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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生59巻7号

1995年07月発行

雑誌目次

特集 阪神・淡路大震災時における保健医療活動

大震災と神戸市衛生局—初期対応の概要

著者: 宮本包厚

ページ範囲:P.445 - P.448

 1月17日早朝,神戸市西部の自宅で激しい縦揺れで目覚めた.屋内は滅茶苦茶だったが,周辺の家屋に外観的な被害はなく,また,道路に陥没,亀裂などもなかった.
 午前7時半ごろ,三宮駅北側で市役所まで徒歩40分の所で車を降りた.歩く途中,傾いている木造家屋を見かけた.加納町3丁目の交差点を南に曲がり,歩道と車道の広範囲な沈下(約30cm)に気付いた.前方を見ると9階建てのビルがピサの斜塔のように道路側に傾いていた(このビルは翌日倒れた).自宅周辺の状況からは想像もできなかった災害の規模を自分の目で確認するため,三宮周辺を小走りで見て回り,ビル・木造家屋の倒壊など,被害の深刻さに驚くとともに,1)築後25年の西市民病院や市内医療機関の安否,2)家屋などの倒壊による負傷者に対する救急医療,3)避難者に対する医療の確保などが頭に浮かんだ.

大震災の被害状況

著者: 後藤武

ページ範囲:P.449 - P.451

阪神・淡路大震災の被害状況
 まず,兵庫県災害対策本部で把握されている阪神・淡路大震災の被害状況について述べる.被害に遭い,兵庫県で災害救助法指定を受けた地域は10市10町に及び,4月10日現在の人的被害は死者5,479人,行方不明2人,負傷者34,900人に上っている.また,焼失・倒壊家屋は,それぞれ7,456棟(7,600世帯),171,481棟(258,937世帯)に達し,なお673カ所の避難所で55,189人の住民が不自由な生活を送っている.
 被害総額は4月12日現在,9兆9,168億円と推計されているが,その主なものは,建築物5兆8,000億円,港湾1兆円,高速道路5,500億円,ガス・電気4,200億円,文教施設3,352億円,鉄道3,439億円などである.保健医療・福祉関係祉設の被害総額は1,745億円で,うち病院,診療所それぞれの被害は664億円,288億円と推計されている.

大震災時における保健活動—神戸市東灘保健所

著者: 石井昌生 ,   本田守二 ,   井上明

ページ範囲:P.452 - P.454

はじめに
 今回の阪神・淡路大震災で最大規模の被災地となった神戸市東灘区でのわれわれ保健所職員は,最初の数日間,日常の業務の枠を越え,職種・男女を問わず,昼夜をおかず,柩作りや遺体の維持,救護所への人や薬品などの運搬に懸命に働いた.避難所に設けられた救護所への医療班の配置も,初期では情報不足のため相当混乱した.多くのボランティアの方々の献身的努力と,調整本部の設置と,支援組織「サポート神戸」からの援助による携帯電話・ファクシミリ・スクーター・自転車などの通信連絡機の確保による情報の一元化により,救護所の運営も安定した.救護所連絡会では,出席者全員が地元医師会の早期の立ち上りを強く求め,地元医師会も責任感強く対応していただき,応援医療班から地元医師会へのバトンタッチも無事行われ,3月末日で救護所を閉じることができた.なお精神科医療チームは,保健所内で4月以降も診療を行っている.(石井)

大震災時における保健活動—神戸市東灘保健所・歯科衛生士の立場から

著者: 橋本壽美

ページ範囲:P.455 - P.456

 震災当初の保健活動は,生死にかかわる救急医療の全面的支援が中心で歯科保健活動を行う以前の状況であり,私たち歯科衛生士も専門職としての仕事より保健所職員として,とにかく今自分にできることなら何でもやらなければならないという毎日であった.
 しかし,日がたつにしたがい避難所の住民の方から歯科に関する問い合わせ・問題が保健所に入りはじめた.そこで,医療情報の収集・提供,避難所における巡回歯科診療の連絡調整,さらに口腔衛生指導などの歯科保健活動を開始した.

大震災時における保健活動—神戸市中央保健所保健婦手記

著者: 三木直美

ページ範囲:P.457 - P.460

 中央区は神戸市9区の一つでほぼ中央に位置し,街は国際港都神戸の象徴たる港にそって広がっている.神戸の商業,工業,行政,さらに文化の中枢を担う区であり,医療施設,食品衛生施設,環境衛生施設数などは神戸市の約1/3を占めている.夜間人口約12万人に対し昼間人口は約30万人を超える大都市型で,核家族と高齢化が進んでいる.(65歳以上老人人口比率は13.5%)
 1月17日午前5時46分,“ドドーン”という音とともに中央区内の明かりは消えた.ビル,家屋倒壊,そして火災発生,廃墟…….美しい神戸の街並みは見る影もなく一変してしまった.

大震災時における保健活動—神戸市長田保健所

著者: 安田知津子

ページ範囲:P.461 - P.463

 市民のかけがえのない生命と健康が他の何よりも大切である.大震災の非常時にあっても,ことをいかに守り抜くか,を肝に命じ保健活動を展開した.ここでは神戸市長田区における活動の経過を保健婦の視点から報告する.
 まずとりかかったことは,医療救護班の編成と派遣であった.これは「神戸市地域防災計画(地震対策編)」に基づくもので,保健所が担当することとなっている.

大震災時における保健活動—兵庫県西宮保健所の実際

著者: 北岡修

ページ範囲:P.464 - P.466

対策本部そのものが被災
 瞬時の大自然の強烈な咆哮であった.恐怖を通りこして,心の奥底に深く鉄槌で打ち抜かれたように衝撃が走った.
 それにしても,県の対策本部として機能するはずであった中枢そのものが激震の被災で,その機能が不全状態に陥ってしまった.情報伝達,連絡もお互いにままならず,被災地各現場で独自に判断して行動決定するしかなかった.

大震災における精神科救護活動

著者: 麻生克郎

ページ範囲:P.467 - P.469

 今回の阪神大震災は,歴史的な大規模災害であったが,同時に災害時における精神科の救援活動が,わが国ではじめて大規模に行われた災害であった.今回その救援活動に参加し,全体的な情報に接してきたものとして,精神科救護所を中心とした諸活動について概略を整理してみる.詳細については精神神経学雑誌号外「阪神・淡路大震災における支援活動」に「兵庫県立精神保健センターニュース」をはじめとして,各種関連資料をまとめて掲載しているので参考にしてほしい.

大震災時の医療活動—神戸市立中央市民病院

著者: 立道清

ページ範囲:P.470 - P.472

 未曾有の大震災に遭遇し,自らもライフラインを断たれるという夢想だにしなかった状況において,人口150万の神戸市唯一の救命救急センターがどう動き,その中にいて責任者の一人として何を考えたかをまとめてみたい.

大震災時の医療活動—診療所医師の立場から

著者: 森本祐二郎

ページ範囲:P.473 - P.476

 平成7年4月16日午後2時より神戸市医師会館で兵庫県・神戸市医師会の合同慰霊祭が行われた.9名の開業医師が阪神大震災の犠牲となられた.
 兵庫県医師会の瀬尾摂会長はその追悼の辞の中で,4月中旬現在で兵庫県内では全壊全焼は病院8,診療所199,半壊半焼は病院15,診療所247,診療機能を喪失した医療機関は震災直後で1,000を超える大きな損害を被ったと報告されている.

大震災時の医療活動—宝塚市健康センター

著者: 加藤晴実

ページ範囲:P.477 - P.479

 われわれは宝塚市独自の救護所を設置し,24時間体制で医療活動を行った.しかし,活動を行っている筆者自身,家を持ち家族を持つ被災者であった.筆者の医療活動を支えたものは,家族の理解と支援,そして共に働く医療仲間の存在である.今回,救護所での医療活動を通して,円滑な医療活動の妨げになった本音の部分を述べてみたい.

大震災時の医療活動—避難所での歯科医療活動

著者: 西松元五

ページ範囲:P.480 - P.481

震災を体験して
 95年1月17日午前5時46分.
 この時間は神戸市民にとって決して忘れることができない.地震直後,ほとんど軽微だった須磨の自宅から長田の診療所にたどり着くまでに見た街の惨状は,まさしく,50年前に神戸大空襲を体験した者にとって,当時をダブラせる光景であった.

滋賀県の保健衛生医療支援活動の経過

著者: 前田博明 ,   角野文彦

ページ範囲:P.482 - P.485

震災の勃発と支援活動の開始
 本年1月17日未明,兵庫県南部地震が発生し,人身や家屋など多大な被害が出ました.滋賀県では地震発生当日の17日から防災車両や人員を派遣し,翌18日には兵庫県南部地震支援対策会議を設置し,また給水車の派遣や救援物資の搬送を行い始めました.健康福祉部では当初から,現地の被害の状況や保健衛生医療チームの支援の必要性についての情報収集に努めていましたが,最初の一両日ごろは現地当局との連絡が十分にとれず状況判断がしにくい状況でした.そこで19日に神戸市中央保健所に直接電話を入れたところ,「医療については現在は救急医療の対応に追われているが,スタッフが足りないし,まもなく救急処置後のフォローや慢性疾患への対処についてニーズが出てくるだろう.保健についてもケースの確認やフォロー,避難者や住民の健康相談,また今後の精神的ショックに対する対応などのニーズがある.環境衛生についても,食品衛生やトイレ,避難所の環境問題などのニーズが多い.また,避難者や住民において保健衛生医療の情報が不足しかつ混乱しており,適切な情報をきめ細かく頻繁に避難者や住民に流す必要がある.保健所の職員は出勤できる者が少なく,かつ援助物資の搬送など対策本部的な業務に追われ,保健所の本来業務の保健衛生医療の対応は十分にできていない.」というような状況でした.

震災と保健婦活動—支援から共生の地域保健活動へ

著者: 佐甲隆

ページ範囲:P.486 - P.488

 わが国の保健婦活動は,1923年の関東大震災に始まるといわれる1).当時済生会は罹災者救援のため,巡回看護班を組織し,地域の保健指導を以後も継続的に行っていった.
 72年後の,この阪神・淡路大震災から,どのような活動が始まるのか,また生み出してゆかねばならないのか.それは,21世紀の日本の地域保健活動の将来を左右する大きな試金石でもある.今回の支援活動からその教訓と,新しい保健婦活動の課題を考えてゆきたい.

大震災時における援助活動—問われる公衆衛生活動

著者: 櫃本真一

ページ範囲:P.489 - P.491

はじめに
 あの日の明け方,松山は,震度3とはいいながら,確かに今までとは違う「ゆれ」の恐怖を経験していた.ベッドの上でただじっとしていたことを覚えている.しかし,阪神地域でこんな悲惨な災害が起こっていたことを知ったのは,昼のニュースがはじめてだった.
 世界各地の状況でさえ即座にキャッチできると思いこんでいた私にとって,この情報の遅れは意外であった.昨今,厚生省など中央からの行政ルートによる情報よりむしろ,マスメディアのほうが先行することに慣らされてはいたが,迅速かつ正確な情報伝達が行政機構において著しく遅れをとっている現実を痛感せざるを得なかった.

大阪府による精神科救護所支援活動

著者: 納谷敦夫

ページ範囲:P.492 - P.495

 このたびの大震災は本当に不幸な出来事であった.それは日本中の,いや世界中の人々の悲しみを誘い,被災した人々に対し,様々な援助の手が差し延べられた.われわれ大阪府の精神医療保健に携わるものも微力ではあったが,その一部を担うことができた.ここに時間経過に沿ってその記録をまとめた.

視点

職場の安全—非定常的作業の危険

著者: 坂部弘之

ページ範囲:P.442 - P.444

 一般に,生産工程はいったん始動すると相当長期にわたって稼働する.工程の運転とそのための労働は定常化する.工程では,しばしば有害な化学物質が取り扱われ,また有害物質が発生する.しかし,これらは労働者に有害な影響を与えることのないように工業的対策を中心に種々の対応が行われ,有害物は厳重な管理下におかれ,定常的労働の安全の確保がはかられている.今,ここで取り上げ検討したいのは非定常的作業である.定常的作業が円滑に行われるためには,作業工程の点検,修理,清掃などが不可欠である.しかし,これらの作業は定常的作業とは異なる目的,性格をもつものであり,定常的作業とは別に非定常的作業として区別してみると,作業場には非定常的作業は少なからず存在する.その作業は臨時的であり,作業期間は短く,多くの場合,いわゆる汚れ作業で,また危険を伴う場合もある.そうしたことから,非定常的作業はしばしば下請けに発注される.作業が日常的性格のものならよいが,時に労働衛生についての高次の知識を必要とするものもある.過去に経験された例の中から二,三振り返ってみよう.まず,筆者の経験であるが,1963年11月に四日市の大気汚染調査に行き,労働基準監督署を訪問した時,ある事件の意見を求められた.それは,某油化工場の水缶定期修理工事の際に6人の患者が発生したが,その原因は何であったのかという質問であった.工場のボイラー室の中の水管を流れる水を加熱するためにオイルを燃焼する.使用するオイルは主としてC重油である.

連載 地域精神保健の展開—精神保健センターの活動から・16

精神保健総合センターとしての社会復帰支援活動

著者: 野中猛

ページ範囲:P.496 - P.501

はじめに
 精神疾患および精神障害を持つ人々を支える一連の活動の中でも,いまやリハビリテーション(社会復帰・社会参加)活動に注目が集まっている.国連障害者10年の動きを受け,わが国でも「障害者の雇用の促進等に関する法律」,「障害者基本法」,「地域保健法」そして「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」という一連の改正を迎え,精神障害者にリハビリテーションを実際的に提供することが可能な時代になろうとしている.
 これらに先立って,一部の精神保健センターは社会復帰施設機能をあわせもつことで総合の名称を加え,一部の自治体は独立した社会復帰センターを設けた.1993年度の現状で46センターのうち,診療報酬に基づくデイケアが8カ所,無料のデイケアが33カ所で実施されている10).小柴ら2)の調査によると,病院型デイケアと比較して,独立施設型や精神保健センター型のデイケアは,個人受け持ち制,外部講師,家族教育,就労援助などの機能を持つものが多い点で異なっている.
ここでは,埼玉県立精神保健総合センターを例に,精神保健センターが行う社会復帰支援活動に求められる機能と,それに応じた工夫について検討する.形に現れにくいが,しかし本質的な機能を強調したい.なお,菱山1)が1990年に同様の主旨で考察しており,同年に総合化された当センター5年間の実践がその期待に応えているのか,あらためて見直す機会ともしたい.

疾病対策の構造

廃棄物への対応—生活排水

著者: 片山徹

ページ範囲:P.502 - P.506

1.生活排水—今や水質汚濁の主因
 最近のわが国の水質汚濁の状況をみると,健康項目についてはほぼ環境基準を満たしているが,生活環境項目のうちBOD,CODについては,約4分の1の水域において環境基準が達成していない.特に湖沼,内湾,都市内の中小河川の達成率が低い状況にある.その原因を調べてみると,生活排水が大きくクローズアップしてくる.工場排水については1960年代をピークとして水質汚濁の主因となっていたが,70年代の水質汚濁防止法の制定などにより改善されてきた.まだ問題は残っているものの,今や生活排水対策をぬきにしては,水質汚濁の真の改善は望めない.
 ちなみに湖沼法の指定湖沼である霞ケ浦と手賀沼ではその汚濁の発生源として生活排水の占める割合が高いことがわかる(図1).

地域口腔保健—歯科医師会の実績

地域医療対策事業「歯のひろば」の活動—京都府歯科医師会

著者: 浅田眞琴

ページ範囲:P.507 - P.508

 社団法人京都府歯科医師会(以下「本会」)は,京都府民・市民に対する歯科医療供給の円滑化をより増進することはもちろんのこと,新しい歯科疾患の発生を極力防止するため,歯科医師を含めた保健関係者による保健指導ならびに,歯科疾患の予防対策,予防処置についての施策を施すという目的をもち,昭和51年度より本会における地域医療対策事業の一環として,「歯のひろば」(当初は「歯の健康教室」と称し,昭和54年度より「歯のひろば」と改称)を開催してきた.本年度(6年度)で19年目を迎える「歯のひろば」事業についてここに紹介する.
 この事業は,当初は乳幼児・妊産婦を対象としていたが,近年の高齢化社会に対応するため,中・高齢者の歯科保健対策にも力を注いでいる.

保健行政スコープ

職場における石綿対策

著者: 北澤潤

ページ範囲:P.509 - P.512

 本年1月に発生した阪神・淡路大震災の復旧・復興工事は進みつつあるが,それに伴い,建築物の解体時における粉じんによる労働者,一般住民への健康障害が懸念され,その中でもその有害性から石綿(アスベスト)の問題がクローズアップされている.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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