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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生59巻4号

1995年04月発行

雑誌目次

特集 地方自治体はどのように地域保健を推進するか

地方自治体と地域保健

著者: 多田羅浩三

ページ範囲:P.228 - P.231

はじめに
 今日の公衆衛生は,1848年のイギリスの公衆衛生法によって,中央に保健総局(General Board of Health),地方に地方保健局(Local Board of Health)が設置され,各地方保健局に保健医官(Medical Officer of Health)が置かれるという方式が示された時,その体系が定式化されたと思われる1).この法律を起草したエドウィン・チャドウイックは,巧利主義哲学の首唱者であったジェレミー・ベンサムの弟子であり,1834年の改正救貧法成立の立て役者であった.
 ベンサムらの理念は,最大多数の最大幸福という有名な言葉によって代表されるように,多数のもののために少数のものが犠牲になることは,社会の巧利性を考えれば仕方のないことであるとする面があり,そのことが彼らの主張する政策を,専制的で,中央集権的なものとしてしまう傾向を生むことになったといえる.

地方自治体の行政圏域

著者: 遠藤文夫

ページ範囲:P.232 - P.234

 新しい地域保健法の成立に伴い,都道府県,市町村が主体的,総合的に地域保健対策を推進する責任を負うこととなり,都道府県の保健所の所管区域も,地域総合行政の一環として,保健医療および社会福祉に係る施策の有機的連携を図る見地より設定されなければならないこととされた(地域保健法5条2項).そこで,この機会に,保健所の所管区域を念頭に置きながら,地方自治体の行政圏域に関する制度ないし問題点を整理してみたい.

地方自治体の財政

著者: 米原淳七郎

ページ範囲:P.235 - P.237

地方財政の規模
 「金は天下の回りもの」という言葉があるが,お金はどこからか入ってきてどこかへ出て行くものである,筆者の場合,入ってくるお金の大部分は大学の給与で,出て行くお金は,妻に手渡す生活費や,子供の学費,筆者の小使いなどである.「財政」という言葉は,このお金の出入りを,国,県,市町村,といった公的団体についてみたものである.国のお金の出入りは,通常,「一般会計予算」でみるが,平成7年度で70兆9,871億円となっている.国のお金の出入りには,特別会計等も含めるべきであろうが通常はそうしていない.また最近は財政状況の悪化を隠すため,故意に一般会計予算に計上する支出を小さくしているという声を聞くこともある.
 他方,地方財政は,現在47の都道府県の他3,259の市町村,それに23の特別区があるが,それらを全体としてみたお金の出入りとして捉えるとき,平成7年度で,大略82兆5,100億円程度になるだろうとみられている.もちろんこの数字の中には,上水道,市営バス,国民健康保険等の特別会計のお金の出入りは含まれていない.

地方自治体行政のなかの地域保健—先端行政への新たな知恵を

著者: 佐々木信夫

ページ範囲:P.238 - P.240

押し寄せる“改革の波”
 21世紀をにらんだ様々な改革の波が日本にも押し寄せている.政治の55年体制の崩壊と新たな政治枠組みの構築,産業・金融の空洞化と価格破壊への新たなリストラ対応をはじめ,改革の波はひろく文化,芸術などの領域にまで及んでいる.
 もとより,それは行政においても例外ではない.否,日本の場合,最も改革のメスが入るべき領域は行政であるかもしれない.産業経済,都市活動,市民生活の隅々にまで張り巡らされた行政規制に対する緩和措置を求める声は,国内はもとよりアメリカ等海外からも強い.また,個性化,自立,創造をキイワードに進められるべき各地でのまちづくりも,国の権限・財源を思うままに行使する中央集権体制に阻まれ,彩りの国づくり,生活者主体の地域づくりができない状態にある.

地域保健対策—基本指針

著者: 西本至

ページ範囲:P.241 - P.244

はじめに
 昨年12月に地域保健法の基本指針が告示されて以来,様々な形でその内容が紹介されてきた.そこで本稿では読者がその概要についてはすでに了解されているとの前提で,いくつかの論点にのみ的を絞って論じてみたい.

