icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生61巻1号

1997年01月発行

雑誌目次

特集 地域保健元年

<インタビュー>改めて「地域保健法」を作った人の本音を聞く—伊藤 雅治 厚生省大臣官房審議官に聞く

著者: 伊藤雅治

ページ範囲:P.4 - P.8

 「保健所法」の改正に当たって,市町村や保健所の役割が変わってきたことがあげられていますが,今の時点で変わっていることは何ですか.
 伊藤 それは保健所法が制定された当時と,現在で何が変わったということでしょうがいくつかあげられます.
 まず,第一に公衆衛生の課題が変わってきているということです.これは非常にはっきりとしたことで,これは疾病構造の変化をみても,非常に明白です.そのことが何を意味するかというと,たとえば,急性伝染病対策や結核対策などは社会防衛的な色彩が強く,公衆衛生の原点のような仕事で,いうならば専門家の判断が絶対の世界でした.ところが現在は,老人性痴呆や難病あるいは障害者問題など,ハンディキャップを抱えた人の生活をどうするかという課題は,公衆衛生のプロフェッショナルの判断が絶対的ではなく,あくまでもサービスの提供者であり最終的にはサービスを受ける人たち(住民)に決定権があるということです.

なぜ,今,「生活者主体」なのか

著者: 三浦大助

ページ範囲:P.9 - P.11

いまの保健所は,地域のニーズとは無関係に存在している
 地域保健法は平成9年4月から施行になる.この法律が制定されてから2年もたって,あと半年で施行になるというのに,保健関係者の間にその意気込みが感じられない.これからの保健行政が,地域住民つまり生活者のために,どういう役割を分担し,何をしていかなければならないかという議論よりも,出てくる議論は,相変わらず保健所からは「数減らし」への不満が,市町村からは業務量が増えることへのため息ばかりである.法律は改正され整備されたものの,どうも保健所の存在感が薄い.
 この法律の中で,保健所は地域保健の専門的中核として,地域保健に関する情報センターとして,地域保健に関する調査研究機関として,また,管内市町村への調整・指導・研修などを主たる業務とする機関として機能することが明文化されている.この2年間,地域保健という言葉だけは,確かに百花斉放の花盛りであった.しかし,地域保健という言葉が今までのやり方とどこが違うのか,いま一つ定かでないところに問題がある.

地域保健の理想像を求めて

著者: 岩永俊博

ページ範囲:P.12 - P.16

日々の活動の疑問からの出発
 昭和51年4月,技師として保健所に勤務したとき,まず感じたことは,何をすることが保健所の医師の役割かということであった.「健診です.お願いします」といわれれば白衣を羽織って会場へ行き,「貧血教室で話をしてください」といわれれば,種本片手に受講者の前に.仕事らしいことは日々こなされていくのだが,公衆衛生とはこういうものなのかという気持ちが付いて回る.保健婦や栄養士,検査技師や放射線技師なども,それぞれに自分たちのやっていることはこれでいいのだろうかという疑問を感じているということがその人たちと話してみてわかる.最初の年は,いろいろな職種の人たちと話をした.自分たちが保健活動としてやろうとしていることが何なのかよくわからなかったのである.
 昭和55年夏,初めて所長として赴任した小さな保健所では,予算の裏付けもあって,保健所の仕事の見直しをすることができた.そこで,若手職員を中心に,データや事業を見直してみた.結果の報告書1)が出て,いくつかの事業が改善された.しかし,それですっきりしたかというと,どうも引っ掛かる.日々の仕事に追われる毎日.住民に健診や教室など事業に参加するように呼びかける日々.事業に参加してもしなくても,健康教育の形を変えてみても,病気になっていく人たち.そのような疑問を持っていたわれわれが,「本来保健所の仕事って何だろう」ということから考えはじめたのは昭和60年のことであった.

市町村は将来どこまでサービスを提供するのか

著者: 浜田加代子

ページ範囲:P.17 - P.21

 市町村への身近な業務の移譲と,保健所の広域的,専門技術的な機能強化を柱とした地域保健法が施行され,高知県でもこれを契機に地域保健サービスの供給体制を抜本的に見直しすることが大きな課題となっております.大月町は10数年前から,保健・医療・福祉の包括体制の中で「生涯を通じての健康づくりを推進する」,「地区組織活動が住民自らの健康づくりの基礎となるよう育成援助する」,「すべての住民が平等にサービスを受けられる事を基本とする活動をすすめていく」を基本方針として地域保健サービスの供給体制の充実を図ってきました.
 高知県が目指すべき地域保健サービスのあり方の中で,市町村,県の役割と新体制の姿も提示されました.この中で示された市町村の役割を真摯に受け止め,十数年前から取り組んできた地域保健サービスを基盤に,将来どこまでサービスを提供できるのかを考察してみたいと思います.

保健所は未来永劫必要か

著者: 岩室紳也

ページ範囲:P.22 - P.25

チェック機構は未来永劫必要
 人間はセルフコントロールが効かない生き物です.何を隠そう,筆者自身もいいかげんでさぼりやです.ちょっとダイエットに成功したかと思えば,仕事が忙しいことを言い訳に毎晩酒びたりでもとの体型に逆戻り.「気を付けているつもり,そんなに食べていないのに」は結果を見れば一目瞭然.でも人に「最近,チョット太りませんか」と言われると「あんたに言われる筋合はない」と妙に腹を立ててしまいます.自分で自分をチェック(plan do see)することは実は非常に難しいものです.筆者を含めて自分で自分さえも十分にチェックできない人たちが保健行政に携わっているならば,自分たちが提供しているサービスを常にチェックし,評価する第3者的機構が必要ではないでしょうか.己の限界に気付き,他の人の意見を聞くと素晴らしい発想があちらこちらに転がっています.財政危機,行政改革が叫ばれている今こそ保健行政が提供しているサービスが最新,最良,最も効率的かを検証する視点を,筆者に多くの示唆を与えてくれた人たち(現所属,敬称略で記載)の言葉引用しながら考えたいと思います.

地域保健における専門機関と保健所,市町村

著者: 山根洋右

ページ範囲:P.26 - P.29

公衆衛生のパラダイムチェンジ
 1995年に山形で開催された第54回公衆衛生学会は,今,そのアイデンティテイを問われている戦後公衆衛生の一つの時代が終わり,新たな展望を切り拓く時代に入ったことを鮮明に意識させた学会として印象的であった.新井宏朋大会長は,「次世紀の公衆衛生に対する願い」として「研究者がその問題にかかわる人々の“思い”や“願い”に理解と共感を持ちながら,自身もその活動に参加し観察を重ね,問題解決のための方策の探求と実践を行う」ことの重要性を強調し政策科学としての公衆衛生の再構築に研究者の積極的な参加を促した1).また,戦後50年,社会防衛的公衆衛生として成果を上げてきた国・県・保健所トップダウン方式の制度は,制度疲労ともいうべき社会情勢とのずれを生じていることを指摘した.
 WHOが指摘している発展途上国的中央主権的保健官僚主義や住民を指導する保健パターナリズムが終焉を迎え,21世紀は住民を主体とし研究者や行政の協力による社会協働の時代であることが多くの公衆衛生従事者の共感を呼んだ.

視点

適切医療技術の研究開発は望ましい国際保健協力である

著者: ソムアッツ・ウォンコムトオン

ページ範囲:P.2 - P.3

 開発途上国においては,戦後約50年間のいろいろな国際機関(世界保健機関,世界銀行,アジア開発銀行,日本海外協力事業団など)の活発な援助にもかかわらず,保健,経済,社会などの事情は満足すべき状態まで改善していない.開発援助委員会(Development Assistance Committee:DAC)の報告1)によると,低所得国(low-income countries:LICs)は1992年に1人当たりGNPが675ドル以下の国は65カ国あり,低中所得国(Lower middle-income countries:LMICs)は1人当たりGNPが676ドル以上2,696ドル未満の国は61カ国もある.健康状態においては,世界保健機関(WHO)の「世界保健報告1996」によれば1995年の5歳未満の乳幼児死亡率は,先進国では8.5であったのに対し,開発途上国では90.6であった.後開発途上国では,先進国の18倍の155.5にのぼっている2).いくつかの国の乳幼児死亡率と平均寿命,GNPとの対比などは表1に示されているとおりである3)
 開発途上国は,様々な文化,習慣などを持っているが,一般に共通した問題に直面している.たいていの国で広く蔓延している病気は,生物的要因,不衛生な環境,カロリー摂取の不足などにより起こる病気である.

連載 暮らしに潜む環境問題

紫外線

著者: 田中哲郎

ページ範囲:P.30 - P.34

 1.原因物質(図1) 太陽光線の中の紫外線のうち,とくにUV(ultraviolet)-Bといわれる領域の紫外線が,生物にとって有害性が強い.
 2.増加原因(図2) 有害紫外線の地上到達を防ぐ役割を持つオゾン層が,人工的に作り出され,大量に使われ,環境中に放出されているフロンによって破壊され,オゾン層の穴であるオゾンホールが形成され,拡大している.

精神保健福祉—意欲を事業に反映するために

この連載の目的と概要

著者: 竹島正

ページ範囲:P.35 - P.39

 政府は,平成7年12月18日の障害者対策推進本部会議において,平成8年度を初年度とし,平成14年までの7カ年を計画期間とする「障害者プラン—ノーマライゼーション7カ年計画」を決定しました.このプランは,障害者基本法(平成5年)により策定された障害者基本計画とみなされ,数値目標を設定するなど具体的な施策目標を明記し,関係省庁の施策を横断的に盛り込んだものとなっております1).このプランによってはじめて精神保健福祉の領域においても計画の視点が明示されたわけです.
 地方分権への流れ,地方の自立を望む声は,時間を経ながら,保健福祉行政の計画および推進を地方主体のものにしていくと思われます.

福祉部門で働く医師からの手紙

介護にのめりこむ家族たち

著者: 牧上久仁子

ページ範囲:P.40 - P.41

 私が勤務するのは,以前は介護相談センターと呼ばれていた組織で,厚生省の老人保健法では「在宅介護支援センター」に該当します.全国的にも在宅支援センターが行政直営で運営されているケースは少ないようです.東京都の公衆衛生医で福祉部門に配属されるのは私が第1例だそうです.新設のポストですので「自分で仕事を見つけるように」と言われ,とにかくいろんな職種の人にくっついていろんなご家庭や,施設を訪問するようにしています.訪問の回数は保健所時代のほぼ5倍になりました.
 保健所時代は訪問というと保健婦さんと一緒でしたが,異動してきてすぐヘルパーさんと痴呆性高齢者の方のご家庭を訪問する機会を得ました.

利用者のホンネ・タテマエ

地域患者の会茨木市「いきいきの友の会」の3年

著者: 藤崎和夫

ページ範囲:P.42 - P.43

 「いきいき友の会」は大阪府茨木市にある脳卒中などで介護を必要とする中途障害者が,生きがいを求めて自主的に結成した公民館を拠点にした「地域患者の会」です.

報告

大学生におけるエイズ意識について

著者: 薩田清明 ,   坂入和彦 ,   井上節子 ,   北村和佳奈

ページ範囲:P.44 - P.49

 1981年1月に世界で最初のAIDS(acquired immunodeficiency syndrome)患者が報告されて以来,本疾病は急速に全世界に拡大し,WHOの報告では1994年12月末の累積患者は117万名,推計患者は450万名に達している1).さらにHIV(human immunodeficiency virus)感染者は成人で約1,850万名以上,小児で150万名以上と推計されている.
 一方,わが国の初発患者が認定されたのは1985年3月である2).それ以来1995年6月末までに累積された患者およびHIV感染者はそれぞれ992名,2,829名に達している3)

HIV抗体検査における非特異反応について

著者: 篠原美千代 ,   内田和江 ,   島田慎一 ,   大塚孝康

ページ範囲:P.50 - P.54

 埼玉県では1987年から衛生研究所においてHIV-1の抗体検査を開始し,その後検体数の増加に対応して1993年4月から衛生研究所以外に2つの保健所試験検査室でも検査を実施してきた.スクリーニング検査として当初は酵素免疫測定法を用いていたが1992年8月からゼラチン粒子凝集法に変え,また,1993年8月からHIV-2についても検査を開始した.確認検査も国立予防衛生研究所に依頼していたものが衛生研究所において蛍光抗体法を実施できるようになり,さらにウエスタンブロット法へと移行してきた.こういった状況の中で,判定保留となる検体が多数出現し,これにどう対応していくかがひとつの課題となった.また,これとは別に,感染初期の抗体産生以前の検体や感染妊婦からの出生児の感染確認に対応するための技術の確立も課題となっていた.
 そこで今回は,これまでの検査のなかで経験した非特異反応(ゼラチン粒子凝集法陽性)についてまとめるとともに,感染の早期診断のための技術の確立を目的として,遺伝子検出の1方法としてのPolymerase chain reaction(PCR)法を現在実施している抗体検査の延長線上に導入することを試みたので,併せて報告する.

埼玉県における胃腸炎患者からのウイルス検出状況について

著者: 内田和江 ,   篠原美千代 ,   島田慎一 ,   後藤敦

ページ範囲:P.55 - P.58

 ウイルスに起因する胃腸炎は冬期に流行する乳児嘔吐下痢症や感染症胃腸炎のほか,食品の媒介により食中毒様に発生する場合や施設内感染により集団発生する場合がある.その原因ウイルスもロタウイルス,アデノウイルス,SRV(小型球形ウイルス:ノーウォーク様ウイルス,カリシウイルス,アストロウイルスを含む),エンテロウイルスなど様々であり,集団発生以外のいわば散発的に発生する乳児嘔吐下痢症や感染性胃腸炎と集団発生の胃腸炎とでは,よく検出されるウイルスは異なっている.これらウイルス性胃腸炎における原因ウイルスの検出,血清型調査,感染源などの疫学的調査などは効果的予防対策の施行のためにも重要と考えられ,当所でも県内の胃腸炎患者検体のウイルス検査や食中毒様事件および施設内での集団胃腸炎におけるウイルス学的検査を行っている.今回,当県での食中毒様事件および施設内発生などの集団発生事例と乳児嘔吐下痢症,感染性胃腸炎などの散発性胃腸炎について,過去4〜5年間のウイルス検出状況をまとめ,その傾向を観察した.

保健所機能強化のための人材育成と組織体制強化について

著者: 安武繁

ページ範囲:P.59 - P.64

 地域保健法全面施行後において保健所機能強化の要となる地域保健に関する情報管理,企画調整,調査研究を実現するためには,地域保健を担う人材の確保と資質の向上のための研修システムの確立ならびに保健所の組織体制の強化は必須であり,保健所が,市町村および地域住民から頼りにされる存在となるための鍵を握っている.
 本稿では,まず,人材育成のための研修のあり方について述べ,次に,広島県の保健所組織を例にとり,保健所機能強化のための組織再編案の一例について,筆者の考えを述べる.

資料

喫煙が脳卒中に及ぼす影響—その文献的考察

著者: 中山栄純 ,   佐藤千史

ページ範囲:P.65 - P.68

 現在,わが国では寝たきり老人の増加が問題となっている.推定70万人といわれる寝たきり老人の数は今後も急速に増えていくことが予想される.寝たきりになる原因疾患としては,脳卒中が圧倒的に多く,寝たきり老人の全体の約半数を占めている.脳卒中のリスクについては以前より多原因説がいわれており,それに関する多くの疫学研究が行われてきた.しかし多くの疫学研究は高血圧,高脂血症などの疾病の状態,検査所見からの分析が多く,予防上重要であるライフスタイルからの接近は少ない.
 そこで,今回はこのライフスタイル因子の代表的なものとして喫煙習慣を取り上げ,寝たきりの主たる原因疾患である脳卒中との関連に注目した.喫煙習慣と脳卒中の関連については以前より検討されているが,論文,報告書においても一定の見解は得られておらず1),十分に明らかにされているとはいえない.この傾向はとくにわが国において顕著である.わが国ではケース・コントロール研究が多く,対象の規模も少ないため,様々なバイアスがかかるためと考えられる.

保健行政スコープ

平成7年老人保健施設調査の概況について

著者: 厚生省老人保健福祉局老人保健課

ページ範囲:P.70 - P.71

 老人保健施設は,病状安定期にある老人などに対し,医療ケアと日常生活サービスを提供することにより,老人の自立を支援し,家庭復帰を目指すことを日的として,昭和61年の老人保健法の一部改正により創設され,昭和63年度より本格的に運営を開始した.
 老人保健施設調査は,この全国の老人保健施設の分布および機能の実態,入(退)所・通所者の利用状況および従事者の状況などを明らかにして,老人保健福祉行政の基礎資料を得ることを目的にして,平成元年から厚生省大臣官房統計情報部が実施しているが,平成7年の調査結果の概況が先般公表されたので,この内容について紹介する.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら