icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生59巻10号

1995年10月発行

雑誌目次

特集 高齢者介護と公的介護保険

わが国の高齢者介護の現状と将来

著者: 山崎摩耶

ページ範囲:P.661 - P.664

はじめに
 21世紀,わが国は4人に1人が高齢者となり,しかも後期高齢者が7人に1人という“超高齢社会”を迎える.すでに1994年には,高齢化率は14%を超え“高齢化”から本格的な“高齢社会”に突入し,介護問題も深刻化し本格的取り組みが必須となっている.それらを鑑みて,本特集にみるように介護の新しいシステム構築が俎上にのせられ,喫緊の課題とされてきた.すでに政府は94年暮れに,全国の市町村老人保健福祉計画の積み上げ値から,ゴールドプランの見直しをし,新しいプランの実施で高齢者ケアの本格的な基盤整備にとりかかったところである.しかし,高齢者ケアに従事するものであれば,この新ゴールドプランでようやく基盤整備ができるに過ぎなく,高齢者介護の課題はもっと深刻で過酷であり,かつニーズも計画以上に増大することを簡単に予測するであろう.
 つまり高齢者の介護は,古今東西それぞれの時代に課題ではあったが,今や,かつて経験したことのない新しい時代の課題である,と規定しなければシステム構築の方向性をあやまるのである.なぜならば介護の現実は,かつてなく長期化しており,かつ重症化し医療依存度が高くなり,複雑な障害や痴呆・難治性疾患のケアといった課題をかかえ,療養と死の場所の選択の問題や,受け手の人権すら問われているからである.

保健・医療・福祉に対する資源配分

著者: 幸田正孝

ページ範囲:P.665 - P.669

 編集室から標題を与えられた.標題についての筆者の考え方にまとめきっていない面があることをあらかじめお断りしておきたい.

新たな高齢者介護システムのあり方

著者: 和田勝

ページ範囲:P.670 - P.674

 今年の2月14日を皮切りに高齢者介護問題について計13回という精力的な審議を重ねてきた老人保健福祉審議会が,去る7月26日に「新たな高齢者介護システムの確立について」と題する中間報告を取りまとめ,厚生大臣に提出した.
 その要旨は,利用者本位の介護サービスが提供されていない原因となっている,福祉(公費方式)と医療(社会保険方式)という異なった制度の下で介護サービスをまちまちに提供する現行制度を抜本的に見直し,適切な公費負担を組み入れた社会保険方式による財政方式の下で総合的・一体的に介護サービスを提供する新たな高齢者介護システムの創設が必要であり,今後,同審議会として,さらにその具体的在り方について検討を進めていくというものである.

諸外国の高齢者介護

著者: 府川哲夫

ページ範囲:P.675 - P.679

はじめに
 人口の高齢化にともなって,要介護状態にある高齢者に対する長期介護の問題は,先進国の共通の課題として21世紀に向けてのその深刻さが増加している.各国とも80歳以上の人口に対してそれを支える年齢層の女性,例えば45〜64歳の女性の人口の割合が低下している.女性の就業率の上昇はさらにこれを追い討ちをかけている.一方,高齢者のライフ・スタイルも変化してきている.従来,高齢者夫婦は若い世代とは別に暮らしていても,その一方が死亡すると残された高齢者は子の世帯に移ることが多かったが,今日では一人になってもそのまま独立の世帯(つまり一人暮らし)を続ける人が増加してきた.このような変化はすべての先進国でみられるが,特にデンマーク,スウェーデン,ドイツといった北および中央ヨーロッパで顕著である(表1).日本の高齢者の子との同居率は先進国の中で例外的に高く,3世代世帯が伝統的な規範であった.しかし,日本でも高齢者の子との同居率は過去30年間に15%ポイント低下し,スペインでは15年足らずの間に20%ポイント以上低下した.
 高齢者介護の問題は古くて,かつ,新しい問題である.本稿では先進国の高齢者介護についてごく簡単に概観した後,1995年から施行されているドイツの公的介護保険の特徴と問題点を記述し,最後に高齢者介護をめぐる私的なしくみに関して2,3の論点に言及したい.

公的介護保険をめぐる諸問題

著者: 二木立

ページ範囲:P.680 - P.683

はじめに
 小論ではまず,公的介護保険構想に対する筆者の2つの賛同点を示す.次に,公的介護保険構想の「3つの問題点」(1つの不透明と2つの不公正)を提起する.最後に,公的介護保険を少しでもマシな制度にするための「5つの提案」を行う.これは,社会保険方式の弊害を軽減し,社会的に一番弱い人々が不利な扱いを受けないよう,「国民誰もが,身近に,必要な介護サービスがスムーズに手に入れられるようなシステム」をつくるための提案である.
 なお,この「国民誰もが…」は,昨年12月に発表された高齢者介護・自立支援システム研究会(座長:大森彌氏.以下大森研究会と略す)の報告書「新たな高齢者介護システムの構築を目指して」の「はじめに」に書かれているステキな表現である1).ただし,このような「普遍主義」的な言葉が出てくるのは,報告書のこの1カ所だけで,ほかでは,つねに「高齢者」介護システムという言葉が使われている.この点は後述する第2の問題点(障害者排除は不公正)とかかわる.

医師会と公的介護保険

著者: 坪井栄孝

ページ範囲:P.684 - P.687

はじめに
 「介護」の概念をひろくとらえ「これまで一般に看病,介抱,病人の世話という言葉でいわれたような幅広い意味での介護活動全体」とするという合意のもとで老人保健福祉審識会は介護保険制度の議論をはじめた.
 このことは従来福祉分野で使われていた狭義の「介護」,すなわち特定の有資格者を含む介護従事者による介護活動という概念から大きくふみだした広義の解釈であり,今回の新しい介護システムの論議はこの合意形成が正確に,しかも円滑にできるかどうかに大きなポイントがある.

「55歳以上の介護を必要とする人を抱えている家族実態調査」について

著者: 佐藤幸一

ページ範囲:P.688 - P.693

はじめに
 わが国は高齢化が急速に進行中であり,すでに高齢化率は14%を超えた.21世紀初頭には4人に1人が65歳以上の高齢者となり,超高齢・少子社会を迎えると予測されている.核家族化,共働き家庭の増加など,社会経済構造も大きく変化している.
 このなかで,寝たきり,痴呆,虚弱のため要介護高齢者は約200万人いるとみられている.また,世論調査では,9割の国民が老後の不安を訴えている.現行制度では高齢者の介護には対応できなくなっており,いまや高齢者の介護問題の解決が緊急で重要な課題となっている.

視点

地域ケアシステムにおける老人保健施設の役割

著者: 山本和儀

ページ範囲:P.658 - P.660

 わが国の高齢者や障害者児を取りまく状況は,核家族化の進展の少子化などの社会情勢を反映し大きな転換期を迎えようとしている.高齢者を取りまく状況としては,国の大きな施策の一つであるゴールドプランや新ゴールドプラン,都道府県および市町村では平成5年度に老人保健福祉計画が策定された.また,障害者については平成5年3月に全員参加の社会づくりをめざして,障害者に関する新長期計画の策定が国に義務づけられ,同年12月には「国連・障害者の10年」の終了を受けて,その自立と社会参加をより一層促進するため心身障害者対策基本法が大きく見直され障害者基本法として施行された.このような高齢者,障害者施策の中で謳われているのは,施設重視の方向性から在宅重視への施策の転換ということであり,住み慣れた地域社会でできる限り住み続けたいという誰もが本来願ってる思いを実現するものである.
 今回はこのような在宅重視の方向性を踏まえ,在宅生活を支援する包括的な考え方としての「地域リハビリテーション」と,その中核的役割を果たす必要があるであろう「老人保健施設」について,筆者の実践を通しての私見を述べさせていただきたいと思う.

連載 疾病対策の構造

癌対策の行方

著者: 倉科周介

ページ範囲:P.694 - P.698

 わが国で死因順位の筆頭を占めるのは悪性新生物,つまり癌である.西欧では,米英独などのように心疾患に次ぐ第2位の座にある国も多い.いずれにせよ,癌は感染症退潮後における疾病対策の最大の標的と目され,多くの希望的観測が提示されながらも,その死亡率はひたすら上昇の一途を辿ってきた.流れを変える有効な手段は,どこに求めるべきだろうか.

都道府県医師会の公衆衛生活動

京都府医師会の公衆衛生活動—くらしと健康展

著者: 岩田征良

ページ範囲:P.704 - P.705

 京都府医師会の公衆衛生活動の一つに「くらしと健康展」の開催があります.
 京都府医師会が中心となって,京都府糖尿病協会,京都府栄養士会,京都府臨床検査技師会,京都府看護協会,京都府放射線技師会と,京都府および京都市の主催者団体からなる「くらしと健康展」実行委員会をつくり,実行委員会は毎回テーマをきめ,広く府民市民の健康づくりを考える機会となるように,多彩なイベントや相談コーナーを企画します.この活動は例年8月末から9月にかけて6日間,京都市内の中心部にある京都大丸の6階催物ホールで行われ,参加者も毎回9000人に達し,別名「大丸展」ともよばれ,府民,市民に広く好評な,昨年で20回をむかえた歴史ある活動です.

活動レポート

地域組織との協力による保健所の健康教育の活性化

著者: 森智代 ,   杉澤秀博

ページ範囲:P.699 - P.703

 保健所で実施している健康教育は必ずしも効果的に行われているとはいえない.例えば問題点として,受講者数が少なく,中途で脱落していく者も多いこと1),広報紙が発行されていても,単に事業予定のお知らせであったり,一般的な啓蒙記事が掲載されるだけに終わっていることも少なくないことなどが指摘されている2).効果的に保健活動を行うには,住民個々に働きかけるだけでなく,町内会,自治会などの地域組織の協力をあおぎ,その組織を活用することが肝要であるといわれている2).ある保健所では,老人クラブ,婦人会,地域医師会,PTAなどに呼びかけ,健康づくりの核となる組織を発足させることによって,健診受診率の向上や各種の健康教育の活性化を図ったという事例が報告されている3).筆者の1人は所長として東京都区部にある保健所に着任して以降,地域組織を活用することによって,健康教育の充実に取り組んだ.本報告の目的は,その経過および健康教育への効果を整理・紹介することにある.様々な特性をもつ地域での活動事例の集積は,保健所と地域組織との協同のあり方を考える際に重要な情報を提供することになろう.

調査報告

脳血管疾患患者と家族の支援機能—都内3病院の退院患者と介護者の追跡調査から

著者: 奥山正司 ,   杉澤秀博 ,   高梨薫 ,   西田真寿美

ページ範囲:P.706 - P.710

はじめに
 脳血管疾患による死亡率は,戦後の1951年(昭和26年)から1980年(昭和55年)までの長期間にわたって死因のトップを占めてきた.その後,医学の進歩や食生活の改善などによって年々減少し,平成5年現在では「悪性新生物」,「心疾患」についで第3位まで落ち込んでいる1).しかし,ねたきり老人になった主な原因別の構成割合をみると,「脳卒中」「心臓病」「骨折転倒」「リュウマチ関節炎」「老衰」「その他」のなかでは,全国では第1位2),東京都においても,「その他」と「老衰」を除いた主な死因のなかでは依然として第1位を占めている3).また,東京都における65歳以上のねたきり老人数は2万400人にのぼり,6月以上のねたきり老人数はそのうちの約8割(1万6千人)にも達している4).このことは,脳血管疾患による高齢者の日常生活行動および彼らにかかわる介護者および介護者家族の問題を必然的に惹起させる.
 ところが従来の研究では,日常生活動作能力の自立度がきわめて低い,いわゆる,ねたきり老人をかかえる介護者については,その健康や生活問題を解明した研究は少なくないが,ある程度自立度が確保されている者も含む脳血管疾患患者の家族の健康や生活状態についてはいまだ十分な解明がなされていない.

鹿児島県における通院精神障害者のリハビリテーション

著者: 簗瀬誠 ,   中元理恵子 ,   榎本貞保 ,   冨永秀文

ページ範囲:P.711 - P.715

はじめに
 近年,精神障害者に対する医療は,入院治療を中心とした医療から地域医療へと移行しつつある.このような流れの中で通院患者リハビリテーション事業(以下,通リハ事業と略す)は,社会復帰途上にある通院中の精神障害者を協力事業所(以下,事業所と略す)に一定期間通わせ,社会適応訓練を行うことによって社会復帰を図るという目的で昭和57年度から国の施策として始められている.
 今回,著者らは鹿児島県において行われている通リハ事業の現状の一端を明らかにするために,主として事業所の抱える問題点と訓練生の職業能力に関するアンケート調査を実施し,若干の考察を加えた.

報告

薬物事犯の現状と課題

著者: 菊川縫子

ページ範囲:P.716 - P.719

はじめに
 近年,国際的に共通の深刻な社会問題となっている課題のひとつに,麻薬・覚醒剤・あへん・大麻を中心とした薬物事犯がある.わが国では,これらの薬物を「麻薬取締法」,「覚醒剤取締法」,「あへん法及び大麻取締法」で厳しく取り締まってきたが,近年これらの薬物に似た強い依存性を有する向精神薬(睡眠薬・向精神薬など)の不正使用による薬物事犯の急激な増加が報告されている.
 このような中で向精神薬の乱用防止を図るとともに,「向精神薬に関する国際条約」への批准に備えることを目的として,平成2年麻薬法の一部が改正され,「麻薬及び向精神薬取締法」が制定された1)

宮城県の肺がん検診の歴史

著者: 土屋眞 ,   伊藤克己 ,   渡部昭 ,   佐々木繁

ページ範囲:P.720 - P.724

 かつて,日本人には少なかった肺がんが年々増加し,平成2年,仙台市の男性の肺がんは粗・訂正死亡率とも胃がんを抜き悪性新生物死亡順位の第1位1)になった.
 筆者の1人は,県・市保健所医師として検診に従事した成績を,昭和38年に「胸部X線集団検診時に発見された肺腫瘍について」と題し,報告2)したことがある.当時を含め,現在に至る県内肺がん対策の歩みの概略を紹介したい.

保健行政スコープ

容器包装リサイクル法の概要—ごみゼロ社会を目指して

著者: 中村健二

ページ範囲:P.725 - P.727

はじめに
 現在,一般廃棄物の最終処分場の残余年数が逼迫し,その新たな設置には地域住民の理解を得にくいなどその確保は大変困難な状況である.
 また,生活環境保全の観点から,ごみの発生抑制・減量化,適正処理,資源化・再生利用の推進が緊急の課題となっている.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら