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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生59巻9号

1995年09月発行

雑誌目次

特集 地域リハビリテーション

地域リハビリテーションの動向と今後の発展

著者: 澤村誠志

ページ範囲:P.588 - P.592

地域リハビリテーション活動を必要とする背景
 世界に類をみない速度で長寿社会を迎えつっあるわが国では80歳以上の高齢者に顕在化する痴呆への対策とともに,介護力の不足が最大の課題となっている.特に介護にあたる家族の精神的,身体的,経済的にみて不公平な負担が問題となっている.この地域における介護力の不足,住宅など社会資源の不足の中で,単身にて地域に住む要介護老人や重度の障害者の住みつづけたいとする権利が問われるようになってきた.介護を必要としてもできるだけ,住み慣れた地域に住みつづけたいとする住民のニーズと,入院,入所による財政上の負担から,医療・福祉の先進国ではすでに十数年前より病床数を整理し,極力,入院期間を制限する一方で受け皿としての在宅医療,在宅福祉サービスの充実に向かって多くの転換努力が積み重ねられてきている.わが国でも遅まきながらも同じような方向をとりつつあるが,経済優先政策の中で先進国に比較してGDP比できわめて低く抑えられてきた社会保障費の枠の増加には政治的に重要な判断が必要であるが,残念ながら期待薄である.さらに,この低い社会保障枠の中においても地域における社会福祉サービスの部門がこれまで年金や医療に比較して異常に低く抑圧されてきた.このために,在宅医療・在宅福祉サービスなど地域の受け皿は,きわめて脆弱である.

リハビリテーションセンターの地域活動

著者: 伊藤利之

ページ範囲:P.593 - P.596

はじめに
 横浜市が総合リハビリテーションセンター(以下,リハセンター)を設置した主な目的は,障害者(高齢者を含む)の地域リハビリテーション活動の推進であり,その中核機関としての役割を果たすことである.このためリハセンター内には,国が地域リハビリテーション活動の推進役として位置づけた身体障害者更生相談所を設置,リハセンター業務との一体運営をはかっている.ちなみに,リハセンターが提供するリハビリテーション・サービスの内容は,主に医学的,心理的,工学的,社会的,職業的な技術サービスであり,リハセンターの主な業務はあくまでもリハビリテーションに関する技術提供である.

地域リハビリテーションの計画と実践—地域リハビリテーションの体系化をめざして—おとしより保健福祉センターの実践から

著者: 粟津原昇

ページ範囲:P.597 - P.600

 保健・医療・福祉の総合的な在宅ケアの推進とネットワークの構築をキーワードに掲げた板橋区立おとしより保健福祉センター(以下センター)は,開設以来5年目の活動を迎えている.その間保健婦,理学療法士,作業療法士,ケースワーカー,介護福祉士などのセンター職員は,在宅要援護高齢者の様々な要望や問題解決に迅速に応え,同時に漸時開設されている高齢者在宅サービスセンター,介護支援センターなどの機関施設として関係者のネットワークづくりを担ってきた.
 地域リハビリテーション活動が在宅の要援護高齢者・障害者に対する直接的支援と関係機関や住民などのネットワークの推進,ノーマライゼーションなどのリハビリテーションマインドの普及啓発にあるとすれば,センターのトータルケア活動は地域リハビリテーション活動そのものである.

地域リハビリテーションの計画と実践—近森リハビリテーション病院の取り組み

著者: 石川誠 ,   伊藤隆夫 ,   森下幸子 ,   高橋紀子

ページ範囲:P.601 - P.604

 地域リハビリテーションとは「障害をもつ人々や老人が住み慣れたところで,そこに住む人々とともに,一生安全に生き生きとした生活が送れるよう,医療や保健・福祉および生活にかかわるあらゆる人々がおこなう活動のすべて」と日本リハビリテーション病院協会では定義している.この活動は,障害をもつ人々や老人のニーズに対し,身近で素早く,包括的で継続的,そして体系的に対応しうるものでなければならない.しかし現在の障害をもつ人々や老人への対応は極めて不十分な整備状況にある.
 障害者や老人のヘルスケアを川の流れにたとえると,上流から中流さらに下流への流れ,すなわち医療から福祉への流れがよどみなく流れていないことが問題となっている.上流はプライマリケアおよび急性期医療であり,中流は医療から福祉への連携点であり,下流は福祉の領域と考えて良いと思われる.

地域リハビリテーションの計画と実践—七尾保健所

著者: 辻郁

ページ範囲:P.605 - P.608

はじめに
 七尾保健所は石川県の能登半島東南部に位置し,1市6町を管轄している.管内面積は約4万km2,人口は9万人弱である.65歳以上の人口割合は19.5%で,石川県平均の16.0%(以上,平成7年4月1日現在),国平均の14.1%(平成6年10月1日現在推計人口)よりやや高い.当管内は医療機関に恵まれており,病院が9カ所(うち精神科病院が2カ所),診療所が56カ所設置されている.訪問看護などの地域医療を実施している病院もあり,医療・保健・福祉・建築などさまざまな分野で,障害者や高齢者への直接的な援助活動を中心とした地域リハビリテーション(以下,リハと略)活動が展開されている.表1に管内のリハ活動の関連施設を示した.
 その中で当保健所は,石川県で最初に作業療法士が配置された保健所として,従来の業務のほかに「地域リハに関する業務」を設けて地域リハ活動に取り組んできたので,その活動の実際と今後の計画を紹介する.

地域リハビリテーションにおける保健婦の役割

著者: 稲葉みどり

ページ範囲:P.609 - P.612

はじめに
 守谷町の地域リハビリテーション(以下,リハと略)の取組みは昭和48年から現在まで22年の歴史が経過した(表1).社会資源の少ないなかで,保健婦を中心に試行錯誤の末,手作りで始まったリハ事業が時代とともに少しずつ変化してきた.さらに平成4年の保健センター建設に伴い守谷町のリハ事業が新たな活動を開始している.現在の守谷町の地域リハの取組みについて述べたい.

機能訓練事業の効果判定について

著者: 大田仁史

ページ範囲:P.613 - P.617

はじめに
 昭和58年老人保健法で市町村にこの事業が義務づけられた当初はいささか混乱がみられたが,ゴールドプランの中で「寝たきりゼロ作戦」が打ち出されたり,「障害老人の日常生活自立度(寝たきり度)判定基準」や「寝たきりゼロへの十ヵ条」などが発表されこの事業の位置付けも次第に明確になってきた.事業にかかわる市町村の保健婦,PT,OTの事業に対する考え方も「障害老人の閉じこもりの予防を第一に据える」というコンセンサスがおよそ得られてきているように思う.また,このような視点に基づいた活動はこの12年間目を見張るものがあり,「もしこの事業がなかったら」と想像すると背筋が寒くなるほどこの事業の恩恵を受けた障害老人は多い.まだまだ地方的格差があったり,中身についてふくらませ,充実させなければならないことが多いと思われるが,県下の全市町村が参加して行われる沖縄県や岡山県の県レベルでの機能訓練事業交流会1)を見ると,活動の広がりには今昔の感があり,地域のリハビリテーションにおいてこの事業が果たしてきた役割の大きさを感じる.

教育における地域リハビリテーションのすすめ—理学療法士について

著者: 伊藤日出男 ,   奈良勲

ページ範囲:P.618 - P.621

はじめに
 高齢社会への急激な移行に伴って理学療法士に対する需要が増している.すなわち国の対策として老人保健施設などの増設に伴い理学療法士への大幅な需要が起こり,加えて市町村の行政機関においても地域の高齢者,障害者を対象とした常勤の理学療法士を採用する動きが見られるようになった.
 このような社会的状況を反映して,日本理学療法士学会の演題発表にも地域リハビリテーション(以下,地域リハ)に関連するものが増えており,1994年度の第29回学会(青森)では一般演題481題のうち42題(8.7%)を占めている.また社団法人日本理学療法士協会(以下,PT協会)および各都道府県理学療法士会では,従前から地域リハに関する講習会やマニュアルの発行などを行い,協会員の生涯学習システムの中に地域保健活動を位置付けレベルアップに努力している.

教育における地域リハビリテーションのすすめ—作業療法士について

著者: 寺山久美子

ページ範囲:P.622 - P.625

地域リハビリテーションにおいて作業療法が果たすべき機能・役割
(社)日本作業療法士協会は,作業療法の定義を表1のように定めている.また対象者が「主体的な生活」を確保するための作業療法の役割と機能を表2のように規定している.4,5,6は説明を要しないが,「基本的能力」「応用的能力」「社会的適応能力」を解説すると表3のごとくとなる.基本的能力と応用的能力の改善は主として医療における作業療法の役割であるが,地域リハビリテーション(以下,リハと略)の作業療法では,1,2については各能力の「維持」に役割があり,3,4,5,6を主たる機能・役割として期待される.保健所,デイサービスセンター,老人保健施設,特別養護老人ホーム,在宅介護支援センター,訪問看護ステーション,授産施設など働く場所は医療,保健,福祉,職業領域とさまざまであるし,対象も障害児,身体障害者,精神障害者,高齢者と広範にわたる.ともに働くチームメンバーも医師,保健婦,看護婦,理学療法士,教師,建築士,介護職,ソーシャルワーカー,職業カウンセラー,など働く領域の違いなどによって千差万別である.
 一方,最近,ケアーマネージメントの必要性が叫ばれ始めている.「できる能力があれば,ケアマネージャーは誰がやってもよい」となっている.北欧やイギリスなど地域ケアの先進国では,作業療法士で優れたケアマネージャーの役割を果たす方が少なくない.この領域にも作業療法士が果たすべき役割がある.

〈対談〉地域リハビリテーションのシステム化

著者: 浜村明徳 ,   中澤和嘉

ページ範囲:P.626 - P.632

長崎県内の地域リハビリテーションの現状
 浜村 私自身はこの十数年間長崎県内で,人のネットワークづくりと具体的なサービスの連携,およびリハビリテーション(以下,リハと略)あるいはケアの情報を共有し流していくことの2点を中心に県域での地域リハ・システムづくりに努めてきました.
 まず,私自身の実践を若干紹介しますと,全県レベルでの3次保健福祉圏域のシステムづくりは,昭和58年以降,長崎県内の地域リハを推進するモデル事業を通して,その普及,啓発を目的に県内各地で活動してきました.

視点

地域のなかの新しい病院像

著者: 松田朗

ページ範囲:P.586 - P.587

1.はじめに
 昭和23年に制定された医療法により,医療施設(病院と診療所)の基準が明確化されて以来,20床以上の入院施設を備えているものは病院,19床以下の診療施設は診療所という,医療施設を二つに大別した医療供給体制が40数年も続いてきた.
 しかし,人口構造の高齢化,疾病構造の変容,国民の保健医療サービスに対するニーズの多様化,医療費の増大などに対応するため,平成4年,医療法の大改正が行われ,新たな機能を有する医療施設として,特定機能病院と療養型病床群が体系化された.

トピックス

災害医療に対する公衆衛生および保健所の役割

著者: 山本光昭

ページ範囲:P.633 - P.639

はじめに
 阪神・淡路大震災に際しては,17万棟以上の倒壊とそれに引き続いての火災により,およそ5,500人にのぼる死者と35,000人近い負傷者を出した1).また,施設の損壊もしくはライフラインの途絶などにより,多くの医療機関の診療機能が低下した2)
 阪神・淡路大震災における教訓を生かすため,行政や関係団体,関係学会などが様々な観点から,今までの災害対策の見直しを進めている.本稿では,災害医療に対する公衆衛生および保健所の役割に関して,議論を進めていく上での参考に資するための一考察を述べることとしたい.

連載 疾病対策の構造

高齢の変質

著者: 倉科周介

ページ範囲:P.640 - P.643

 わが国では,社会と病気の角逐は前者の有利に展開してきた.このシリーズの冒頭でも言及したが,平均寿命が世界の首位に立ったという事実は,その何よりの証明である.他の諸国でも,社会構造が曲がりなりにも維持されて発展を続ける限り,こうした傾向は同様だと考えてよい.逆に社会構造が解体したらどうなるか.その実例をわれわれはソ連邦崩壊後のロシアに見ている.平均寿命の伸びは停滞し,さらには短縮する懸念もあると伝えられる.ちょうど半世紀の昔,わが国もロシアに酷似する状況からの再出発を強いられた.現状を絶頂とみて,きたるべき世紀の暗雲を予言する向きもある.死の質の変貌の足どりを追って,将来を考えることにする.

海外事情

スウェーデンにおける医療保健ケアシステム

著者: 中嶋義文

ページ範囲:P.644 - P.646

はじめに
 スウェーデンでは,94年9月に総選挙が行われ,社会民主党が3年ぶりに政権の座に復帰した.この国の現在直面している深刻な経済状況は,過去3年間の保守中道連合政権の推し進めてきた「選択の自由」の旗印の下での社会構造政革では十分に手当できないと国民が判断したということである.政権の交替は,医療保健ケアシステムにも影響を与えるものと思われる.したがって,以下の紹介は,1994年秋の現状に過ぎないことを考慮に入れていただきたい.

活動レポート

「心豊かな地域社会づくり」活動—大阪府公衆衛生協力会

著者: 岡本直文

ページ範囲:P.647 - P.650

「健康で明るく住みよい街づくり」を基本理念として,行政,関係団体,地域住民と協力連携し,長年にわたり取り組んでいる「府民の健康づくり」,「地域の快適環境づくり」と,来るべき高齢者社会に対応した「ぬくもりと・やさしさのあるまちづくり」推進事業を紹介します.

新しい保健・福祉施設

尼崎市民健康開発センター「ハーティ21」

著者: 藤岡晨宏

ページ範囲:P.651 - P.652

 尼崎市民健康開発センターは,尼崎市と尼崎市医師会の両者が折半出資を行って設立した第3セクター,財団法人尼崎健康医療事業財団が経営する共同利用施設である.平成3年4月に基本金を3億円とし,実際の業務を平成5年11月より開始した.このような複合機能を持った施設設立の構想は,尼崎市医師会が尼崎市に要望する形で昭和53年ごろから検討が始まり,以後長期間にわたって構想が練られていたが,やっとその考え方に一致を見て新建物の建設が決定して実現することができたものである.

保健行政スコープ

老人保健法における総合健康診査の充実—歯周疾患,骨粗鬆症検診の追加

著者: 山崎晋一朗

ページ範囲:P.653 - P.656

1.老人保健法における健康診査の内容の推移
 老人保健法に基づき実施される医療等以外の保健事業として,1)健康手帳の交付,2)健康教育,3)健康相談,4)健康診査,5)機能訓練,6)訪問指導の6事業が行われるが,このなかでも健康診査はその内容について注目度が高い事業といえるであろう.健康診査の注目度が高い理由としては,○受診結果が目にみえる形で現れる,○短期間で結果がわかるなど受診者にメリットが理解されやすい点,○比較的短時間で終了するなどサービスの利便性が高い点,○これまでのライフスタイルのなかでも学童健診,職場健診などで健診になじみが深い点などがあげられよう.このように注目度の高い健康診査であるが,その内容は3次にわたる見直しを経て,項目,方法ともに変わってきている.
 まず,対象者では他の保健事業同様40歳以上の者であるが,子宮がん検診,乳がん検診については予算措置により30歳以上の女性を対象としている.対象疾患としては,がん,心臓病,脳卒中のいわゆる三大成人病をそのターゲットとしている.これら三大成人病は言うまでもなくわが国の死因の上位三位であり,老人保健法における保健事業はこれら三大成人病による死亡率を減らすことをその大きな目的のひとつとしている.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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