icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生6巻4号

1949年10月発行

雑誌目次

論説

體力の文化的諸問題

著者: 浦本政三郞

ページ範囲:P.187 - P.192

健康をスタートに體格の改造へ
 終戰後,生理學の立場から私の一番強く感じたことは,日本人が實に貧弱でみすぼらしく見えたことである。勿論,敗戰の結果,精神的な緊張を失つたり,衣服もみすぼらしかつたり,必迫した食料事情も影響してはいるが,それらの諸條件をさし引いて,尚且つ日本人のからだが決して立派でないということをつくづくと感じた。勿論,からだの問題は戰爭の前からあつた。昭和になつて日本の文化は次第に向上し,國力も亦強化されつつあつたようであつたが,壯丁の體格は年々低下していつた。してみると,結局それは文化として正しい在り方ではなかつたのである。私はその頃から體力を文化の問題として取りあげ,頻りに生命の文化(註1)ということを主張した。それは生物的なものが即文化的なものであるところの文化である。それがほんとうに正しい文化だという主張である。そのころ,わが國では精神主義が異常に強化されたが,身體を離れた精神などというものは,凡そ幽靈的な存在でしかない。「健康なる精神は健康なる身體に宿る」とはギリシヤ以來の文化的標語であるが,この"Mens sana in corpore sano"という言葉は,小泉丹博士も述べていられるが(註2)その正しい意味が前述の譯語に盡されてない感がある。直譯すれば「健康な身體での健康な精神」というのであつて,われわれは健康なる身體での健康なる精神以外を望まないというのが正しい意味である。

スポーツ醫學

著者: 齋藤一男

ページ範囲:P.193 - P.198

 整形外科學は本日では「機能」をとくと考える學科となつた。その昔といつても24,5年前のことであるが,自分が恩師高木憲次先生の下に整形外科を專攻するために,その門下に加えて戴いた時は,日本全體のスポーツ熱も今日程は熱してはいなかつたが,先生は自分に「スポーツ」なる課題を與えられた。恐らく,自分が學生時代スポーツ全般に亘り,特にボートには關係が深かつたためであろう。そこでスポーツによつて來る外傷を先ず研究すべく,その材料を集むるに意を用いることにした。
 幸い昭和2年夏,上海に開かれた第4回極東オリンピック大會へ自分が救護班員として役員に加えられ,選手諸君と共にダラー,ラインのコレア丸にて派遣されたことがある。一行200人以上の大部隊であるが正式の救護班員は自分一人(これ迄は正式の救護班員は問題にならず誰も行つたことがない。即ち醫師等は遠征にはぜい澤のもの位に考えていたらしい)であつた。上海の宿舍一各部毎に異つた場所のホテル—當時傳染病の根源地と云わるゝ位の土地で治安は滿點ではない。それに加えて競技場設備不完全或は競技役員そのものゝ智識も餘り向上していないらしい樣子であつた。そのためハイジャンプの臺の大きさが大き過ぎ,その上バーの距離が短かかつたりしたため,日本選手が跳び降る際に踏臺で腓骨を折つて足關節の脱臼を起した。

スポーツ障碍

著者: 水町四郞

ページ範囲:P.198 - P.202

 人が社會に於て生活して行くためには,健康でなくては,眞の幸福であるとは言えない。しかし,無病であると言うことは,健康の最低限度であつて,これだけでは,如何なる場合にも,生活を樂しむことにはならない。種々な不測事が起きてくるので,これに耐えられるだけの健康を保つていなくてはならない。即ち最低限の所謂基礎的健康に,鍛練によつて得た健康が加わつてこそ,初めて,眞の健康と稱し得る。この鍛練による健康を得るために,體育が必要になつてくる。しかし,人はその體質なり,或は健康度なりが,異なつている。そのため,身體を鍛練するためにも,個々の人に適した方法と量とがあるわけである。この方法に關して,果して,從來顧慮が拂われていたであろうか。身體の強弱によつて,鍛練の目的に採用されるべき方法は當然決めらるべきであるのに,或る者は何等の鍛練をも講ぜず,又他の者は過大の鍛練を行つていたのが,現況である。このことは,スポーツ選手の何名かが,年々結核によつて,たおれて行くことでも,うかがい知ることが出來る。これは興味のおもむくままに,或は勝敗のみを眼中に置いて,スポーツをやつた結果によるものである。
 同樣のことが,量の方面にも言える。即ち,運動によつて,効果があげられるが,一方過度である場合には,逆に種々な障碍が起きてくる。この所謂スポーツ障碍と言うものが,果たしてあるものであるか否かは,近來多くの人によつて,研究,論議された。

