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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生59巻6号

1995年06月発行

雑誌目次

特集 少子化時代への対応

少子化時代の社会と経済

著者: 宮澤健一

ページ範囲:P.372 - P.374

明日の人口構成
 日本の人口の構成は,21世紀には高齢者1人に対して,現役世代2人・子供1人という姿になると見込まれている.つまり,現役世代2人で,高齢者と子供を1人ずつ抱えることになる.こうした姿を生む高齢化と少子化の問題の焦点は,前者が「高齢者介護」,後者が「子育て」にあることは,今日ほぼ常識となった.ところが両者を比べると,介護の問題はかなり世間の共通理解が生まれつつあるのに,子育て問題は,まだ意見が収れんしているとは言えない.なぜだろうか.どこに,性格の差があるのだろうか.
 介護の場合には,老後の新たな型の不安とリスクとして,新しい対応のシステムづくりが社会に求められ,介護保険制度の創設を含め,社会的な合意が生まれつつある.

女性のライフコースと出生行動

著者: 中野英子

ページ範囲:P.375 - P.378

はじめに
 合計特殊出生率はかなり長期にわたって低下を続けている.出生率低下をもたらす要因は複雑にからみあっていて解きほぐすのは容易ではないが,ここでは一つの視点として,女性のライフコースの大きな分岐点となる結婚・出産・就業を中心に,ライフコースと出生行動とを考えてみたい.

社会政策と出生率

著者: 織田輝哉

ページ範囲:P.379 - P.382

低出生率への政策的対応の意味
 近年,日本では合計特殊出生率が人口置き換え水準を下回って低下していくという状況が続いている.これによって,人口過剰に伴う問題は軽減されるが,老齢年金を初めとする社会保障の費用負担の問題や,労働力不足による経済力の低下などのデメリットも生じてくる.個人の選択の結果として社会的に望ましい出生率の水準が維持されないとすれば,出生率は公共財として政策的対応の対象となりうることになる.
 しかしながら,子どもを生むということは,個人にとってきわめてプライベートな出来事である.このような個人の内面とかかわるような問題に対して他者が直接的に干渉することは,個人の自由な選択権を侵す危険性がある.よって,低出生率に対して何らかの対策をとるとしても,それが実際に出生率にどのような影響を与え,またどのようなコストを伴うかに関して,慎重な検討が必要とされる.

働く女性への社会的支援

著者: 前原澄子

ページ範囲:P.383 - P.386

はじめに
 最近の世界的な環境・人口・生活の変化により,ヒトの生殖にかかわる健康問題は,従来の母子保健の概念で扱うには不都合が出てきているとし,WHOでは新しい概念としてリプロダクティヴヘルスを打ち出してきている.
 それは,生殖に対する新しいニーズに応えるために,より総合的で統合的にアプローチされるものである.つまり,すべての人は希望する時に希望する数の子どもを持つことができ,安全に妊娠・分娩を経過して,健康な子どもを生み育てることができるようにヘルスケアプログラムを提供しなければならない.

子育て支援の実態—東京の子育てグループの調査から

著者: 田中ひろ子

ページ範囲:P.387 - P.391

はじめに
 近年,核家族化と少子化に伴い,育児を取り巻く環境は大きく変化してきた.特に「少子化」による社会問題として,初めての出産・育児に際して不安を持つ母親が過去より増加してきていることは多くの調査で明らかにされている.このような背景のなかで,多くの母親たちが元気に,楽しく子育てをしており,都内でも数多くの子育てグループが生まれてきている.これらの子育てグループの自然発生が進む中で,公的な場での育児支援の必要性があげられ,すでに様々な形で育児支援策が推進されてきている.しかし,実際に活動している子育てグループの実態は十分把握されていないのが現状であって,これらの子育てグループに対しての育児支援をどう行っていくかが今後の課題の一つである.
 そこで,われわれは地域で実際に活動している個々の子育てグループの実態を把握することと,今後の育児支援の基礎資料を得る目的で1994年1月から2月にかけて,東京都内の子育てグループの実態調査を行った.

少子化時代—国の取り組み「エンゼルプラン」

著者: 冨澤一郎 ,   土居眞

ページ範囲:P.392 - P.394

はじめに
 平成5年のわが国の出生数は118万人であり,これは戦争直後(昭和22年)の268万人の半分以下である.また,合計特殊出生率(女性が一生の間に産む子どもの数を示す)は,1.46と史上最低を記録している.少子化傾向が継続することは,子ども同士のふれあいを減少させ,子どもの自主性や社会性を育ちにくくし,また若年労働力の減少等による社会の活力を低下させるといった影響がでる懸念をもたらしている.
 こうした状況を踏まえ,平成6年12月,厚生省,文部省,労働省,建設省の4省により「今後の子育て支援のための施策の基本的方向について(エンゼルプラン)」を策定し,子ども自身が健やかに育っていける社会を形成していく基本的な考え方を示したところである.

少子化時代への対応—大阪府の取り組み

著者: 伊藤裕康 ,   野田哲朗

ページ範囲:P.395 - P.398

はじめに
 わが国では,現在少子化が進行しており,このまま推移すれば21世紀の初めには人口が減少する中で高齢化が急速に進むという,かつて経験したことのない少子高齢社会に突入しようとしている.大阪府においても,出生数は第2次ベビーブームの昭和47年の17万6千人をピークに毎年減少を続けており,平成5年には8万6千人となった.また,合計特殊出生率も東京都に次いで低く,1.31と全国平均を大きく下回っており,少子化が全国を上回る速さで進行すると見込まれている.
 少子化についての府民の意識をみると1),半数以上が望ましくないと考えており,その理由として「子ども自身の成長への影響」を心配する回答が最も多く,次いで「社会活力の低下」,「社会的負担の増大」を挙げている(図1).

少子化時代への対応—大分県の取り組み

著者: 塚原太郎

ページ範囲:P.399 - P.402

はじめに
 近年の婚姻件数の増加などを背景に,全国的に,出生数が回復する兆しが見えはじめており,平成6年は大分県においても,昭和48年以来21年ぶりの大幅な増加が見込まれている.しかしながら,本県の平成6年の出生数(推計)は11,740人で,昭和40年の約6割にまで減少しており,死亡数が高齢化の進展に伴って増加しているなかで,自然増加数がマイナスに転じることが懸念されており,出生率の低下は過疎化・高齢化の著しい本県にとって,将来を予測する指標としてとりわけ重要な意味を持っている(表1).
 今日のこうした状況に対応するため,平成3〜4年度に「大分県出生率問題検討委員会」を設置し,日本大学人口研究所の協力を得て現状分析などを行うとともに,「出生率問題に関する懇話会」を開催し,働く女性の意見を集約する機会を設けるなど少子化対策の検討を進めてきた.

子育ては文化である

著者: 松岡悦子

ページ範囲:P.403 - P.406

 子育てについて書くとなると,どうしても自分の最初の子育てを思い出してしまう.それほど初めての母親にとって,最初の子どもの出現はショッキングで「だまされた思い」すらしたものだ.隣にいる生まれたばかりの子どもを見て「この人どこから来たんだろう」,「これを今から育てていくの?」,「私はとんでもないものを産んでしまったんじゃないかしら」と感じた出産直後の違和感.本に書かれてある「産後はゆっくり休養しましょう」という言葉を信じて,産後は寝て暮らそうと期待していた私は,赤ん坊が夜中にも起きると知って,まさかと思った.それなら,「産後はゆっくり寝られません」と書いて欲しかった.妊娠・出産までは生き物であれば放っておいてもできてしまうが,その後の育児は放っておくわけにはいかない,とても文化的なできごとである.なぜなら人はその社会・文化のなかで育ち,その文化を担う人になるのであり,育てるほうにしてもまわりと同じように,あるいは昔からやってきたように育てるからだ.女性は産めばたちどころに母性本能が芽生えて,赤ん坊を見ればたちどころに扱えるようになるのなら,育児不安やノイローゼは起こらないはずだが,現実には私も含めて最初の子育ては加減のわからないことだらけである.

視点

子供の健康—学校保健とその周辺

著者: 三好温子

ページ範囲:P.370 - P.371

 このたび「子どもの健康」というテーマを与えられたが,学童期のメンタルヘルスという視点から,いくつか提案を試みたい.体の健康については,従来より様々の問題が指摘されているところであり,肥満,高脂血症,喘息,近視の増加等々が話題になってきた.そしてそれなりに対応するルートも整備されつつある.一方,メンタルヘルスは,客観的評価・診断が難しいこともあって,ケアシステムがまだまだ不十分と思われる.

連載 地域精神保健の展開—精神保健センターの活動から・15

広島市精神保健指導センターの現状と展望

著者: 衣笠隆幸

ページ範囲:P.407 - P.409

はじめに
政令指定都市に対しては,平成8年度から大都市特例が施行されることになっているが,これは行政面における業務はもとより,政令指定都市における精神保健の基本的方針をさらに自主的に決定し推進していくことをも意味している.措置入院などの行政的な面は,ここでは特に論じないことにする.政令指定都市における精神保健センターの重要な役割は,大都市の精神保健サービスをどのように推進していくかについての具体的臨床的指針を提供し,それを実行できる実践的センターになることであろう.以下に述べることは,全国の精神保健センターにおいて標準的にいわれていることであろうが,それらの基本的な理念自体はかなり普遍的なものであり,ほとんどの現実的な問題はその具体的な運用に関することである.

疾病対策の構造

廃棄物への対応—し尿

著者: 片山徹

ページ範囲:P.410 - P.413

1.し尿をめぐる感染症,水質汚濁
 コレラは,19世紀を代表する最も衝撃的な伝染病であった.この病気は,水の汚染を通じて伝染するところに特色があり,その原因が患者や保菌者のし尿中のコレラ菌にあった.
 し尿は,人が摂取した水や食物が消化,吸収,代謝の過程を経て,その残渣として量的に尿5〜6回/日(1〜1.5l/日),大便1〜2回/日(100〜250g/日)となって排泄される.し尿中には未消化物として炭水化物,粗蛋白,粗脂肪が存在しているが,病原微生物および寄生虫卵を含む危険があること,有機質の腐敗性を有していること,硫化水素などの臭気物質を含有していることなどから,その処理をめぐっては先人の血のにじむ努力の積重ねと成果の上にたって今日を迎えている.

地域口腔保健—歯科医師会の実践

愛媛県口腔保健センターの活動

著者: 内海俊明

ページ範囲:P.414 - P.416

 愛媛県口腔保健センターは,愛媛県歯料医師会の公衆衛生活動の拠点として昭和49年に設立された.当初は休日などの救急診療から開始したが,昭和53年に新築移転し設備を整え,障害者診療も開始した.そして,その後出現した様々な歯科保健医療的課題を事業化し,前向きに取り組んで来た.現在,常勤の歯科医師2名,歯科衛生士4名,運転士1名の構成で,国,県の委託事業などを含め以下の活動を行っている.

保健活動—心に残るこの1例

“精神障害者が地域で暮らす”ということ

著者: 錦織智恵美

ページ範囲:P.437 - P.437

 28歳の精神分裂病のNさんは,高校を卒業後家を出て働いていたが,7年前酒を飲んで暴れたことがきっかけとなり警察に保護され,自宅に戻った.その後仕事もせず家でぶらぶらと過ごしていた.家族は,本人の言動がおかしいのは憑き物がついているからと思い,祈とう所に通い自分たちの力で治そうと本人の面倒を見ていた.2〜3年たつうちに,入浴もせず家の中に引きこもり人との接触を断ち,幻覚妄想による独語や暴力がひどくなった.家族としても対応しきれなくなり平成4年11月,警察に相談し保健所を紹介されたことがきっかけでかかわり始めた.保健婦の家庭訪問や専門医との訪問などを重ねていくことで平成5年4月に入院治療を開始し,半年後の9月には退院,その後通院治療を続けていた.家庭が経済的に苦しいこと,病気に対する認識が本人・両親ともに不足していることで受診の遅れや服薬の中断などもあったが,主治医と連携をとりながら病状が悪化しないように,受診勧奨や病気の理解を深めてもらうよう訪問指導を重ねていた.Nさんが治療に至るまでの症状の激しい時期には地域の中では問題とされなかったが,入院治療も終わり自宅で社会復帰に向けて通院治療を始めて,つまり幻覚や妄想も薬でおさまって回復へとむかいだして徐々に社会に出て行こうとした時に,次のような問題が地域の中で起こった.それは94年の2月のことである.Nさんの家は小学校の通学路にあり,小学生とNさんは出会えばお互いに手を振り合うという形で顔見知りになっていた.

活動レポート

川崎市リハビリテーション医療センターの活動

著者: 伊藤真人 ,   中川正俊 ,   菅野到 ,   二宮正人 ,   徳永純三郎

ページ範囲:P.417 - P.421

はじめに
 人口120万人の政令指定都市,川崎市の川崎市リハビリテーション医療センター(以下,センターと略す)は,昭和46年に発足した精神分裂病圏の精神障害者のリハビリテーションを組織的に行う本邦で最初の精神科総合リハビリテーション施設(昭和50年の厚生省・精神障害回復者社会復帰施設運営要綱に該当する)であり,川崎市在住者を主な対象にし,病棟,ホステル,デイケア,就労援助,外来および総合窓口を擁している.
 センターの目的は,第1に精神病院から退院した精神障害者が日常生活,あるいは社会の中での生活が円滑にできるように訓練すること,第2は退院後の生活を保障するため,何といっても経済的安定が社会生活の基盤であることから,就労ができるように訓練をすることであった.

高齢社会に向けた新たな試み—北海道新冠町高齢者保健推進員の活動

著者: 大沢フヂ子 ,   北所純子 ,   湯浅資之

ページ範囲:P.422 - P.425

はじめに
 いかなる制度にも時代が反映されるように,保健推進員制度もまた時代に応じてその姿を変えてきている.
 もともと保健推進員制度は,愛育班活動を模倣して昭和47年厚生省の通知「市町村母子保健事業の実施について」が出て以来,全国の市町村に母子保健推進員として次々と組織されたのが始まりである.やがて成人病予防への関心の高まりから,その活動を母子だけに限定せず,住民の手による包括的な健康づくりを実践する目的から,保健推進員と名称を変更し今日に至っている市町村が多い.最近ではさらに,高齢化社会の到来により市町村での早急な高齢者対策が迫られてきている.

調査報告

運動中の青少年急死3例の検討

著者: 秋坂真史 ,   鈴木信

ページ範囲:P.426 - P.428

はじめに
 昨今は,職場などのストレス解消や肥満予防のため,あるいは母校や地元の栄誉をかけた学校対抗戦の過熱化,さらには若者を中心にJリーグなどのプロスポーツの人気沸騰などに刺激され,学校・地域・職場などで運動を始める青少年が目立ってきた.しかしその一方で運動中に急死する青少年例も然後を絶たず,スポーツ熱の高揚に比べ運動中の事故,とくに青少年の突然死に対する原因究明と予防対策は遅れをとっている感は否めない.
 日本体育・学校健康センターの報告によると,学校管理下における突然死数は例年100件前後を推移し,平成3年度は小・中・高等学校を合わせて117名存在したとしている1).このうち運動中は43件で36.7%を占め,最も大きい数字となっている.

報告

いちご栽培作業者の冷えに関する自覚症状調査

著者: 安藤篤実 ,   井奈波良一 ,   吉田英世 ,   岩田弘敏

ページ範囲:P.429 - P.432

はじめに
 「いちご」はその品質において,外温の影響を非常に受けやすい作物である.収穫した後,出荷するまでの間どのように「いちご」の温度を低温に保つかが,その商品価値に大きく作用する.「いちご」を低温に保つことによる「いちご」の品質に及ぼす利点は,果肉の硬度を高めるほか着色速度を遅らせる,つやが保持される,糖度の減少を抑える,味覚を落とさないなどが挙げられる.そこで「いちご」を高品質で出荷できるよう,収穫した後出荷するまでの間,予冷することが一般的になってきた.
 岐阜県下のいちご栽培作業者の間でも,近年急速に予冷庫の導入が進んできた.予冷庫の使用により毎日の出荷が調整できるようになり,収穫作業がしやすくなったという利点も挙げられる.しかし予冷庫を作業場内に導入したことにより,予冷の温度調節に気を使わなくてはならないことや,予冷庫を設置するため場所を確保しなけれやばならないなどの問題点がでてきた.その他に作業者の間で予冷庫を使うことによる作業者自身の健康に対する心配も現れてきた.

海外事情

中華人民共和国におけるエイズの現況と対策

著者: 名和巌郎

ページ範囲:P.433 - P.436

はじめに
 中国は1979年の共産党第11期中央委員会第3回全体会議以降,改革・開放政策の実施に伴い,急速に経済が発展し今日に至っている.他方で現代化の進展により,「向銭看」(=拝金主義)といわれる傾向が顕著になり,麻薬・売春・エイズなど負の代価を支払わざるを得なくなっている.
 1985年6月に最初のエイズ患者が発見されてから,93年11月30日現在までに中国のエイズ患者およびHIV感染者数は1,159例に達している1).今回中国側が公表している資料をもとに,中国におけるエイズの現況と対策を報告する.

保健行政スコープ

医師の卒後臨床研修改善の動き—「医療関係者審議会臨床研修部会意見書」中間まとめについて

著者: 遠藤弘良

ページ範囲:P.438 - P.440

1.はじめに
 卒後2年間の臨床研修のあり方については,これまで多くの検討が積み重ねられてきた.しかしながら大学病院集中,ストレート研修主流という状態は一向に変わらない.こうした状況の中,厚生省の医療関係者審議会臨床研修部会は平成6年12月,臨床研修に従事しようとするすべての医師への臨床研修の必修化を基本とすることが望ましいとする中間意見をとりまとめた.そこで今回はこの中間まとめと卒後臨床研修について概説する.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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