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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生59巻2号

1995年02月発行

雑誌目次

特集 労働によるストレスと健康

労働によるストレスと健康

著者: 荒記俊一 ,   川上憲人

ページ範囲:P.84 - P.88

はじめに
 国際労働機関の報告書1)も指摘するように,労働によるストレスは今世紀最も重要な職場における健康障害因子のひとつである.特に近年,心血管障害などのように,職場環境や作業内容によってその発症や予後が影響を受ける「作業関連疾患」への対策として,労働によるストレスに対する研究および対策活動が重要な位置づけを持つようになってきた2)
 1982年の全国調査では,わが国の勤労者のうち仕事,職場生活に関することでの強い不安,悩み,ストレスを持つ者は51%であった3).1992年には57%と増加4)し,労働によるストレスが増加していることがうかがえる.米国では労働によるストレスのための医療費増加や生産性の低下などの損失は年間3,000億ドル以上と推定されている5).また欧米同様,わが国においても近年,労働によるストレスと関連した精神障害および循環器疾患による労働災害申請が注目を集めている.

労働によるストレスの評価法

著者: 小林章雄

ページ範囲:P.89 - P.93

はじめに
 労働によるストレスの評価はしばしば困難である.それは,(1)ストレスについての基本的な考え方(概念)の不一致や混乱がある,(2)労働によるストレスの主要な部分を占める心理・社会的な要因の測定には種々のバイアスが不可避であり,客観性に乏しいと考えられがちである,(3)無数に測定法があり,頻繁に改訂される上,特定の職務や作業に固有な測定項目が多く,標準化・一般化が困難である,(4)ストレス要因とその影響との関連についての病因論的メカニズムが未解明であり,手がかりに乏しい,などの理由による.以下では,これらの点を整理しつつ,労働によるストレスの評価法について述べる.

労働によるストレス疾患と対策—循環器疾患

著者: 黒岩昭夫 ,   中島康秀 ,   高原和雄 ,   八代晃 ,   中村正 ,   山下和仁

ページ範囲:P.94 - P.98

はじめに
 労働の様式が変化するにつれて,労働による負担も変化してくる.それにより出現する疾患も変化し,循環器疾患が多くなってきている.その発症形態が突然発症する突然死,心筋梗塞,脳血管疾患のような形で,致命的あるいは就業困難な状態になる場合がある.
 本論文では,近年,関心をもたれている労働ストレスと循環器疾患についての現状を述べる.

労働によるストレス疾患と対策—心身症と行動異常

著者: 野村忍 ,   末松弘行

ページ範囲:P.99 - P.101

はじめに
 現代社会は,技術革新,国際化,高齢化社会,バブルの崩壊による深刻な不況など多くの難問に直面し,一億総ストレス時代といっても過言ではない.最近,労働省の行った約16,000名の労働者を対象としたアンケート調査では,約65%の人々がなんらかのストレスを強く感じていることを報告している.労働安全衛生法が6年前に改正され,その中でストレスによる心身の病気に対する対策の必要性が強調されるようになり,その指導要項が出されている1)
 ところが,ストレスは目に見えないもの,個人によって受け止め方が違う,あるいはプライバシーの問題などがあってなかなか有効な対策が立てられていないという現状である.最近になって,各企業では職場のメンタルヘルスに力を入れ始めて,各種の試みが行われるようになってきている.単なる病気の早期発見,早期治療からストレス病の予防そして積極的な健康づくりの時代へと変わりつつある.ここでは,ストレスとはなにか,ストレスの反応,ストレス関連疾病,ストレス評価法について述べる.

労働によるストレス疾患と対策—行動療法

著者: 内山喜久雄

ページ範囲:P.102 - P.105

ストレス疾患
〈症例1〉MK,29歳,男子,某製薬会社販売担当社員.
 半年程前から車が運転できなくなり困っている.ハンドルを握って,さて,エンジンをかける段になると,顔がなぜか右側へ向いてしまう.無理に正面に向けようとしても顔はすぐ右側へと戻ってしまう.車に乗れなくては仕事にならないので,病院で受診.診断名は痙性斜頚であった.

