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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生59巻11号

1995年11月発行

雑誌目次

特集 高度化された食品・栄養システムの現状と課題

これからの食はどうなるか

著者: 森實孝郎

ページ範囲:P.732 - P.738

 日本人の「胃袋」は20年ほど前のオイルショックの前後に飽和状態に達している.つまり,オイルショック時代以降の日本人のカロリーの摂取量および蛋白,脂肪,炭水化物の摂取量は大きく変化していないということである(図1).あえて栄養学的に問題を上げれば,カルシウム,ミネラルと一部のビタミンなどである.
 他方,この20年間に経済は大きく成長し,食に関する支出は年々増加してきた.これを巨視的にみると,世界の農業はこの20〜25年の間に約5割の増加という反収の増加を実現している.これは,この間の人口の増加率4割を大きく上回る数字である.

食品・栄養システムの高度化・国際化

著者: 深谷志成

ページ範囲:P.739 - P.742

はじめに
 近年,輸入食品の割合の増加,ライフスタイルの変化などにより国民の食生活は多様化かつ高度化している.また,「世界貿易機関を設立するマラケッシュ協定」(WTO協定)の締結にともなう食品流通の国際化,規制緩和の動き,製造物責任法(PL法)の施行など,食品・栄養システムをめぐる近代社会の環境は大きく変化している.
 とりわけ,急激な人口の高齢化と出生率の低下,慢性疾患の増加などの疾病構造の変化,食品の安全性,ごみ,地球環境などの生活環境問題への意識の高まりなどに対応し,いわゆる生活者の立場を重視した国民の健康生活の質的向上を高めていく食品・栄養システムを総合的かつ多角的に発展させていくことが強く求められている.

特定保健用食品の現状とフードビジネスの実態

著者: 田代一裕 ,   徳永隆久

ページ範囲:P.743 - P.746

はじめに
 平均寿命の伸長にともない国民一人一人が疾病を予防し,健康に生活を送るための工夫をすることが要求される時代となってきた.「医食同源」という言葉もあるが,健康と食生活は密接な関係があり,加工食品が氾濫する時代にあって消費者が食品を選択する際の手段として食品にかかれた表示が重要な意味を持つようになっている.表示には栄養情報を伝える栄養表示と,健康に及ぼす食品の影響を伝える健康表示の2タイプがあるが,後者の表示が認められた国はほとんどない.特定保健用食品制度は健康表示を国が認める,世界的にみても画期的な表示許可制度である.そこで,本制度の内容と現状を解説し,フードビジネスへの影響を考えたい.

バイオテクノロジーの食品開発への応用

著者: 井上善晴 ,   木村光

ページ範囲:P.747 - P.751

はじめに
 1953年,ワトソンとクリックによって遺伝子の本体であるDNAの構造が2重らせん構造であることが明らかにされ,分子生物学は飛躍的に発展した.特に,1980年代半ばに起こったバイオブームは,それまで一部の人々の間での使用に限られていた遺伝子とかDNAといった言葉を一般語に変えた.
 遺伝子は今さら言うまでもなくDNAによって構成されている.DNAはデオキシリボ核酸であり,糖と塩基とリン酸からなっている.塩基部分はアデニン(A),グアニン(G),シトシン(C)およびチミン(T)の4つの種類があり,AはTと,GはCとペアーを形成する.このA,G,C,Tの4種類の塩基の鎖が遺伝子の本体であり,そこに生命に必要な様々なタンパク質の暗号がコードされている.タンパク質はアミノ酸という物質が連なった鎖であり,生物は20種類のアミノ酸だけを使う.1つのアミノ酸を決めるのに,4種類の塩基のうち3種類の塩基が対応する.この遺伝情報の暗号の使い方は,人間のような高等な生物から大腸菌のような下等な生物まですべて共通である.このことは,生命が共通の祖先から進化してきたことを物語っている.

製造物責任法と食品行政—農林水産省

著者: 小森栄作

ページ範囲:P.752 - P.755

製造物責任法
 消費者が欠陥のある製品によって被害を受けた場合,製造業者に対して損害賠償を求める時は民法709条の不法行為責任により求めることになります.しかしながら,この不法行為責任による損害賠償を求めるためには,消費者は製造業者の過失という主観的要件を証明しなければならず,高度な工業化社会では立証が非常に困難となります.このため,消費者の立証負担を軽減する観点から製品の欠陥という客観的要件が立証できれば,製造業者が無過失であっても責任を負うこととするのが製造物責任法です.すなわち,過失という主観的要件に基づく損害賠償責任を,欠陥という客観的要件に基づく損害賠償責任に変えることです.
 また,製造物責任法によって,損害賠償を求めることのできる損害は,いわゆる拡大損害といわれるものであり,人の生命,身体または財産に係る被害であり,単なる商品の瑕疵(食品がおいしくない,食品の色がおかしい,袋が破れているなど)は対象となりません.

食品栄養行政の課題

著者: 堺宣道

ページ範囲:P.756 - P.760

食品衛生法・栄養改善法改正を中心にして
 平成7年5月24日,「食品衛生法及び栄養改善法の一部を改正する法律案」が国会で可決成立しました.
 この改正は,食品保健行政の基本的なあり方を検討するため,昨年9月から厚生省で開催された「食と健康を考える懇談会」(座長:伊藤信行・名古屋市立大学学長,食品衛生調査会委員長)が昨年12月に報告書を取りまとめ,その提言を実現するため,法律改正が必要な事について,食品衛生調査会と公衆衛生審議会の諮問・答申を経てとりまとめられたものです.

視点

高齢社会の食品と栄養

著者: 豊川裕之

ページ範囲:P.730 - P.731

 高齢者人口が総人口の14%を超えたので,分類上では“高齢化社会”を通り抜けて,いよいよ“高齢社会”に入ったことになる.しかし,高齢社会の食品と栄養の問題は高齢者のみに限局できるものではなく,わが国全体の栄養と食生活のありようにかかわる問題である.それも食物消費面だけにとどまるのではなく,食糧生産(高齢者による農作業問題など)と食品流通・加工(高齢者に手厚い加工食品の開発など)などの食糧の生産・流通・加工の諸問題のほか,さらに保健・医療・福祉の面とも深くかかわっているので,把えようによっては大きなテーマになる.しかし,「視点」の枠の中で取り上げるからには高齢者の食事に限定して取りまとめよう.

連載 疾病対策の構造

疾病対策における時間と空間

著者: 倉科周介

ページ範囲:P.762 - P.766

 疾病対策の基本は,病気の原因を社会とその成員から遮断することである.効果的な治療法のない病気については,特にこの基本に徹することが唯一の対策となる.病気は広い意味の原因との出会いによって,発病や経過が決まってくる.病気の集積点とは,そうした要因と交錯する生涯経路を持った個体が集まってできる時間的,空間的な特異点である.また,個体の病気を溯ってゆけば,論理的には要因の作用した位置に辿りつき,その集積点を特定することもできるはずである.疾病対策において,事象の時空間位置を特定することの意味について考えてみたい.

都道府県医師会の公衆衛生活動

石川県医師会における地域医療事業—健康運動指導事業を中心に

著者: 牧野久弥 ,   西田守治

ページ範囲:P.768 - P.770

 世界に類を見ない急速な高齢化社会,一方で急速に進行する少子化社会を見据えて,昭和50年代後半から昭和60年代前半にかけて提唱された加齢に伴う身体諸機能の低下に対するシルバーヘルスプロモーションプラン(SHP),さらにこれをメンタルな面からサポートしてゆくトータルヘルスプロモーションプラン(THP)が労働省を中心に大きな流れを作っていた.
 この流れを受けて石川県医師会では,産業医活動の健診業務と,労働者,さらに一歩進めて地域住民の基礎体力を把握し健康管理の充実quality of life(QOL)の保持向上を目指した健康増進対策ができないかを模索した.

地域口腔保健—歯科医師会の実践

香川県歯科医師会の公衆衛生活動

著者: 十川和彦

ページ範囲:P.771 - P.773

 香川県歯科医師会では,公衆衛生事業として県民の生涯歯科保健を充実するため,地域歯科保健の活性化を図り,迫り来る高齢化社会にも対応して地域住民のオラルヘルス思想の向上や普及につとめています.
 具体的な活動は,次のことを重点目標としてかかげて実践しています.

活動レポート

沖縄県小児保健協会の活動

著者: 小渡有明

ページ範囲:P.776 - P.780

はじめに
 一昨年,われわれの協会は創立20周年を迎え,7月に県知事,(社)日本小児保健協会長平山宗宏先生のご臨席をいただき記念式典を挙げた.記念式典に先立ち,創立20周年記念事業の一環として,児童を対象に図画,作文コンクールを地元新聞社の共催を得て行うとともに,記念誌の発行に着手した.
 沖縄県は南北400km,東西1000kmに及ぶ海域に散在する50余の島々(うち,指定離島は57)からなっている.昭和47年,本土復帰し,人口動態をはじめ諸統計が全国統一され,社会経済面とともに保健医療面においても,この20年の間に,大きく改善され向上した.人口122万人,出生17,000人で平成4年の出生率は14.1,全国一である.反面,乳児死亡は常に全国平均を上回り,乳児死亡率は平成4年5.1で12番目に高い.

在宅高齢者の地域支援システム—在宅ケアプランの試み

著者: 貞本晃一

ページ範囲:P.781 - P.786

 超高齢社会を目前にして,地域保健の枠組みが変わり,保健と医療,福祉との連携が単なるかけ声だけではなく,その実効性が強く求められるようになってきた.
 これからの地域ケア,在宅ケアにおいて保健所や市町村の保健婦に対する期待はますます大きくなるが,この期待に応えることが保健婦としてこれからの地域保健の中で占めるべき役割を明確にする一つの方法であると思う.

