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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生59巻8号

1995年08月発行

雑誌目次

特集 現代の予防接種—その意義と課題

予防接種の意義と今日の展開

著者: 小池麒一郎

ページ範囲:P.516 - P.518

はじめに
 昭和23年に予防接種法が制定され,義務として実施されてきたが,昭和51年に罰則規定が廃止となり,健康被害救済制度が導入された.敗戦後,社会経済が混乱し,衛生状況や栄養状態も悪く,多くの伝染病が流行していたが,接種義務を課した集団方式による予防接種は社会防衛としてきわめて有効であった.
 これは,1960年ソ連の生ワクチン導入により,年間5,500名に達していた患者の発生が直ちに激減したこと,年間10万人もの発病があり1万人に及ぶ死者を出した百日咳が,現在では1,000名を割る発生状況で死亡者が数名ということからも立証されている.

新しい予防接種制度の概要

著者: 稲葉博

ページ範囲:P.519 - P.523

はじめに
 予防接種法および結核予防法の一部を改正する法律は,平成6年法律第51号をもって公布され,同年10月1日より施行され,接種対象者(具体的な接種時期)の改正については,平成7年4月1日から施行された.
 新しい予防接種の実際については,予防接種ガイドラインなどにより解説されているので,本稿では予防接種制度の見直しの背景と経緯,基本的な考え方などについて概要を述べる.

予防接種の種類とその特徴

著者: 曽田研二 ,   鳥羽和憲

ページ範囲:P.524 - P.529

はじめに
 わが国の予防接種の主な目的は,従来は集団防衛,すなわち個人の免疫を通して集団の免疫水準を増強・維持し,伝染病流行を阻止することであったが,近年は個人防衛の意義が重視されるようになってきた.予防接種は第1次予防における感受性者の特異的予防手段としてきわめて有用であるが,ワクチンの特性を十分に考慮して適切に実施されなければならない.

予防接種の副反応と対応

著者: 神谷齊

ページ範囲:P.530 - P.533

はじめに
 予防接種は病気をおこす病原体の成分または産生毒素,あるいは弱毒化した生きたウイルスを接種して,それぞれの病原体に対する抵抗力をつくりあげるものであり,本来の病原体の性質の影響を,全くなしにしてしまうことは困難である.抗原性を弱めすぎると,副反応は減少するが抗原としての力も失い,予防接種をしても抗体ができなくなる.予防接種は効果と抗原のもつ特性による副反応とのバランスの上に成り立っているといえよう.
 したがって,予防接種後一定の期間の間にいろいろな反応や疾病が見られることがある.予防接種後に異常副反応を疑う症状がみられた場合,これを総称して健康被害と呼んでいる.本稿では健康被害を紹介するとともに,実際の対応につき概説する.

予防接種の実施体制とその課題

著者: 菊池辰夫

ページ範囲:P.534 - P.537

はじめに
 新しい予防接種法の趣旨に沿ってそれをどう実施していくかは,社会が予防接種をどう理解し,どう評価していくかにかかっている.
 個人が予防接種を受けるということは,その個人が疾病から防御されることが第一義ではあるが,社会的には疾病の蔓延を抑制する効果,また疾病罹患がもたらす医療費を削減する効果も期待される.しかし一方では,接種した個人に極めて稀ではあるが健康被害が引き起こされることも考えるわけである.したがって,義務から勧奨へ,被接種者(保護者)の理解と同意,健康被害を少なくする予防的措置の充実,健康被害の救済措置の充実,予防接種の種類の見直しと接種率の向上対策が,新予防接種法の大きな柱になっており,それに沿った実施体制の整備が求められている.

現代の結核とBCG接種

著者: 森亨

ページ範囲:P.538 - P.541

最近の結核の対策の課題
 日本最近の結核問題の特徴を要約すれば,①低蔓延化,②患者発生の特定階層・集団への集中化,③管理困難患者の増加,④地域・階層間の格差の拡大,⑤関係者の過度の無関心,となろうか.これらは互いに関連しあっており,米国ほか西欧諸国でも同様な傾向がみられる.これらの問題への対応は,おくればせながらこの数年問いろいろの対策の改変として行われてきた.その基本は「従来の集団的な対応重視からより個別的な対応へ」の転換である.患者発見のための方策が「集団検診・定期検診」から「接触者・定期外検診」へ重点を移しつつあることがその見本である.厚生省が1993年に策定した「定期外検診ガイドライン」はもっぱら接触者を中心とした患者の早期発見のための保健所の活動のあり方を示したものであるが,これと連動する形でいわゆる患者管理が新しい意義を帯びて浮上してきた.発病から診断までの社会的活動の把握にとどまらず,患者に対する働きかけのなかでの規則的な治療の確保,そのための環境の調整といったことが必要な患者が相対的に(絶対数は以前に比して激減のはず)増加している.これらは結核対策活動がより総合的で柔軟な接近を必要とする応用問題=ケースワークであることを示しているともいえよう.このための活動の特徴を示すキーワードは①多機関,多職種間の連携とその要の機関としての保健所の調整機能,②専門家の支援体制,あるいは援助のとりつけ,③保健所・県などを挙げての組織的な対応,などであろう.

国際交流と予防接種—海外渡航者のために

著者: 鈴木英明

ページ範囲:P.542 - P.545

はじめに
 わが国の政府開発援助(ODA)の予算規模は年々拡大しているが,それに伴って国際協力事業団(JICA)ベースで派遣した専門家および青年海外協力隊員の数も増加傾向にあり,昭和60年度から平成2年度まで5年間の累計は,それぞれ33,572人と10,444人であった.これとは別に,非政府ベース(NGO)で海外援助や交流を行っている方々,ビジネスで海外勤務をされている方々やその家族などを含めれば相当数の日本人が海外各国に渡航しており,今後もこの傾向が継続すると考えられる.そして,これらの渡航者共通の課題のひとつとして,予防接種が挙げられる.
 JICAでは,途上国に派遣される専門家に対して派遣前研修を行っており,赴任国情報,事業概要,安全対策などとともに,途上国で特に重要な健康管理についての研修を行っている.この一部に予防接種が含まれていて,一般講義だけでなく,個別相談で,任国や家族構成などの個別事情に応じた事前の予防接種のプラン作りに応じている.

中国の予防接種とポリオ対策

著者: 髙島義裕

ページ範囲:P.546 - P.552

はじめに
 1974年に開始されたWHOのEPI(Expanded Programme on Immunization,予防接種拡大計画)における1歳以下の小児の予防接種率は当初途上国では5%程度であったが,1992年においては破傷風を除いて80%に達し,これにより同年,300万人の小児が麻疹,新生児破傷風,百日咳,ポリオによる死亡から免れた1).一方,世界銀行は世界開発報告1993において,保健分野への投資は人類の幸福にとって必須であるばかりではなく経済的な発展を促す上でも不可欠であると述べているが,そこではまた,健康分野におけるあらゆる介入行為のうち小児への予防接種事業は最も費用効率の優れたものの一つであることを指摘している2).EPIの成果を背景に,1988年,第41回世界保健総会は2000年までに地球上からポリオを根絶することを決議し,同じ年,WPRO(WHO西太平洋地域事務局)は1995年を目標に当該地域からのポリオの根絶を決定した.
 中国はWPROの約15億の総人口のうちおよそ80%を擁する.当地域では1988年までポリオの発生数の順調な減少がみられたが(同年2,126例),89年には5,485例まで再度上昇した3).そのうち84%(4,268例)は中国からの報告であり,中国東部に位置する5つの省でのOutbreakが最大の原因であった.WPROにおけるポリオ根絶計画の成否は中国での根絶事業に大きく依存しているといえる.

視点

福祉のまちづくり

著者: 中嶋理

ページ範囲:P.514 - P.515

 駅にエレベータ,エスカレータの設置を進め,サービスの向上に努めるとの交通事業者の広報誌や車内広告に接する機会が増えた.現実に鉄道や地下鉄のあちこちの駅で,エレベータ,エスカレータの設置工事が行われている.工事が終わり運転が始まると,老若男女を問わず,待ちかねたように利用されている.
 このように,駅をはじめとする建物,公園,道路などの公共的な施設を中心に,それらを円滑に利用できるようにすることについて,利用者,事業者双方の関心が急速な高まりを見せており,このことは,福祉のまちづくりを担当する者にとって心強い限りである.それは,身近な生活環境を円滑に利用できるように整える福祉のまちづくりが,障害者,高齢者の社会参加はもとより,都民の生活実感としての豊かさを支える重要な要素の一つであり,国民的課題の一つだからである.

連載 疾病対策の構造

産業廃棄物処理の意義と担い手—企業まかせでの行き詰まり

著者: 小林康彦

ページ範囲:P.553 - P.557

1.「産廃」でどんなイメージを
 産業廃棄物,産廃という言葉が生まれて25年,今ではこの言葉の与えるイメージはすっかり悪くなってしまった.産廃の処理施設の計画に対し,産廃=危ないもの=環境汚染,という繋がりで受け止め,即座に,絶対反対,という反応が全国的に見られる.今までのつけが回ってきたと言われる方もおられるが,そうした忌避だけでは問題は解決できない.といって,一方的な押し付けで片付く問題でもない.適確な情報のもとに,相互の十分な意思疎通が,産廃にとって必要と思われる.

地域口腔保健—歯科医師会の実績

在宅寝たきり訪問歯科診療事業—熊本県歯科医師会

著者: 伊東隆利

ページ範囲:P.558 - P.559

 2025年の要介護老人は270万人と予想され,各界において高齢社会の対応が模索されている.こうした高齢社会への歯科界の対応として在宅訪問歯科診療が大きくとりあげられている.しかしながら対象とする人々が何らかの病気を持っていることが多く,歯科医療の推進にあたって多くの問題が浮かび上がっている.私は熊本市と熊本市歯科医師会(中根俊吾会長)で行っている在宅寝たきり老人など歯科保健推進事業に委員として携わった経験,また熊本県と熊本県歯科医師会(鬼塚義行会長)で現在取り組んでいる在宅寝たきり老人訪問歯科診療支援事業に担当常務としてタッチしている経験と,一会員として私の歯科医院で行っている在宅歯科診療の経験と,タイプの異なった3つの在宅歯科診療について報告し,問題点について言及したい.

保健活動—心に残るこの1例

立ち退きを迫られたAさん

著者: 長田一雄

ページ範囲:P.578 - P.578

 保健所の機能訓練事業を担当する中で,都心の土地価格の高騰から永年住み慣れた家を離れることになったAさん夫妻に出会った.
 Aさんは78歳の男性で,75歳の妻と2人暮らし,5人の子供はそれぞれ独立した生活を送っていた.3年ほど前より歩行が困難になり病院受診した結果,パーキンソン症候群と診断され服薬治療中であった.

海外事情

保健・医療・福祉を統合した米国の高齢者終身ケアコミュニティの現状

著者: 窪田昌行 ,   馬場園明

ページ範囲:P.560 - P.565

 115年,85年,75年,これらの数字は,それぞれフランス,スウェーデン,アメリカにおける人口の高齢化の年数(65歳以上の人口比率が7%から14%に到達するのに要する年数)である.日本の人口の高齢化の年数は25年に過ぎない1).また,2010年には,人口の21.8%が65歳以上の高齢者となり,その後,さらに高齢化は加速し,2025年には人口全体の27.3%が65歳以上の高齢者になると推計されている2)
 高齢化に伴って,老人医療費は年々増加し続けているが,限られた資源を有効に活用する必要があり,この対策の一つとして,保健・医療・福祉サービスを継続して包括的に提供していく必要がある3).さらに,いままで介護の中心であった女性が,社会へ進出したり,若者,中年層が彼らの父母と別居する形が多くなり,一人暮らしの老人がますます増加する傾向にある.一方,高齢者は生活の質を,ますます求めるようになってきた.

活動レポート

スリム講座—生活記録が減量に及ぼす効果

著者: 佐古多賀子 ,   井村由美子 ,   堺恵理子 ,   板東浩

ページ範囲:P.566 - P.569

 徳島市では老人保健法の健康教育事業として,糖尿病,高血圧,心臓病などの各種健康教室を実施してきた.平成3年度からは,スリム講座を開始し,コンピュータ食生活診断や調理実習,アンケートなどの工夫をこらして行ってきた.
 今回,われわれは最近2年間のスリム講座の経験をまとめて,生活記録や,一日の平均歩数の重要性について検討したので報告する.

調査報告

骨粗鬆症に関する調査研究—茨城県内の中高年期の女性における実態

著者: 茂手木甲壽夫 ,   羽賀正之 ,   照沼美代子 ,   鈴木みずえ ,   郡司法心 ,   高橋秀人 ,   加納克己

ページ範囲:P.570 - P.574

はじめに
 わが国では,人口の高齢化に伴い寝たきり老人が増加している.寝たきりの原因のひとつとして骨粗鬆症が挙げられる.骨粗鬆症は腰背痛や脊柱の変形などによる苦痛や,骨折を起こすことによって活動能力を著しく低下させ,地域の高齢者のQOLを阻害する要因にもなっている.その原因や発病のメカニズムについての多くはすでに明らかにされているが,高齢化社会において骨粗鬆症に関連する骨折や寝たきりなどの問題は,今後さらに増加することが予測される.しかし,骨粗鬆症に関する実態調査としては,大腿骨頸部骨折などの発生頻度を扱っているのが主であり,地域における,きめ細かい実態調査報告はまだわずかしかない1,2)
 骨粗鬆症は閉経後の女性に著しく多く発生し3),その結果生じる骨折,あるいは骨折の原因となる転倒が女性に多いこと4)からも,特に中高年期の女性を主とした骨粗鬆症の早期発見や骨折防止の対策のための調査は重要である.そこで今回,茨城県では骨粗鬆症予防対策の一助とすべく骨粗鬆症に関する調査を実施したが,50歳以上の中高年期の女性について検討したところ若干の知見を得たので報告する.

報告

地域ケアシステムに移行できた在宅人工呼吸患者の一例

著者: 吉川卓司

ページ範囲:P.575 - P.577

はじめに
 在宅人工呼吸は欧米では約30年前から試みられており,医療制度の枠を越えた現実の対応状況1),ポータブルな機器の開発や工夫2),状態の安定,確たる本人の意志,緊急時の対応システムの構築3)など,この療法の成立のための条件が提示されてきた.筆者らは,わが国においてまだ制度的な裏付けのない段階での在宅人工呼吸への取り組みの報告を行ったが4),その後,症例の積み重ねと,数回の診療報酬改訂による制度的裏付けを得て今日に至っている.今回は,筆者が1994年3月まで勤務していた呼吸器専門病院での入院,同病院管理下での在宅人工呼吸を経て,地域ケアシステム管理下での在宅人工呼吸療養生活を実現できた症例について報告する.

新しい保健・福祉施設

福井県民健康センター

著者: 山崎信

ページ範囲:P.579 - P.580

 福井県では県民の「健康と生きがいづくり」の総合拠点として,「ふくい健康の森」の整備を進めている.全体面積92haの森のなかに,県民健康センター,けんこうスポーツセンター,自然の森,生きがい交流センターなど,平成10年の完成を目途に整備中である.その中核施設として,福井県民健康センターが平成6年7月1日に開所した.運営管理は(財)福井県健康管理協会が行っている.
(1)施設:延べ床面積 7.306m2,鉄筋2階建,総工費 38億円.

保健行政スコープ

戦後50年—ヒロシマ三題咄

著者: 丸山浩

ページ範囲:P.581 - P.583

 職務の都合上,広島を訪れることが多い.そこで今回誌面をお借りして広島にまつわる三題咄を書かせていただくこととしたい.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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