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特集 生活をささえる防災計画—阪神・淡路大震災の教訓
災害に強いまちづくり—環境道路による都市の将来構造
著者: 村上處直1 村尾修2
所属機関: 1横浜国立大学工学部 2横浜国立大学工学部村上研究室
ページ範囲:P.245 - P.249
文献購入ページに移動今ここで一つの共同体を想定する.それはまだ人類が火と道具を覚えたばかりで,部落というコミュニティをつくり,男は石器を武器に獣を追いかけ,女は子どもを育てながら農耕作業をしていた原始の時代である.その部落に今でいう震度7クラスの地震が起きたと仮定すると,地面は大きく揺れ,地割れが起きたかも知れないが,簡易に建てられた住居は軽いがために崩れることもなく,死傷者はといえば,棚に置かれたものが落ちて軽傷を負ったお年寄りくらいだったのではないかと思う.しかし地震がいったん収まれば,仲間が力を合わせて簡易住居の再建とけが人の手当てをし,2〜3日もすれば元通りの生活を取り戻したであろう.飲み水はいつものように近くの川で手に入れ,食料もいつものように保存してある干し肉と畑で採れた野菜でこと足りる.原始社会には2階建て木造住宅の倒壊による圧死も,車の渋滞も,住宅再建問題もなかった.極論すれば原始社会は防災的にほぼ完成された社会である.
原始的集落はやがて都市へと変貌するが,その長いプロセスの中で,原始的な生活を営んでいた人類は科学技術を発達させ,自動車や高層ビルやコンピュータのある現代という都市社会を築き上げた.阪神・淡路大震災の例を持ちだすまでもなく,近代化という錬金術によって数々の欲望を具現化した現代社会は,生活の向上という利便性と同時に災害に対する脆弱性をも持ち合わせてしまった
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