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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生60巻8号

1996年08月発行

雑誌目次

特集 保健所の組織改革と機能強化

保健所を巡る最近の動向

著者: 西本至

ページ範囲:P.530 - P.534

 地域保健法の全面施行を来年に控え,各自治体は検討の最終段階に入った.新しい保健所の機能については,エイズや難病などの対人サービスに加え,情報,調査研究,市町村支援,企画調整などが明記された.しかし,これらの機能がそれぞれの地域特性に合わせて適切に実現されるためには,ヒト,モノ,カネをどうするか,という現実の問題があるし,特に最近は「地方分権」という新たな課題が浮上している.そこで本稿では最近の動向をもとに新たな保健所を巡る問題点を探ってみることとする.

堺市での保健所の組織改革の取り組み

著者: 更家充

ページ範囲:P.535 - P.538

 昨年12月15日に,堺市保健医療審議会から市長に,「堺市における保健所のあり方について」の答申が提出された.今や堺市は,答申の趣旨を生かし,かつ,この数年間の保健所をめぐる数多くの議論にも応えながら,新たな地域保健体制を構築していく時を迎えた.
 なお,堺市は人口約80万人(全国13位),面積136.78km2,高齢化率11.5%の地域保健法における政令市で,現在,5保健所と2保健センターを有しており,1保健施設を建設中である.また,この4月1日には,地方自治法上の中核市になった.

健康科学センターと保健所との連携

著者: 飯田稔

ページ範囲:P.539 - P.542

 保健所の組織改革を巡って,今多くの議論が展開されている.保健所はわが国の公衆衛生の発展を担ってきた第一線機関であり,保健所の充実なしには,公衆衛生の発展は期待しがたい.筆者は,保健所の組織改革について意見を述べる立場ではないが,公衆衛生の発展を心から願っている一人である.そこで,本稿では,健康科学および健康科学センターについて,われわれが考えている基本的コンセプトを紹介するとともに,保健所をさらに活力あるものにするため,健康科学センターと保健所との連携について,私見を述べたい.

福井県における保健所の機能強化について

著者: 河原和夫

ページ範囲:P.543 - P.547

 平成5年に成立した地域保健法は住民にとって身近な保健サービスは市町村が提供するとともに,保健所の再編成および所管区域の見直しなどの総合的な地域保健行政の機能強化を盛り込んでいる.この立法主旨を実現するための施策を立案する必要があるが,人口,財政規模の小さい本県では行政や研究業務に従事している公衆衛生の専門家が現実に不足している.そこで本県では平成7年度に対人保健サービスの機能強化に関して県の担当課である健康増進課と県下8保健所の既存のマンパワーを総動員して検討作業を行った.

健康づくり事業の推進—大阪府の保健所における先駆的健康づくり事業の8年間の試み

著者: 高山佳洋

ページ範囲:P.548 - P.553

 高齢化社会に備えて,第2次国民健康づくり対策(アクティブ80ヘルスプラン)の一環として,栄養指導,食生活改善に加え運動面に関する施策を強化した積極的な健康づくり対策が展開されている.これらの健康づくり施策の推進については,民間の活力を活用することに重点がおかれる一方で,保健所においても積極的な推進を図ることが,ニュー保健所構想(平成2年6月28日付健康政策局長通知「地域保健活動の充実強化について」)1)以来提唱され,地域保健法の制定後の現在に至るまで保健所の事業として国庫補助が継続されてきた.
 第1次国民健康づくり対策以来,健康づくりは市町村を中心として推進するという政策の流れのなかで,運動・休養面の健康づくり指導を取り入れた積極的な健康づくり事業については,保健所の先駆的役割が期待されている.

保健所と市町村との連携および支援

著者: 阿彦忠之

ページ範囲:P.554 - P.556

 地域保健法は,特定の病気や集団だけを対象とするのではなく,乳幼児から老人までの地域住民すべての健康を保持増進させることを目的としている.したがって,これを達成するための公衆衛生活動が,基礎的自治体たる市町村を単位として推進されることになったのは,ごく自然である.このような市町村重視の流れの中で,都道府県設置型の保健所は,市町村との新たな関係を真剣に模索し始めている.われわれが「保健所の機能強化」を声高に叫ぶと,保健所を存続・強化させること自体が目的のように受け取られやすい.しかし,本来は地域住民や市町村の活動を強化するための支援を通じて,ともに機能を高めるという視点で保健所の改革案を提案すべきと考えている.本稿では,筆者が昨年度まで勤務した酒田保健所での経験を中心に,県の保健所と市町村との連携および市町村支援のあり方について述べてみたい.

