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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生6巻2号

1949年08月発行

雑誌目次

論説

豫防衞生行政の根幹

ページ範囲:P.63 - P.64

 本誌第5卷第5號に編輯同人の1人は我國の小兒衞生のあり方を論じているが論者もこれにならつて豫防衞生行政を爼上に上げて見よう。
 獨逸その他の歐州の文化國家に於ては屎尿を介して傳播される消化器系傳染病及び昆虫媒介性傳染病は文化の未だ進まなかつた過去に於ては猖獗を極めたものであるが,文化の進んだ今日に於ては最早制渇されて農村に散發を見るに過ぎなくなつたのでKisskaltはこれをKrankheit der Unkulturと呼んだのであつた。然るに呼吸器系傳染病は文化の進んだ今日に於ても尚跳梁をほしいまゝにしているのでDegkwitzはこれをZivilisationskrankheiten,又de RudderはZivilisationsseuchenと稱したのであつた。こゝに呼吸器系傳染病と云うのは百日咳や結核などのように主として呼吸器を冒かす狹義の呼吸器傳染病だけではなく,ハシカ,水痘,猖紅熱,天然痘などのような臨床家の所謂發疹性傳染病及び流行性髓膜炎のような神經系傳染病をも含んだ傳染病群,即ち主として氣道を侵入門戸とする疫學者の分類による廣義の呼吸器傳染病を指すのである。

綜説

住居の廣さの衞生學的最低基準

著者: 三浦運一

ページ範囲:P.65 - P.70

 現在,住居の問題は食以上の重大問題で,特に戰災都市は全市をあげてスラム街と化しつゝある。此現状に鑑み,住居特に其廣さの最低基準を衞生學の立場から示して置く事が必要と考え,先般學研の「健康生活の最低基準研究特別委員會」に於て私見を發表したが,以下其大要を述べて忌憚なき批判を得たいと思う。

食物中毒の衞生學

著者: 八田貞義

ページ範囲:P.71 - P.80

食物中毒とは何か
 食物中毒(Food Poisoning)とは,普通は立派な肉類其の他飮食物を攝つて稀に惹起する急性の中毒症を一括して呼んでいるのであつて,決して,食物による健康障碍一般(Food Injury)を指すものではない。
 即ち取扱う食物中毒とは,狹義に解釋して細菌に因するものと限局されている。從つて細菌性感染なるを表現する食物感染(Food Infection)なる語が最も適當かも知れない。但し食物を介して人を罹患せしむるものゝ中にも,彼の赤痢,コレラ,腸チフス,パラチフスや牛乳感染等でも來るヂフテリア,猩紅熱等の傳染病は除外する。これ等の諸疾患は,假令食物を介して來ても他に多くの傳染經路が認められるので,各自に全く別個に取扱うべきものであるからである。斯く現時は食物に因する細菌性の急性胃腸炎疾患にのみ食物中毒症なる名稱を與えているのである。

原著

40歳以上の肺結核症の統計的觀察

著者: 笹本浩 ,   伊藤綏 ,   片桐鎭夫

ページ範囲:P.81 - P.86

(本論文の要旨は昭和24年4月第24回日本結核病學界演説會に於て發表した)
 戰後老人性結核が増加したと云われるが,果してどうであろうか,又それは若年者結核と比較してどんな特長を有するか。之等を檢討するために,我々は戰爭中,終戰時及戰後である昭和18年,20年,21年に慶應義塾大學病院内科外來を訪問した總數21,795名に就いて,結核性疾患殊に老人性結核を調査し,次の樣な結果を得た。此處に云う結核性疾患とは,肺結核,結核性胸膜炎及腹膜炎のみを取り上げた。尚昭和19年の全部及び昭和18年の約半數は,患者日誌を戰災で燒失したゝめ,調査不能であつた。

アサリ及びカキ毒について

著者: 八田貞義 ,   板井孝信 ,   宮本晴夫

ページ範囲:P.87 - P.93

1.まえがき
 昭和17年3月下旬濱名湖畔の新居町を中心として,その隣接町村にアサリによる集團食物中毒が發生し,罹患者總數334名,死亡者114名に達する悲慘な事件があり,原因について秋葉朝一郞,服部安藏兩博士等は症状は違う(アサリ中毒の臨床症状は一言にしていえば,かの急性黄色肝萎縮症のそれに一致する)が獨,英,米,佛等の報告にある貽貝(イカヒ)中毒の毒性物質と同樣,アサリにはアミン系の毒物が季節的(2-4月上旬)に生成されるのではないかと推定された。その後同氏等はこの毒性物質に對し"アサリ毒"なる命名を與えられている。この種の毒物がどのような生成機構によつて出來るかは,私葉博士等につゞく多數の人々の研究によるも今なお不明である。
 中毒症状があまり慘烈なので事件當初はわが國には未だかつて經驗されたことのないアサリ中毒であると大いに世間の人々を瞠目させたが,決してそうではない。これと似た中毒事例について兒玉榮一郞博士(診斷と治療28卷,7號,昭16,日本醫事新報,1032號,昭17)は,神奈川縣三浦郡長井町に發生したカキ中毒について臨床所見を詳細に報告しておられるし,古くは明治22年に突發したカキ中毒について緒方正規教授(神奈川三浦郡疾病に就て),中濱東一郞博士(神奈川縣三浦郡の流行病),木村壯介海軍軍醫少監(神奈川縣下惡性病調査報告書)等の報告があるから,この種の貝類中毒は古くからあつたものと想像される。

厚生行政の展望

食品衞生行政は昭和24年度に如何に展開しようとするか?

著者: 尾崎嘉篤

ページ範囲:P.94 - P.95

 新憲法の施行に伴い一般行政權が警察より分離せられたものの一つとして,食品衞生行政がその本來の責任者である衞生當局にかえされてから既に3ケ年を閲している。この間その行政の從據すべき支柱である食品衞生法の制定をはじめとして,實施主體たる保健所の行政廳としての性格の附與,食品衞生監視員制度の創設,ラボラトリーの整備,實施費用の1/2國庫負擔等を行つて,この新らしい行政の形を多少整えることが出來たのであつた。しかしながらそれは,たとえて見れば一應軌道が敷設され列車が走るを得る樣になつたと云う程度に止つていて,更に規則正しく整然と,氣持よくスムースに列車を運轉するためには,更に技術的に行政的に多くの改良を行つて行かねばならないのである。この意味に於て,昭和24年度に於ては,監視員が食品製造所とか飮食店に於て,如何なる點を注意し,如何にしてその良否を判定し,如何にしてこれを指導取締するかと云う樣な監視技術の科學化體系化を先ず計りたいと思う。と云つてこの仕事が從來も決してなおざりにされていたと云うのではない。各府縣に於て,又監視員各自に於て,夫々努力され工夫されて來た所であるが,今回は厚生省が本腰でこれ等の智識を動員し,綜合し,體系化して行き,更に學者研究者の協力をも得て更に進展させて行こうと云うのである。これは各種の食品試驗檢査法の新展開改善乃至は體系化をも當然相伴わなくてはならないであろう。

結核豫防行政の行き方

著者: 高部益男

ページ範囲:P.95 - P.98

 一般の行政でもそうであると思うが,衞生行政のように,自然科學的の學術を基盤とする行政では,最高不可侵のものとして,生れた法が,その誕生を見た瞬間に於て,既に改變されなければならない状態にあるといつて差支なく,然も,法の形をとつた以上は,その固定した形に於て,權威をもち,その基盤となる科學との相剋を開始するので,その執行たるや實に法の權威を如何にして無視すべきかというような困難な状態に立至るものである。
 一方,行政の對象となる社會は,時々刻々に變化を爲しているものであつて,法の誕生時の状態は,たとえ連續的であるにせよ,次の瞬間には既に等しい状態となるものではない。即ち,衞生に關する法は,常に,内部的及び外部的危機の状態にあるものと考えられる。

防疫行政の新動向

著者: 柴山知輝

ページ範囲:P.98 - P.100

 防疫行政の新動向と云つても,その基本の思想には殆んど變化はなく,唯だ從來の防疫行政の分化發展したことが最近における新しい動きである。以下最近3-4年間のこれらの動きについて一瞥して見よう。
 防疫行政は我が國衞生行政の中最も古い歴史を有するものの一つで,明治の初めには既に施行せられておつた。爾來種々の要因による傳染病流行の弛張に對應して防疫行政にも相應の改變が加えられたのであるが,最近における防疫の動き程大きなものは末だ嘗てないであろう。

新榮養行政の展望

著者: 岩田昌一

ページ範囲:P.100 - P.103

 戰後の社會思想の急激な轉換は,國家主義軍國主義を一擲して新らしい思想的世界を日本國民に示した。即ち基本的人権の尊嚴を原理として,個人の自由と機會の均等と個人の尊重を得るようにあらゆるもの政治,經濟,社會が組みかえられて來ている。デモクラシーとプラグマテイズムは我々日本人の社會生活に大きな影響を與え,その在り方を一變せんとしている。筆者はこれについて論述する限りではないが,少くとも現在の日本人にとつてなすべきことはアメリカンデモクラシーとプラグマテイズムに對する深い理解と實踐が,當面の日本人の成長のために緊要なことであると信ずる。かゝる思想が醫學と直結するとき,公衆衛生の思想と實踐が生れてくる。アメリカにおける公衆衞生の發達は當然その歴史的過程の一部として形成される筈のものであつたわけである。かくして日本においてもかゝる思想の理解の前進とともに公衆衞生は,漸時その緒につきつゝあり,公衆衞生行政の強化がはかられて來つゝある。公衆保健局の誕生,公衆衞生に關する諸法律の立法化,保健所の擴充強化等かはかられ,そのなすべき仕事は數えきれぬ位多いのでみる。公衆衞生の中又重要な分野を占める榮養も多分に洩れず,公衆衞生の一環として他の諸分野とともに大いに取上げられつゝある。元來榮養は社會生活に基礎的條件をもつ食生活に密接な關連を有する。

新しい藥務行政

著者: 一丁田健一

ページ範囲:P.103 - P.104

 藥務行政の基盤となるものは何でしようか。それは藥事法を始めとしての關係法律,規則であります。その中で最も根本的なものが藥事法であります。この藥事法は昨年7月29日法律197號として公布施行され,藥事衞生の適正を期することを目的としています。即ち藥事に關する諸事項を規定しておりますが,先ず人的には藥劑師の身分及びその職能について(更にくわしく云いますと藥劑師の國家試驗や身分の登録免許等),物的には醫藥品,醫療器具機械,衞生材料,化粧品等の衞生用品について,更にこれらの衞生用品と關連してその取扱う立場の者としての,藥局,製造業,販賣業等についての事項を規定しております。猶以上の事柄と關連して藥事に關する建議機關としての藥事委員會に關する事項も規定されていますことは注目されてよいと思います。藥事法に基く省令としては藥事法施行規則,生物學的製劑製造檢定規則,動物用醫藥品取締規則(農林省所管)があり,藥事法施行の圓滑を期しています。次に藥事法と唇齒輔車の關係にある法律に,毒物劇物營業取締法,麻藥取締法,大麻取締法があり,藥事法と共に藥事今般の衞生法規體系をなし,指導監督取締の内容を持つております。これらの法律の特色は保健衞生の見地を基礎とするものでありますが,茲に藥務行政には又別の法規關係を有します。

公衆衞生と齒科衞生活動

著者: 伊丹一男

ページ範囲:P.105 - P.107

 齒科衞生とは齒牙及び口腔の局所的疾病を豫防すると共に全身疾患と關聯して起る口腔疾患をも豫防し,更に齒牙及び口腔の健康保全を圖り,それによつて人々の健康を増進する目的を持つている。
 單に肉體的な健康を向上することだけが公衆衞生の目的でないと同樣に,公衆を對象とした齒科衞生活動は,其の目的を達成するための社會的ないし經濟的な措置をも包含して居ることは言うまでもない。

母子衞生對策の今後の課題

著者: 近藤宏二

ページ範囲:P.107 - P.109

1 妊産婦死亡の動向と母性保護
 公衆衞生のあらゆる分野に於て,アメリカに比べて我が國の成績は,30年から50年も進歩がおくれているが,その中にあつてひとり,妊産婦死亡率だけは,日本はアメリカより格段に低い好成績で,而も遂年一層低下しつゞけてきた。然るに1937年頃からアメリカの妊産婦死亡率は,その下降速度が急調子となり,やがて日本の値に追いつきそうになつて來た。これは主として,アメリカの妊産婦死亡の最大原因である産褥熱死亡が,ズルファ劑やペニシリンの使用によつて,急激に減少して來たためであると見られている。ところが日本の妊産婦死亡の最大原因は妊娠中毒症であつて,アメリカ同樣化學療法の進歩があつても,日本の妊産婦死亡も全體の數には,そうひゞいて來ていない反面に,日本では,昨年あたりから,産褥熱による妊産婦死亡がやゝ増加の傾向を示して來た。日本で最近人工妊娠中絶による色々の事故が頻發していることは,實地醫家特に産婦人科醫の認めているところであるが,之が産褥熱死亡となつて統計上にあらわれて來たとなると,一段と警戒しなければならない。

衛生行政のうごき

麻藥及び大麻の取締状況

ページ範囲:P.111 - P.112

 麻藥の不正取引は最近6大都市を中心として益々増加し,違反内容もますます惡質化する傾向にある。昨23年中の違反事件について見ても,麻藥に關する犯罪の中でも最もひどい刑罰を科されるヘロインの密送や不正賣買,吸煙が著しく増加し,またけしを不正栽培したり,阿片を採取したりした者が相當の數に上つている。麻藥の密輸入は,いろいろな社會状況から考えて或程度行われているものと推測されるが,檢擧されたのは密輸出及び密輸入各1名づつで,いづれも未遂であつた。
 なお23年中の麻藥違反者の檢擧總數は1,746名(内東京578,神奈川112,愛知113,兵庫106,北海道104,大阪61,京都48,その他624)に上り,このうち1,070名が送檢されたが,違反の内容は次の通りである。

豫防接種の見透しと本年度の計畫

ページ範囲:P.112 - P.113

 傳染病の流行に備える豫防接種液の生産配給状況は,終戰後それでなくてさえ生産不足に惱んでいたところへ,京都のヂフテリア事件以來とみに嚴重になつた檢定制度の強化にたたられて,目下需給のバランスがとれていないが,厚生省では極力生産を督勵する一方,次のような見透しの下に本年度の豫防接種計畫をすすめている。

醫師國家試驗合格者

ページ範囲:P.114 - P.114

 厚生省では7月13日正午,去る5月實施した第6回醫師國家試驗合格者を發表したが,受驗者總數は3,242名,内合格者2,035名で,その合格率は62.8%であつて,學校別受驗者及び合格者數は次の通りである。

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厚生省通牒

ページ範囲:P.116 - P.119

臨時種痘について
 豫防接種法(昭和23年法律第68號)第6條に基き,左記により臨時種痘を實施しなければならない。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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