高齢化先進県における地域保健の課題

著者: 芝池伸彰 ,   竹内俊介 ,   関龍太郎

ページ範囲:P.245 - P.248

はじめに
 島根県は人口約77万人,59市町村からなり,東西約230kmに及ぶ県土を有している.県内には多くの山間へき地や離島があり,これらの地域では若年層を中心とした人口流出による過疎化が進行し,38市町村が過疎法の指定を受けている.平成5年の統計では,合計特殊出生率は1.82で全国平均の1.46を上回るものの,出生率は9.0で全国平均の9.6を下回り,出生数が死亡数を下回る「自然減」を記録した.また,総人口に占める65歳以上の老人の割合は20.4%(平成5年10月)で,全都道府県で最も高齢化が進んでいる.このまま推移すれば,平成12年の老人人口の割合は約25%となり,全国より15年も早く超高齢化社会に到達すると予測されている.
 これらの状況から,本県では県政全体として「若年人口定住のための対策」と「高齢化対策」が最重要課題として位置付けられ,保健・医療・福祉各施策の積極的な展開が,とみに強く求められてきている.

野州町における地域保健の取り組み

著者: 竹澤良子

ページ範囲:P.249 - P.252

はじめに
 地域保健法が成立し,サービスの受け手である住民の最も身近な市町村の役割を重視するとともに,保健所はより専門的,技術的機能を強化し,人材の確保や資質の向上等新しい保健所機能を備え,生活先進国の実現を目標としている.
 特に市町村の役割重視という点については,増大する業務量に忙殺されてしまうのか,時代の要請に応じるため,保健活動をより推進する機会とするのか,それぞれの市町村の取り組みが問われることになる.

地域保健体制への期待

著者: 大谷藤郎

ページ範囲:P.253 - P.256

地域保健は「よき社会」への欠くことのできない手段
 地域保健は,地域住民の健康を守り,維持増進し,「予防に勝る治療はない」を重点に置いて地域ぐるみで実践するものである.
 「予防に勝る治療はない」はすべての病気にあてはまる医学医療の基本的原則であるが,地域保健の場合これを技術的な意味だけに限定して理解してしまうのは,歴史的にも社会的にも正しくない.

視点

阪神・淡路大震災

著者: 安井博和

ページ範囲:P.226 - P.227

 26日と8時間が経過している.
 役所の11階の自室より眺められる神戸の市街は,見える範囲においては,遠くにたゆとう水面の港が,そしてポートアイランドの遠景が,何事もなかったように,穏やかな午後の陽光の中でたたずんでいる.

連載 地域精神保健の展開—精神保健センターの活動から・13

千葉県精神保健センターの職業リハビリテーション活動

著者: 若菜坦 ,   荒谷令子 ,   川上秀夫

ページ範囲:P.257 - P.260

はじめに
 多くの精神障害者は,様々なレベルの作業能力障害を持ちながら,その能力に応じた仕事をし収入を得,それにより生きがいを感じたり,生活リズムを保っておられる.しかし,社会の援助体制や場が不十分なため,未だその希望をかなえられていない方も少なくない.
 精神障害者の仕事面をより豊かにするには,一方には職業リハビリテーション活動を通じて,その作業能力障害をできるだけ克服することであり,他方では精神障害者の実態について社会の理解を得,援助の幅を拡げることであろう.当センターも職業リハビリテーションを広く取り上げ,この2方面からのアプローチを心がけている.

疾病対策の構造

化学物質への対応—リスクの程度と負担バランス

著者: 小林康彦

ページ範囲:P.261 - P.264

1.関心事—廃棄物と化学物質
 廃棄物を考える上で避けて通れない問題に有害性,特に化学物質の課題がある.今回は,廃棄物として化学物質に関しどこまで受け持つかという点を中心に筆者の関心を述べてみたい.
 ごみの焼却施設の計画にあって常に問題にされるのは,焼却に伴って化学物質が排出され環境汚染が発生するのではないかという懸念である.また,最終処分場計画では,地下水汚染のおそれであり,両者共通の課題として廃棄物の輸送に伴う問題がある.

