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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生60巻9号

1996年09月発行

雑誌目次

特集 歯周疾患の予防—8020運動の達成に向けて

歯周疾患とは何か

著者: 稲垣幸司 ,   野口俊英

ページ範囲:P.608 - P.611

 わが国は,近年急速な高齢化が進み,平均寿命からみると世界最高の長寿国である.総務庁の1990年国勢調査によると,65歳以上の高齢者人口は,約1,490万人(女性890万人)で総人口のおよそ12%に及び,1994年には14%に到達している.そして,このような高齢化傾向はますます助長され,2025年には,4人に一人が高齢者になると予測されている1).このような高齢者の増加や出生率の低下などにより,高齢者の比率が増加し,若年者のそれが低下してきている.すなわち,55〜64歳の高齢層は1920年10.7%から1990年16.8%に上昇し,15〜29歳の若年層は1920年の42.8%から1990年31.3%に減少してきているのが現実である1)
 そのような背景から,厚生省は1989年に,成人歯科保健対策検討会の中間報告を発表し,80歳で20本の歯を残すことを成人歯科保健の目標として掲げ,「8020運動」を提唱してきている2).一方では,若年者の歯周病の増加が指摘され3〜5),さらに,厚生省の歯科疾患実態調査によると,若年期の歯肉炎所見を有する者はますます増大し,1993年には,34歳以下で60%近くになってきている6)

歯周疾患の疫学

著者: 森本基

ページ範囲:P.612 - P.615

 疾病に関してあらゆる領域から疫学的研究が積み重ねられ人類の健康と福祉に貢献してきている.特に,近代に至って疫学研究の多くの成果を踏まえて進歩,発達を示してきている.
 疫学は,人間集団についての疾病や異常の発生と経過を科学的にとらえることに始まる健康現象全体についての科学の領域であり,これらの現象について宿主(host),病因(agent)と環境(environment)の因子それぞれから追及していかなくてはならないだけに疫学研究を人間集団で実施して,発展させるためにはいろいろ困難の伴う厳しいものでる.

高齢者に対する歯周治療—症例を紹介しながら

著者: 田中裕子 ,   丸山貴子 ,   長谷川紘司

ページ範囲:P.616 - P.621

歯の喪失と高齢者のquality of life
 日本人の平均寿命は,男女とも急速に伸び,高齢化社会の到来が述べられて久しい.わが国が高齢社会を迎え,さらに社会における高齢者の様々な比重が大きくなるにつれ,高齢者のquality of lifeが大きな課題として,その内容が問われていることは当然である.そのひとつとして,咀嚼機能をいかに確保してゆくかは,歯科界のみならず社会全体として考えてゆかねばならない.
 現実の状況として年をとると歯を失うことによって咀嚼機能を大きく減弱させる実体については,程度の差こそあれ洋の東西を問わず世界共通のものである(表1).

節目における歯科健診の現状と課題

著者: 中島民惠 ,   柏木雅宣 ,   若林幸枝

ページ範囲:P.622 - P.626

 昭和57年に成立した老人保健法では,歯科保健は検討事項であったが,その後歯周病予防モデル事業などを経過し,平成7年度より総合健診に歯周疾患検診が導入され,成人歯科保健事業は年々充実してきている.
 名古屋市では老人保健法発足当初の昭和59年より,歯科健診を取り入れた総合健診,通称「なごやか健診」を実施し,昭和63年度より歯科単独事業として歯周病予防教室を加えるなど積極的に取り組んでいる.そこで,ライフサイクルに沿って実施している歯科保健事業(表1)を通して,成人保健事業の一つである,なごやか健診(歯科健診)の現状,課題などを考えてみたい.

地域における歯周疾患予防事業の組み立て

著者: 北原稔

ページ範囲:P.627 - P.632

 厚生省は平成4年度からの「歯周疾患予防モデル事業」の成果を踏まえ,平成7年度から老人保健事業における総合健康診査項目の中に,歯周疾患検診を導入した.これに関連して歯周疾患検診の実施方法についてのマニュアルが作成され,歯周疾患検診に広く活用できる内容が示された1).これまで老人保健事業のメニューとして歯の重点健康教育・重点健康相談,そして訪問口腔衛生指導があったが,今回,歯周疾患検診が示されたことで成人・老人を対象とした歯科保健事業を,地域で体系的に展開しやすい状況が整ってきたといえよう.
 現在は平成9年の地域保健法本格実施を前に,母子保健事業などの市町村委譲で歯周疾患対策どころでない地域も多い.しかし,すでに老人保健事業などによって成人・老人の歯科保健に,徐々に取り組んでいた保健所や市町村もかなりの数に上る2).したがって,市町村での一貫した母子歯科保健に歯周疾患予防対策を組み込み,地域で生涯を通じた歯科保健,家庭歯科保健への立体的な展開を可能にするチャンスも広がっている.本稿では,保健所で歯周疾患検診を主軸にした成人歯科保健に取り組んできた経験をもとに,地域における歯周疾患予防事業の組み立てについて述べてみたい.

障害を持つ子どもの歯周疾患予防の取り組み

著者: 大竹邦明

ページ範囲:P.633 - P.634

 障害を持とうと持つまいと歯周疾患の発病原因は同じであるが,障害を持つということは原因にかかわる要因の度合いが,健常な子どもとは少し異なっていると考えられる.そこで,そのような点を踏まえて,歯周疾患の予防の取り組みを考えてみる.

歯科医院における歯周疾患予防の実践—成人の歯周疾患の予防

著者: 北川原健

ページ範囲:P.635 - P.637

 歯周疾患の主たる原因がプラークである以上,プラークに対する情報提供の5W1Hをどう構築するがその予防の成否を握っている.過去,様々な形での公衆衛生活動が実施されてきたが,歯周疾患の予防にそれが効果をヒげているとはいい難い.成人の歯周疾患予防は,小学校高学年から中学,高校時代にいかにこの疾患に対する知識と予防のためのノウハウを情報として提供し,それを実施してもらえるかにかかっていると思うが,そのシステム化はほとんどなされていないのが現状で,適切な情報提供の場として現在考えられるのはわれわれ開業医のところを訪れたときのみといっても過言ではない.したがってそのチャンスに過不足のない情報を提供するシステムを作り上げることに筆者はかなりの精力を費やしてきた.そのシステムは大きく分けると,治療のために診療室を訪れる度に行う動機づけと治療終了後の定期検診の二つである.

歯科医院における歯周疾患予防の実践—高齢者の歯周疾患の予防

著者: 鈴木俊夫 ,   上倉志保

ページ範囲:P.638 - P.640

 8020運動が提唱されて以来,ここ数年,高齢者が定期健診で来院される姿がみられるようになってきた.地域住民自体の人口の高齢化もさることながら,以前にはあまりみられない現象ではなかったかと思う.
 筆者らの施設では,統計をとっているわけではないが,乳幼児が減少し高齢者が徐々に増加しており,その傾向はここ数年顕著となってきた.

歯科医院における歯周疾患予防の実践—POS(問題志向型システム)による実践

著者: 中野充

ページ範囲:P.641 - P.642

 歯周疾患は,程度の差こそあれ日本人の成人の大半が罹患している.したがって来院する成人の患者,特に高齢者では歯周疾患の予防だけで終わるケースは非常に少ない.ほとんどの症例でなんらかの歯周治療を行い,治療終了後メンテナンスしながら進行の抑制あるいは,再発の予防に努めているのが現状であろう.そこで,本稿では予防のみに焦点を絞らず,歯周治療におけるPOSの実践について述べることとする.
 POS(problem-oriented system)は,ご存じのように,1968年アメリカの内科医L. L. Weedが,患者の診療上,また教育ならびに研究上非常に良いということを提唱し普及に努めた.そして現在アメリカとカナダで教育的な診療を行っている多くの病院や,クリニックで普及している.日本には,1973年日野原が紹介し,一般医科の病院で徐々に導入されているようであるが,歯科では2〜3の大学附属病院歯科口腔外科での応用報告があるのみで,個人歯科診療所での応用報告は見られない.当院では,チーム医療の向上およびスタッフ教育などの目的で,およそ2年前からPOSを歯周治療に応用しているので報告し,感想を述べる.

歯科医院における歯周疾患予防の実践—感染症としての歯周病—細菌学的視点からの取り組み

著者: 熊谷崇

ページ範囲:P.643 - P.645

 昔の人々は老人になれば歯は自然に抜け落ちてゆくものと考えていた.歯周病の研究の進んだ現在では,もはやそのような考え方をすることはなくなったが,現在でも老人になると多くの歯が喪失してしまうという現実に大きな変化がみられないのは残念なことである.
 歯周病が細菌感染症であることに異論を唱える人は少ないと思われるが,感染症としての歯周病が非常に多様性のある疾患であることを十分に理解する必要がある.一般的に感染症としての歯周病を考えるとき,口腔内の細菌量が生体の許容量を超えると生体にとって害となる細菌が増え病気を引き起こすとされる内因性の感染を連想することが多い.このため細菌性プラークの量をコントロールするという意味で「プラークコントロール」という言葉が使われ,ブラッシングの効用が広く浸透していった.しかし,すべての歯周病を内因性感染だけで説明するのは困難である.歯周病の細菌学的研究によって,ある種の歯周病においては縁下プラーク中に,それらの歯周病の発症や進行にかかわる特殊で有害な細菌の存在が明らかとなった.これらの菌は親子または夫婦間での感染が立証され,こうした感染を内因性の感染と区別し,外因性の感染として位置付けて考えるようになった.さらに免疫学的な研究が進むと,歯周病の進行は細菌の感染によってのみ左右されるのではなく,宿主であるわれわれの身体の免疫抵抗力が歯周病の進行に大きくかかわっていることも明らかにされてきた.

60巻記念シリーズ・21世紀へのメッセージ

人類のよりよい生存に向けて

著者: 土屋健三郎

ページ範囲:P.606 - P.607

カレルの予言
 21世紀まであと数年ということで何となく落ちつかない雰囲気が漂っている今日この頃であるが,よく考えてみると地球や人類の年齢は脈々と続いており,そのあいだに区切れがあるわけではない.年号などというのは人間が勝手に創ったもので,社会や人間の年齢を数えるための便利な記号に過ぎない.ところで20世紀の100年と例えば10世紀の100年とでは同じ物差しの「年」を用いては比較できないのかも知れない.というのはこの20世紀100年間に,100年前に成人であった人々が想像もしなかった変革を遂げたからである.
 もっとも既に1935年には『人間—この未知なるもの』を著作したカレルはその著述の中で当時の人類の劇的な科学技術進歩に対して警告を鳴らし,このような急激な技術変革は人類を滅亡させることになると述べている.にもかかわらず20世紀の中期からの50年間に人類の特に先進諸国における科学技術の変革は幾何級数的に進展し,今日では特にアジア諸国を中心として少なくとも物的生産力や経済力は決して衰退することがない.

連載 疫学の現状

高血圧の疫学

著者: 木村頼雄 ,   柊山幸志郎

ページ範囲:P.646 - P.650

 1972年にPickeringは「高血圧と正常血圧を分ける境界線はない.血圧と死亡率の関係は量的なものであり,血圧が高ければ高いほど予後は悪い.」と述べ1),実際に疫学研究により心血管病発症率と血圧の間には直線的な関係が証明されている2〜,4).しかしながら疫学研究や臨床の場では高血圧症の診断基準が必要であり,1978年にはWHOは収縮期血圧160mmHg以上かつ/または拡張期血圧95mmHg以上を高血圧,収縮期血圧140mmHg以下かつ拡張期血圧90mmHg以下を正常血圧,その中間の血圧を境界域高血圧と定義した5).その後の大規模介入研究の結果からWHO基準の境界域高血圧も積極的に治療すべきことが明らかになり1993年にはWHO/ISH委員会は140mmHg以上かつ/または90mmHg以上を高血圧と定義するようになった5).同年に発表された米国合同委員会による第5次勧告でも高血圧の定義は同様であるが,収縮期血圧130mmHg未満かつ拡張期血圧85mmHg未満を正常血圧と定義しその境界の血圧値を高値正常と名づけ注意を喚起している7)
 今後も高血圧の定義は変わりうるものであるが,本稿では多くの調査で診断基準として採用されている1978年のWHOの診断基準に基づき,本邦での高血圧の現状を述べる.

在宅高齢者ケアの支援システム—アセスメントとケアプランの試み・7

痴呆老人の援助をとおし,MDS-HC/CAPsを活用したケアマネジメントの評価を考える・2

著者: 縄井詠子

ページ範囲:P.651 - P.655

 前回に引き続き,援助経過をもとにNさんのケアマネジメントが本人のQOLを高め,家族にとって,満足ゆくものであったか.またチームとして活動できたかについて検討したい.

市町村保健活動と保健婦

<座談会>健康福祉の町づくりにおける保健婦の活動—兵庫県五色町・3—乳幼児期から青年期までの事業の課題

著者: 新家昌子 ,   高田利子 ,   小川みどり ,   吉田朝美 ,   坂口真智子 ,   北川公美 ,   松浦尊麿

ページ範囲:P.656 - P.660

 松浦 それではこれから,ライフステージ別の事業にそって話を進めます.最初に難しいところですが,乳幼児期,学童期,青年期までの主な事業のポイントと問題点を中心に話を進めたいと思います.
 まず乳幼児期,学童期について,母子保健を担当されている小川さん,いかがでしょうか(表1).

活動レポート 長崎県琴海町の保健福祉計画の策定とケアマネジメントの展開・4

ケアマネジメントの実際—デイサービスの場合

著者: 山田喜美子

ページ範囲:P.661 - P.663

 琴海町では「安心して死ねる町づくり」をテーマに取り組んでいる.それはつまりノーマライゼーションの意識に支えられ,「だれもがあたりまえの生活を望み実現できる」ということでもある.
 現実には非常に難しい課題であるが,当事者とわれわれとが一緒になって作りあげるケアマネジメントの根底をなすものと考えている.

愛育会の活動

玉川村の愛育班活動—地域健康づくりのための愛育班活動

著者: 中島富志子

ページ範囲:P.664 - P.668

玉川村の紹介
 玉川村は,都心から55km圏内にあり,埼玉県の中心からやや西寄りJR八高線沿線の山間山沿地域に位置し,豊かな緑と清流に恵まれ,かつ商工的色彩を帯びた農山村である.
 東松山保健所管内に属し人口5,700人,世帯数1,500戸,健康づくりの拠点となる保健センターは昭和63年に設置された.

調査報告

地域での保健事業における超音波骨量測定機器の活用のあり方について—骨粗鬆症スクリーニング検査としての超音波法の妥当性

著者: 重藤和弘 ,   中谷公子 ,   森山裕子 ,   渡邊能行

ページ範囲:P.669 - P.672

 地域住民を対象とした骨粗鬆症対策として,平成6年度から「婦人の健康づくり推進事業」に骨粗鬆症健診が取り入れられ,市町村で骨量の測定が行われるようになった.こうした事業の中で用いられる骨量測定機器としては,測定が簡便でレントゲン室を持たない市町村保健センターなどで使用できる超音波法が広く活用されている.しかし,超音波法の測定値は骨量と高い相関があることが報告されている1,2,3)が,測定部位が踵骨という特殊な部位であること,超音波の伝導速度と波長の減衰を計測することによる間接的な骨量の推定であることから,測定数値が本質的に骨量と異なることが指摘され4,5),スクリーニング検査として用いる場合,その妥当性の吟味が必要である.
 こうしたことから,京都府内の保健所で実施している「骨粗鬆症相談事業」の参加者を対象に超音波法および現在最も信頼性が高いとされているDXA法6,7,8)による骨量測定を実施し,骨粗鬆症のスクリーニング検査としての超音波法の精度を分析し,今後の保健事業における骨量測定機器の活用のあり方を考察したので報告する.

保健行政スコープ

病原性大腸菌O-157による一連の食中毒事件について

著者: 新木一弘

ページ範囲:P.673 - P.675

 今年5月以来かつてない規模で広がりを見せている食中毒事件の原因菌,病原性大腸菌O-157(以下「O-157」と略)は,1982年アメリカオレゴン州とミシガン州でハンバーガーによる集団食中毒事件において,患者の糞便から原因菌としてはじめて見つかりました.
 日本においては,1990年に埼玉県浦和市の幼稚園で汚染された井戸水により死者2名を含む268名に及ぶ集団発生が報告された以降,注意を要する食中毒の原因菌として知られています.平成7年度までに,わが国でもこの菌により10件の集団食中毒などの事例が報告されて,合計3名の死者が出ています.なお,これまで,毎年100人ほどの感染者(食中毒だけと限りません)が報告されています.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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