icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生60巻10号

1996年10月発行

雑誌目次

特集 女性の健康づくり

女性から見た女性と健康

著者: 樋口恵子

ページ範囲:P.682 - P.685

 女性と健康というテーマは,伝統的な内容を含みつつ,すぐれて今日的な新しい問題である.とくにここ三年ほどの世界の認識の進度と深化には目を見張るほどだ.少し時系列的に,国連総会はじめ世界的な場で採択された条約,基本なる文章をみていこう.

思春期女子の健康づくり

著者: 北村邦夫

ページ範囲:P.686 - P.689

 1994年,エジプト・カイロで開催された国連主催の国際人口・開発会議以降,リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康・権利)という言葉が注目を集めている.この会議において採択された行動計画(第7章7・2)の中で,「リプロダクティブ・ヘルスとは,生殖のシステムおよびその機能とプロセスにかかわるすべての事象において,単に病気や障害がないということではなく,身体的,精神的,社会的に完全に良好な状態にあることをいう」と定義されている.ここでいう,生殖にかかるテーマとしては,性交,避妊,妊娠,中絶,不妊,出産,AIDSを含む性感染症(STD)などが挙げられている.このすべてを思春期女子の問題として扱うには無理があるが,生涯を通じた女性の健康づくりの出発点との立場から,特に思春期女子のリプロダクティブ・ヘルスについて述べたい.

母性保健の視点からみた健康の課題

著者: 末原則幸

ページ範囲:P.690 - P.694

 妊娠・出産・育児は本来,生理的なものではあるが,時に母児の生命を脅かすことがある.最近のわが国における妊産婦死亡率(平成5年)は出生10万対7.7,周産期死亡率は出生千対5.0,新生児死亡率は出生千対2.3と著しい改善をみているが,ある一定の割合で妊娠・出産での異常や,児における異常をみる危険性をはらんでいる.そこで,妊娠を機会に健康のチェックを行うとともに,妊娠出産に伴う健康破壊をできるだけ避けるよう努力が大切である.

働く女性の健康問題

著者: 新発田杏子

ページ範囲:P.695 - P.697

 日本は少子・高齢社会となり,女性や高齢者の社会進出によって労働力を補うことが不可欠となっている.しかしながら,実際の女性の雇用の受け入れは必ずしもその方向に進行しているとは限らない.女性の社会進出に対する意識についても,“女性は職業をもたないほうがよい”1,2)と考えている人,または,“結婚あるいは出産までは職業をもつほうがよい”2)と,いわゆる職業は人生の一時的なステップと考えている人がいて,終生の職業人と考えていない人がかなりいることも事実である.統計的にも女子の有職化はあまり進んでいるとはいえない3).一方,実際に働く女性にとっては,男女雇用機会均等法施行後,その趣旨に沿った雇用管理の改善がなされるなど法の趣旨は徐々に浸透しており,女性の労働力も重要な経済資源として確実に定着しつつある.そこで,働く女性の健康問題は,単に女性の問題とはいえなくなってきている.そこで働く女性の健康を考える前に,まず本邦の女性の職業に対する社会の意識や女性の労働の現状を概括し,その上で働く女性の健康の問題を取り上げ,その解決法があるのか,もしあるとすればどのように解決できるのかを検討することとしたい.

家族と女性の健康

著者: 杉下知子

ページ範囲:P.698 - P.702

 急激な少子・高齢化が加速するわが国では豊かな社会の実現に向けて,平成6年3月に厚生省の高齢社会福祉ビジョン懇談会が「21世紀福祉ビジョン少子・高齢社会に向けて1)」を発表した.すなわち,①豊かで楽しい老後のくらし,②一人一人の健康を守る保健医療サービスの充実,③いつでもどこでも受けられる介護サービス,④安心して子どもを産み育てられる環境づくり,社会的支援体制の整備,⑤高齢者・障害者・子どもたちがともに安心して暮らすことができるゆとりとふれ合いの住宅・まちづくり,を主要な取り組みの方針としている.これらをささえる応分の社会保障負担のあり方についても提言し,このビジョンが実現できる見通しであった.
 ところが,平成7年度の出生数が5万人も大幅減少したこと,バブル崩壊以降の景気の低迷が続き社会保障費の運用悪化などによる年金財政の悪化,国民総医療費の上昇,介護保険導入の遅れ,などは福祉ビジョンの見直し作業が必要であるとの課題を提起している.

女性の健康づくりへのアプローチ

著者: 前田和子

ページ範囲:P.703 - P.706

 高度成長を遂げた日本経済のなかで,女性という特性から引き起こされる健康への課題は様々である.一方,他国に類のない高齢化社会の先頭を走りつづける日本女性の健康とは何であろう.単に長寿社会を築くことでは,健康と考えにくく,健康とは個人がその間生きてきた内容が充実したものであるということが必要条件となろう.
 1946年WHO設立の折,まず憲章が作成された.その前文はよく知られているが,その中でいわれている肉体的,精神的,社会的に完全に良好な状態とされており,当テーマで記すに当たり,この内容を軸として展開させてゆきたい.女性としての身体的特性は,母性能力を備えた立場として独特な課題があり,さらにその身体的負担を精神面で庇護しているようにも思われる.また日本における長年の家族制度のなかでの女性の立場と重ね合わせ健康に焦点をあて探ってみたい.

リーダシップ・ジェンダ・ヘルス—欧米社会における女性勤労者のアクションと制約

著者: 齋藤むら子

ページ範囲:P.707 - P.711

欧米において社会的に活躍している女性たち,とくに組織集団における責任ある地位を有する実業家や専門職にある人々は,人間的に何よりも豊かな個性,チャーミングな人柄が行動に表出し大変人を引きつける.現実に挑戦するバイタリティ,社会問題に対する個性的見識,自己の行動の効力感と自信ある態度で相手に接近する.女性であることを日常業務の遂行において,取り立てて考えることなく過ごしてきた筆者にとっては,女性の社会的活動がこれまでになくその成果を上げ,時代の要求に見合った動き,否,時代を先取りして動きを始めていることを米国や北欧を訪れる度ごとに感じられる.彼女らの行為(action,単なるresponseやbehaviorと違って「意図する行動」,すなわち行為)は,研究成果として,またビジネスとして社会に強いインパクトを与えている.社会に積極的に適応する姿,集団生活において発揮されるリーダシップは,まさに彼女らが健康であることのあかしである.彼女らの生き生きとした行為の源泉はどこにあるのだろうか?

特別企画 O-157への保健所の対応—住民への広報活動を中心に

岡山県邑久地域保健所における住民への広報

著者: 發坂耕治

ページ範囲:P.713 - P.714

 平成8年5月24日から6月4日にかけて,岡山県邑久町において病原性大腸菌O-157による食中毒事件が発生した.5月28日に医療機関から第1報が入り,保健所では有症者調査や水質検査,共同調理場の施設検査などを行うとともに,菌陽性者への指導や広報活動を行った.
 病気の予防をすすめる上では,住民が病気を理解し納得して正しい行動をとる必要がある.ところが,O-157についてはその生態や疫学面,臨床面で不明な点も多く,理解と納得ができにくい面もある.また,チラシなど配布することと,住民に周知したことは違うことに留意しておく必要がある.

高知県中央保健所のO-157啓発活動

著者: 石川善紀

ページ範囲:P.715 - P.716

 5月末の岡山県邑久町の集団食中毒の発生後,6月には国,県から食中毒防止の通達も出,保健所内でもO-157対策の緊急性が認識されるところとなった.

病原性大腸菌O-157感染と保健所—保健所見直し論に対して

著者: 押領司文健

ページ範囲:P.716 - P.718

 厚生省の資料によれば,病原性大腸菌O-157(以下O-157と略)による感染の発生状況には,三つのタイプがあることが分かる.まず,第1には,食中毒として届けられたもので,この中には,大阪府堺市,岐阜市,岡山県邑久市や新見市などが含まれ,当然規模の大きい事例が多い.ついで,第2のタイプとして,食中毒の疑いとして報告されているものがあり,さらに,各地から散発例として報告されている第3のタイプが続く.
 福岡市はこの分け方に従うと,食中毒の疑い例と散発例があり,タイプとしては,第2あるいは第3のものとなるが,,当初から,医療機関と積極的に連携して介入し,その結果,感染の拡大防止に成功したと考えられる.ここにその概要を報告して,併せて保健所のあり方や役割について,現状を問い直してみたい.

保健所における腸管出血性大腸菌O-157に関する住民への広報とその重要性について

著者: 出口安裕 ,   大塚順子

ページ範囲:P.718 - P.720

 病原性大腸菌O-157による食中毒が本年の5月より各地で問題となり,残念なことに大阪府においてもこれによる食中毒患者が6月以降発生した.病原性大腸菌O-157は産生するベロ毒素により,出血性大腸炎を起こし,時に溶血性尿毒症症候群(HUS)や血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)により腎臓や脳などに重篤な症状を引き起こす1).また,比較的少量の菌により感染発症が成立するので2),感染に対する予防が大切である.保健所は地域における公衆衛生の中心機関として,管内における公衆衛生の向上および増進に関して重要な業務を担っているが,病原性大腸菌O-157感染症に対しても,その感染対策などの視点に加えて,健康相談,健康教育,訪問指導などの保健指導をとおして,住民に対し正しい知識と予防などの指導や広報などを通じての啓蒙を行うことが,大切であることは,上記の腸管出血性大腸菌感染症の特徴をみても論をまたない点である.
 つまり①個のケースとのかかわりにおける2次感染の予防,②一般的な広報啓発活動,③各関係機関と連携をもった保健行政機関としての対応である.