労働によるストレス—事例報告

著者: 夏目誠

ページ範囲:P.106 - P.109

 本稿のテーマは,労働によるストレスが関与しているストレス関連疾患の事例報告である.多くの職場で見られる代表的なストレス関連疾患は,心身症と職場不適応症1,2)である.ここでは,職場不適応症(仕事の停滞を伴う適応障害3)を中心に)の代表的事例を提示するとともに,臨床症状や発症機制,治療を中心に解説を加えたい.

トピックス

日本産業ストレス学会より

著者: 斎藤和雄

ページ範囲:P.110 - P.112

 平成5年4月,日本産業ストレス学会が発足した.同年12月,第1回日本産業ストレス学会総会が,河野友信パブリックヘルスリサーチセンターストレス科学研究所副所長を会長として,東京都文京区全電通労働会館において開催され,第2回学会総会は,平成6年11月26日,27日に林峻一郎北里大学保健衛生学部精神衛生学教授と前田和子武蔵丘短期大学健康管理学教授を会長として,東京都文京区順天堂大学有山登記念講堂で開催された.
 本学会は,働く人々の健康の維持増進に役立つための産業ストレスに関する学術研究,およびその対策についての実践活動を行うことを目的として創設された.すなわち,ハイテク化やオートメーション化など著しい技術革新を伴って発達したわが国の産業経済は,労働衛生の向上に多大の貢献をしてきたが,労働現場においては,これまでと質的に異なった多くの解決すべき問題が存在している.中高年労働者の健康問題もそれらの一つであるが,とりわけ職場におけるストレスの問題は多岐に渡り,なおかつ増大の一途をたどり,ストレス関連疾患や職場不適応問題の解決,働く人々のQOL(quality of life)の向上,快適労働環境の設定など,問題が山積している.このような現状を踏まえて,産業ストレス問題の解決に役立つ学会が必要であるとの認識に立っている.

日本産業精神保健学会より

著者: 原谷隆史

ページ範囲:P.113 - P.116

産業精神保健研究会
 日本産業精神保健学会の前身である産業精神保健研究会は,加藤正明東京医科大学名誉教授を代表として1989年8月に発足した.年に7回程度の研究会を継続し,1992年9月までに20回の研究会を開催した.この一連の講演内容は,こころの臨床ア・ラ・カルト第12巻増刊号(1993)「職場のメンタルヘルス最前線」としてまとめられている.ストレスに関連する報告としては,島悟氏の「勤労者におけるストレス」,庄司正実氏の「職場のストレッサーと対処行動」が掲載されている.

国際産業保健学会および国際行動医学会より

著者: 川上憲人

ページ範囲:P.117 - P.120

はじめに
 国際労働機関(ILO)の報告書1)も指摘するように,労働によるストレスによる健康障害は先進工業諸国において共通の重要な問題となっている.この稿では,最近の2つの国際会議における,労働によるストレスと健康に関する研究報告を紹介し,これに基づいてこの領域における研究および活動の国際的動向を整理する.

視点

労働ストレスと健康

著者: 山本宗平

ページ範囲:P.82 - P.83

 労働ストレスと健康の問題を労働衛生対策に即して考えるために,まずストレス要因,ストレス反応,健康影響を区別し,それぞれの関係や修飾条件を検討することが効果的であろう.
 ストレス要因は文献上多数のものが報告されているが,それらは①作業特性に関するもの,②組織の中での役割に関するもの,③地位や待遇に関するもの,④人間関係のサポートに関するもの,⑤組織の規約・構造に関するもの等に大別することが出来る.

公衆衛生医師—その現状と課題 座談会

これからの公衆衛生活動(2)

著者: 高山佳洋 ,   日高良雄 ,   星旦二 ,   中村好一

ページ範囲:P.121 - P.126

住民参加の保健活動
 中村 今,住民の中に出向いて事業を展開するという話がありましたが,今後は公衆衛生の行政施策あるいは活動を行っていくに当たっては,住民参加ということが一つのキーワードになると思います.従来の保健所にも保健所運営協議会という組織がありましたが,一般論として多くの保健所でこれは形骸化しているのではないかと私は理解しています.そういった組織の活用方法も含め,住民参加の活動をどのように進めていくのでしょうか.
 高山 今回の地域保健法では「保健所運営協議会を設置することができる」となり,運営協議会の設置に関しては従来より後退した文章になっていますので,形骸化したことを追認しているような条文になったわけです.確かに現在のようなやり方は大いに改善しなければならないと思います.ただ,全く意味がないかというと,協議会のメンバーのような立場の人たち,地域の有力者,政治家,あるいは市町村長さんなどに地域の保健問題をきちんとプレゼンテーションする場というのは絶対に必要だと思います.むしろ,そういう機会を増やすというか,収集した地域の保健情報やデータをきちんとプレゼンテーションする必要性は高まっていると思いますね.

連載 健康づくりの実践に向けて・2

市町村における健康づくりの現状—栄養を中心にして

著者: 秋澤より子 ,   坂田清美 ,   尾島俊之 ,   發坂耕治

ページ範囲:P.127 - P.130

はじめに
 前回は市町村が実施している健康づくり事業のうち,運動を中心に現状を明らかにした.今回は,市町村が現在どの程度栄養に関する健康づくり事業を実施しているか,また,市町村の担当者は,今後どのような点を重視すべきと考えているかについて,現状を明らかにしたので,その概要を示すことにする.

疾病対策の構造

安住できない日本のごみ—廃棄物を組み込んだ居住・生活環境・経済へ

著者: 小林康彦

ページ範囲:P.131 - P.135

1.ごみは生活の反映
 人間が生活していく以上,その人や家族にとって不用になるものが必ず発生する.その人に不用でも,別の人が必要とするものであり,両者を繋げる道筋があれば,ごみにはならない.そうした,受け手を見出だせないものは「廃棄物」である.
 この廃棄物も時代によって大きく変わってきた.例えば,電車の網棚に雑誌が残されていたら,忘れ物として扱われたのは,そう昔の話ではない.ごみかごみでないかは,客観的に識別がつくという時代が長く続いていた.それだけに,「もったいない」という感覚で,ごみ問題を考える方が少なくない.しかし,昭和40年代の後半頃から,個人的な「もったいない」,「ものを大切に」という常識が通用しなくなってきた.外見上,まだ役に立ちそうなものでも廃棄物として出されるようになり,外見だけでは廃棄物か,そうでないか,判別ができなくなってしまった.そこで,ごみであるかないかの判別を所有の意思があるかないか,所有の意思のない場合,それを買い取る人がいるかどうか,を判断の基準に採用したのが昭和52(1977)年,17年前である.個人の感覚ではなく,経済の原則でごみを扱い始めたといえる.そこで,今回は量とコストを中心に考えてみたい.

都道府県医師会の公衆衛生活動

愛知県医師会の公衆衛生活動—医療機関機能連携支援情報システムの構築

著者: 加藤順吉郎

ページ範囲:P.136 - P.137

1.はじめに
 わが国は21世紀に向けて超高齢化社会が進むといわれている.さらに最近良質な医療を効率的に提供することが求められている.すなわち組織医療である病院とかかりつけ医機能を備えて全人的医療を求められる開業医との機能分担と連携こそが最も重要な課題である.
 各地域において限られた保健,医療,福祉資源ならびに制約条件のなか,それぞれの固有な地域特性を考慮したユニークな地域保健,医療,福祉のシステム化すなわち地域保健医療福祉システム(以後,略して地域医療システムと呼ぶ)の構築が必要となってきた.これには,次に示す4つの主要なシステム化課題がある.(1)プライマリ・ケア機能を中核とした在宅ケア支援システムの構築,(2)住民をも含めた地域関係者の人材育成確保と円滑な人間関係,信頼関係の構築,(3)各種施設,機関における適切な機能分担と連携体制の構築,(4)総合的な保健,医療および福祉情報ネットワーク・システムの構築である.また必要な人に,より適切な保健・医療・福祉サービスを,よりタイムリーに地域のなかで効率的かつ効果的に提供する必要がある.