情報ネットワークの構築

著者: 吉田紀子

ページ範囲:P.558 - P.566

 地域保健法に基づく新しい保健所の誕生まで残り数カ月となり,圏域の整理,強化すべき機能・事業の検討,組織体制の準備が進められているが,それらに加えて,今一つ今後の保健所に必要なことは,保健所活動に関する発想と手法の転換であろう.
 今後,保健所が地域で必要とされる機関として生き残り,発展してゆくためには,保健所としての「cooperation identity=CI」の確立が必要である.すなわち,地域住民(顧客)の需要(デマンズ)と,地域のニーズをとらえ,社会資源を量・質の面から適正に整備・配置し,住民の求める効果(QOL,満足度,身体的・精神的・社会的健康状況,など)を産出することを企業目的とした企業の営業部門が市町村で,管理部門(企画・調整・評価)研究部門(調査・研究)が保健所であろう.

AIDS知ろう館の歩み

著者: 前田孝弘

ページ範囲:P.567 - P.570

 1994年10月に,池袋の繁華街の中にある池袋保健所の1階に開設した「AIDS知ろう館」は,1年数カ月の間に1万人を超える来所者と交流するなかで,少しずつ成長してきた.それぞれの皆さんに役立つ情報は何か,われわれに何ができるのかを考えながら精一杯走り続けてきた過程を振り返るなかで,今後の保健所機能の強化を考えたい.

60巻記念シリーズ・21世紀へのメッセージ

人口・環境問題と途上国援助

著者: 倉恒匡德

ページ範囲:P.526 - P.527

世界の人口増加と環境問題
 次世紀の公衆衛生問題として,30年来私が最も憂慮していることは,世界の人口と環境の問題である.国連の1992年の人口白書“A World in Balance”1)を読み,危惧の念を一層強めた.このままで,果たして人類の未来はあるのだろうか? 私は,この危機は科学の進歩と,快楽や利潤を追求して止まない人間の“さが”によってもたらされたものであると思う.
 産業革命以来,科学は進歩し,先進国においても,開発途上国においても,人間は死ににくくなった.しかし,周知のように,出生の低下が遅れをとり,世界の人口は爆発的に増加を開始し,次世紀の中ごろには,100億を超えると推測されている.しかも,この膨大な数の人間は,先進国の者であれ途上国の者であれ,近代技術がもたらす,より快適なより便利な生活を望んで止まない.消費を高め,開発を進め,とどまる所を知らない.科学はますます進歩し,経済は成長し,この要望に応え続けていくであろう.医学も進歩し,死亡を減らし続けていくであろう.この状態が放置されれば,限りある資源は枯渇し,環境は破壊され,人類の破局が到来することは目に見えている1)

視点

資格規制廃止は危険—衛生学・公衆衛生学教育協議会の対応

著者: 青山英康

ページ範囲:P.528 - P.529

 一昨年6月に保健所法の改正に伴う地域保健法の制定に際して,地域保健基本問題研究会において「保健所長は医師」という法的な規定を残すべきか,それとも削除すべきかで激しい討議が交わされた.結論的には,この規定の削除によって,保健所長はだれでもよいのかということになり,このことによってもたらされる危険性を考慮し,「保健所長は医師」という規定が残された.
 今回は地方分権推進委員会のくらしづくり部会における改革の方向として,「保健所長の医師資格規制の廃止」が取り上げられ,話題になっている.

連載 疾病対策の構造

地方衛生研究所の未来(1)—疾病対策から考える

著者: 倉科周介

ページ範囲:P.573 - P.575

 疾病対策の将来の見通しはいまいくぶん不透明になっている.米国でも公衆衛生の未来について悲観的な予測が語られたばかりである1).その底流にあるのは,明快な理念,適切な到達目標,有効な課題解決手段などの不在に伴う,ある種の喪失感や無力感のように思われる.それはむしろ,平均寿命が延長し,大状況のレベルで健康水準が着実に向上した結果なのかもしれない.疾病対策の不確定性の時期に,地方衛生研究所が果たし得る,また果たすべき役割について,考えてみたい.

市町村保健活動と保健婦

<座談会>健康福祉の町づくりにおける保健婦の活動—兵庫県五色町・2—社会の変化に対応する事業の展開

著者: 新家昌子 ,   高田利子 ,   小川みどり ,   吉田朝美 ,   坂口真智子 ,   北川公美 ,   松浦尊麿

ページ範囲:P.576 - P.580

保健・医療と福祉行政の一本化
 松浦(司会)私たちの町の活動の全体的な理念と概要については,シリーズの第1回で,ヘルスプロモーションの活動との対比という形で,簡単にまとめました.
 そこで,これから5回にわたり,地域保健法と福祉八法の改正のもとでこれからの地域活動をどう展開していくかは大きな課題ですが,われわれの町の事業の中で保健婦はどういう働きや役割を果たしたらよいかについて話しを進めていきたいと思います.

在宅高齢者ケアの支援システム—アセスメントとケアプランの試み・6

痴呆老人の援助をとおしMDS-HC/CAPsを活用したケアマネジメントの評価を考える・1

著者: 縄井詠子

ページ範囲:P.581 - P.585

 ケアマネジメント会議で,ケアプランを作成し援助を開始するが,実施するなかでその利用者にとって適切な問題点の把握であったか,目標やサービスが妥当であり,満足しているかなどは,いつも気にかかるところである.またケアチームが有効に働いているか,利用者の生活の変化や目的の達成度などについても評価をしたいと思う.しかし日常業務では単に設定したサービスが実行できたか,否かの点検に終始し,多くの視点で評価することは少ない現状がある.今回,痴呆症状をもつ高齢者とその家族を支援し終結した事例をとおして,MDS-HC/CAPsを活用したケアマネジメントの過程を振り返り,問題点の提示,目標設定,実施するなかでの家族の変化やケアチームとのかかわりについて評価をしたい.

活動レポート 長崎県琴海町の保健福祉計画の策定とケアマネジメントの展開・3

具体的展開法としてのケア体制

著者: 宮田ゆう子

ページ範囲:P.587 - P.589

 琴海町の高齢者ケアの体制づくりとその礎となったケアカンファレンスについて紹介したい.
 琴海町は,昭和57年の老人保健法の施行と相まって訪問指導を開始,家庭訪問の位置づけを重要視してきた.その後ヘルパーの増員,病院の訪問看護,デイサービス,介護支援センターの開設などによりケアスタッフが増加し,いろいろな立場での訪問が行われ始めた.ケースを中心としてそれぞれの立場からの情報を交換し合うことが必要となってきた.そこで,月1回のケアカンファレンスを開催し,情報交換やサービスの適正化を討議し,その過程で生まれたものがこのケア体制である.在宅介護支援センターに情報を集める方法をとっている.

住民参加型の保健活動・2

八千代市の母子保健活動—保健活動のわく組み

著者: 岩永俊博

ページ範囲:P.590 - P.593

地域での保健活動の展開方法
 前回,八千代市での母子保健推進員研修会の様子を中心として紹介した.この研修会を紹介した理由を説明するまえに,保健活動の進め方について考えてみよう.
 今回の事例は母子保健活動である.多くの場合,活動の出発に際して,母子保健に関する集め得るかぎりの資料や家庭訪問や健診など,日常の活動を通して感じたことなどを情報として集めるところから出発する.

新しい保健・福祉施設

芸北町芸北ホリスティックセンター開設の目的

著者: 吉見昭宏

ページ範囲:P.594 - P.596

 過疎化,超高齢化,少子化の波にさらされ,慢性疾患が多く,健康管理センターや老人ホーム,老人保健施設,入院施設もない人口3千5百人足らずの芸北町.この町の基本理念「住みたい,住んで良かった町づくり」を推進していく基盤づくりとして,社会資源である国民健康保険町立診療所を核とし,保健医療,福祉を統合化して,地域住民の生活支援を視野に入れた地域包括ケアシステムを構築するため,生命が母体に芽ばえた時から,終末までの人間の一生を全人的にケアをして行くことを目指している(ホリスティックの意味).

保健行政スコープ

老人保健事業基本健康診査における糖尿病スクリーニング検査の充実について

著者: 神ノ田昌博

ページ範囲:P.597 - P.599

 糖尿病は適切な治療を行わずに放置すると,長い経過の間に視力障害,脳卒中,腎臓病,心臓病などに代表される各種の合併症を引き起こし,ひいては死亡原因にもなり得る病気である.厚生省糖尿病調査研究事業疫学調査班が平成3年度に実施した調査によると,全国に500万人以上の糖尿病患者が存在していると推測され1),その多くは,自分が糖尿病であることに気付いていないか,あるいは気付いていても放置されていることが明らかになっている.糖尿病患者の多くは早期であれば食事療法および運動療法により十分にコントロール可能であり,治療を受けていない潜在的な患者を早期に治療へつなげる体制の整備がかねてから求められてたところである.
 今回,保健事業第3次計画の中間見直しが実施され,平成8年度より糖尿病スクリーニング検査の充実が図られることになったので,その趣旨などについて若干の解説をする.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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