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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生60巻12号

1996年12月発行

雑誌目次

特集 小児期の成人病

小児期からの成人病予防について—その現状と今後の課題

著者: 村田光範

ページ範囲:P.842 - P.844

ライフスタイルと健康障害
 第二次世界大戦が終わって50年あまりが過ぎたが,その間わが国は急速な社会的,経済的な発展を遂げ,そして,現在では飽食の時代といわれる豊かで,平和で,自由な生活を享受できる時代になった.このような生活状況の変化は,病気についても大きな変化をもたらした.それまで猛威を振るっていた結核は昭和25年を峠に減少傾向を示し,厚生省は結核にとって代わる厚生行政上の対策として昭和31年に「成人病予防対策協議会」を設け,このとき成人病という言葉が使われたのである.そのころのわが国の3大死因であった脳血管疾患,悪性新生物,心疾患に加えて,悪性でない新生物,高血圧性疾患,精神病を伴わない老衰を成人病としたが,その後,昭和46年にWHOの世界保健デーの目標にちなんで糖尿病が加えられた.したがって成人病という言葉はかなり明確な病気を指しているのである.
 成人病という言葉であるが,これを英語に直訳すると“adult disease”ということになる.このような用語を英語圏の文献でかつては見たことがなかった.ところが最近出版された“Textbook of Pediatric Nutrition, 3rd ed.”に“Childhood Diet and Adult Disease”1)という章があり,この中でadult diseaseとは表1に示したものを挙げている.これを見ると,わが国でいう成人病とほぼ同じ概念でadult diseaseを捉えているといってよいであろう.

小児期の成人病の疫学

著者: 遠藤和男 ,   園田裕久

ページ範囲:P.845 - P.849

 小児期の成人病といっても様々な疾患が想定されるが,本編ではその中核をなしていると思われる,①肥満,②若年性高血圧(未だに高血圧症とは言いがたい)および③脂質高値(HDLコレステロール低値)について,とくに親子関係や遺伝を中心とした記述疫学について述べることにする.それぞれの病態は複雑にからみ合っており,増悪因子も共通と考えられる場合が多いので,上述した3疾患の相互関係や,進展にあたっての増悪因子について図1に示した.

自治体での小児期の成人病対策

著者: 住友眞佐美

ページ範囲:P.850 - P.853

 成人病は日常の生活習慣・食習慣の影響を大きく受けており,近年では,小児期から成人病の危険因子が数多く見られる子や,すでに成人病を発症している者もいる1)
 厚生省では,平成2年6月の健康政策局長通知「地域保健活動の充実強化について」の中で,各自治体で就学前の幼児とその親を対象とした「小児肥満予防教室」を実施するよう求めており,すでに取り組みを始めている地域も多い.

保健所活動としての小児期の成人病対策

著者: 佐藤拓代

ページ範囲:P.854 - P.858

 小児期からの成人病の危険因子である肥満の子どもが増加しており,大阪府における小学生の肥満児は,平成6年度の学校保健統計によると,男児は約1.3倍,女児は約1.5倍と全国平均を上回っている.肥満の成立には遺伝因子に加え,環境因子も重要な役割を果たしていると考えられており,基本的には摂取エネルギーを減らし,消費エネルギーを上げること,つまり食事療法と,運動療法が中心になる.小児の場合は成長期であるので厳格な食事制限は行わず,体重の減少より肥満度の軽減に重点を置くべきである.また,子どもと保護者が共通理解を持つように内容を工夫し,関係機関の連携のもとの取り組みが必要である.

小児期の成人病の生活指導

著者: 羽崎泰男

ページ範囲:P.859 - P.863

 今年の夏はアトランタで200力国近い国が参加して盛大にオリンピックが開かれ,サッカー,野球,柔道やあまり知られていないヨットなど日本の活躍に一喜一憂した.人間の限界に挑戦していくからだや動きというのは実に調和の取れた美しいもので,見ているわれわれを魅了させる.連日,テレビに釘付けになった人たちも多かったのではないだろうか.一方,多くのスポーツ種目が展開され,それぞれの持ち味に興味をいだいたり,なんと人間のからだというのは個性的なのだろうと感じたりもした.同じ陸上走競技でもマラソンと短距離のランナーの違い,跳躍競技の幅跳びと高跳びの違いなど人間の体型は個性ではあるものの,「動きの質」に大きな影響を与えることに間違いないようである.
 さて,このすばらしい映像を部屋でごろんと横になり,手元に置かれたお菓子を食べてはジュースなどで流し込んでいるような子どもたちもいたのではないだろうか.夏休みという絶好の条件の中,オリンピック観戦を口実に部屋の中での生活が主となるのは,皮肉なことである.

小中学生における小児期の成人病対策

著者: 坂本元子

ページ範囲:P.864 - P.868

 子どもをめぐる健康問題の中でも,肥満,高脂血症,高血圧,さらには糖尿病の増加は大きな社会問題として認められつつあり,学校や地域社会がこの問題の対策に動き始めている.このような慢性疾患の多くは,日常生活,とくに食事の不規則さや偏りといった要因がもとになっているとされている.経済成長に伴い,西欧型の食生活や都市型の生活を享受することができるようになり,その生活習慣はいまや都市・農村を問わず浸透している.このことは一方で,こうした生活・食環境では,すべての子どもが同じように慢性疾患にかかる危険性をもっていると考えることができる.
 慢性疾患の病変がすでに小児期から始まっていると憂慮しはじめたのはアメリカで,小児期からの成人病の重要性が1970年代のThe Bogalusa Heart Study1,2),で明らかにされ,その他の地域の報告でも指摘されている3).動脈硬化の発症については,成人では多価不飽和脂肪酸の摂取はコレステロールやLDL・HDLコレステロール値と負の相関を示しているという報告や,小児期からの高コレステロール食の摂取は大動脈のエステル型コレステロールの酵素活性に変化をもたらすなど,食事性の影響が高いことが示唆されている4)

新しい地域保健体制における小児期からの健康的なライフスタイルの確立について

著者: 福渡靖 ,   西田美佐

ページ範囲:P.869 - P.873

 成人病様変化が低年齢層に広がりつつあることが懸念され始めてから既に相当期間が経過している.わが国の小児,幼児・学童における健康指標をみると,学童期の肥満傾向の子どもの増加がみられている.最近10年間の学校保健統計調査によると,1983年には,肥満傾向の子どもの割合は,幼稚園0.4%,小学校で1.7%,中学校で1.2%,高等学校で0.8%であったのが,1993年には,幼稚園0.7%,小学校2.6%,中学校1.7%,高等学校1.6%と,それぞれ増加していることが明らかである1).小児期からの成人病様変化,あるいは成人してからの成人病の発症と関係する因子として,小児期の肥満が指摘されている2)
 今回は,小児期のライフスタイルと肥満の状況をまとめ,肥満の発症防止の方策を新しい地域保健体制の中でどのように論じることができるのかを考察することとした.

60巻記念シリーズ・21世紀へのメッセージ

医学と政治

著者: 高桑栄松

ページ範囲:P.838 - P.839

 筆者は研究者としての現役を離れてから13年が過ぎた.今さら「21世紀へのメッセージ」というテーマで一言するのはおこがましいと思うのです.しかし国会議員としての経験が何かお役に立つことがあればと考えて,あえて筆をとることに致しました.筆者の個人的なかかわりが多いことをご寛容ください.
 筆者は1983年7月に皆様のご支援により参議院議員に当選し,2期12年間議員を勤めました.ご存じのとおり筆者は昨年3月,第41回衆議院総選挙の北海道ブロック比例代表候補として新進党より推薦を受け公認されました.

視点

保健所長の医師資格について

著者: 大倉慶子

ページ範囲:P.840 - P.841

 平成8年3月15日付で,総理府の地方分権推進委員会から「保健所長の医師資格規制を廃止の方向で引続き検討する」という内容を含んだ中間報告が出された.これに対しさまざまな分野から反対意見や要望書が出され,各方面で議論を呼んでいる.
 与えられたテーマ「保健所長は医師でなくてよいか」について,衛生行政の分野で仕事を続けてきた者の一人として私見を述べてみたい.

連載 疾病対策の構造

地方衛生研究所の未来(3)—疾病対策の基本骨格

著者: 倉科周介

ページ範囲:P.874 - P.876

 疾病対策に奇策はない.病気の本質にしたがって,時代の技術水準と資源に見合った的確な対応を着実に推進するだけのことである.それを支えるのが,正確で冷静な現実認識であることはいうまでもない.正攻法で病気にたち向かうための基本的な方向について,これまでの議論の要点を整理してみよう.

市町村保健活動と保健婦

<座談会>健康福祉の町づくりにおける保健婦の活動—兵庫県五色町・6—ネットワーク化の課題

著者: 新家昌子 ,   高田利子 ,   小川みどり ,   吉田朝美 ,   森香苗 ,   坂口真智子 ,   北川公美 ,   松浦尊麿

ページ範囲:P.877 - P.881

ボランティアとのネットワーク化
 松浦 われわれの町では社会福祉協議会中心のいろいろなボランティアやインフォーマルなネットワーク,それとわれわれの機関での保健・医療・福祉のスタッフが連携したネットワークという2つの形がありますが,ボランティアや地域社会で支え合う活動が育ってこなければ,地域の福祉は公的なサービスだけでは限界があります(図1).
 そこで,この総合センターには民間組織との意思疎通も図りながら一緒にやっていこうという意味で,社会福祉協議会の事務局が入っていますが,その連携はうまくいっていますか.もちろん,社協自身の内部的問題もあるでしょうが.

活動レポート 住民参加型の地域活動・4

福島県大越町の保健活動—地区から始まった保健活動

著者: 黒田裕子 ,   渡部育子 ,   岩永俊博

ページ範囲:P.882 - P.885

 今回は,住民が自分たちで健康な地域はどんな地域かを話し合い,その姿の実現に向けて具体的な活動を始めた大越町白山区の保健活動の事例を紹介する.

調査報告

大阪空港帰国者にみられた海外旅行者下痢症の現状

著者: 森英人 ,   松本泰和 ,   大野良之 ,   本田武司

ページ範囲:P.886 - P.890

 日本人海外旅行者の約半数は,アジア地域への渡航である1).この地域での下痢症罹患は,欧州,北米,豪州への旅行者と比べ極めて多く2,3),とくに南および東南アジアでの下痢症罹患が多い4〜6).しかし,この現状を疫学的に妥当な資料に基づいて検討した例は少ない.過去の検討例4)では,対象集団数(ばく露人口:海外旅行者数)を出入国管理年報1)で把握している.この方法では,複数国渡航の場合でも渡航国は1カ国とされているので,国別旅行者数が過少に計上されるという欠点がある.この欠点を解消するため,今回は帰国検疫時に回収される質問票を使用した.この方法によれば,複数国渡航の場合でも正しく渡航国別に旅行者数(分母)が把握できる.本報告は,こうした方法により旅行者下痢症を検討したもので,本邦で最初の例と考える.

これからの伝染病防疫に望まれる体制—保健所医師らに対する防疫経験のアンケート調査より

著者: 足達淑子 ,   中村良子 ,   横田清

ページ範囲:P.891 - P.894

 伝染病の減少1)により,保健所の医師が防疫業務に従事する機会が著しく減少した.それに伴い,医師の伝染病に関する知識や技量は,その経歴により差が生じていることが推察される.
 一方,全国レベルでは赤痢の集団発生なども散見され2,3),輸入感染症はさらに拡大している4,5).エボラ出血熱2)やコレラの新種6)の発生などでも,行政の迅速かつ的確な対応が要求される新たな時代を迎えている.ところが,平時の防疫体制にかかわらず伝染病の集団発生は予見不可能であり,上記の状況を考えると,保健所の現状が必ずしも十分な体制とは考えにくい.

資料

「障害老人の日常生活自立度(寝たきり度)判定基準」と支障度との関連性についての一考察

著者: 中西範幸 ,   高林弘の ,   楢村裕美 ,   多田羅浩三

ページ範囲:P.895 - P.899

 高齢社会における最大の問題は,地域の全住民が介護に対する「皆リスク」を有することである.こうした背景を受けて,平成6年12月に高齢者介護・自立支援システム研究会が高齢者施策の抜本的な改革案として,「新たな高齢者介護システムの構築を目指して」と題する報告書1)をまとめ,改革の1つの重要な柱として従来の職権措置の手続きにかわる社会保険方式によるケア・マネジメントを提案した.このケア・マネジメントを効果的に運営し,実行性のあるものとするためには,介護リスクの普遍性に対して客観的な健康状態の評価は不可欠の要件となろう.
 本研究は老人の健康状態の具体的な評価に資することを目的に,老人保健福祉計画の策定に際して用いられた「障害老人の日常生活自立度(寝たきり度)判定基準」と支障との関連について検討し,同判定基準の評価を行ったものである.

レポート

旧松尾鉱山鉱毒水に汚染された北上川と清流化対応

著者: 照井晧央

ページ範囲:P.900 - P.905

 わが国における休廃止鉱山は,通産省が把握するもので5,733カ所もあり,その中でヒ素・カドミウムなどの重金属類による蓄積複合汚染鉱害の危険を有するもので一応概略的な調査の終了したものは,3,943カ所といわれている.その中でも旧松尾鉱山鉱害は,ほかの休廃止鉱山とは比較にならないほど大規模で,その鉱害源がもたらした環境破壊も,与えた影響範囲が広域で,質・量と潜在的な危険性も比類のないもので,その鉱害対策も半永久的に必要とされるなど,わが国における特異な鉱害例となっている.
 旧松尾鉱山鉱害は,わが国の休廃止鉱山鉱害の原点ともいわれるように複雑であったために,鉱害への対応が当時の関係鉱害法制度では対応できず,国の5省庁・岩手県・その他の関係諸機関・諸団体などが様々な形で関係せざるを得なかった.国が鉱害対策の推進に直接介入してその対策に関与したことは,休廃止鉱山鉱害においてわが国では初めてであり,国および地方自治体の鉱害行政を大きく変容させ,鉱害関係法制定ならびに改正に大きく寄与するとともに,その先駆的な役割を果たした.

保健行政スコープ

O-157騒動が教えたもの

著者: 丸山浩

ページ範囲:P.906 - P.907

 堺市における集団発生に代表されるO-157などの腸管出血性大腸菌による食中毒の大量発生は,ラッサ熱以来20年ぶりの伝染病予防法第1条第2項に基づく指定(いわゆる指定伝染病),それも初めての限定適用(表1,2参照)ということとなった.
 今回のO-157騒ぎから,学ぶべき点はいろいろあるものと思われるが,その一端にかかわった者の一人として,自省を込めて,その教訓について私見を述べてみたい.

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ページ範囲:P. - P.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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