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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生61巻11号

1997年11月発行

雑誌目次

特集 現場における研究のすすめ

公衆衛生と研究のノウハウ

著者: 川上憲人 ,   清水弘之

ページ範囲:P.788 - P.793

 自分たちが行う活動に科学的根拠を持つことは,公衆衛生の専門性を高め,発言に自信と根拠を与え,住民や政策決定者の理解をうながし,活動をさらに展開してゆくために有用である.万一,研究により現在行っている活動の有用性が否定されたとしても,工夫や改善によってより有用な方法を提供することは公衆衛生の実践家としての責任でもある.また本来考えられていた以外の側面に実は有用であることを発見するきっかけになるかもしれない.今日のように,ある政策や制度に対して予算を投じることに対する根拠の開示が求められる時代においては,公衆衛生活動もまた,研究によってその根拠を明らかにしてゆくことが求められていると思われる.
 地域保健法の改正にともなって,保健所が調査研究機能を持つことが求められ,そのための制度づくりや研修などが実施されている.しかし,現場の方からは,どんな研究をしたらよいかわからない,研究の仕方がわからない,統計が使えない,という声がよく聞かれる.図には,患者・対照研究を例にとって,現場における研究の手順を示した1).ここでは,この手順に従って,公衆衛生の現場にいる方が研究を実施する際に注意すべき問題点について簡単に述べてみたい.

疫学研究の歴史と成果

著者: 山中克己 ,   豊島英明

ページ範囲:P.794 - P.799

 疫学という名称は1873年のThe Oxford English Dictionaryに「流行を取り扱う医学の一分野」1)としてでてくる.しかし,教科書にその定義が示され,定着してきたのは最近30年前後である.その定義もこれまで,50編1)以上は示されているが,その内容は類似している.代表的な内外の定義を各1編あげる.
 Leavell, H. R.(1964)2)[Epidemiology is a field of science which is concerned with the various factors and conditions that determine the occurrence and distribution of health, disease, defect, disability, and death among groups of individuals.(疫学とは人間集団の健康,疾病,欠損(症),障害,死についてその発生,分布を規定する各種の要因や条件を研究する科学の一分野である.著者訳)」

厚生省班研究の歴史・成果と厚生科学研究

著者: 矢島鉄也

ページ範囲:P.800 - P.806

 平成9年度の厚生省科学技術関係予算は915億円である(表1).平成8年度はおよそ800課題以上の研究が行われているが,それぞれの課題で研究班が設置されており,一つの課題に複数の研究班が設置される場合もあり,研究班の全体像については明らかになっていないのが現状である.平成7年11月に「科学技術基本法」が制定され,平成8年7月に「科学技術基本計画」が閣議決定されたことを受け,平成9年度の厚生省科学技術関係予算は21%の高い伸びを示した.科学技術基本計画では,研究に対する評価と競争原理の導入が示されており,平成9年度に新たに創設された「先端的厚生科学研究分野」は原則公募制をとっている.このような流れを踏まえ,公衆衛生分野における厚生省班研究の歴史および成果についてまとめ,これからの厚生科学研究の動向について分析する.

基本健診における血清脂質検査精度管理の全県的実施に関する研究

著者: 小澤秀樹 ,   青野裕士 ,   斉藤功 ,   池辺淑子 ,   後藤朗 ,   伊東盛夫

ページ範囲:P.807 - P.811

 地域保健の第一線の実践の場として,保健所には各種の情報,データが集積されている.これらのデータを日常業務の集計や報告として処理していくことに追われがちである.しかし,その中で日常とは違った特異的な状況が生じていることに気がつくと,そのデータの源泉に遡った調査研究を計画することができる.そして,調査研究の結果,新たに収集されるデータが正確な情報として把握されることになる.

職域におけるストレス研究

著者: 下光輝一 ,   小田切優子 ,   坂本歩

ページ範囲:P.812 - P.817

 平成7年度から,作業関連疾患の予防に関する研究プロジェクト(労働省委託研究)がスタートした.本研究プロジェクトは,東京医科大学精神神経科加藤正明名誉教授(日本ストレス学会理事長,日本産業精神保健学会理事長)を班長とする一大研究プロジェクトであり,「労働の場におけるストレス及びその健康影響に関する研究」をテーマにして,30名を越える班員を集めて開始された1,2)
 本研究プロジェクトは,発足当初は「職業性ストレスの健康影響評価」,「職業性ストレス測定法の開発」,「職業性ストレスの対策法の開発」という3つのテーマを持ち,そのそれぞれに,研究グループが形成された.まず,岐阜大学医学部公衆衛生学川上憲人助教授をリーダーとする第1グループは,「職業性ストレスの健康影響の評価」グループで,3〜4万人の企業従業員コホートを5年間にわたって調査し,職業性ストレスおよびそれに関連する社会心理的要因が健康障害の発生に及ぼす影響を明らかにすることを目的として開始された.本邦における労働者のストレスと健康に関するコホート調査は少なく,本研究プロジェクトは,米国職業安全保健研究所(NIOSH)の職業性ストレス調査票3)やRobert Karasekらにより開発されたJob content questionnaire(JCQ)4)などの,信頼性,妥当性の高い調査票を用いており,極めて水準の高い疫学研究のデザインによって企画されている点で注目される.

健康に影響を及ぼす環境問題の研究—環境庁の研究班より

著者: 椎葉茂樹

ページ範囲:P.818 - P.821

 昭和31年4月に新日本窒素水俣工場付属病院で,手足の運動障害,歩行困難,発語障害等などの脳症状を有する5歳と2歳の姉妹を診察した小児科の医師が,当時水俣で多発している奇病として5月1日に水俣保健所に届け出ている.これが後に世界のあらゆる公衆衛生の教科書に掲載されることになる水俣病の公式な発見で,わが国における公害の出発点でもあった.表1に水俣病の発見や原因究明に関して,保健所,医療機関,大学,行政といった「環境保健の現場」がそれぞれのどのような対応をしたかを示した.この時の初動対応は,環境保健活動の今後の方向を示していると筆者は思っている.本稿では,環境庁を中心に環境保健をめぐる様々な問題とそれに対する研究の進め方について私見を述べる.

公衆衛生学会の学会発表の推移と問題点

著者: 曽田研二 ,   土井陸雄

ページ範囲:P.822 - P.828

 本年10月,神奈川県(横浜市)において第56回日本公衆衛生学会総会が開催される.また本年は昭和22年に本学会が創設されてから50年目に当たる.この機会に公衆衛生学会における学術研究および公衆衛生活動に関する講演,発表などの推移と問題点を考察してみたい.これに関し,1970〜1988年の本学会研究発表の動向については猫田ら1)が詳細な報告を行っているので,本編においては第56回総会を中心に1989年以降に限って述べることにする.

視点

転換期の地域保健における自治体の使命

著者: 中村仁

ページ範囲:P.786 - P.787

 平成9年4月より地域保健法の本格的実施に伴い,住民に密着した保健サービスは市町村で,となり,保健・医療・福祉の連携や,施設整備や,マンパワーなどの充足が大きく取り上げられている.最上町では,以前から高齢化の進行を踏まえて,住民が安心し,生きがいをもって暮らせる町を目指し,「健康で心豊かなまちづくり」を基本にして,諸施策を展開してきた.
 当町は人口12,500人で山形県の東北部に位置し,四方を奥羽山系に囲まれた盆地の中にあり,県内でも有数の豪雪地帯である.昭和60年には老齢人口14.3%となり平成12年には4人に1人が65歳以上になることが予測され,要介護老人の増加が見込まれる.3世代同居率が46.2%と高いが,女性の就業率も72.4%(20〜64歳の女性)と高く,地域の介護力は年々低下してきていた.そのため昭和63年に,第2次町総合計画に包括医療ケアシステムの整備計画「ウェルネスタウン構想」を盛り込んだ.ウェルネスタウン構想とは,より創造的な健康を目指し,「健康な体・健康な心・健康な社会生活」を維持発展させることを目的としている.

対談

市町村保健福祉活動における機能訓練事業・デイケア・デイサービスを検討する・1

著者: 浜村明徳 ,   山本和儀

ページ範囲:P.830 - P.834

リハビリテーション専門職により先駆的に開始された地域におけるリハビリテーション活動は,その後の老人保健法に基づく機能訓練事業の創設,通所リハビリテーションの一環としての老人保健施設でのデイケア,あるいは老人福祉法による老人のデイサービス事業などとの連携を強めながら,点から線へ,さらに面へと展開されてきた.この対談では,地域リハビリテーション活動における機能訓練事業,デイサービス,デイケアそれぞれの機能と役割を検討し,介護保険の導入も間近に控えた市町村自治体での高齢者を対象とした保健福祉活動の今後の方向を探る.

連載 研究ノート 在宅高齢者の地域支援システム

MDS-HC/CAPsを用いたケアマネジメントの試み

著者: 縄井詠子

ページ範囲:P.835 - P.840

 滝川保健所は,2市1町を管轄し人口約7万5千人.農産物自由化の推進や炭鉱閉山など基盤産業の変遷により若年層の流出が進み高齢者率は管内19%である.それに伴い老人世帯が増え,介護力の確保と支援ネットワークづくりが課題となっている.
 今回MDS-HC/CAPsを一つの手段として,アセスメントの統一を図り検討指針を基にケアプラン作成を試みた.

暮らしに潜む環境問題

VTEC

著者: 中野匡子 ,   金成由美子

ページ範囲:P.846 - P.853

1.VTEC(ベロ毒素産生性大腸菌)とは
 大腸菌のうち,下痢を起こすもの(下痢原性大腸菌:表1)のうち,赤痢菌が産生する志賀毒素によく似た毒素「ベロ毒素(VT)」を産生するものをベロ毒素産生性大腸菌(Verotoxin producing E.coli:VTEC),VTECのうち出血性大腸炎をおこすものを腸管出血性大腸菌(enterohemorrhagic E.coli:EHEC)という.一方,大腸菌は,血清型からも分類され(細胞壁のO抗原,べん毛のH抗原),わが国でEHECとして問題になるのは,O157,O26,O111,O145などで1),なかでもO157は,発症例の大部分を占め,重症の合併症を起こすことがあることから注目されている.

市町村保健活動と保健婦

<座談会>健康福祉の町づくりにおける保健婦活動・2—島根県宍道町

著者: 浜村愛子 ,   佐藤玲子 ,   目次宗生 ,   福田良 ,   内部直美 ,   関龍太郎

ページ範囲:P.854 - P.859

 関 今回は,保健との連携が強調されている福祉の立場から,保健婦活動をどのように見ておられるのか.まず,在宅介護支援センター所長の福田さん,いかがでしょうか.

福祉部門で働く医師からの手紙

福祉施設での保健医療活動—その知られざる姿

著者: 古林敬一

ページ範囲:P.860 - P.861

 本誌2月号のこのコーナーで松下彰宏氏が書いておられた「福祉部所管の大規模な知的障害者施設の診療所」が,私の勤める金剛コロニー附属診療所です.金剛コロニーは,大阪府が設置し,社会福祉法人大阪府障害者福祉事業団が運営している知的障害者総合援護施設です.入所者数840余名で,在宅の知的障害者への支援も行っています.附属診療所は,精神薄弱者福祉法や児童福祉法上の設置義務はないのですが,施設規模が大きい(入所者数は日本一)ことから府条例で設置が定められており,入所者ならびに在宅・近隣施設の知的障害者を医療面で支えています.
 「知的障害」と聞くと,一般の方は子どもをイメージされるようですが,当コロニー入所者の年齢構成は,40歳代が45%,50歳以上が15%と中高年が主体となっており,一般社会同様,高齢化が進んでいます.最高齢者は72歳です.大阪府福祉部には,府財政がきびしいにもかかわらず,疾病・障害の多様化・複雑化に対応した診療レベルを維持すべくご尽力いただいており,この場をお借りして厚くお礼申し上げます.

