icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生59巻1号

1995年01月発行

雑誌目次

特集 公衆衛生の新たな地平

公衆衛生の歴史と基本理念

著者: 高野陽

ページ範囲:P.4 - P.6

はじめに
 某生命保険会社に勤務している幼馴じみの重役昇進祝いの席上,筆者の仕事のことに話が及んだ.彼は,その時,公衆衛生とは何かはっきりわからなかったが,医学のなかで最も基本で,最も大切な分野だということがわかったとつくづく語った.筆者を,これまでも,患者を診ない医師であることは知っていたが,これで人の健康に関して重要な役割を果たしていることを再認識したようであった.そして,彼は「なぜ,医者はもっと公衆衛生を勉強しないか?」と質問した.生命保険会社勤務であるからには,人の寿命や健康について全く関心がないわけではなく,一般の人のなかでは公衆衛生に近いところにいるはずであり,医師との接触も少なくない.そのような人物の口から出た言葉の意味を,われわれは十分に噛み締めてみる必要があると思う.
 具体的な方法としては多少信仰的なこともあるにしても,今日ほど,多くの人々にとって,健康に関心を深めている時代はないのではなかろうか.このような時代だからこそ,これからの公衆衛生の新しい方向性を模索してみることの意義は大きいものと考える.

WHOの公衆衛生政策

著者: 遠藤弘良

ページ範囲:P.7 - P.10

はじめに
 「すべての人々に健康を」というWHOの掲げた目標(HFA:Health For All)は,1977年の世界保健総会で採択され,翌1978年にはアルマ・アタにおいて,HFA実現の戦略としてプライマリ・ヘルス・ケア(PHC)が宣言された.公衆衛生の究極の目標は,まさにこのHFAそのものといえる.そして公衆衛生の知見・実践はWHOの活動の支えである.
 このような見地から,WHOは公衆衛生の研究や教育にできる限りの支援を行ってきた.しかしながら,近年,公衆衛生が学問として,またその実践を介して本当に時代のニーズに合っているかが問われるようになってきていることも事実である.HFA達成ゴールである西暦2000年を目前にして,健康問題をめぐる世界的な大きな変革のうねりの中で,WHOも公衆衛生の変革の必要性を認識し,21世紀の公衆衛生のありかたを模索している.

公衆衛生領域における疫学研究の推進

著者: 青木國雄

ページ範囲:P.11 - P.15

はじめに
 公衆衛生の使命は,すべての人がより長命で質の高い人生を過ごせるように生活環境条件を整えることにある.時によっては積極的に個人単位の対策を行い,病の拡大を防止している,総括的,管理的でありながら,きめ細かい実践活動を企画し,多数のプログラムの中から優先順位を決め,限られた予算の中で最大の効果を上げねばならない.そのためにはあらゆる科学研究の成果を利用してゆく必要がある.疫学はこうした公衆衛生の目的を達成するために研究成果を提供しているわけである.公衆衛生活動が広範なため,疫学の役割も多種多様である.わが国は平均寿命が世界一という極めて高い水準の生活環境条件にあるので,研究情報もより質の高い,きめ細かなものが要求されている.また社会環境の変動が激しいので,新しく発生する健康問題も多様であり,それに対応する疫学の役割も質的な向上を求められている.
 この20〜30年間,医学や他の自然科学の進歩は極めて大きく,新しい理論や方法論が次々と開発されており,疫学研究もそれらを利用しながらより本質に迫る研究を提供しようとしているが,多くの未熟な点もある.コンピュータの普及が情報収集,管理,処理を極めて容易にしたことは,研究のみならず公衆衛生に果たした役割も極めて大きい.

政策科学からみた公衆衛生の発展

著者: 小野寺伸夫

ページ範囲:P.16 - P.20

まえがき
 公衆衛生は19世紀の後半から今世紀にかけて,その学理と実践を通じ大きな成果を上げ栄光と発展を確かなものとしてきた.
 第一段階として感染症予防,栄養改善,生活環境の整備など,公衆衛生の基本となる諸対策の進展が図られた.さらに,第二段階として健康良習慣の確立,慢性疾患への対応,地域保健医療網の整備,社会復帰の促進,快適環境の創造など,新たな展開を通じ住民の健康福祉の充実へのつながりを確かなものとしてきた.

戦後の人口変動と人口政策

著者: 嵯峨座晴夫

ページ範囲:P.21 - P.24

日本の人口転換
 1960年ごろまでに,日本は人口転換を完了した.人口転換とは,人口が多産多死の段階から多産少死の段階を経て,少産少死に至る変化をいう.この人口動態上の変化は,最初に西ヨーロッパ諸国における近代化の過程で共通に現れたもので,いわば人口の近代化であった.西ヨーロッパ諸国の場合には,それは18世紀から20世紀にかけて150年以上もの長い時間を要したが,日本の場合には1920年以降のせいぜい40年を要したにすぎなかった.
 日本は,近代化の後発国であり,人口転換の始まりも遅かった.「後発国ほど社会変動の同一局面を経過する時間は短くなる」といわれているように,日本の人口転換のスピードは極端に速いものであった.

快適な環境づくり—シックビル症候群を中心に

著者: 池田耕一

ページ範囲:P.25 - P.27

はじめに
 快適な環境づくりに関し,公衆衛生関係者がなすべきことは数多く,それらすべてを限られた誌面で語ることはほとんど不可能である.そこで,一例として,快適であるべき室内の空気環境が社会経済状況の変化で大きく損なわれたために,欧米において大きな社会問題となったが,わが国の場合には,適正な公衆衛生的施策があったため大きな問題とはならずに済んだケースを紹介し,わが国は,なぜそのようなことが問題にならなかったかを考えるとともに,その成功例を他の面へ応用することを通して,より広範囲な快適環境づくりを行うための提案をしてみたい.

未来に向かう公衆衛生の基盤づくり

保健所活動—政策科学と住民参加

著者: 細川えみ子

ページ範囲:P.28 - P.31

 筆者が与えられた題名は「保健所活動」ということであるが,今回の「地域保健法」により保健所の位置付けが大きく変わる中では保健所のみに特定せず,広く公衆衛生の第一線の活動について将来を展望してみることとしたい.

精神保健センター—公衆衛生・地域保健と精神保健

著者: 吉川武彦

ページ範囲:P.32 - P.35

はじめに
 これまで「公衆衛生」といいならわされてきたものは,「地域保健」といわれるようになったように,これまで「精神衛生活動」といいならわされてきたものが,「精神保健活動」といわれるようになった.そこには『衛生(Hygene)』から『保健(Health)』という思想的変換があったことをうかがわせる.
 つまり,「公衆衛生」を本来の「Public Health」に戻そうとする再転換が,この特集のテーマである「未来に向かう公衆衛生」ということになると考えている.とはいえ,公衆衛生がこれまでも,そしてこれからも地域住民の健やかさに関わる地域保健を軸に活動を展開し続けることは確かであろう.その意味で地域精神保健は地域保健活動の一翼を担い,地域住民のこころの健やかさに関わり続けることになる.

衛生研究所活動

著者: 大村外志隆

ページ範囲:P.36 - P.39

これまでの経緯
 衛生研究所が昭和23年の厚生省予防局長等三局長通達に基づいて全国に設立されて以来,40年余の歳月が経過した.
 設立当時は,既設の細菌検査所や衛生試験所などを整理統合したものであったが,昭和51年の厚生事務次官通達により今日の衛生研究所の骨格が形成された.すなわち,「地方衛生研究所の強化について」と題して出された通達には,その設置目的として「地方衛生研究所は,公衆衛生の向上を図るため,都道府県または指定都市における衛生行政の科学,技術的中核として,関係行政部局と緊密な連携のもとに,調査研究,試験検査,研修指導および公衆衛生情報の解析,提供を目的とする」と述べられている.そこに示された4つの柱に基づいて業務が進められてきたが,平成6年6月に成立した地域保健法により,衛生研究所はこれまでにない機能・組織の両面における根本的な見直しが求められることとなった.

視点

薬剤師と公衆衛生活動

著者: 吉矢佑

ページ範囲:P.2 - P.3

 薬剤師といえば,医薬品に関する専門職と思われている.事実そのとおりであるが,各地の公衆衛生研究所から保健所にいたる機関でも,薬剤師は,環境衛生や食品衛生の分野を中心に,永年にわたって貢献してきた.
 薬剤師届を提出している16万人の薬剤師の業務は,その範囲が甚だ広いが,薬局・病院等の医療施設従事者が最も多い.ところが衛生関係機関における専従薬剤師とは別に,まちの薬局薬剤師と,地域の衛生活動との係わりにも,実は120年近い歴史がある.

公衆衛生医師—その現状と課題 座談会

これからの公衆衛生活動(1)

著者: 高山佳洋 ,   日高良雄 ,   星旦二 ,   中村好一

ページ範囲:P.40 - P.45

 中村「公衆衛生医師—その現状と課題」シリーズの最終回を「これからの公衆衛生活動」というテーマで,公衆衛生医師の役割と使命を忌憚なく話し合いたいと思います.
 本日は,大阪府門真保健所長の高山さん,宮崎県都城保健所長の日高さんにご出席いただきましたが,予定しておりました星さんは急用のためご出席いただけませんので,誌上参加という形で進めたいと思います.

連載 地域精神保健の展開—精神保健センターの活動から・12

広報活動—高知県立精神保健センター

著者: 竹島正

ページ範囲:P.46 - P.49

はじめに
 精神保健に関する広報活動は,精神保健センター(以下,センターと省略)の重要な業務である.しかし,精神保健の分野,あるいは保健行政全体の中にもノウハウは乏しく,結果として広報活動の展開が遅れている.私たちのセンターで得つつある広報活動の感触を伝えるため,その概況を紹介する.

都道府県医師会の公衆衛生活動

<対談>医師会と公衆衛生活動

著者: 加賀董夫 ,   多田羅浩三

ページ範囲:P.50 - P.55

 多田羅 今日はお忙しいところをどうもありがとうございます.
 ご存じのとおり,1994年6月に地域保健法が成立いたしまして,戦後の日本の公衆衛生の総決算であるというようなことを厚生省でもみずから言ったりしておりますが,非常に大きな機構改革が行われたわけです.

地域口腔保健—歯科医師会の実践

神奈川県歯科医師会の産業歯科保健活動

著者: 橋本弘

ページ範囲:P.56 - P.57

はじめに
 昭和58年4月に神奈川県歯科医師会公衆衛生委員会の中に産業歯科保健活動が取り入れられてから,神奈川労働基準局,神奈川安全衛生協会(現神奈川労務安全衛生協会),神奈川県歯科医師会の三者による協議会「産業歯科に関る協議会」がもたれた.
 昭和59年にこの三者の協力により,神奈川県下の企業の歯科保健活動状況実態調査をアンケート形式で実施した.その結果1,511事業所から回答が寄せられて,8.8%の事業所が歯の定期健診を実施していることが分かった.定期健診は労働安全衛生規則で年1回以上行うことを雇用主に義務付けており,胸部X線検査,血圧測定,肝機能検査等10項目が対象となっているが,歯の健診は対象外であるため,このような低い結果となったと考えられ,某電気メーカーをモデル事業所と定めて,集団健診と健康教育事業を3年間にわたって実施した.その結果10%の緊急処置を必要とする者があることや,加齢的に歯肉疾患の罹患状況が確認され,産業歯科保健活動の重要性を確認した(図1).

疾病対策の構造

ごみ問題は「衛生」から卒業したか

著者: 小林康彦

ページ範囲:P.58 - P.61

1.ごみ問題をめぐっての議論
 廃棄物問題は人類の発生以来の問題であり,それへの配慮が欠けていたため,例えば,平城京が定着できなかったとの説はあるものの,わが国では,総体として,それぞれの時代ごとに,なんとか対応してきたように見える.しかし,現在は,状況によっては都市の命運を握る最大の鍵と見なされるほど,廃棄物問題は重要性を増していると思われる.大量生産,大量消費,大量廃棄の行き着く空間を都市は確保できるであろうかという懸念である.例えば道路ではその整備計画が遅延しても,不便ではあってもなんとかやりくりがつく.しかし,廃棄物の受け入れ場所がなくなれば,その日から生活や社会は大混乱に陥ることは明らかである.廃棄物に長年たずさわってきた筆者は,廃棄物問題の解決策がわが国において未だ確立できていない危機感と,日本人の対応能力の優秀さとの間で,揺れている.
 最近,「ごみはかつては衛生問題であったが,現在は資源問題である」といった主張が盛んである.また,「リサイクルを徹底して,ごみの発生を零にすることが最終的な目標である」という方も少なくない.ごみというものは,色々な顔をもっているから,光の当て方によってさまざまに解釈できる(図1).

健康づくりの実践に向けて・1【新連載】

市町村における健康づくりの現状—運動を中心にして

著者: 秋澤より子 ,   坂田清美 ,   屋代真弓 ,   柳川洋

ページ範囲:P.62 - P.66

はじめに
 成人病予防を目的とした積極的な健康づくり事業が各地方自治体で展開されている.健康づくりの内容としては,栄養,運動,休養,禁煙,適正飲酒など幅広い分野が考えられる.本研究では運動を中心とした健康づくり事業を取り上げ,市町村が現在どの程度この事業を実施しているかを明らかにし,さらに,事業の担当者が現在抱えている問題点および今後重視すべきと考えている方向を明らかにする目的で本研究を実施した.

保健活動—心に残るこの1例

境界例人格障害S子,20歳の妊娠と出産

著者: 高橋タイ

ページ範囲:P.76 - P.76

はじめに
 保健所の4月は他の職場に劣らず慌ただしい.健康指導課も転勤保健婦の業務配置や旧年度の事業の整理等に忙殺される.課に残るのは辛うじて課長だけという日も多い.そんなある日,ケース処遇依頼の電話が入ってきた,A病院の産科の医師から….
 当真岡保健所管内は従来,地域の保健医療連携が良い地域で,「気になるケース」の依頼や報告は,日常的に縦横に連絡し合っている,また,各種研究会等も多機関を含めた実施が多く,管内関係職員のコミュニケーションはよく図られている.今回もそんななかでの連絡だった.

活動レポート

国民栄養協会の動き

著者: 須川豊

ページ範囲:P.67 - P.70

はじめに
 この協会の活動の記述に際し述べておきたいことは,協会の経てきた歴史である.というのは,協会発行の月刊誌「食生活」が,この8月号で通巻第1,010号(第88巻)と,この種のものとしては,きわめて古い経歴を示しているのである.
 その間,社会は大きく変化し,事業のあり方も昔のような活動は不可能になっている.「食」を対象として活動している団体や組織が非常に多く,以前のような行政的背景もなくなり,団体のあり方が根本的に変化したのである.ここに歴史的背景を述べたい理由があり,現在の動きの全容について,ご理解を願いたいのである.

報告

大阪神経難病医療福祉相談会の実績とその意義の検討

著者: 黒田研二 ,   高橋光雄 ,   中田俊士 ,   多田羅浩三

ページ範囲:P.71 - P.75

はじめに
 わが国の難病対策は,昭和47年10月に厚生省においてまとめられた「難病対策要綱」にもとづき,①調査研究の推進,②医療費自己負担の解消,③医療施設の整備を柱として実施されてきた.平成元年度からは,④難病患者医療相談モデル事業がさらに施策の柱として追加され,平成3年度からこの事業は「難病患者地域保健医療推進事業」と名称を変えて実施されている.
 厚生省の実施要綱(平成4年4月9日付け通知)によれば,難病患者地域保健医療推進事業は,医師,看護婦,ケースワーカー等によって構成される総合的・専門的な相談班が適当な会場を設定して行う医療相談事業と,寝たきり等で受療が困難な在宅の難病患者に対し,専門医,主治医,保健婦,看護婦,理学療法士等により構成された診療班が患者宅を訪問して,患者の病状に応じた診療,看護および療養上の指導を行う訪問診療事業から構成されている.これらの事業は,患者や家族の相談ニーズに応え疾病等に対する不安の解消を図ること,地域における在宅医療を促進することを目的とし,実施主体は都道府県である.

保健行政スコープ

医療政策の展望(3)—病院機能評価基本問題検討会報告から

著者: 遠藤弘良

ページ範囲:P.78 - P.79

1.はじめに
 医療政策の展望(2)において,医療経営の健全化ならびに医療機能の客観化および評価について述べた.今回は,その際紹介した「病院機能評価基本問題検討会」が平成6年9月にとりまとめた報告を中心に,病院機能評価について展望してみたい.
 国民が望む質の良い医療を効率良く提供するためには,医療施設自らの努力が最も重要である.これを学術的視点から適切に評価し,改善のための助言等を行って機能向上を支援する必要がある.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら