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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生60巻2号

1996年02月発行

雑誌目次

特集 精神保健福祉法と精神保健活動の新たな視点

障害者基本法の成立と精神障害者福祉

著者: 板山賢治

ページ範囲:P.86 - P.89

 近年,わが国の精神障害者保健福祉の進展には,目覚ましいものがある.
 とりわけ,平成5年12月3日公布の「障害者基本法」および平成7年7月1日公布の「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」の実現は,画期的な意義を有している.

精神保健法から精神保健福祉法へ

著者: 吉田哲彦

ページ範囲:P.90 - P.97

精神保健法から精神保健福祉法へ(図1)
 精神障害者施策については,昭和25年に制定された精神衛生法が昭和62年に「精神保健法」に改正され,精神障害者の人権に配慮した適正な精神医療の確保や,社会復帰の促進を図るための所要の措置が講じられ,また平成5年にはその趣旨をさらに推進する法律改正を行うなど,その推進に努めてきたところである.
 一方,平成5年12月には「障害者基本法」が成立し,精神障害者が身体障害者や精神薄弱者と並んで基本法の対象として明確に位置付けられたことなどを踏まえ,精神障害者に対しこれまでの保健医療対策に加え,福祉施策を明確に位置付けて積極的に推進していくことが求められた.

精神保健センターから精神保健福祉センターへ

著者: 相澤宏邦

ページ範囲:P.98 - P.101

 7月1日から新しい「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」(以下精神保健福祉法)が一部を除いて施行された.この法律は平成5年に成立した「障害者基本法」が精神障害者を含めた法律として,第2条に規定された「障害者とは,身体障害,精神薄弱又は精神障害があるため,長期にわたり日常生活又は社会生活に相当な制限を受けるものをいう」を受けるとともに,平成5年の改正時の衆参両議院の付帯決議の早期実現を期して成立したものである.しかし,厚生省は最近になって,来年度予算編成に向けてその財源確保のために医療費の公費負担を保険優先に変えることによって,その差額を特に社会復帰対策費に振り向けるという意味も含まれていると説明するようになった.
 しかし,この改正がかなり性急なものであったためにでき上がったものにかなりの問題点も浮かび上がってきたことも否めない事実である.編集者から本稿に要求された精神保健福祉センターの福祉業務についてもその一つである.したがって,本稿ではこの新しい法律に則って業務を遂行する立場から,大きく変わった点は何か,そこに含まれる問題点は何か,この法で言われている福祉的業務とは何か,精神保健福祉センターに期待されているものは何か,それを現在の精神保健福祉センターで実現できるものか,について論を進めたい.

保健所の精神保健活動の現状と今後—政令市保健所長の立場から

著者: 金田治也

ページ範囲:P.102 - P.106

 政令市保健所は「ゆりかごから墓場」までの多角的,多種類の問題にかかわらざるを得ない状況にあるが,地域保健法の登場に続いて精神保健法の改正が行われ,精神保健における役割も一段と強化されることとなった.政令市尼崎市の精神保健事業の現状をモデルに保健所における今後の精神保健事業のあり方を考えてみたい.

保健所の精神保健活動の現状と今後—保健婦の立場から

著者: 小川田鶴子

ページ範囲:P.107 - P.111

 1965年(昭和40年)精神衛生法の改正で保健所業務の中に精神衛生が加わり,30年が経過した.精神病院収容主義の時代から,入院患者の人権保護と社会復帰の推進の時代を経て,精神障害者の自立と社会参加の促進の援助が新たにつけ加えられた.
 昭和40年までは保健所保健婦は結核,成人母子保健業務が中心であった.昭和41年から精神衛生相談員が全国に232名,東京都では68保健所のうち12保健所に1名ずつ配置された.相談員がいない保健所では保健婦が,相談訪問業務に携わりながら,昭和45年から始まった精神衛生相談員資格取得講習会に参加するようになり,精神衛生業務に携わる保健婦は年々増加してきた.

市町村の活動に期待する

著者: 竹島正

ページ範囲:P.112 - P.116

 精神保健法は精神保健および精神障害者福祉に関する法律(略称精神保健福祉法)に改正された.この改正によって,国および地方公共団体は,精神障害者等の医療および福祉に関する施策を総合的に実施することによって,精神障害者などが社会復帰をし,自立と社会経済活動への参加をすることができるよう努力することとされた(第2条国及び地方公共団体の義務).
 これまでの「社会生活に適応するよう努力する」(旧法 第2条)に比べ,国および地方公共団体の役割がより明確に示され,精神障害者の主体性尊重が読みとれる表現となった.しかし,それを進める具体的な方策を欠くならば,「絵にかいた餅」になりかねない.

精神保健福祉法改正の評価をめぐって—民間施設の立場から

著者: 東雄司

ページ範囲:P.117 - P.120

 精神障害の一当事者から最近,「日本の精神障害者には精神病に,しかもこの国で患う二重の不幸があると呉秀三が嘆いた明治時代の状況は今日でも何ら変わっていない.だから三重の不幸を背負っている.」と怒りに似た声を聞いた.隔離収容主義という精神医療に対する国際批判に対応し,1987年には精神保健法が改正され,ようやく社会復帰体制づくりが始まったが,1993年には一部見直しがあったとはいえ趣旨としては精神医療の域内にとどまるものであった.同年12月に精神障害者が障害者基本法の対象として明確になったことにより,精神障害者の福祉施策が飛躍的に前進するだろうという期待は大きかった.今回,精神保健および精神障害者福祉に関する法(略称,精神保健福祉法)として,福祉という名をのせての法改正はわが国における精神障害者の処遇を一歩前進させるものとして,日本精神病院協会や全国精神障害者家族連合会などからは基本的に歓迎されているが,全国共同作業所全国連絡会など福祉関係者からは前向きの評価をほとんど受けていない.医科大学の教授職から転じて今では精神障害者の地域生活を支援するための一民間施設に関係することになった筆者には,新法に対する福祉関係者のこうしたネガティブな態度はよく理解できるところである.その理由は今回の法改正の意図は精神医療公費負担を医療保険に肩代わりさせることにあったことからまず意気をそがれたことにもよる.

精神保健福祉法改正の評価をめぐって—民間病院の立場から

著者: 仙波恒雄

ページ範囲:P.121 - P.124

 この論文の目的は,今回の法改正を民間精神病院の立場でどのように評価し,今後日常の精神医療にどのような影響を持つかを予測することにある.
 世界的な規模で,社会保障制度,医療制度はまさに変革の時を迎えている.日本でも同じく21世紀の高齢化社会にたえられる医療サービスをめぐり,社会の構造的変化を踏まえて関連法制度の改正が一斉に厚生省で行われ始めた.まさに法律改正ラッシュである.

60巻記念シリーズ・21世紀へのメッセージ

私の遺言書

著者: 丸山博

ページ範囲:P.82 - P.83

 20世紀はコドモの,21世紀はオンナの世紀.私は衛生学を学んだ老人.「21世紀へのメッセージ」を本誌から求められた.こたえるに私は,農山漁村文化協会が,私の著作をまとめた全3巻書は,21世紀への私のメッセージとして,ふさわしいと判断した.しかも,それは間違いなく私の遺言書である.大時代的な言い分は老人のクセか.
 まず,コドモの死様・生きさまにいかに学んだか,を列記しよう.●印がそれだ.

視点

新しい介護システムについて考える

著者: 山手茂

ページ範囲:P.84 - P.85

 1994年12月「高齢者介護・自立支援システム研究会報告書」が発表された前後から活発になった「新しい介護システム」に関する論議は,1995年7月「老人保健福祉審議会中間報告」が発表されて以来,一段と盛り上がっている.保健・医療・福祉関係の専門職団体や学会ではそれぞれ専門的見地からの検討が行われ,関係分野の専門誌でも特集記事が掲載されている.
 その論議の内容は,「公的介護保険」に関する事項が中心であり,「新しい介護システム」そのものに関する検討が不十分である.「社会保険方式の導入」は,「新しい介護システム」の重要なサブ・システムであるとしても,トータル・システムではない.このことは,健康保険と保健・医療システムの関係について考えてみれば明らかである.

トピックス

「大阪府健康ビジョン」の策定について

著者: 大阪府環境保健部環境保健総務課

ページ範囲:P.125 - P.128

 超高齢社会の到来,情報化の進行,核家族化など,社会経済状況が大きく変化する中で,生活の質の向上を求める声や健康意識の高まりなどにより,府民のニーズも多様化・複雑化してきている.さらには,大阪が全国に比較して平均寿命が短く,がんによる死亡率が高いなど,健康水準が必ずしも良好とは言えず,その解決が重要な課題になっている.このような中で,来るべき21世紀に向けて「健康都市・大阪」を実現するためには,単に既存の施策を個別に充実させるだけでなく,総合的・体系的な施策が必要である.
 そこで,誰もが真に豊かさを享受し,健やかに暮らせる「健康都市・大阪」の実現に向けて,都市づくりや環境,文化なども視野に入れつつ,「健康」の視点から施策を総合的・体系的に展開するための将来目標として,「大阪府健康ビジョン」を昨年7月に策定した.本稿においてその概要を紹介したい.

連載 疾病対策の構造

癌の世界像

著者: 倉科周介

ページ範囲:P.129 - P.134

 死を制御することは人智の及ぶところではない.不老不死は所詮絵空事なのだ.われわれにできるのは,人生における死への導入部をせめて受け入れやすくするように工夫することだけである.その点からみれば,先進諸国はよく頑張ってきたと自賛してよい.それらの国ではおおむね平均寿命が男子で75歳,女子で80歳を超え,さらに生存限界年齢と推定される95歳に近づきつつあるからである.普通の人間が丈夫で長生きできる環境は,整備されてきたといえるだろう.

疫学の現状

ウイルス肝炎の疫学

著者: 石川和克 ,   佐藤俊一

ページ範囲:P.135 - P.140

 血清学的診断法の確立および集団検診の普及によりウイルス肝炎の疫学的事項はかなりの部分が明らかとなった.そして疾病の頻度および予後,感染経路,自然経過を把握することは一般診療における患者の管理,治療さらには疾病のコントロールにおいてきわめて重要である.本稿ではウイルス肝炎の疫学の最新の知見を中心に述べ,現状における問題点および将来の展望についてもふれてみたい.

都道府県医師会の公衆衛生活動

愛媛県医師会の公衆衛生活動—とくに保健・医療・福祉の連携アンケート調査から

著者: 貞本和彦 ,   野田益弘 ,   大塚義剛

ページ範囲:P.141 - P.143

 21世紀に向けての少子・高齢化社会の進行や地域保健法の制定なども相まって,日本の公衆衛生活動があらゆる方向から見直しを迫られている.
 すなわち,従来の医師が考えているようなmedical care一辺倒ではおよびもつかない,地域住民や患者のニーズに立脚した(total)health careという概念に乗っ取った諸策が講じられなければ,諸事万端うまくいかなくなっているのが現在の状況である.

市町村保健活動と保健婦

<座談会>地域保健福祉計画の策定と保健婦—大阪府岬町での活動・2

著者: 岡本茂 ,   川井理香 ,   串山京子 ,   志水民生 ,   中口守可 ,   松下セツ子 ,   元重あき子 ,   門前恵子 ,   多田羅浩三

ページ範囲:P.144 - P.147

健康づくりの推進組織について
 多田羅 前回では保健計画策定に当たってのいろいろなご苦労などもうかがいました.今回は保健計画の内容について具体的にお話ください.
 この計画書を見ますと,囲みでポイントを入れられたり,いろいろな図表を入れられたり,いろいろな工夫をされていますが,そのへんからうかがいましょうか.

保健行政スコープ

わが国の老人保健法による訪問指導の現状と課題

著者: 岸本益実

ページ範囲:P.148 - P.150

 平成4年度からはじまった保健事業第3次計画は,高齢者保健福祉推進十カ年戦略にあわせ,平成11年度までの8年間と計画期間が長期に渡るため,あらかじめ平成7年度中に中間見直しを行うことが基本方針として盛り込まれていた.そのため,平成7年2月以降,老人保健福祉審議会の保健サービス部会にて検討が重ねられ,平成7年7月26日に老人保健福祉審議会会長から厚生大臣宛に「保健事業第3次計画中間見直しに関する意見」が提出された.「保健事業第3次計画中間見直しに関する意見」は計画の前半4年間の成果を踏まえ,保健事業第3次計画の大枠は維持しながらも,直接国民一人一人に健康の保持増進のためのサービスを提供する方法のあり方について保健事業の各項目から検討が行われたものである.
 「保健事業第3次計画中間見直しに関する意見」の中には,充実・強化すべき事項の1つとして訪問指導が取り上げられ,「訪問指導については,生活の場において,個々人の状況に応じて相談・指導を行うという点で効果的であり,特に,寝たきり予防を推進する上からもその充実・強化を図る必要がある.」とされている.また,痴呆性老人対策の推進の項で「保健事業の中では,健康教育,健康相談,訪問指導等において,痴呆性老人を対象として事業が実施されているが,家族への支援も含め,今後,より一層痴呆性老人対策を強化し,幅広い事業の展開を図るよう検討する必要がある.」ともされている.ここで今一度訪問指導事業における今までの成果などについて振り返ってみたい.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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