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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生61巻10号

1997年10月発行

雑誌目次

特集 公衆衛生をささえるもの—情報

<てい談>公衆衛生における「情報」の活用

著者: 岩室紳也 ,   國枝寛 ,   水嶋春朔

ページ範囲:P.700 - P.708

 岩室(司会) 地域保健法で保健所には情報収集分析機能をもたせなければいけないとか,情報ベースの仕事をやっていきましょうとか「情報」という言葉がいろいろ出てきています.しかしわれわれの現場を見て,どれだけ情報ベースの仕事がされているかというと,かなり疑問を感じます.第一線にいる保健婦,医者,栄養士などが情報というのをどう活用すればいいのか,収集から活用までがイメージできるようなお話をいただければと思います.
 國枝 私は15年ほど保健所におりましたが,地域保健法絡みで,これから市町村と保健所とが連携して地域保健をといった時に,たまたま地元の市長に引っ張られた形で市の健康センターに移籍しました.

公衆衛生における情報—根拠に立脚した保健医療への転換

著者: 久繁哲徳

ページ範囲:P.709 - P.716

保健サービスの意思決定
 住民に最適な保健サービスを提供し,その成果を評価することは,保健従事者の業務であり社会的責任である.こうした一連の意思決定の基礎となるのは情報である.その意味では,保健サービスの意思決定に伴う情報処理(把握,評価,利用,伝達,作成)は,保健従事者の最も重要な作業であり基礎能力といえよう.
 しかも,そうした原点に立ち返って現在,サービスの内容と成果の説明責任(accountability)が厳しく問われている.というのも現在までの保健サービスについては,「予防にまさる治療なし」といった価値観に基づき,膨大な保健医療資源を費やして提供されてきた.ところが,はたして「住民に害以上の良い結果をもたらして」きたかどうか,あるいは「利用した社会的資源に見合う利益をもたらして」いるかどうかという点については,ほとんど評価が行われてこなかったからである.

情報とパソコン

著者: 長谷川嘉春 ,   岩室紳也

ページ範囲:P.717 - P.723

質のよい情報とパソコン
 われわれが何かを考え判断するときに,情報は不可欠である.よい判断をするためには質のよい情報が必要であり,判断が正しいかどうかは情報の質に依存しているといっても過言ではない.
 質のよい情報が備えるべき要件を整理すると以下のようになる.

地域保健医療計画づくりにおける情報の活用法

著者: 吉田浩二

ページ範囲:P.724 - P.729

はじめに目的あり
 地域保健医療計画をはじめ,計画の作成にかかわったことのある人の中には,地域の現状を把握するためのありとあらゆる情報を収集した挙げ句に,それをどう処理していいかわからず,途方に暮れた経験をしたことのある人が少なくないはずである.しかし,それは情報処理の能力に欠けていたからではなく,実は情報の扱いに関する基本的な姿勢が間違っていたのである.情報には,目的がある.しかし,情報を集めていたとき,おのおのの情報についての目的を考えていただろうか.
 これまで多くの人が無意識のうちに信じてきた「情報は多ければ多いほうがいい」という常識が,実は現代の激変の時代には通用しないということを,日比野は「ブレイクスルー思考」における「目的『適』情報収集の原則」として述べている1,2).これを計画づくりに当てはめて,簡単に解説する(図1).

防災計画を策定する際に必要な情報

著者: 高鳥毛敏雄 ,   多田羅浩三

ページ範囲:P.730 - P.734

 阪神・淡路大震災により,防災計画を策定する際に,医療救護,防疫などの生活衛生対策に加えて,避難所生活者および仮設住宅生活者などに対する保健・福祉の対人活動を準備しておく必要性が強く示唆された.これは,わが国の保健福祉施策の成熟化と国民の高齢化に対応した検討が求められている課題であると考えられる.このように社会の変化を踏まえた今後の防災計画を策定する際に必要と考えられる情報についてまとめた.

疾病別統計情報の質の向上と活用法—結核を中心に

著者: 阿彦忠之

ページ範囲:P.735 - P.739

 保健所は,地域の健康問題に関する情報の宝庫である.人口動態統計をはじめとする各種の厚生統計はもちろん,脳卒中登録や結核・感染症サーベイランスなど,扱っている健康清報の種類と量の豊富さで,保健所の右に出るものはないであろう.地域保健法では,この貴重な資源を生かすためにも,保健所の情報管理や調査研究機能の強化を強く求めている.筆者もわずかな経験であるが,保健所で収集可能な統計には,地域の健康問題の分析あるいは保健福祉サービスの質的評価とその改善方策の提案のために,役に立つ情報が多いことを実感している.しかし現実はどうかというと,このような目的で情報を収集し解析しようという問題意識はまだまだ低い.電算化の進展により保健所の情報管理の基盤はかなり整ったようにみえるが,高まっているのはもっぱら,国や県への報告という無機質な目的の情報処理機能である.地域の保健福祉に関する計画や評価などの目的に応じて,収集する統計情報の種類や質を管理し,これをいかに役に立つ「情報」に加工し活用できるかが,今後の保健所の課題である.そこで本稿では,筆者が保健所で「情報管理」の重要性をとくに痛感した分野である感染症対策,とりわけ結核対策での実践例を紹介しながら,情報の収集,蓄積,評価などのあり方を述べてみたい.

視点

人と動物の共生—感染症の視点から

著者: 伊藤喜久治

ページ範囲:P.698 - P.699

 獣医公衆衛生行政では食肉衛生,牛乳衛生,狂犬病予防が典型的な事業であるが,実際はかなり広範な分野に関与しており,獣医公衆衛生は“動物を介して起こるヒトへの健康被害への予防”といえる.

トピックス

保健所の再編強化—企画部門の充実をめざして

著者: 平田輝昭

ページ範囲:P.740 - P.744

 福岡県では平成9年4月,地域保健法本格実施にあわせ,2次保健医療圏と一致した保健所所管区域の再編が行われた.同時に保健所内部組織の大幅な改革も行われ,新制度のもとでの保健所として新たな一歩を踏み出した.
 ここでは,福岡県の保健所改革の全体像を紹介するとともに,今回の強調点の一つである企画指導部門の充実について私見を交えながら今後の展望をのべてみたい.

連載 暮らしに潜む環境問題

ディーゼル排気微粒子

著者: 前田和甫

ページ範囲:P.746 - P.751

1.なぜディーゼルなのか
 本編のタイトルはディーゼル排気微粒子であり,ディーゼル排気ガスではない.従来からディーゼル排気という時には,一般的に排気微粒子とガス状の排気物(CO,CO2,NOxその他多種類の揮発性有機化合物(VOC))の両者を含んだものであった.あえてディーゼル排気微粒子とタイトルを選ぶのは,最近の研究で汚れた空気の健康影響はガス状汚染物の濃度よりも粒子状汚染物の濃度との関連が強いことを示す優れた疫学調査が相次いで発表され,世界的に認知されてきているがゆえと了解している.ディーゼル排気の健康影響が問題になっているのもまさにその主成分がサイズの小さな微粒子で,肺の奥まで吸入され得るのが大半を占めているからなのである.

研究ノート 高齢者在宅ケア地域総合支援システム

[事例] 入院から在宅療養に向けた独居老人への支援

著者: 堀井礼子

ページ範囲:P.753 - P.759

 MDS-HC/CAPSは,平成6〜8年の3年間,高齢者在宅ケア地域総合支援システム研究事業として,北海道6カ所の保健所がこの手法を使いながら,在宅高齢者のケアプラン作成の方法論の有効性について研究を行ってきました.
 北海道深川保健所管内ではこの時期,自治体が直営の介護支援センターを開所し,保健センターの中堅保健婦をそこに異動させました.保健婦はもちろん,配属された職員はそこで何を,どこから,どのように始めて良いか混乱した状況にありました.在宅高齢者の地域ケアを充実していくために,支援センターがどんな役割と機能を担うことが必要で,そのために関係機関とどんな連携のとり方が必要か,町でこのことにかかわる関係者が共通な絵を描けるよう,関係職員を対象にした学習会の開催に保健所も参画しました.その中で,介護支援センターがキーステーションとなって,在宅高齢者のケアをマネージメントする体制を構築していく必要性が確認されました.そこで,地域で処遇が必要な事例をとおして,チームでケアプランを作成することの意義や効果について,高齢者の地域ケアにかかわるおのおのの職種が,チームで共通に体験を積み上げていく必要があり,希望がある町と協力し,本手法(MDS-HC/CAPS)による研究を道具として活用しながら,地域のケアマネージメント体制構築に向けて支援しているところです.

市町村保健活動と保健婦

<座談会>健康福祉の町づくりにおける保健婦活動・1—島根県宍道町

著者: 浜村愛子 ,   佐藤玲子 ,   目次宗生 ,   福田良 ,   内部直美 ,   関龍太郎

ページ範囲:P.760 - P.765

 関 最初に浜村さん,宍道町の保健活動のこれまでの流れを簡単にご紹介ください.
 浜村 宍道町は平成8年4月現在の人口が9,681人,65歳以上の高齢者が2,044人(高齢化率21%)で,ひとり暮らしの老人が74人という町です.この座談会を機会に,宍道町の保健活動がどう変わってきたかを少し整理してみましたが,ここ15年ほどで目まぐるしく変化してきているという実感があります.

福祉部門で働く医師からの手紙

「痴呆老人を地域で支える」という現実

著者: 牧上久仁子

ページ範囲:P.766 - P.767

 今年の1月,この冬一番の寒さが緩んだ朝,78歳の女性Aさんが自宅の玄関で冷たくなっているのを訪問した保健婦とヘルパーによって発見されました.
 Aさんは3年前にご主人を亡くし,都営住宅にひとりで住んでいました.子どもはなく,唯一の身寄りは亡くなったご主人の甥ごさん2人だけです.2〜3年前から痴呆症状が出はじめ,ご近所を長時間徘徊するようになりました(Aさんの場合は道に迷ったり,いつものルートをはずれて遠くに行ってしまったりということはないので厳密にいうと徘徊ではないのですが…).Aさんの脚力はたいしたもので,夏の暑い中も,真冬の木枯らしの中でも,それこそ一日中ご近所を歩きまわっているのです.彼女の徘徊コース? 上に区の高齢者施設がありました.豊島区ではことぶきの家と呼んでいます.元気な高齢者にレクリエーションを提供したり,看護婦・福祉職が相談を受けるなど,さまざまなサービスをしています.全区で16館あり,入浴できる施設もあります.Aさんは日課のようにことぶきの家に寄ってはしばらく休み,また徘徊を続ける,といったように日々を過ごしていました.

精神保健福祉—意欲を事業に反映するために

計画づくりの基本

著者: 高畑隆

ページ範囲:P.777 - P.782

 障害者基本法には,障害者に精神障害者が含まれています.そして,市町村障害者計画の策定が求められています.策定にあたっては,障害者の施策を総合的・計画的に推進するために,地方障害者施策推進協会を設置した実施体制となっています.具体的計画づくりでは,市町村障害者計画策定指針が出されています.

活動レポート 住民参加型の保健活動・9

静岡県竜洋町の保健活動(その3)—保健計画推進の経過

著者: 塩沢京子 ,   𠮷岡章代 ,   大杉真澄 ,   高橋弘恵

ページ範囲:P.768 - P.770

 前回は,竜洋町保健計画が策定されてから母子保健を推進するワーキング・グループが誕生した経過とワーキング・グループで実際に話し合ったこと,話し合いの中でのワーキング・グループ員の気持ちの変化について報告した.
 今回はワーキング・グループ以外の活動について報告する.

レポート

米国・ロスアンゼルス老人福祉視察旅行記—高齢社会の未来を求めて

著者: 中山弘子

ページ範囲:P.772 - P.774

 「グループシニアライフを考える会」で先般,米国・ロスアンゼルス老人保健福祉研修旅行に参加する機会を得たので報告する.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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