icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生6巻3号

1949年09月発行

雑誌目次

論説

デモグラフイーと公衆衞生

ページ範囲:P.125 - P.127

 人類の數の問題が戰後再び世人の注意をひいてきた。人口問題は古くて新しく,新しくて古い。人口問題といえば,Thomas R. Malthusを思い出すが,Malthusの人口理論も既に今から150年以前のものである(1766-1834年)。人口の記録を統計的に取扱つたのは更に古いものであつて,エヂプト・ペルシヤ・シナ・ギリシヤ・ローマ等の國々では,税を課する必要から行われていた。人口を研究する學をDemographyというが,demosはギリシヤ語で人口であり,graphsは書くの意である。廣義でいえば,Demographyとは人間生活の統計學的研究であるが,主として扱うのは人の生殖,成長,婚姻,疾病,死亡というような生活現象であり,更にこれに關聯して政治社會,教育,宗教,衞生等をも檢討する。生物學,醫學及び統計學の進歩と,人の主として社會環境條件の變遷に伴つて人口學も進んでいる。
 このようにDemographyは人類の地球上の消長を取扱うものであるから,人類を生物學的に觀察する衞生ともつながつている。

綜説

急性灰白脊髄炎の疫學

著者: 甲野禮作

ページ範囲:P.128 - P.137

1.急性灰白脊髓炎の疫學的特徴
 急性灰白脊髄炎の源泉地はスカンヂナビアであるといわれている。本病は以前から散發的に發生していたが此地方で1870年代からその性質を變じ,大小の流行を起す樣に成つて來た。この爲に學者の注目を惹き,Joring,Heine,Medineによる臨床的研究,Wickmannによる疫學的研究が行われ,始めて近代醫學の脚光を浴びるに至つた。この樣な流行の性質の變貌は,爾他のヨーロッパでは1880年代,アメリカは1890年代頃から經驗される様に成つた。爾來本病はde RudderのいわゆるZivilizatinosseucheの一員として登場して來た。その流行は,腸チフスや赤痢等の様な傳染經路の分明な,原因結果の明瞭な一群の疾病(Kisskaltの所謂Krankheiten der Unkultur)と異つて複雑な生物學的因子に支配され,單に所謂衞生状態の改善位では防歇出來ない病であることを銘記すべきである。現に貧富の差その他の社會的環境は發病率に影響がなく最も衞生状態の進んだアメリカでは1946年度に患者25.191名を出している(第1圖,第1表)本病は一般に夏季即ち北半球では,7,8,9月に南半球では1,2,3月に流行し温帶に多發する病である。その年齡分布をみると小兒麻痺という別名の示す如く年少者に多いが都鄙についてこれを比較すると,鄙部では年長者の罹患者が多く成つている(第2圖)。

原著

東京附近の蚊の消長(昭和23年)と動物の好き嫌い

著者: 北岡正見 ,   三浦悌二 ,   森井康臣 ,   山形昌 ,   渡邊久男 ,   谷口博一

ページ範囲:P.138 - P.143

 岡山に於ける蚊の出現消長と日本腦炎病毒保有率並に腦炎流行發生との關係に就ては既に三田村(1-5)の報告がある。東京附近に於ける蚊に就ては斷片的の報告がある(佐々(6))がその消長と日本腦炎との關係に就ての報告は無い。昭和23年我々はこの方面を調査研究した。此處では蚊の出現消長と動物嗜好性に就て述べる。
 即ち昭和23年6月27日より東京世田谷の某厩舍及埼玉縣春日部の某動物舍を撰び定期的に自然蚊を採集した。この兩地の一方は武藏野の丘陵地帶であり,他方は關東平野の水田地帶である。原則として世田谷では1週間に1回,春日部では10日毎に1回採集し,採集時間は1日2回日沒前と日没後に行われた。

衞生管理法による工場從業員の健康診斷について

著者: 伊藤鎭雄 ,   梅谷勇一 ,   佐藤信助

ページ範囲:P.143 - P.148

1.緒言
 我々は新しく設定された衞生管理法に基く日立製作所水戸工場(電氣機關車,製鋼,光學機械製造)全從業員に對する健康診斷を實施し特に胸部疾患の摘發に努力し以下述ぶる樣な結果を得た。
 當工場は現在全從業員3130名でこの中事故者即ち現在入院加療中のもの及び長期缺勤者を除きこの檢査の對稱となつたものは2952名(94.3%)で各人赤血球沈降速度,ツベルクリン皮内反應,レントゲン間接撮映を實施しこの3つの檢査を綜合して選擇した人々に對しては更にレントゲン直接撮映を行い更にこのレントゲン寫眞に於て異常を認めたものに對して打聽診,問診,檢温,檢脉,喀痰檢査を實施する事により後述の様な診斷區分を決定しそれぞれ適當の處置を行つた。

パラチフス様症状を呈した患者の流血中より分離したAerobacter cloacaeの1株について

著者: 水之江公英

ページ範囲:P.149 - P.153

1.緒言
 大腸菌屬の病原性については,古くから問題にされたが,系統的に研究せられたのは比較的最近である。例えばEdwards等はArizona groupとして一連のものを報告し,又Kauffmann等は生物學的乃至は血清學的に,病原性大腸菌と非病原性大腸菌とを區別している。
 然し之等の記載をみると,多くは赤痢様症状を呈したものであつて,まだ大腸菌屬によるチフス樣症状を呈した報告については,寡聞にして知らない。未發表ではあるが,最近大林氏等は,大腸菌による肝膿瘍2例の剖檢例を報告し,この場合流血中より大腸菌を分離し,やはりチフス樣症状を呈し,死亡したものであると報告してゐる。

蟯蟲檢査法竝びに寄生率に就て

著者: 黑川祐

ページ範囲:P.153 - P.158

 蟯虫は傳播力が非常に旺盛であるから,今日の如く,住宅難の著しい爲に,一室に多人數の人が雜居している環境は,蟯虫の蔓延には至つて好適である。
 然るに一般寄生虫檢査成績には,蟯虫卵は僅かに0〜5%程度にしか記載されていない爲に,その寄生率が低いものであるかの如く誤解せられて,蟯虫の檢査,治療及び豫防撲滅對策は放任せられている傾向がある。

最近に於ける詳細なる寄生蟲檢査成績

著者: 石野鑛三 ,   島津優 ,   矢島敏夫

ページ範囲:P.158 - P.162

 精神病患者は其生活環境に於て,又其生活状態に於て一般と異るところがあると考えられる。從つて其寄生虫感染状況も亦一般と異り,又之等患者の集團間に於ては感染状況に何等かの共通したことがらがみられるかも知れないと云うことが想像される。我々は東京都下の二つの精神病院の入院患者の檢便を行う機會を得たので茲に其成績に就て報告する。檢査の時期及被檢者。第一の病院は,昭和22年12月に,第二の病院は,昭和23年3月に行つた。第一の病院では入院患者350名中其大部分328名に就て行い,第二の病院では患者250名中自分で採便の出來る程度の者151名に就て行い,其他の重症者はすべて除外した。年齡は,第一の病院では7才〜69才,第二の病院では20才〜50才である。
 檢査方法 便が排泄されてから檢査までの時間は,第一の病院では2〜20時間で,第二の病院では24時間以上を經過したものが大部分である。檢査回數はすべて1回宛,原虫は主として生理的食鹽水或は沃度沃度カリ液を以つてする塗抹法で檢査し,蠕虫はアンチホルミン・エーテルを以つてする矢尾板氏の遠心沈澱法を併用して檢査した

受胎調節の實際

著者: 森山豊

ページ範囲:P.163 - P.166

 受胎とは腟内に射精された精子が,卵管内で精子と相會し,その受精卵が子宮内膜に着床することである。それ故受胎を防止するためには,受胎成立までの過程のいずれかを切斷すればよいのであるから,各種の方法がある。受胎調節或は狹義の産兒制限とは,受胎能力を障害することなく,ある欲する期間だけ妊娠することを避けることをいう。したがつて,去勢や斷種などによつて,永久避妊を行うことは,受胎調節とはいわない。人工妊娠中絶などは,もちろん受胎調節にはふくまれない。受胎調節或は産兒制限は,特別に新しいことではなく,昔から,又いずれの國でも,何らかの方法で行われてきたものである。
 たゞその方法が不確實であつたり,或は心身に弊害があるものであつてはならない.それで受胎調節法として,一般に普及せしめるものとしては次の條件を具備していなければならない。

衞生行政のうごき

保健所勤務助産婦の業務について

ページ範囲:P.167 - P.168

 保健所勤務の助産婦の業務について從來示されていたものは,實際において助産婦の能力を充分に發揮できないうらみが多く,種々問題とされていたので,政府では各方面の意見を檢討した結果,このほど次の通りその業務内容の細則を定め,その徹底をはかることになつた。

藥劑師國家試驗合格者

ページ範囲:P.169 - P.169

 第1回藥剤師國家試驗は,去る5月15日學術試驗を施行し,その合格者に對し7月18日から20日まで3日間實地試驗を施行した結果,受驗者2,572名中2,276名(合格率 約80%)が合格と決定し,9月1日藥事審議會から發表されたが,試驗場別の受驗者數及び合格者數は次の通りである。

勞働衞生のページ

婦人勞働の衞生—勞働衞生實態調査抄報(3)

著者: 黑田芳夫

ページ範囲:P.170 - P.171

1.月經異常
その1
調査對象:繊維工場31(内譯第1表)
 人員合計 11,012

厚生省通牒

—衞發第807號 昭和24年8月5日—消化器系傳染病豫防對策實施強化について

ページ範囲:P.171 - P.176

 昨年度における消化器系傳染病の發生は未だ嘗て見ない減少を示したことは各位の御努力の賜と感謝に堪えない所であるが本年度に入つて埼玉,東京,新潟,千葉,長野等に地域的な赤痢の多發例を見つゝあり又全國赤痢患者發生數も昨年に比し増加の傾向にあることは防疫上憂慮にたえないところである。ついては左記各項御參照の上この際防疫對策の實施を一段と強化し以て本病の蔓延防止に遺憾なきを期せられたい。
 なお本對策の目的達成のためには保健所の綜合的防疫活動にまつこと極めて大であるので保健所をして常に管下の現況を把握させ環境に應じて重點的指導を行わせると共に患者發生の場合には時を移さず適切な處置が講ぜられるよう充分指導せられたい。

—衞發第867號 昭和24年8月20日—消化器系傳染病豫防對策に伴う病原體保有者檢査要領について

ページ範囲:P.177 - P.180

 首題については,さきに8月15日衞發第807號公衆衞生局長通牒によりその概要を御承知のことと思うが,病原體保有者檢査實施に當つては,特に左記に御留意のうえ,遺憾ないよう致されたい。

—衞發第852號 昭和24年8月17日—優生保護法の一部を改正する法律施行に關する件

ページ範囲:P.180 - P.183

 標記の件については,本年6月25日厚生省發衞第80號で通知したところであるが,右通知中の左記2(2)の(ロ)の經濟的理由により人工妊娠中絶を行う場合における認定手續及び費用の負擔區分等については,左記によることとしたので,地區優生保護審査會,民生委員,指定醫師その他關係者にもこの趣旨を徹底し法施行上萬遺憾のないようにされたい。

雜誌評

建築雜誌,他

ページ範囲:P.184 - P.184

 公衆衞生が衞生工學(Sanitary engineering)や,建築衞生(Architectural hygiene)の領野をひろく包含する以上,Public healthにたずさわるものは,建築や工學一般の素養も必要というべきであろう。
 從來わが國の衞生人は建築を知らず,建築人は衞生を知らないといううらみがあつた。そのため住宅にしても,ビルにしてもいちじるしい非衞生的なものを平然としてつくつた。衞生人もこの類いの雜誌をよむ必要があろう。米國では最近"Public hea1th engineering"なる領野が進展しつゝある。きわめて當然のことである。

--------------------

海外News及び文献

著者: 早川

ページ範囲:P.185 - P.185

D. D. T. 使用の危險性(Possible Hazzrds from the Use of D. D. T.)
 本春New York Post新聞にDr. M. S. Biskind氏論文としてD. D. T. の誤用によつては人體に危害を及ぼす危險があると述べ一大センセイションを呼び起した。Dr. Biskind曰く殺虫劑としてのD. D. T. は人類がかつてもつていた最大効果ある藥劑に相違ないがこのD. D. T. 使用が米國人特に子供を中毒しつつあると喝破した文献上既にD. D. T. 中毒として46例の報告がある。所謂Virus Xなる疾病はD. D. T. 中毒と同一なものでD. D. T. を濃厚に使用する人々の間に發生する。D. D. T. が或る濃度以上となると人間に中毒を起すことは確實である。以上の報告が1949年4月1日發表されてから米國の主だつた關係者は本件に再檢討を加うる爲め會議を開いた。農業省の研究によればD. D. T. は脂肪組織に沈着する傾向がある。そしてD. D. T. を撒布した草を喰した牛の乳に移行することが證明された。この爲め米國では4月1日以降養牛牧場でD. D. T. を使用することを禁止した。これは將來大きな問題となるであろう。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら