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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生60巻11号

1996年11月発行

雑誌目次

特集 産業精神保健

産業精神保健入門

著者: 加藤正明

ページ範囲:P.762 - P.765

 産業精神保健(occupational mental health)は,企業における健康管理の一環として,職場における精神および行動障害の予防,早期発見と早期治療,リハビリテーションを行うため,産業医,産業精神科医,産業保健婦および看護婦,産業カウンセラー,心理技術者,ソーシャルワーカー,人事,労務,厚生担当者などのチームワークによって,精神疾患の1次,2次,3次予防のみならず,産業従事者全体のアクティブ・メンタルヘルスによる精神健康の保持・向上を目的としている.
 作業関連疾患の予防に関しては,労働省のトータル・ヘルス・プロモーション・プラン(THP)を中心に各種疾患について行われてきたが,急激な技術革新,バブルの崩壊後の企業のリストラ,国際経済状況の変化などに伴い,産業における労働者の心身のストレスによるストレス関連障害を引き起こしているが,そのストレスマネジメントをいかに進めるかが大きな課題となっている.

産業精神保健の最近の話題

著者: 島悟

ページ範囲:P.766 - P.770

 周知のように職域における健康管理は,第二次大戦後当時蔓延していた結核対策から始まり,その後は産業の急速な復興過程の中で,職場で発生する有害物質や,使用する有害物質の暴露による中毒性障害が重要な課題であった.
 高度成長は様々な歪みをもたらし,公害や自然破壊などの深刻な問題をもたらしたが,国民の生活水準は上がり,栄養状態や医療水準の向上に伴い,平均寿命は著しく延長した.しかし一方では高血圧症,糖尿病,虚血性心疾患,さらには悪性腫瘍などの中高年者にみられる身体疾患が増加し,職域においても,こうした疾病への対策が主要な課題となった.

働く女性のメンタルヘルス

著者: 柴田洋子

ページ範囲:P.771 - P.774

 本年(1996年)2月,日本産業保健学会ならびに日本ストレス学会の共催による「働く女性のストレス」と題するシンポジウムの司会をする機会を得た.その内容は別に公表されるはずであるが,ともかく「男女雇用機会均等法」が施行されて10年を経ている間にいろいろな視点からの問題が顕在化してきて,この法律の見直し作業が行われている.本稿ではメンタルヘルスを妨げるものについて考えてみたい.

職場の精神保健相談

著者: 中村豊

ページ範囲:P.775 - P.778

はじめに—筆者の立場
 過去40年間,九州一円を管轄する電力事業体(現在従業員:約15,000人)の,精神保健を担当する健康管理医として,筆者は今までに約1,100例の精神保健相談を受け止めてきた.その大部分は相談者の上司や,産業医,保健婦,衛生担当者など,職場の健康管理関係者の紹介によるものであった.これに対し,相談者本人,あるいはその家族,つまり本人サイドから,直接問題を提起される例は,まれであった.
 このような,産業精神科医としての筆者の経験を基にして,以下,精神科医でない職場関係者が精神保健の問題や,その問題に悩む本人にかかわる際の留意点につき,述べていきたい.

職場と地域の精神保健医療ネットワーク

著者: 大西守 ,   吉成朋子

ページ範囲:P.779 - P.782

「職場における精神保健医療ネットワークに関する検討委員会」の開催
 「日本産業精神保健学会」の前身である「産業精神保健研究会」では,研究活動の一環として,職場のメンタルヘルスに関する医療ネットワークの研究を進めてきた.具体的には,平成3年度より「職場における精神保健医療ネットワークに関する検討委員会」が組織され今日に至っている.
 検討委員会の構成は若干の変更があるが,平成6年度においては笠原嘉委員(藤田保健衛生大学精神科教授)を座長に,24名の委員で構成された(表1).また,この検討委員会のオブザーバーとして当初より厚生省,労働省,人事院の担当者の参加が得られ,貴重なご教授をいただいている.

欧米の産業精神保健

著者: 原谷隆史 ,   藤田定

ページ範囲:P.783 - P.785

産業精神保健の国際動向
 最近,産業精神保健は欧米においても極めて重要な課題となってきており,会議や出版が多く行われている.まず産業精神保健に関する国際動向を簡単に紹介する.
 国際労働事務局(International Labour Office:ILO)では,ストレスを労働衛生における重要な健康問題として認め,これまでにも職業安全保健シリーズなどでストレスや心理社会的要因を課題として取り上げ出版してきた.最近では,1992年のConditions of Work Digestで職場のストレス予防の特集を組んだ1).その中で19のストレス予防の事例研究が9カ国(アメリカ,スウェーデン,ドイツ,イギリス,イタリア,カナダ,メキシコ,日本,インド)から報告され,個人に対する対策よりも労働環境や作業の改善のほうが効果的であったことが示された.

産業精神保健活動の新しい展開—事業場におけるメンタルヘルスに関する取り組みを中心に

著者: 山田隆良

ページ範囲:P.786 - P.789

 労働者が職業生活を通じて心身ともに健康で能力を十分に発揮できることは,労働者のみならず事業者にとっても重要である.
 近年,高齢化の進展などに伴い,健康診断における有所見率が上昇している.一方,産業構造の変化,技術革新の進展などによる労働態様の変化などに伴い,仕事や職場生活でストレスなどを感じる労働者が増加している.このため,職場におけるメンタルヘルス対策の推進が課題となっている.

60巻記念シリーズ・21世紀へのメッセージ

新しい地域保健の枠組みづくりのために

著者: 北川定謙

ページ範囲:P.758 - P.759

20世紀のまとめ
 今,われわれは20世紀の最終の時点にあり,21世紀を目前に控えて感概深いものがある.
 20世紀は何と変化の激しい激動の世紀であったかと,しみじみと振り返ってみる.日本についてみれば20世紀は明治34年(1901)に始まったということになる.近代国家体制づくりを進める中で,国際的には戦争の連続の時代であった.

視点

保健所長は医師でなくてよいか

著者: 小町喜男

ページ範囲:P.760 - P.761

 「保健所長は医師でなくてもよいのではないか」という問いかけには,長年,保健所とともに地域の保健・医療の問題,環境衛生を含む公衆衛生的な諸問題に取り組んできたわれわれにとっては,「どうしてそのように考えることができるのだろうか」と不思議な気さえする.
 なるほど,結核をはじめとする感染症の全盛時代に比べれば,保健所の活躍は地味で,一般の人には保健・医療にどう貢献しているのか分かりづらい状況にある.その上,昔に比べて保健所の仕事は多様化し,直接の医療行為よりも,縁の下の力持ち的な各種関係機関の連絡調整的な仕事が多くなった.そのため,保健所長の仕事は保健・医療の専門的,技術的な仕事よりも中間行政的な事務処理の仕事が多いように見えるかも知れない.

連載 疾病対策の構造

地方衛生研究所の未来(2)—疾病対策の論理

著者: 倉科周介

ページ範囲:P.792 - P.794

 わが国の平均寿命が世界の首位に立ってから10年になる.“早すぎる死”が減って“死の質”は大幅に改善された.歓迎される事態のはずなのに,それを評価する声は必ずしも高くない.評価指標が適切でないのか,理解の不足なのか,このあたりの食い違いを整理しておかないと,話しは先に進まないような気がする.理性的な疾病対策を組み立てるには,認識の整地作業が必要なのだ.重機を使った本格的な工事とまでは欲張らないが,敷地の草取りか,掃き掃除程度の役に立てば幸いである.

地域口腔保健—歯科医師会の実践

長野県歯科医師会の歯科保健活動

著者: 樋口富一

ページ範囲:P.795 - P.796

 長野県歯科医師会は全県的な視野に立って,県民の歯・口腔の健康と維持,疾病予防などの事業の計画を立案し,地域口腔保健の直接の活動は各郡市歯科医師会または長野県歯科医師会と郡市歯科医師会と協力して行われている.長野県,有識者,関係団体,長野県歯科医師会の代表者により構成されている労働歯科保健委員会と障害者歯科保健委員会があり,これらの委員会で必要な調査,連絡,調整などを行い,また大会や研修会を企画し,それぞれの歯科保健事業の推進に努めている.
 長野県歯科医師会の公衆保健活動は学校歯科保健,成人歯科保健,障害者歯科保健,高齢者歯科保健,各種大会の開催と大別できる.それぞれの項目について記述する.

市町村保健活動と保健婦

<座談会>健康福祉の町づくりにおける保健婦の活動—兵庫県五色町・5—高齢者のケアの課題

著者: 新家昌子 ,   高田利子 ,   小川みどり ,   吉田朝美 ,   森香苗 ,   坂口真智子 ,   北川公美 ,   松浦尊麿

ページ範囲:P.798 - P.803

老年期の三つの事業
 松浦 今回は高齢者を対象にした事業について話し合いますが,まず,その現状と問題点などをご紹介いただけますか.
 新家 福祉の立場から,事業の現状を簡単に紹介します(表3).

活動レポート

パソコンを使った保健・医療統計情報の管理

著者: 大辻哲夫 ,   高岡道雄 ,   吉村幸男 ,   広瀬敏秀

ページ範囲:P.809 - P.812

 保健計画の策定や保健事業の科学的な推進のためには,保健・医療などにかかる統計情報の管理,分析がどうしても必要となる.
 この度,これらの情報をパソコンを使って比較的容易に管理(作成,項目や地区の検索,グラフ化など)するシステムを開発したので紹介したい.

長崎県琴海町の保健福祉計画の策定とケアマネジメントの展開・6

問題点と課題

著者: 森俊介

ページ範囲:P.806 - P.808

 今まで5回にわたり,琴海町での試みについて述べさせていただいた.
 要は,①家族の介護力が低下している現在,老人介護は家族のみでは限界があり,地域社会で見てゆくしかないとの認識に立ち,在宅に固執することなく,施設をうまく利用することが肝要である.②地域社会では「どのように,お年寄りを看取りたいのか」,そして自分たちが,「どのような地域で死にたいのか」などの基本理念を作り上げ,その理念に基づき,10年,20年,30年という長期展望に立って,人的および社会的資源を蓄積してゆかねばならない.③少ない社会資源を有効に利用するためには,新しい概念で,「保健・医療・福祉の連携」を捕らえ直す必要がある.新しい「連携」の概念に基づいたシステムとは,保健,医療,福祉の3者に住民(ボランティア),当事者(患者本人あるいは家族)を加えた5者によるケア会議を定期的に開催し,この5者が時間的にも空間的にも同時にお年寄りを支えるという「おみこし」方式による支援体勢を構築することである.④地域住民は,すべてを行政に頼るのではなく,一人一人が自分たちに何ができるかを考えながら,行政とともに地域を作り上げる気概が必要である.⑤行政側は,住民の意見を真摯に取り入れる姿勢とシステムを持っていなければならない.ということを強調したかった.今回は,この間の運動を振り返って,いくつかの課題と将来展望について述べてみたい.

調査報告

在宅脳卒中後片麻痺者の自立度と介護者の負担との関係

著者: 日高正巳 ,   池田耕二 ,   武政誠一 ,   嶋田智明

ページ範囲:P.814 - P.817

高齢化の進行に伴い,在宅での寝たきり老人の増加が問題となっている.厚生省が平成元年12月に発表した「高齢者保健福祉推進10か年戦略」いわゆるゴールドプランの中に,寝たきり老人ゼロ作戦がある.この作戦誕生の背景には,単に長生きするだけでなくいかに人間らしく生きるか,その生活の質を問題とするようになったこと,さらに保健・医療はもとより福祉対策の面からも総合的に老人の日常生活動作(以下ADLと略す)能力の維持・向上を図ることにある1).しかしながら,現在の在宅高齢障害者に対する対策は,家族を介護者として組み込んで考えているものがほとんどであり,家族の存在抜きにしては成り立たない.また,介護力の低下は,在宅高齢障害者のADLの自立を阻害する一因子である.そのため障害者に対する対策とともに,介護者に対する対策も実施しなければ,在宅介護の継続が困難となる可能性が高い2).われわれは,これまでに病院や施設を退院・退所し在宅に戻った障害者に対し,そのADL能力がどのように変化しているのか,ADLの自立を阻害しているものは何かなどについて研究を進めてきた3,4)
 今回,在宅脳卒中後片麻痺者の実態を把握するとともに,介護者の負担を踏まえた援助活動を実施する参考のため,在宅脳卒中後片麻痺者を対象に訪問調査を実施した.その結果を介護者の負担を中心に分析し,介護者の負担と在宅脳卒中後片麻痺者の自立度との関係について,検討を加えたので報告する.

40・50歳の節目の都市住民における検診受診の状況

著者: 中西範幸 ,   坪田啓二 ,   坪井久男 ,   浅井ひろ子

ページ範囲:P.818 - P.823

 高齢者人口の増加にともない,心臓病,脳卒中などの循環系疾患の患者数は過去10年の問に5割増加し,循環系疾患での一般診療医療費は平成4年度には4兆8,392億円(総一般診療医療費の23.8%)に達している1).また新生物の一般診療医療費も2兆728億円(同10.2%)を示し,循環系疾患と新生物の一般診療医療費は総一般診療医療費の3分の1を占めており,こうした患者や医療費の増加は社会的,経済的にも重大な損失となっている.
 これらの課題に緊急に対応するために,平成4年4月に厚生省から通知された老人保健事業第3次8カ年計画では各健康診査の受診率の当面の目標が示され,保健事業実施要領(老健第86号)の中では基本健診診査とがん検診の推進を目指して総合健康診査が提唱された.これは40歳および50歳の節目に当たる者のうち,希望する者に対して基本健康診査(尿酸と総蛋白の検査を追加)とがん検診(大腸がん検診は,必要と認めた者に直腸鏡検査を実施)を同時に実施するものである.

長距離トラック運転手のライフスタイル

著者: 井奈波良一 ,   小野桂子 ,   鷲野嘉映 ,   岩田弘敏

ページ範囲:P.824 - P.827

 路面輸送労働の労働条件は,従来から長時間労働,不規則労働のみならず労働環境条件そのものも排気ガス,事故の危険などでよくないことが特色であるといわれている1).しかし,その現状はよくわかっていない.そこで筆者らは,路面輸送労働者のなかで夜間勤務の長距離トラック運転手の安全・衛生に関する研究に着手した2)
 近年,栄養,運動,休養などの日常のライフスタイルが,主要な成人病の発症や主観的な健康に大きな影響を与えることが明らかとなり,職域ではこれに基づいた健康づくりがトータルヘルスプロモーションプラン(THP)によって展開されている.そこで,今回,長距離トラック運転手の健康づくりに役立てるため,そのライフスタイルについて調査し,年代別の比較検討を行ったので報告する.

報告

女性とエイズ

著者: 兵藤智佳

ページ範囲:P.828 - P.830

 現在,世界のエイズの問題は同性間よりも異性間の性行為による感染が深刻化している.とくに,東南アジア,アフリカなど感染者の数が近年急激に増加している地域では女性のHIV感染の割合が増えつつあり,その対策が急務である.
 「女性とエイズ」という議論の中では「Commercial Sex Workers(売春婦,以下CSW)」の感染に関する議論が積極的に行われてきた歴史的な経緯があるが,現在,女性のHIV感染は夫や恋人といった特定のパートナーからの感染が主となりつつある.世界各地ですでにエイズは「一般の家庭」の中に存在している.エイズは不特定多数の人と性行為を行う女性だけの問題ではない.それは性行為を行うすべての女性の問題である.

保健行政スコープ

国際標準化機構(ISO)による労働安全衛生管理システムの提案

著者: 三宅智

ページ範囲:P.833 - P.835

国際的な新たな動き
 労働安全をめぐる国際的な新しい動きとして,国際標準化機構(ISO:International Organization for Standardization)による労働安全衛生管理システム(OHSMS:Occupational Health and Safety Management System)の提案が注日を集めている.労働安全衛生が置かれている国際的な状況として,経済,産業のグローバル化,自由化,競争の激化といった背景や新たな化学物質の開発,情報化の進展といった状況の一方で,規制緩和の流れ,中小企業における労働安全衛生問題の重要性の増加など,労働者の安全衛生への対応も新たな局面を迎えており,とくに,アジアを中心とした経済発展,工業化が著しい開発途上国において,先進国が経験した職業病や労働災害の発生といった過ちが繰り返されないための取り組みの必要性が求められている.このような状況の下で,ISOは労働安全衛生に関する標準規定(スタンダード)の作成準備を進めている.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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