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原著
アサリ及びカキ毒について
著者: 八田貞義1 板井孝信1 宮本晴夫1
所属機関: 1國立衞生試驗所
ページ範囲:P.87 - P.93
文献購入ページに移動昭和17年3月下旬濱名湖畔の新居町を中心として,その隣接町村にアサリによる集團食物中毒が發生し,罹患者總數334名,死亡者114名に達する悲慘な事件があり,原因について秋葉朝一郞,服部安藏兩博士等は症状は違う(アサリ中毒の臨床症状は一言にしていえば,かの急性黄色肝萎縮症のそれに一致する)が獨,英,米,佛等の報告にある貽貝(イカヒ)中毒の毒性物質と同樣,アサリにはアミン系の毒物が季節的(2-4月上旬)に生成されるのではないかと推定された。その後同氏等はこの毒性物質に對し"アサリ毒"なる命名を與えられている。この種の毒物がどのような生成機構によつて出來るかは,私葉博士等につゞく多數の人々の研究によるも今なお不明である。
中毒症状があまり慘烈なので事件當初はわが國には未だかつて經驗されたことのないアサリ中毒であると大いに世間の人々を瞠目させたが,決してそうではない。これと似た中毒事例について兒玉榮一郞博士(診斷と治療28卷,7號,昭16,日本醫事新報,1032號,昭17)は,神奈川縣三浦郡長井町に發生したカキ中毒について臨床所見を詳細に報告しておられるし,古くは明治22年に突發したカキ中毒について緒方正規教授(神奈川三浦郡疾病に就て),中濱東一郞博士(神奈川縣三浦郡の流行病),木村壯介海軍軍醫少監(神奈川縣下惡性病調査報告書)等の報告があるから,この種の貝類中毒は古くからあつたものと想像される。
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