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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生60巻1号

1996年01月発行

雑誌目次

特集 市町村における母子保健活動の推進

21世紀に向けた母子保健

著者: 平山宗宏

ページ範囲:P.6 - P.8

 保健所法改正とそれに伴う母子保健法改正の完全実施は平成9年度からとなっているが,準備期間はあと1年ほどしかない.またその後3年ほどで21世紀がくる.そこで,この改正後の地域における母子保健サービスのあり方について考えてみたい.21世紀といっても何十年か先の状況は予想ができかねるので,新世紀初頭に向けた近未来への期待と見通しということで考えてみよう.

新しい母子保健法の理念

著者: 松谷有希雄

ページ範囲:P.9 - P.13

 母子保健法が制定されてから30年目にあたる平成6年の第129通常国会において,「地域保健対策強化のための関係法律の整備に関する法律」が成立した.その中で母子保健法,児童福祉法の一部が改正され,平成9年4月に全面施行されることとなった.この新しい地域保健の体系のなかで,都道府県・市町村が母子保健事業を推進していくため,母子保健法の制定から今回改正までの経緯,今後の母子保健施策の理念および改正のポイントについて述べる.

市町村における母子保健活動の基盤

著者: 柳川洋 ,   尾島俊之 ,   坂田清美 ,   高野陽

ページ範囲:P.14 - P.17

 わが国の母子保健対策は昭和40年8月に制定された母子保健法によって進められてきた.この法律は,保護者の理解と努力のもとに,母性の保護と尊重および母性と乳幼児の健康保持増進を進めようという趣旨で制定され,保健所を中心にして,結婚から妊娠,産褥期,新生児期,乳幼児期を通した総合的な保健対策が行われてきた.
 平成6年には「地域保健対策強化のための関係法律の整備に関する法律」の成立により,母子保健法が改正され,これまで保健所が主体となって実施されてきた母子保健サービス事業を,平成9年度以降市町村に移すことになった.その結果,基本的な母子保健サービスは,母と子の生活の場である市町村において一元的に提供されることになり,地域の実情に応じたきめ細かな母子保健事業を実施するための第一歩を踏みだしたことになる.

市町村母子保健計画の考え方と進め方

著者: 藤内修二

ページ範囲:P.18 - P.24

 母子保健法の改正に伴い,平成9年度より市町村が一元的に母子保健サービスを提供することになる.それを前に計画的な母子保健事業の展開のため,市町村の母子保健計画の策定が急がれるところである.計画策定にあたっては,母子保健事業の実施計画ではなく,厚生省が発表したエンゼルプランの市町村版とも呼ぶべき「母子保健福祉計画」の策定が望ましい.すなわち,福祉をも含む総合的な計画であることが求められているのである.
 母子保健計画に限らず,市町村の保健計画の策定において,従来の課題解決型アプローチに代わって,ブレイクスルー思考1)や地域づくり型アプローチ2)といった目的設定アプローチ3)を用いた計画策定の手法が注目を集めている.本稿では,この目的設定アプローチを用いて,母子保健計画を策定する際のポイントについて概説する.

地域特性を基本にした母子保健—都市部(吹田市)での取り組み

著者: 弘島妙子

ページ範囲:P.25 - P.29

 平成6年6月,地域保健法の制定および母子保健法などその関連法の改正が行われ,市町村は地域に密着した保健福祉サービスを一元的に提供する役割が法的に明確化された.公衆衛生の動向や,保健福祉の地方分権の潮流に即応したものとしての評価もされている.
 地域保健法制定に伴い大阪府は「大阪府における地域保健のあり方について」府衛生対策審議会に諮問を行い,平成7年7月26日,答申を得たところである.

地域特性を基本にした母子保健—農村部(島根県湖陵町)での取り組み

著者: 森山美恵子

ページ範囲:P.30 - P.33

われわれの町のくらし
 湖陵町は,出雲市の隣町,日本海に面した小さな町である.
 小規模の稲作兼業農家が多く,これといった産業もなく,若い時は都会に出て働き,年をとったら帰ってくるという状況が続いている.