埼玉県での対応

著者: 本多麻夫

ページ範囲:P.720 - P.722

 埼玉県では一連のO-157事件の対策として「埼玉県O-157感染予防対策チーム」を発足させるとともに「県内全保健所に相談窓口を設置」し,集団的な予防対策の徹底を図ってるところです.
 こういった対策を中心に,埼玉県の対応についてお話します.

60巻記念シリーズ・21世紀へのメッセージ

看護学教育の変革への期待

著者: 平山朝子

ページ範囲:P.678 - P.679

 目前に迫った次世紀への移行に向けて記すこととなったが,せっかくいただいた誌面なので,表題について述べたい.

視点

保健所長は医師でなくてよいか

著者: 重松逸造

ページ範囲:P.680 - P.681

 標記のテーマが,今や保健・医療関係者の間でホットな話題の一つになっていることは周知のとおりだが,この問題に関する筆者の視点を述べる前に,その経緯を簡単に振り返っておきたい.
 地方分権推進法は,1995年5月に国会で成立,公布されたが,同年7月には地方分権推進委員会(委員長:諸井虔日経連副会長)が発足し,同年10月には専門的な調査検討を行う目的で2部会が設置された.その一つがくらしづくり部会(部会長:大森彌東大教授)で,厚生省の所掌分野はこの部会の担当となっており,本年(1996年)3月29日内閣総理大臣宛に提出された中間報告「くらしづくりと自治の充実をめざして」では,「地方分権を推進するためには,福祉事務所の所長及び職員の専任規定と,保健所長の医師資格規制を廃止する,という方向で引き続き検討する」とした.

連載 市町村保健活動と保健婦

<座談会>健康福祉の町づくりにおける保健婦の活動—兵庫県五色町・4—働き盛りの壮年期の事業

著者: 新家昌子 ,   高田利子 ,   小川みどり ,   吉田朝美 ,   坂口真智子 ,   北川公美 ,   松浦尊麿

ページ範囲:P.723 - P.726

 松浦それでは次に働き盛りの壮年期に移ります(表2).ここでは特に健診事業および,その事後指導,健康教育の3点に絞って話を進めます.

都道府県医師会の公衆衛生活動

滋賀県医師会の公衆衛生活動

著者: 山中孟

ページ範囲:P.728 - P.729

 滋賀県の総面積は4,016平方ロメートルで,その中央の約6分の1を琵琶湖が占め,県の周囲は山地で大きな盆地を形成している.県内には鉄道・道路とも主要な幹線が走り,交通網には比較的恵まれているので,県都大津へは県内各地からおよそ1時間半以内で到達し得る.平成6年10月の人口は約127万人であるが,人口伸び率は全国第4位である.
 滋賀県医師会は平成8年5月現在全会員数1,527名,内開業会員数627名である.県医師会執行部は11事業部制をとり,常任理事が各部長職に就いている.さらに11地区2職域の各医師会長がすべて理事であるので,毎月の定例理事会を通じ県医師会と各地区職域医師会との意志疎通・連携は円滑にできる.

地域口腔保健—歯科医師会の実践

沖縄県歯科医師会の活動

著者: 真境名由守

ページ範囲:P.730 - P.731

 沖縄県においては,公衆衛生の仕事は従来から行われてきた.県民への啓蒙活動として,歯の衛生週間に行われろデンタルフェア.事業所健診,県庁健診,学校健診,成人健診,1歳半健診などの健診業務,新規に参入してきた在宅医療,モデル地区に指定された8020運動推進,歯っぴーファミリー劇場などが行われている.また,学校歯科のほうで行っている図画ポスター展,口腔衛生センターで行っている障害者歯科治療,休日救急診療などもある.