健康づくりの実践に向けて・4

市町村における健康づくりの現状—節酒を中心にして

著者: 坂田清美 ,   久保訓子 ,   小林勝義 ,   平岡純

ページ範囲:P.265 - P.269

はじめに
 適量の飲酒は心身の健康に良い影響が期待できるが,過度の飲酒はさまざまな健康障害や社会問題の原因となる.健康づくりとしての飲酒対策は,適正飲酒をスローガンに,未成年者や妊婦,高齢者など対象者に応じた内容が求められる.
 前回にひき続き,全国の3,258市町村(東京都特別区は市として扱う)に対し実施した健康づくり事業の現状調査より,飲酒対策について報告する.

都道府県医師会の公衆衛生活動

秋田県医師会の公衆衛生活動—がん検診を中心に

著者: 五十嵐信寛

ページ範囲:P.270 - P.271

はじめに
 現在秋田県において行われている種々の健(検)診のうち,主として老人保健法によるがん検診について,秋田県方式ならびに秋田県医師会のそれに対する関わりについて述べてみたい.
 秋田県医師会の地域保健活動を語る場合,忘れてはならない先人がいる.昭和41年4月に秋田県医師会長に就任した藤原慶一郎氏(故人,1909〜1974)である.地域保健活動は医師会が先頭に立って行うべきもので,地域と密着し,医師に対する信頼を獲得するためには非常に大切なことで,決してそこで利潤を追求してはいけないというのが先生の信念であった.

地域口腔保健—歯科医師会の実践

生涯歯科保健推進事業としての成人歯科保健—大阪府歯科医師会

著者: 杉本憲治

ページ範囲:P.272 - P.274

はじめに
 生涯歯科保健推進事業は,大阪府歯科医師会と大阪府の間で委託事業として始まった事業であり,ご理解をいただくために概略説明をさせて頂く.
 21世紀初頭には4人に1人が65歳以上という高齢社会の到来が予測されている.また国民の健康に関しての価値観も多様化,高度化し,老後の自立志向と相まって,その様相が大きく変化してきている.高齢社会において愉快に,豊かに,しかも健やかな人生を送り,長寿を全うすることが,すべての人々の願望である.そこで大阪府歯科医師会では,会を挙げて生涯にわたる一貫性のある歯科保健の推進を図るべく,「生涯歯科保健推進協議会」(図)を発足し,具体的に事業推進するために7班構成とし,積極的に事業推進を行ってきた.事業開始3年目には指針に相当するガイドラインを発刊し,なにぶんにもスケールの大きい事業であり,予期しえない難問題も発生するのではと危惧したわけである.

保健活動—心に残るこの1例

老人性痴呆の単身生活者と家族についての一考察

著者: 萩原律枝

ページ範囲:P.289 - P.289

 北九州市は,平成5年10月1日より保健と福祉の統合を目的として,年長者相談コーナー(以下,コーナー)を設け,ケースワーカー,保健婦の主査を各1名配置し,老人問題の窓口の役割をとっている.
 T氏については,地区民生委員から平成6年3月22日にコーナーに相談があり,5月6日にコーナーから地区担当保健婦に訪問指導の依頼があった.依頼の内容は,「県営住宅の4階で単身生活をしているT氏の部屋から蝿が異常発生し,同住宅内の住民が困っている.また,本人の安否も気になる.コーナーから長男に,今後の処遇を話し合うため来所の依頼の電話をしたが,仕事の都合を理由に来所しなかった.また,近所に住む甥宅に電話するも,T氏の面倒をよくみていた甥の嫁は,乳ガン手術後のため,現在T氏の援助ができない状態である」というものであった.