地域特性を基本にした母子保健—地域に根ざした活動—愛育班活動

著者: 小山修

ページ範囲:P.34 - P.36

 地域保健法の制定に伴い,母子保健の対人サービスは平成9年度から市町村に委譲される.地域組織への援助もまた,活動目的,組織形態などによって保健所と市町村とで分担することになる.
 本稿では,戦後の母子保健をリードしてきた保健所と,そのパートーナーであった市町村を念頭に置きながら,地域組織の一つである愛育班活動を紹介し,若干の提案を試みることにする.

現代の子育て

著者: 加藤則子

ページ範囲:P.37 - P.40

 戦後わが国においては急速な経済発展とともに衛生状態が著しく向上し,乳児死亡率は先進国でも類を見ない速さで減少するなど,母子の健康状態はかつてない恵まれたものになった.しかし一方でいじめ,不登校などをはじめとするところの問題が社会の関心を集めるなど,健康の問題は時代とともにその焦点が変わってきている.

市町村における母子歯科保健

著者: 小泉信雄

ページ範囲:P.41 - P.46

 市町村の歯科保健事業は,1歳6カ月児歯科健診,母親学級における歯科保健教育を中心とする母子歯科保健事業と,老人保健事業における健康教育・健康相談,訪問口腔衛生指導が実施されている.平成9年度には,保健所業務とされている妊産婦歯科健診,乳幼児歯科健診,3歳児歯科健診も市町村に移管され,歯科保健を推進する上で市町村の役割はますます重要になってくる.
 一方,歯科保健事業を担当する歯科技術職員の数(表1)は,政令市以外の市町村では,全国で140市町村に,歯科医師1人,歯科衛生士203人が従事しているだけである.

保健所における母子保健活動の展開

著者: 田沢光正

ページ範囲:P.47 - P.50

 地域保健法の制定,母子保健法の改正によって母子健康手帳の発行から三歳児健診での基本的な事業を一貫して市町村が実施することになった.県型保健所は,広域的,専門的な観点から市町村と重層的に連携し,直接的に,あるいは間接的にサービスを提供することになる.
 ここでは,これからの保健所の母子保健に必要な理念や視点と,法改正による新たな枠組みを確認するとともに,筆者が現在保健所で経験している母子保健事業を紹介しながら今後の具体的な展望について私見を述べてみたい.

60巻記念シリーズ・21世紀へのメッセージ

社会正義と健康哲学

著者: 橋本正己

ページ範囲:P.2 - P.3

Social Justiceか公衆衛生活動の原点
 近代公衆衛生の父とされるEdwin Chadwick(1800〜1890は,“Prevention”と“Sanitary Idea”の生みの親ともいわれ,彼の生涯を通ずるすさまじい努力は,歴史上はじめて高齢化社会への途を開いたものである.
 イギリスが近代公衆衛生の世界の先駆とされる所以は,1848年の世界最初の公衆衛生法の制定であるが,公衆衛生法制定の直接の契機はチャドウィックによるSanitary Report“Report on the Sanitary Condition of the Labouring Population of Great Britain”(1842)である.

視点

地域保健活動の「質」

著者: 大原啓志

ページ範囲:P.4 - P.5

 公衆衛生活動,特に現場における活動の「質」をどう考えるかが与えられたテーマである.限られた領域になるが,地域保健の見直しに伴って最近触れることが多い地域保健における活動,特に対人的な活動を念頭において考えてみたい.

連載 疾病対策の構造

0次予防の世界像

著者: 倉科周介

ページ範囲:P.51 - P.55

 0次予防は疾病対策の基本である.その原則が組み込まれている社会では,病気は遅かれ早かれ衰退に追い込まれる.この半世紀間におけるわが国の経験は,そのもっとも目覚ましい実例といってよい.一方,外に病気の巣窟が残ることは,内なる0次予防の維持に対する潜在的な脅威である.これまで病気の国内状況をいろいろな角度から眺めてきたが,ひとしきり目を国外に転じてみよう.問題意識と観測手段はいつもと同じである.

疫学の現状

糖尿病の疫学

著者: 赤澤好温

ページ範囲:P.57 - P.63

緒言
 1988年8月厚生省広報誌「厚生」は,糖尿病特集を組み,当時の厚生省大臣官房審議官寺松 尚博士は,その冒頭に次のように述べている1)
 「糖尿病は予防できる疾患になったのだろうか.残念ながら,糖尿病の患者数は戦時中を除いてずっと増え続けてきている.……糖尿病の予防は未だスタートしたとは言えない.厚生行政にとっての今後の重要課題である.糖尿病は,死因の第11位(昭和61年)を占めている.しかし,糖尿病を間接死因としている人は糖尿病を直接死因とする人の2倍いる.…中途失明の原因としてもっとも多いのが糖尿病性網膜症である.失明を防ぐ努力と同時に,不幸にして視力障害を生じた人に対する対策も講じられなければならない.糖尿病性腎症により腎不全を引き起こして透析に移行している患者数が年間3000人にのぼっている.……糖尿病対策のために貴重な医療資源が消費されるとともに,患者が生産から遠ざかり,質の低い生活を送らねばならない現状は,国家的な損失である.今こそ,本格的な糖尿病対策が必要なときである.

都道府県医師会の公衆衛生活動

岐阜県医師会の公衆衛生活動

著者: 小坂孝二

ページ範囲:P.64 - P.65

 岐阜県は日本列島のほぼ中央に位置し,県土は1万596km2で全国第7位の広さを誇っている.しかし,北部は高度1,000m以上の高地が4分の1を占め,森林が県土の82.6%を覆う.自然環境に恵まれているが,可住地域面積率は県土の17%で,全国的にみると低く内陸県である.
 気候は,南部に位置する岐阜市の平均気温15度に対し,北部の高山市の平均気温は10.3度と寒冷であり,大きな地域差が見られる.

市町村保健活動と保健婦

<座談会>地域保健福祉計画の策定と保健婦—大阪府岬町での活動・1

著者: 岡本茂 ,   川井理香 ,   串山京子 ,   志水民生 ,   中口守可 ,   松下セツ子 ,   元重あき子 ,   門前恵子 ,   多田羅浩三

ページ範囲:P.68 - P.71

 多田羅 ご存じのように地域保健法が制定され,いわゆる地方分権の推進,生活者のニーズへの対応というように,市町村の機能や保健福祉の充実に非常な期待が寄せられています.そういうことでこのシリーズでは,これからの市町村の保健をどのように進めていくかというテーマのもとで,これまで熱心に保健活動に取り組まれている市町村の活動を紹介しつつ,保健婦の役割や機能を探りながら,今後の活動の展開の方向を探っていこうというところにねらいがあります.
 そこで,このシリーズのトップバッターとして大阪府の岬町の保健活動をご紹介させていただきます.

保健行政スコープ

日米医学協力30年

著者: 丸山浩

ページ範囲:P.73 - P.76

日米医学協力のこれまでの展開
 「日米医学協力計画」という言葉を聞いて,ピンとこない読者の方も多いかもしれない.これは,昭和40年(1965年)1月,当時の佐藤首相とジョンソン大統額の会談を契機として,アジア地域にまん延している疾病に関し,日米共同で研究を行うことを目的として開始されたものである.
 日本側の組織としては,対象疾患の選択,研究計画の立案,計画推進方策などを検討する日米医学協力委員会(外務省所管)と,研究活動の実施機関である専門部会(厚生,文部省所管)からなる(表1).米国側にも同様の組織があり,米国側の窓口は国務省とNIHが行っている.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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