地域口腔保健—歯科医師会の実践

兵庫県歯科医師会における地域保健活動—特に心身障害児(者)歯科保健巡回指導事業について

著者: 大頭孝三

ページ範囲:P.138 - P.140

はじめに
 乳幼児から商齢者に至る県民の一人ひとりが,歯・口腔の疾病や機能について正しい知識を持ち「一生を通じて自分の歯で食べられること」を目標に,兵庫県歯科医師会・行政・県民等が協力して生活に密着したプライマリヘルスケア推進に取り組み,表1に示すような地域歯科保健活動を実施している.
 今回は特にその中から,県の委託事業として県下各地区より要望が強く,比較的長期にわたって継続している心身障害児(者)歯科保健巡回指導事業について紹介する.

活動レポート

日南町の健康づくり

著者: 安東良博

ページ範囲:P.141 - P.144

はじめに
 日南町保健センターは,町立病院に隣接して昭和54年に開設され,町立病院と一体となって町民の健康づくりの拠点として活動してきた.本年「地域保健法」の制定によって法定化された「保健センター」の設置は,日南町ではすでに15年の歴史を有しており,昭和59年に胃がん,子宮がん受診率の向上に対して,日本対がん協会賞を,昭和60年に「老人保健法による保健事業の推進に尽力し,その功績が顕著である」ことにより厚生大臣表彰を受け,さらに平成4年には「早期より総合検診に取り組み効果を上げ,超高齢化社会に対応して総合的な成人保健対策を先駆的に推進した」ことで,第44回保健文化賞を受賞した.今回,機会を得て日南町の健康づくり活動の概要をレポートすることで,さらなる活動を目指すための材料にしたい.

報告

筋萎縮性側索硬化症患者の療養の現状と課題

著者: 豊浦保子 ,   水町真知子 ,   黒田研二

ページ範囲:P.145 - P.148

はじめに
 筋萎縮性側索硬化症(以下,ALS)は,運動ニューロンが侵され全身の筋肉の萎縮がおこる,進行性で原因不明の難病である.四肢の筋肉のみならず,嚥下や発語,呼吸の機能も侵され,食べることも,話すことも,呼吸をすることも障害されるため,難病の中で最も過酷な病気だと言われている.
 日本ALS協会近畿ブロックは,患者・家族,遺族,医療・保健等の専門職や一般ボランティアが参加する団体として1988年9月に設立された.設立4年目を迎えた1992年秋,ALS患者の闘病生活の現状を把握することを目的にアンケート調査を行った.その結果から,ALS患者の療養の現状と課題を報告したい.

保健行政スコープ

職場における喫煙問題

著者: 三宅智

ページ範囲:P.150 - P.151

1.職場での喫煙対策
 喫煙が健康に与える悪影響については多くの事実が明らかにされているが,他の先進諸国に比べわが国での喫煙対策,喫煙に対する問題意識はかなり遅れをとっているといえよう.欧米においては,喫煙に対しての一般の眼には厳しいものがあり,職場や公の場所での喫煙は,はばかられる雰囲気があり,また,法律で規制されている国も多い.また,たばこの宣伝広告に対しても厳しい制限がかけられているのが一般であり,テレビでたばこのコマーシャルを見る機会はまずないといえよう.わが国における喫煙対策への政策的な取組みとしては,すでに厚生省において昭和62年に「たばこ白書」が作られ,平成5年にその改訂版が出された.労働省においても昭和63年に「職場と喫煙」(職場における喫煙に関する懇談会報告書)がまとめられている.こうした動きの中で,わが国においても,喫煙問題について,受動喫煙や青少年の喫煙の問題に対しての認識が高まってきており,駅構内,列車や航空機内での分煙,禁煙が進んできており,また,テレビのコマーシャルでも放送時間の自主規制がとられるようになってきている,しかし,喫煙率は全体的に減少してきているとはいえ,諸先進国に比べて男性の喫煙率はかなり高い状態にあり,若い女性の喫煙率の増加傾向も危惧されている.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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