資料

基本健康診査受診者からの一検討—検診内容の理解について

著者: 清水容子 ,   吉田英世 ,   藤田節也 ,   岩田弘敏

ページ範囲:P.787 - P.789

 老人保健法による健康診査が始まって約10年が経過した.厚生省は平成4年4月,保健事業第3次計画1)を作成し,その中で個人の健康診査データを時系列的に把握し,その個々人の生活習慣などを考慮した指導を行うなど,個人への対応の促進を呼びかけている.これを受けて,岐阜県内K町でも,基本健康診査後の検診結果をもとにした指導(以下,事後指導)の際に,個人に重点をおいて指導内容を新たに検討することとなった.
 そこで,検診受診者を対象に,これまでK町で行ってきた事後指導のうち,特に検診内容の理解度について調査を行い,検診内容を理解して受診に訪れる者がどの程度あるかを調べ,理解のある者とない者との間で,検診結果の推移にどのような差が認められるかについても検討し,今後の指導方法を検討するうえで参考にしたいと考えた.

調査報告

タイ山岳民族における育児習慣が乳幼児の健康と栄養に及ぼす影響—2民族の比較調査から

著者: 大森絹子

ページ範囲:P.792 - P.796

はじめに
 開発途上国では,乳幼児の蛋白—カロリー欠乏性栄養失調,貧血ならびにビタミンA欠乏症が最も高い栄養問題としてよく知られている.そして社会政治経済状態が上記の栄養問題と最も密接に関連しあっていると一般的に言われている.しかし医療人類学的栄養調査の上で,社会文化的背景が栄養問題に大きく影響することも見逃してはならない事実としてある.例えば,民族,宗教や信仰,移住や転住,農村共同社会と都会社会,家族形態(核家族と複合家族)などが上げられる.
 筆者は,1982年から1986年までの4年間,タイ国北部のタイ山岳民族カレン族の間で,地域保健医療協力に携わった.4年間の公衆衛生活動とフィールド調査の中から,地理的,経済的に,ほぼ同じような条件にありながらも民族,宗教の異なるグループの間で,子どもの栄養状態,成長発育,死亡率および罹患率に顕著な差があることを発見した1).この原因を探るべく医療人類学的追跡調査を試みたので,ここに報告したい.

報告

精神障害者を支える家族のための「家族教室」

著者: 斉藤富美代 ,   唐木順子 ,   山口一

ページ範囲:P.797 - P.800

はじめに
 最近の精神障害者の家族研究では,家族は精神分裂病の発症原因とは無関係であるが再発に大きく関与していることが分かってきた.すなわち情動的に巻き込まれやすい家族のもとに退院する患者は,そうでない家族のもとに退院する患者に比べて再発率が有意に高いということである.そのため分裂病の再発率を下げるための治療的介入の一つとして,家族に適切な情報・知識を提供する家族教育の必要性が強調されている.
 坂戸保健所は管内人口が22万人であり,管内に大きな精神病院があるためか,従来から精神保健に関する相談業務が多かった.精神障害者の家族に病気についての知識や理解が不足しているために,適切な対応ができずに病状の悪化を招いてしまうケースが少なくなかった.また平成3年6月まで川越保健所の支所であったため,家族会の開催も管外で行われるために参加しにくく,家族は他の患者や家族の状況を知ることもできず,家族だけで患者を抱え込んで孤立し苦悩していた.こうした問題を解決するためには保健婦の個別の対応だけでは不十分であり,同じ悩みをもつ家族同士が集まって病気についての正しい知識を得たり,悩みを共感したりする機会が必要であると考えた.

新しい保健・福祉施設

財団法人苫小牧保健センター

著者: 宮田昭一

ページ範囲:P.802 - P.803

1.施設概要
 敷地面積:2915.69m2
 施設内容:自動総合健診システム,眼底カメラ,超音波診断装置,胸部胃部X線撮影装置,オージオメータ,自動血圧計,心電計,プルスカウンター,他(配置は平面図)

保健行政スコープ

色覚の異常と見やすい色表示

著者: 染谷意

ページ範囲:P.806 - P.807

1.色覚問題に関する検討会について
 色覚の異常は,網膜の視細胞に存在し色を知覚する物質(視物質)の異常により,通常と異なる色の感じ方をする身体の異常である.色の感じ方が異なることによって,異常を持つ者は日常生活において多くの困難を感じることがあると言われている.
 色覚の異常に伴う問題に対しては,異常を有する者に対する,色の感覚が必要となる場面での適切な配慮が重要である.このため,特にひとつの集団生活の場である学校,職場などにおける困難については,これまでも学校保健,産業保健などの分野で必要な取り組みがなされてきたところである.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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