健康と體力

著者: 高野六郞

ページ範囲:P.202 - P.204

 公衆衞生の目標が健康にあることは明白であるが,その健康の内容や強度については,いく分はつきりしないものがあるような氣がする。
 健康とは何か。病氣でない状態を健康といつてもよいかも知れない。すこしも病的感覺がなく,全身に何も病的症状がなければ,病氣でなく,從つて健康とみてもよかりそうである。しかしかろうじて病氣でないのと,きわめて強健なのとでは,その間にかなり巾がある。つまり健康の程度を測定することは公衆衞生上重要な問題である。

體力の判定法

著者: 名取禮二

ページ範囲:P.204 - P.209

 私達の身體の良否を示すような概念を體力と名づけると,體力の概念を分析檢討することによつて漸次體力の内容がはつきりし,又概念そのものが,はじめ漠然と云い表わしたものより詳細に規定されてくる。
 體格と云う言葉(これは笹川久吾教授により最近ここで體力と記するような意味に使われている)から體力と言葉が移り變つたことは,身體の言い表わしとしては力の概念に相應するものが,最重要因子であるとの考えがあつたからである。しかし體力は單に力の概念に相應するものばかりでなく,もつと別な種々の要素を含めた方が私達の身體の良否を示す全體的な表出としては妥當であろうと考えられる。

余の創案した體格判定法に就て

著者: 平田欽逸

ページ範囲:P.210 - P.214

 私は豫てから身體檢査に携つて,體格の判定に比體重などを漠然と用いていた處,種々と事實や理論に合致せぬ矛盾を發見したので,何かもつとよい方法はないかと種々と文献を探してみると,體格指數,體質指數,榮養指數などと命名し百數十個の係數が見出された。唯身長と體重から出された指數でも數十個の多きに達している。從つて實際に利用する者はどれを用いたらよいか全く見當がつかないという状態です。此等を一々研討した處その大部分は或る一部の集團の統計的成績に一致させることに拘泥していて,數學的理論と統計的事實と裸體寫眞の成績とに一致する係數は甚だ僅少で,身長體重からは,Rohrerの充實係數の係數,Liviの係數のみで,身長胸圍,身長坐高では比胸圍,比坐高が適合していることを知つた。
 更にRohrer係數とLivi係數とを比較するとLivi係數の方が身體の肥痩度を示すのにより一層優秀であることを認めて,之を肥痩係數と命名した。

原著

死因統計を中心とした職業と疾病との關係

著者: 平山雄

ページ範囲:P.215 - P.221

1.緒言
 職業と疾病との關係が,社會醫學,産業醫學の根幹を成す重要問題である事は,言を俟たない所である。更に,疫學總論の體系づけの點から言つても,是非とも一應檢討すべき課題である。米英には,既に,死因統計を中心とした,本問題に關する優秀なる統計が存在するが,我が國には,遣憾乍ら現在迄の所,完備した報告は見當らない。わが國の死因統計にも職業別の集計は爲されている。しかし,(1)職業別人口は國勢調査年次には報告されてあるが,その年の死因統計の職業分類は國勢調査のそれと異る事,(2)死因別に職業別年齡別の數字が掲載されて居ず,從つて年齡構成の修正が不可能である事,等の根本的な隘路があり,渡邊の強調した如く,職業統計と名付けるに或いは値しないものかも知れない。しかしながら,他に死因統計に優る多數例の資料が見當らぬ今日としては,この死因統計をその不備を極力推計で補正しつゝ檢討する事が,唯一の路と考えられたので,本問題研究の第1段階として色々な角度からの觀察を試みて見た。その結果,將來の研究の參考となる諸事實を得たと考えるので,報告する次第である。

殺虫劑の作用に關する研究—3.諸種殺虫劑の衣虱に對する作用

著者: 石井信太郞 ,   三苫靖子

ページ範囲:P.222 - P.225

 殺虫劑DDTが劃期的効果を示して以來世界各國で新殺虫劑の創製が盛んに行われているが,相當多數の殺虫劑が製作され使用されている。殊に米國に於ては盛んに作られ實用されている。
 吾々はDDT及びBHCの殺虫作用に就て蚊幼虫及び蛹に於て興味ある成績を得て報告した。其後米國製殺虫劑をDr. D. B. McMullenの好意によつて入手し得たので,之等藥劑の衣虱の成虫及び卵子に對する作用を檢討し興味ある所見を得たので茲に報告する次第である。

東京都内1保健所區に於ける乳兒死亡率の推移

著者: 室橋豊穗

ページ範囲:P.226 - P.230

1.緒言
 乳兒死亡率を低下せしめることは,公衆衞生特に小兒衞生に於ける基礎的課題であり,小兒に對する凡ゆる豫防醫學的措置はこれに向つて行われなければならない。最近一般死亡率低下に伴つて,我國の乳兒死亡率が著しく低下したと云われ,之は甚だ喜ぶべき現象であるが,京橋地區に於ても,2,3年來その減少が顯著となりつゝあるので,その状況を報告する。

文部省便り

研究費の配分と公衆衞生關係の研究の動向について

著者: 前田陽吉

ページ範囲:P.231 - P.235

 筆者は本誌第5卷第4號で,昭和23年度の文部省科學試驗研究費の配分状況と,24年度の要望課題名を例にとり,公衆衞生關係の研究の動靜(純基礎研究を除く)を説明した。
 即文部省の科學試驗研究費は産業經濟の再建,國民生活の安定等目下急速に解決を望まれている事項の解決を圖る爲の研究費であり,この爲この研究費の交付を受けた課題を見れば,國が必要とする研究の動向が大體察知出來るであろうということである。

衞生行政のうごき

今後の豫防接種の見通し—厚生省發表

ページ範囲:P.236 - P.238

豫防接種情報(その1)(昭和24年10月6日)
1.痘苗
 既に950萬人分を各府縣に斡旋し患者發生時の臨時種痘及び春期第1期定期該當者の種痘を完了している。
 全國臨時種痘(秋期第1期定期種痘を含む)については既に痘苗斡旋を開始した。

醫療法施行に關する病院の分類

ページ範囲:P.238 - P.242

 醫療法の實施に伴い,病院の内容を充實させ醫療の適正化をはかるため,厚生省では今度一定の基準を設けて全國の各病院を管理,人員,設備,構造の各面にわたつて採點し,これをABCDの4級に分類して,順次上級の分類に達せしめるよう指導することになつた。
 この分類の決定は,都道府縣知事の具申に基いて厚生大臣がこれを行うこととし,都道府縣知事は醫療監視員(なるべく病院管理研修所の講習を受けたものとすること)をして所定の採點表に採點せしめ,分類案を作製して厚生大臣に提出することになつている。

公認避妊藥について

ページ範囲:P.242 - P.243

 厚生省では今春來5月2日,5日10日,5月30日,8月20日の4回にわたつて避妊藥43品目(その製造業者39社)を公認し販賣を許可したが,その品目,形態製造所等は次の通りである。

勞働衞生のページ

中毒問題—勞働衞生實態調査抄報(4)

著者: 黑田芳夫

ページ範囲:P.245 - P.246

1.一酸化炭素中毒
その1
調査對象;Kトンネル通過時の機關室(北海道)機關士10,助手17
 生體反應:脈搏,呼吸數,最高及最低血壓何れも増加。CO-Hbの増加は著しくない。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら