icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生60巻4号

1996年04月発行

雑誌目次

特集 生活をささえる防災計画—阪神・淡路大震災の教訓

現代の防災計画—公衆衛生の立場から

著者: 高鳥毛敏雄 ,   高橋進吾 ,   多田羅浩三

ページ範囲:P.238 - P.244

 戦後50年の節目の年頭に,兵庫県南部地震が発生し,未曾有の阪神・淡路大震災に見舞われてから早くも一年を経ている.わが国は,災害大国であり,過去に幾度もの自然の災害にさらされながらも災害対策を強化し復興してきて「災害に強い国の1つである」と少なからず自負していた面もあった.しかしながら,兵庫県南部地震による被害状況をみると,戦後の復興とその後の高度経済成長の時期において,都市の構造や危機管理体制などについて災害に対する備えが十分でなかったことが露呈され,あらためて災害時に対応した計画の見直しが迫られることになった.
 今回の震災によって明らかになった最大の課題は,災害時における救急医療の対応と併せて,長期にわたる被災者の生活をどう支えていくかということであった,と思われる.この点,これまでの防災計画の中では,応急的対応(救護),経済的支援や生活の場(避難所,仮設住宅)の提供についての視点はあるが,生活を支える人的支援や自立への支援についてはその記載が極めて不十分であり,今回の震災の経験をもとに保健活動に対する十分な体制を準備する必要があると考えられた.

災害に強いまちづくり—環境道路による都市の将来構造

著者: 村上處直 ,   村尾修

ページ範囲:P.245 - P.249

都市災害と近代化
 今ここで一つの共同体を想定する.それはまだ人類が火と道具を覚えたばかりで,部落というコミュニティをつくり,男は石器を武器に獣を追いかけ,女は子どもを育てながら農耕作業をしていた原始の時代である.その部落に今でいう震度7クラスの地震が起きたと仮定すると,地面は大きく揺れ,地割れが起きたかも知れないが,簡易に建てられた住居は軽いがために崩れることもなく,死傷者はといえば,棚に置かれたものが落ちて軽傷を負ったお年寄りくらいだったのではないかと思う.しかし地震がいったん収まれば,仲間が力を合わせて簡易住居の再建とけが人の手当てをし,2〜3日もすれば元通りの生活を取り戻したであろう.飲み水はいつものように近くの川で手に入れ,食料もいつものように保存してある干し肉と畑で採れた野菜でこと足りる.原始社会には2階建て木造住宅の倒壊による圧死も,車の渋滞も,住宅再建問題もなかった.極論すれば原始社会は防災的にほぼ完成された社会である.
 原始的集落はやがて都市へと変貌するが,その長いプロセスの中で,原始的な生活を営んでいた人類は科学技術を発達させ,自動車や高層ビルやコンピュータのある現代という都市社会を築き上げた.阪神・淡路大震災の例を持ちだすまでもなく,近代化という錬金術によって数々の欲望を具現化した現代社会は,生活の向上という利便性と同時に災害に対する脆弱性をも持ち合わせてしまった

災害に強い住まいづくり

著者: 大西一嘉

ページ範囲:P.250 - P.253

 今回の被害の特徴は,第1に,住宅倒壊による被害の大量性である.約20万棟の建物が全半壊し,互礫と化した建物の下では5,502人の死者が発生した.連休明けの午前5時46分という時刻からみてほとんどの人は就寝中で,住宅倒壊が人的被害に直結したと考えてよい.第2に,手つかずの大規模延焼火災の発生がある.地震直後の数分間に神戸市だけで60件の同時多発火災が発生し,木造密集市街地では有効な延焼阻止線もなく100haを焼き尽くした.第3に,ライフライン停止による住宅難民の大量発生がある.電気,ガス,水道などライフラインが大きな被害を受け市民生活に深刻な影響を与えた.その結果,被災が軽度な住宅でも生活機能障害から多くの人々が疎開や寄留を余儀なくされ,行き場のない被災者は避難所へ殺到し避難生活は混乱を極めた.

災害にそなえる備蓄計画—東京都の事例

著者: 長岡常雄

ページ範囲:P.254 - P.257

 1923年に発生した関東大地震(M7.9,震度6)は東京に11万人に近い死者と行方不明者を出し,全住宅の約7割が焼失するという大災害であったが,その後は幸いにも東京には大きな被害をもたらす地震は一度も発生していない.しかし伊豆七島では火山活動が繰り返し起こっており,1983年の三宅島雄山の噴火や全島民が島外に避難した1986年の大島三原山の噴火はまだ記憶に新しい.また台風による風水害は繰り返し東京にも大きな被害をもたらしているし,近年東京直下の地震の発生についても危惧されている.こうしたことから自然災害に対する日常の備えを怠ることはできない.都では関係機関と連携して都内における災害対策の基本である東京都地域防災計画1)を策定してこれらの災害に備えているが,この計画は1995年に発生した阪神・淡路大震災の教訓を生かすべく緊急の見直しを現在行っている.
 本稿では都の防災計画のうち主に震災対策に関係する備蓄計画について,その概要を紹介するとともに,1994年に行った都内の病院が災害に備えてどのような対策を取っているかの調査結果の概要を報告する.

災害にそなえる自主防災組織

著者: 松本洋一

ページ範囲:P.258 - P.262

 国の防災基本計画が阪神・淡路大震災を契機に昭和36年の策定以来,初めて全面的に改定されました.
 この背景として,都市化の急速な進展,高齢化社会の到来,コンピュータなどによる情報化,近隣扶助意識の低下など防災を取り巻く社会経済環境が大きく変化してきていることが,指摘されていました.改定された計画では,自主防災組織の育成について言及しています.

災害にそなえる保健医療対策

著者: 北岡修

ページ範囲:P.263 - P.266

今回の地震に対する筆者自身の反省
 それこそ瞬刻に発生した大災害であった.それ自体,われわれの心底を震憾させるものであったが,それ以上に阪神間には地震なしとしていた自分自身の甘さに鉄槌をくだされた思いだった.しかも,その後「サリン事件」という無限の拡大性を秘めた人災が引き起こされるにいたっては,筆者は二重の衝撃を味わうことになった.
 数年以上にわたって続いている地球全体の異常気象,世界中の政情不安定,精神荒廃を思わせる数々の事件発生,「エイズ」問題あるいは歯止めのきかない自然破壊などから筆者は現代文明の崩壊が始まったと考えていた.それにもかかわらず,そうした問題の中に自己を埋没させず,自身および自身を取り巻く身近なところは無事として,危機状況は所詮他事(よそごと)として見ていた自分を発見し,強く反省させられたのだった。

災害にそなえる衛生対策

著者: 森本征生

ページ範囲:P.267 - P.271

 わずか数十秒の間に,6,000人をも超える尊い生命を奪い,都市を完全に破壊してしまった「阪神・淡路大震災」は,緊急時における都市機能が完全に麻痺をしてしまうという近代都市の脆弱さを図らずも露呈するとともに,数多くの教訓と課題を残した.
 神戸市では,従来から「神戸市地域防災計画」などを策定し,緊急時の対応に備えてきたが,今回の震災が通常の想定をはるかに越えた大規模なものであり,しかも職員も同時に被災者であったことなどより計画どおりの初期対応はほとんど不可能であったことは否めない.

災害時の保健婦活動

著者: 井伊久美子

ページ範囲:P.272 - P.275

 震災後の被災地では,全国から多くの支援を得て保健活動が展開された.駆けつけてくださった様々な職種の方々とともに支えあっての活動であったと考えている.お互いにその時点での最大限の努力をし,できる精一杯のことを実施した.その中の一人に保健婦もいた.だれも経験したことのない大災害時の保健活動であったが,だからこそ学ぶことも大きかったと思う.経験が大きすぎてまだまだ検証するには至らないが,災害時の保健婦活動のあり方を考える上で,データとして残すとともに,支援してくださった多くの保健婦の方々と体験を共有したいと考え,保健婦活動に焦点をしぼりアンケートを実施した.
 刻々と変化する状況の中で,また長期化する住民の避難生活の中で,保健婦はどのように対応したのか,できるだけ経時的に残したいと考えたが,本稿では特に被災地の保健婦活動を中心に紹介する.

60巻記念シリーズ・21世紀へのメッセージ

疫学による予防へ

著者: 佐々木直亮

ページ範囲:P.234 - P.235

近ごろ思うこと
 1995年は「戦後50年」がテーマであった.
 年が明けて今年96年は何がテーマになるだろうかと思いながら,日本医事新報の新春特集「炉辺閑話」に「先生」という題で「日本百年」の反省の意をこめて書いた.

視点

障害・難病患者の地域活動は在宅ケア

著者: 河端静子

ページ範囲:P.236 - P.237

「障害者基本法」とわれわれの地域活動
 平成5年12月,障害者とその家族の願望の「障害者基本法」は,昭和45年の「心身障害者対策基本法」の一部改正の上,公布施行された.障害者の定義は「身体障害者,知的障害者,精神障害者」とし,自閉,てんかん,難病は参議院厚生委員会の附帯決議で障害者の範囲に含まれ,各条文には次のようなことが述べられている.
 ・国,地方公共団体の責務として,施策の推進に努める

連載 疾病対策の構造

癌の動きの国際比較

著者: 倉科周介

ページ範囲:P.278 - P.281

 どんな病気にも動きがある.マクロであれ,ミクロであれ,その動きを見はるところから病気の対策は始まる.“動き”とは時間の経過に伴って起こる状態の変化である.質や量の変化,位置の移動など,その種類は対象の性質によって一定しないから,観測手段は柔軟で多彩なほうがよい.また大きな対象でなければ見えない動きというものも当然ある.だから,さまざまな角度や切り口や拡大倍率で対象を眺めることは,疾病対策にとって重要な出発点である.SAGEを使った癌死亡の大状況の分析をもう少し続ける.

都道府県医師会の公衆衛生活動

熊本県医師会における地域保健活動

著者: 白男川史朗

ページ範囲:P.282 - P.283

 わが国では世界に例をみない,超高齢化少子社会の到来を目前とし,さらに疾病構造の変化(急性疾患⇒慢性疾患,感染症⇒成人病)のため,われわれ医師会の地域保健活動にも種々の工夫が必要となってきた.
 以下,われわれの行っている,地域における健康増進活動について紹介する.

市町村保健活動と保健婦

<座談会>地域保健計画づくりで保健婦が変わった—神奈川県津久井町と城山町・1

著者: 井上正幸 ,   清田京子 ,   升井孝子 ,   八木正光 ,   岩室紳也

ページ範囲:P.284 - P.288

 岩室 今日は手づくりで保健計画を作った神奈川県津久井保健所管内の城山町と津久井町の保健婦さん,およびそれにかかわった人たちの動きをお話いただき,ほかの市町村でも業者委託ではなく自分たちで保健計画を作れることを明らかにし,そこでの保健婦さんたちの役割を明確にしたいと思います.
 自治医科大学を卒業した私は公衆衛生に全く興味がなく,診療所勤務のかたわら何となく健康教育を行ったり,地域住民のいろいろなケアをしてきました.県立がんセンター泌尿器科勤務中に津久井保健所に週1日兼務することになりました.つまり,はっきりいって公衆衛生の素人を含めた集団が,保健計画づくりを始めたといえます.

在宅高齢者ケアの支援システム—アセスメントとケアプランの試み・2

アセスメントからケアプラン作成まで

著者: 縄井詠子

ページ範囲:P.289 - P.293

 昭和57年に老人保健法が制定されてから,予防対策と合わせて在宅ケアが開始された.しかし当時は開始することが目的であり,また対象者や訪問回数にも制限があった.マンパワーや社会資源も不足しており,量的にも質的にも十分な在宅ケアが推進されていたとは言えなかった.高齢者の増加とともに,虚弱な高齢者や援護の必要な障害をもつ人たちが増加傾向にあり,在宅生活を希望する人も増えてきた.超高齢化社会を目前にして,平成5年には各市町村で「住み慣れた地域で暮らすため」の保健と福祉を統合した老人保健福祉計画が策定された.
 計画施行のなかで在宅ケアを担う多くの職種と機関が整備されつつあり活動が始まっている.一人の高齢者に対し,複数の援助者が対応する事例が多くなった.例えば,当保健所の難病の療養者をみると,多い人では8職種(保健婦,理学療法士,病院看護婦,病院栄養士,歯科医師,歯科衛生士,介護支援センター職員,訪問看護婦),6機関(保健所,市役所,病院,住宅介護支援センター,歯科医師会,訪問看護ステーション)がかかわりをもつ状況もみられている.重層したサービスの提供はケアの質を向上させるが,それぞれの立場で行われるサービスが,時として利用者やその家族を混乱に陥れ,各職種間の対立を引き起こすこともある.これらの実態の中から次のような課題が示された.

活動レポート

保健所における高脂血症予防教室

著者: 竹中章 ,   矢加部明子 ,   川波由紀 ,   藤井久仁子 ,   南部由美子

ページ範囲:P.294 - P.297

 政令市保健所においては,直接住民サービスなど市町村保健センターの役割と,技術的・専門的な保健行政を合わせて行う機能を有している.つまり,地域の衛生指標の動向と保健施策の評価を把握しながら,かつ自ら成人病予防・健康づくりのための健康診査,健康教育を実践できる利点を持っている.
 ここでは,福岡市南区における成人病の動向を,死亡統計および健診結果をもとに検討し,現時点で最も重要と考えられた高脂血症対策としての健康教室を実施したので,教室の評価を含めて報告したい.

調査報告

在日外国人肺結核患者の外来治療および管理検診に関する調査

著者: 金本由利恵 ,   松崎奈々子 ,   斎藤剛 ,   山口智道

ページ範囲:P.298 - P.300

 近年急速に増加したアジア系在日外国人に結核有病率が高いことは広く知られている.その対策として,東京都では1988年度より日本語学校就学生に対し,各学校を管轄する保健所での結核検診を始めた.この検診により,毎年数十名の要医療者が発見されている1).また日本のシステムとして,受験,入学,就職とことある度に診断書の提出が求められるため,都市の保健所では健康診断を受ける外国人の数が増加し,結核要医療者が発見される機会もまれではない.しかしせっかく発見され,医療機関を紹介されても,在日外国人が治療を継続していくことは難しい2,3)
 今回われわれは過去5年間に結核予防会第一健康相談所において外来治療した外国人を対象とし,初めの3カ月間の投薬率(実際の投薬日数/90日×100%),治療からの脱落率,管理検診受診状況などについて調査し日本人と比較することで,今後,外国人結核患者管理に対する医療機関と保健所の協力態勢はどうあるべきかを検討した.

1歳6カ月児の保健行動が3歳児のう蝕発生に及ぼす影響

著者: 小出たま子 ,   宮尾克 ,   山中克己

ページ範囲:P.302 - P.305

 名古屋市の1歳6カ月児健康診査,3歳児健康診査におけるう蝕有病者率は,1歳6カ月児約4%,3歳児約40%であり,この1年6カ月の間でほぼ10倍に増える.この差を縮めるには,1歳6カ月の時点で3歳のう蝕発生を効率良く予測し,母親へ的確な指導を行わなければならない.
 われわれは,3歳のう蝕発生防止のために1歳6カ月児の保健行動が3歳児のう蝕発生に及ぼす影響について若干の知見を得たので報告する.

新しい保健・福祉施設

加計町保健福祉総合施設「あんしん」

ページ範囲:P.306 - P.307

 広島市内のバスターミナルから高速バスに乗り中国自動車道経由で約1時間,中国山地に入ると加計町の町境にある戸河内インターチェンジに到着する.加計町保健福祉総合施設「あんしん」はこのインターチェンジから車で約5分,殿賀地区の集落にある加計町国保病院に付設されている(JR可部線殿賀駅より徒歩で約5分).

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら