミナーの実施

著者: 福田律三 ,   南野毅 ,   朝長昭光 ,   中澤和嘉

ページ範囲:P.520 - P.521

 第1回の「大村市在宅ケアセミナー」は約60名の参加者を集あて,平成3年5月16日に開催された.このセミナーでは,在宅ケアには医療・福祉・行政の円滑な協力が必要である,といった意見が相次いで出され,熱気に満ちた会となった.
 以降,2カ月に1回,奇数月の第3木曜日を定例日として開催されている.さらに年に1回,講演会が国立長崎中央病院地域医療研修センターを会場に開催されている.このセミナーは会員制で,医師会員も任意の参加であるが,会員数は医師会員を含め現在100名を越えている.

新しい保健・福祉施設

宮崎県三股町健康管理センター

著者: 大河内清彦

ページ範囲:P.524 - P.525

 町民の健康増進,老人,母子保健,疾病予防,リハビリ等の保健需要が増大し,地域住民に密着した総合的な対人保健サービスの充実が要請されており,このため三股町では平成3年度を初年度として,平成12年度を目標とする第3次総合計画を作成し,健康づくり推進の方向として健康管理センター整備事業を掲げ,平成4年度にその建設に着手したところである.

保健行政スコープ

厚生省の住居衛生対策の動向

著者: 苗村光廣

ページ範囲:P.526 - P.527

1.はじめに
 近年,高齢少子社会を迎え,マンション等の集合住宅における赤水,ダニ・カビの多発によるアレルギーの発生,高気密住宅等における結露とカビの発生,住宅建材・家具等の揮発性有機化学物質,暖房器具等によるNOx,SOx等の室内汚染,高齢者等の住宅内での事故や移動性の障害等,住居衛生の諸課題が大きくクローズアップされてきている.これに対応して,厚生省も,個人の住居衛生の分野への取り組みを積極的に進めつつある.今回は,厚生省等における住居衛生対策の取り組み等について紹介する.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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