活動レポート

日本寄生虫予防会の活動

著者: 原隆昭

ページ範囲:P.275 - P.279

はじめに
 人と寄生虫との関係はまことに古く,古代の遺跡から見つけ出された人糞化石の中に寄生虫卵が発見されることによってもこのことが証明される.人体に感染した寄生虫は,成長して卵を産むようになる.それが人体から排出され,様々な経緯を経て再び人体に入り込む“生活史”を繰り返すのだが,その主な媒介を務めるのが人糞であり,人糞により直接,間接に汚染された水や野菜などの食物である.
 日本では,奈良,平安のころから人糞が肥料として用いられた記録があり,以来連綿として受け継がれて来た.特に織田信長以後顕著になった城下町の形成と,都市への人口集中は,都市から農村への屎尿の還元と,農村から寄生虫卵に汚染された野菜などの移入という循環を生んだ.この傾向は江戸期に至ってますます広がり,江戸や大阪のような大都市では屎尿が売買の対象となったほどであった.

調査報告

老人医療費の高額地域と低額地域の比較

著者: 森満 ,   鈴木恵三 ,   妹尾秀雄 ,   後藤良一

ページ範囲:P.280 - P.284

目的
 わが国の1人当たり老人医療費には地域格差がある1).例えば,都道府県別にみた昭和63年度の1人当たり老人医療費は,北海道では856,311円で最も高く,最も低い県の一つである静岡県のそれ445,532円の2倍弱となっている1)
 筆者らは,都道府県別の諸率を用いて,1人当たり老人医療費の都道府県格差と相関する要因を検討したところ2),次のような要因と有意な相関がみられた.すなわち,1人当たり老人医療費は,①医療供給量を表す病床数,医師数と正相関,②健康水準を表す平均寿命と負相関,③世帯人員数,1世帯当たり室数と負相関,④地域や個人の経済力を表す1人当たり県民所得と負相関,⑤その他,人工妊娠中絶率,自殺率,犯罪発生件数指数と正相関していた.

海外事情

高齢者ケアにおける倫理問題—カナダ医師会高齢者ヘルスケア委員会報告—「高齢者のヘルスケア:今日の課題,明日への選択」より

著者: 山根洋右

ページ範囲:P.285 - P.287

はじめに
 21世紀に向けて,加速度的に高齢化が進行している中で,“老いにやさしい”コミュニティづくりと保健・医療・福祉の総合的サービス活動が緊要な課題となっている.
 同時に「倫理」の問題は,医療,福祉領域のみならず,保健,公衆衛生領域でも活動と思想の規範として,従来にもまして重視される状況にある.

新しい保健・福祉施設

(財)二市北蒲原郡総合健康開発センター

著者: 富樫益郎

ページ範囲:P.290 - P.291

 昭和57年,新潟県阿賀北地域住民の健康の保持増進から疾病の予防,早期発見,リハビリなどの包括的地域保健医療体制を確立するため,それまでの医師会立検査センターを発展的に解散し,新たな財団法人として二市北蒲原郡総合健康開発センターは発足した.
 運営は12市町村,三師会および住民代表からなる理事会,評議員会,事業別に設置した14部門の運営委員会が当たっているが,常勤医師を置かず,実務の中心は医師会全会員の交代出務と協力により支えられている.

保健行政スコープ

保険診療における付添看護の解消方策について

著者: 山崎晋一朗

ページ範囲:P.294 - P.296

 平成6年の健康保険法等の一部を改正する法律により,保険医療機関における付添看護が解消されることとなった.ここでいう付添看護とはどういうものかというと,通常医療機関に入院すると,その医療機関の看護職員,看護補助職員(介護職員)が看護を行う,この医療機関の看護要員等とは別に患者との個人契約で,その契約患者のみの看護を行う看護形態があり,これを付添看護という.この付添看護制度の歴史は長く,これまでに30年以上も続いてきた制度である.
 この長年続いた制度を今回廃止することとなったわけであるが,それは付添看護制度が内在する問題を無視できないためである.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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