精神保健福祉—意欲を事業に反映するために

コミュニティワーク入門—計画の初動にあたって

著者: 田中英樹

ページ範囲:P.868 - P.871

 連載の流れから,本稿では「計画を実務に切り替える」部分を概説したい.いわばここでは計画の「策定段階」から「実施段階」への実践展開法について述べることになる.
 精神保健福祉に関する計画は,区市町村レベルでそれを策定すること自体大変な作業である.ましてや実施に移す(事業化=予算とその執行)行政施策化となると,さらにより多くの困難を伴いやすい.「障害者プラン」に謳われた精神保健福祉領域は,老人保健福祉計画や子育て支援計画,ほかの障害者計画とは,この「事業化」の部分で残念ながら困難の度合い,条件に格段の差が生じている.課題の最たるものは,行政内部においては「事業化」そのものであり,市民領域においては「心のバリアー(障壁)」そのものである.したがってマイノリティ問題の国民的合意形成(バリアフリー化)の方法として有効と思われるコミュニティワークの視点と手法からこの課題に接近することを本稿の役割として,計画執行の初動部分を中心に論を展開していきたい.

資料

ジャカルタ宣言—21世紀にむけたヘルスプロモーション

著者: 鳩野洋子 ,   岩永俊博 ,   神馬征峰

ページ範囲:P.841 - P.845


 第4回ヘルスプロモーション国際会議は,「来たるべき時代の新たな担い手たち—ヘルスプロモーションを21世紀へ導くために」,というテーマのもと,1997年7月21日から25日まで,ジャカルタにおいて,国際的な健康戦略の開発が待たれる決定的な時に開催された.WHO加盟国が,「すべての人に健康を」という地球規模の戦略と取り組み,またアルマアタ宣言によるプライマリ・ヘルス・ケアの諸原則とも果敢に取り組んでから,約20年の月日が流れている.カナダのオタワで第1回ヘルスプロモーション国際会議が開かれてからは11年が過ぎている.同会議の結果はヘルスプロモーションのためのオタワ憲章として出版され,その後ヘルスプロモーションを導きかつ鼓舞する原典として位置づけられてきた.その後,それに引き続く国際会議やその他の会合では,ヘルスプロモーションの主要戦略の意味や妥当性が明らかにされてきた.1988年オーストラリア・アデレイドにおける「健康的な公共政策づくり」,1991年,スウェーデン・サンズバルにおける「健康のための環境づくり」のための国際会議は,その代表例である.
 第4回ヘルスプロモーション国際会議は,はじめて発展途上国で開催され,そしてはじめてヘルスプロモーションを支援すべく民間部門が参加した会議でもある.本会議では効果的なヘルスプロモーションのためにこれまで何を学んできたのかを振り返り,さらに健康の決定要因を再検討するという機会が得られた.

報告

韓国の医療保障改革の方向—日本・韓国の比較

著者: 安弼濬

ページ範囲:P.862 - P.867

 1995年現在韓国の人口は4,485万余人で日本の約36%,平均寿命は男性69.5歳,女性76.6歳で,男女ともに日本より約6歳低く,老年人口(65歳以上)は5.7%(日本:14.8%)で日本の1961年水準に相当する若い国である.
 しかし,2001年には韓国も老年人口が7%(高齢化社会)になり,さらに老年人口が14%(高齢社会)に至るには22年(日本:24年)と推計1)されている.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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