活動レポート 長崎県琴海町の保健福祉計画の策定とケアマネジメントの展開・5

具体的展開としてのケアマネジメントの考え方

著者: 森俊介

ページ範囲:P.732 - P.735

琴海町におけるケアマネジメントの基本的考え方
 ケアマネジメントの具体的な方法については,どの町でも苦労されていると思う.今まで述べてきたように,われわれの町でも手探りはあったが,昭和62年から保健,医療,福祉の関係者が「ケアカンファレンス」と称して,定期的に在宅のお年寄り,障害者,退院の近い患者さんに対して処遇会議を開催していた.しかし,在宅介護支援センターの開設後,ここを要とするシステムを試行することにより,それまで以上に3者の連絡がスムーズにとれるようになった.クライエントにとっても1回の相談で,しかも短期間で問題の解決がしてもらえるようになったと好評であった.このことが評価されたのか,平成5年に長崎県より,どこの町にでも普遍化できる「保健,医療,福祉の連携」の方法を答申するようにとの依頼があった.2年間のディスカッションと試行の末「保健・医療・福祉連携推進モデル事業報告書」として,平成7年2月に答申した.この報告書はわれわれの町でのやり方であり,すべての町に普遍化できるとはとても思えないが,それぞれの自治体が,独自の方法も編み出すためのヒントになり得ると考えている.

住民参加型の保健活動・3

八千代市の母子保健活動

著者: 岩永俊博

ページ範囲:P.736 - P.740

母子保健推進員との話し合い
 さて,八千代市では,母子保健活動の見直しを,地域での問題を捜し出し,それを解決していくという展開ではなく,まず地域の理想の姿としての目的を設定し,それを実現するための条件を考え,その条件を満たしていくために何をすべきかを明らかにするという展開方法でやっていこうと決めた.もちろん,それは簡単に決まったのではなく,それまで自分たちで感じてきたこれまでの活動展開への疑問や,新たに学んだ展開方法への期待を,職員間で話し合うことによって,とりあえずやってみようかという出発であった.
 この展開では,まず,話し合いに参加している人たちが,それぞれのイメージする目的を,住民の暮らしの姿として表現し,それを出し合うところから始める.つまり,目的を抽象的な表現としてではなく,実現したい住民のより良い暮らしの姿として表現する.例えば,八千代市の母子保健では,「八千代に住む1歳から2歳の子どもとそのお母さんが,どんな暮らしができたらいいか」ということで,話し合いを始めた.ここで,「1歳から2歳の」と限定したのは,単にイメージを出しやすくするためで,他に意味はない.まず,保健センターの職員での話し合いが始まった.職員が4〜5人ずつに分かれ,それぞれに,八千代市での子どもと母親の姿を話し合い始めた.

調査報告

基本健康診査におけるHBs抗原・HCV抗体検査の必要性について—肝癌対策としてのHBs抗原・HCV抗体検査の意義

著者: 重藤和弘 ,   岡上武 ,   岩井眞樹 ,   能登直

ページ範囲:P.743 - P.747

 本邦において肝癌は平成4年で全がん死の11.6%を占め,部位別の第4位1)となっており,早期診断を含めた早急な対策が求められている.
 しかし,原発性肝細胞癌(以下「HCC」とする)は患者の95%以上において,B型肝炎ウイルス(以下「HBV」とする)およびC型肝炎ウイルス(以下「HCV」とする)が陽性の肝硬変患者や慢性肝炎患者に発症することから,肝癌対策としては,老人保健法に取り入れられた胃癌検診,肺癌検診,大腸癌検診などのように,地域住民すべてを対象とし,癌の早期発見を目指した方法にはなじみにくいと考えられる.

タイ北部におけるNGOによるエイズ対策

著者: 大森絹子

ページ範囲:P.748 - P.753

 男性同性愛者の最初のエイズ症例が,1984年にタイ国内で報告されて後,HIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染者とエイズ患者は,麻薬注射の回しうちによる麻薬常用者間で広がり,次に売春婦の間で,次いで買春行為も含めた不特定多数との無防備な異性間性的接触者の間で急激に増加した.そして遂に,1992年ごろより彼らの配偶者や母親から感染した子どもたちへと急激に増加しつつある.
 西暦2000年には,タイ国内で300万人から400万人のHIV感染者が予測され,そのうち女性感染者が50%を超えるとされている.タイ国北部6県(チェンマイ,メェホンソン,チェンライ,ランパン,ランプン,パヤオ)の人口は,タイ総人口(5,800万人)の僅か10%であるが,タイ全体のエイズ患者の50%を占めており1),エイズ問題は深刻である.

保健行政スコープ

標榜診療科名について

著者: 関山昌人

ページ範囲:P.754 - P.755

 医療機関が広告することができる診療科名(以下「標榜診療科名」という)は,昭和53年に追加されて以来,十数年ぶりに5診療科名が追加され,本年9月1日からそれらの診療科名を標榜することが可能となった.標榜診療科名の意義などについてご紹介したい.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら