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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生61巻12号

1997年12月発行

雑誌目次

特集 現代の危機管理

公衆衛生における危機管理と現代社会

著者: 下田智久

ページ範囲:P.876 - P.880

 「危機管理」体制がわが国では弱いという.ペルーでの日本大使公邸占拠・人質事件,神戸を中心とした阪神大震災,ナホトカ号による重油流出事故等々.こうした事件がおこるたびに繰り返し指摘されている.
 危機に適確に対処するためには迅速かつ正確なる情報の入手が不可欠だ.動燃東海事務所の火災・爆発事故の場合,官邸への報告が遅れ,官房長官はマスコミから指摘されて事故の発生を初めて知ったという.重油流出事故では,専門家を早めに動員し,各省の連繋をうまくやれば,日本海全域への汚染は防げたはずとの意見がでた.

予防医学におけるリスクマネージメント理論

著者: 酒井亮二

ページ範囲:P.881 - P.885

 傷病は「好ましからざる状態がおきる確率」と定義されているリスクである.インフォームドコンセットに例をみるように,医療行動の決定因子は「健康リスクの認識度である」ことは明らかである.リスクマネージメントに関する臨床論文は年々膨大な数であり,傷病を健康リスクとして取り扱うことに強い関心が持たれている.一方,今日危機管理の必要性が叫ばれている.ここで,危機は一般に「リスクの転換期」と定義されるリスクの特殊な1つの様相であるので,リスクの予防に対し社会的関心と要求が高まっていることが伺われる.これは,地球環境問題に例を見るように,便利さを追求して増えている技術が健康と生存上のリスクを日々増大させており,また環境汚染,交通事故予防対策など個々のリスクごとに予防医学対策を策定する方法では予防対策の国家費の際限がなくなる危険をはらむとの社会認識が強まっていることにもよる.これらの結果,増大する様々なリスクの予防のために合理的なリスクマネージメントの確立が今日期待されている.傷病をリスクとして科学的に取り扱うことは医学の広範な領域で必要とされる基本的立場であるが,以下では予防医学でのリスクマネージメントを検討する.

医療における危機管理体制

著者: 小池麒一郎 ,   伊藤昌弘 ,   藤巻和広

ページ範囲:P.886 - P.890

 危機管理とは,発生した危機的状況に,直ちに対応できるよう,あらかじめ安全を確保するための措置をしておき,発生した危機の影響を最小限に抑えることである.わが国で発生した自然災害および交通事故や感染症を含む人為的災害はそれぞれ表1ならびに表2に示すとおりであり,決して稀ではない.災害時においては,医師会救助活動が常に求められるが,災害対策基本法の第1章総則のなかでも,医師会が民法第34条の規定に基づく公益社団法人であり,実際に医師会の救助活動が必要であるところから,知事の判断により,災害救済上の指定地方公共機関として認められるとされている(昭和44年10月6日,消防法第385号行政実例).すなわち,災害時の医師会の救護活動は指定地方公共機関として,法の中に包含されている.偶発する危機状況は発生原因,規模,被害の多寡など,多様であるが,そのいずれの事態に際しても危機管理の基本的理念は等しく国民の生存を守ることにあり,個人の自助努力が及ばない領域では国と社会が対処,克服することが求められる.

大火砕流の経験を生かして—長崎県雲仙普賢岳火山災害

著者: 田川宜昌 ,   田川雅子 ,   竹本泰一郎

ページ範囲:P.891 - P.895

火山災害の特徴
 火山は何百年あるいは数年たってから噴火活動を再開する.雲仙普賢岳噴火も江戸時代の「島原大変・肥後迷惑」といわれた大噴火から約200年後の出来事である.地震や水害の被害は極めて大きいが反復することは少なく,災害自体は短期間で終焉する.それに対して数年以上長期間持続反復することが火山災害の特徴であり,人々は火山と共生して行くことを余儀なくされる.火山国である日本では全国の火山に観測網が張られている.地震が地下の出来事であるのに対し,噴火は地上に溶岩が噴出するので現象的には経過を追うことは可能である.しかし,噴火活動の予知あるいは災害リスクの予測という点では多くの課題が残っているようである.こうした多くの火山噴火に共通した特徴とともに,それぞれの火山噴火は活動の反復・持続性や人間居住地への近接性などで特徴的である.雲仙普賢岳の火山災害は,噴火火口が島原市や深江町など有明海沿岸の人口密集地域に極めて近いことが,危機管理の点においても大きな特徴である1,2)(図1).

大震災の経験を生かして—兵庫県

著者: 後藤武 ,   田村賢一

ページ範囲:P.896 - P.900

 人知を超える大自然の力をあらためて認識させられた阪神・淡路大震災.安全神話を盲信し防災対策や危機管理体制が十分でなかったことなど,われわれはかつてない大都市直下型地震から,多くの反省と数々の貴重な教訓を学んだ.医療面では,傷病者の治療にあたるべき医療機関が,建物やライフラインに相当の被害を受けただけでなく,未曾有の交通渋滞が,職場へ駆けつけようとする医療従事者の行く手を阻んだ.
 被災地域の全医療機関を対象に実施した「兵庫県災害医療実態調査」によると,ライフラインの確保や医薬品の備蓄など事前の備えをとっていた医療機関が少なく,また,医療需要の急増に対応できる体制などが不十分であった事実が明らかとなった.同時に,電話回線の輻輳などにより,救急車やヘリコプターによる傷病者の搬送が円滑に行えなかったことも確認されている.

大震災の経験を生かして—神戸市

著者: 桜井誠一

ページ範囲:P.901 - P.906

危機管理の意味するところ
 最近,危機管理という言葉がよく使われる.しかし,流行語のように,あまり深く考えずに使われているのが実態である.
 阪神・淡路大震災だけでなく,オウムサリン事件,北海道豊浜トンネル崩落事故,ペルーの日本大使館人質事件などあらゆる事件,事故について新聞,テレビでは危機管理が杜撰であったとか,危機管理能力の欠如であるとか,といった取り上げ方をされる.危機管理がうまくいった事例は逆に事件,事故にならないか,新聞の社会面を飾るには小さい内容になってしまって危機管理の成功例をわれわれが新聞などで目にすることがない.したがって,わが日本においてはいつの間にか,何事においても問題解決能力がないかのような錯覚に陥らされる.

O157感染症集団発生の経験から

著者: 押田訓英

ページ範囲:P.907 - P.910

 平成8年7月13日(土)午前10時ごろ,市立堺病院から「前日12日の夜間診療で,下痢,血便をともなう学童を10名診察した」旨,堺市環境保健局衛生部に届け出があり,同様の情報が同じころ,別の医療機関からも保健所に寄せられた.直ちに学童の集団食中毒を疑って,環境保健局長をはじめ幹部職員,保健所長,食品衛生監視員全員に非常呼集を行い調査を開始した.
 調査が進むにつれて,当初患者が学童に集中し,調査開始2時間後に200名を超える患者発生を把握したため,同日午後3時に環境保健局長を本部長とする「堺市学童集団下痢症対策本部」を設置した.14日の午後3時には,本市衛生研究所において有症者検便26検体のうち13検体から腸管出血性大腸菌O157(以下,「大腸菌O157」という)を検出,今回の学童集団下痢症の原因菌と断定した.患者数はその後,時間を追って増加したため,16日に市長を対策本部長とし,全庁をあげて取り組む体制を確立した.

地下鉄サリン事件の経験を生かして—東京都における大規模災害発生時の医療救護対策について

著者: 斎藤実 ,   荻野忠 ,   長岡常雄

ページ範囲:P.911 - P.917

 1995年1月に発生した阪神・淡路大震災および同年3月に東京で発生した「地下鉄サリン事件」は,大規模な医療救護活動が必要とされた事例として,多くの教訓を残した.
 本稿では,地下鉄サリン事件への関係機関の対応と,その後,この2事例を踏まえて作成した,東京都における災害時の医療救護体制(危機管理)と「東京都災害医療救護活動マニュアル」などについて述べる.

視点

これからの結核対策の方向

著者: 森亨

ページ範囲:P.874 - P.875

 某病院の看護婦たちの結核集団発生で1人が死亡するという「事件」に端を発し,結核の集団感染,院内感染,薬剤耐性結核などをキーワードとするメディア攻勢が目覚ましい.おりからの感染症ブームもあって「結核」が最近になくマスコミをにぎわしている.ある友人はこれを一種の「危機管理」の問題と評した.が,考えてみれば結核は年々3千人近い人の命を奪っており,4万人を越す患者を作り出しているのであり,いまさら「危機」かどうか.筆者にとっては多少の特異点はあるというものの,上の事例もこの数年来しばしば措置のお手伝いをしている集団発生,院内感染の一つである.「危機」は本来はメディアが醸し出したものであり,この問題はむしろ今の,そしてこれからはますます露わになるであろう結核問題のモデル,あるいは結核対策の重点施策の象徴としてとらえるべきだと思う.
 モデル・象徴たるわけをみてみると,まず結核発生の面から見れば.

対談

市町村保健福祉活動における機能訓練事業・デイケア・デイサービスを検討する・2

著者: 浜村明徳 ,   山本和儀

ページ範囲:P.921 - P.927

機能訓練事業は自立とQOLを支援するもの
 浜村 前回で話し合ったような状況のもとで開始された機能訓練事業ですが,その後,5年,10年と経過するなかで,リハビリテーション専門職の理学療法士,作業療法士が格段に増加してきました.そして例えば,脳卒中で入院してもリハビリテーションを受けずに退院するという患者はごくわずかになりました.他方,障害を伴う疾病ではないけれど,高齢者が入院し臥床が中心の治療が行われた結果として,退院後に運動障害が残るという場合が増えております.
 このような医療における変化がありますが,機能訓練事業の位置づけは全国的に見て,何か変化がございますか.

特別寄稿

健康転換概念による公衆衛生・予防活動のあり方の分析—1.5次予防を中心に

著者: 長谷川敏彦 ,   川村治子 ,   河原和夫

ページ範囲:P.938 - P.946

 疾病の予防は人類の夢である.
 予防はLeavellらによるとその介入の段階に応じて,「第一次予防」すなわち疾病の原因を絶つこと,「第二次予防」すなわち,早期に発見し,治療すること,「第三次予防」すなわち,障害を予防し社会復帰を促すこと,に分類される1)(表1).さらに,最近は人生を完成させるに際して末期の緩和ケアも,三次予防の一部として考えるべきと思われる.

連載 研究ノート 在宅高齢者の地域支援システム

[事例]脊髄小脳変性症のケアマネジメントと地域ケアの構築

著者: 高間千穂美 ,   粟井是臣 ,   小玉光子

ページ範囲:P.933 - P.937

 高齢者などの在宅ケア・サービスを適切かつ効率的に提供するために,北海道内の6保健所においてMDS-HC/CAPs(Minimum Data SetHome Care/Client Assessment Protocols)を用いて,在宅高齢者などのアセスメントやケアプランの作成を試みてきた.
 紋別保健所は北海道の北東部に位置し,オホーツク海に接しており,保健所管内は1市3町1村で構成され,面積は2,900km2で富山県に匹敵する広大な面積を有している.

暮らしに潜む環境問題

室内空気汚染(ホルムアルデヒド)

著者: 東京都・特別区環境衛生職員研究会技術部会

ページ範囲:P.918 - P.920

 一日の生活時間のうち,多くの時間を過ごす「住まい」は生活の基盤である.従来,この「住まい」の空気を汚すものとしては,暖房器具などから発生する一酸化炭素や窒素酸化物が問題となっていた.最近はそれらに加えて,建築材料などに使用されている化学物質が注目され,「シックハウス症候群」や本誌2月号で紹介された「化学物質過敏症」ということばも聞かれるようになった.
 今回取り上げるホルムアルデヒドは,社会問題にもなった光化学スモッグの反応生成物の一つで,たばこや燃焼物中に含まれている.また,たん白質凝固作用や酵素活性阻害作用を利用して殺菌剤に利用されている.石油ショック以降,省エネルギー対策で高度に気密化したビルや「住まい」で,この物質が頭痛や目,のどの痛み,疲労感や不眠症に悩まされるという問題を起こしている.

市町村保健活動と保健婦

<座談会>健康福祉の町づくりにおける保健婦活動・3—島根県宍道町

著者: 浜村愛子 ,   佐藤玲子 ,   目次宗生 ,   福田良 ,   内部直美 ,   関龍太郎

ページ範囲:P.929 - P.932

 関 宍道町には保健婦さんが3名おり,ベテランと新米と,その間に中堅の保健婦さんという編成です.今日の座談会にはベテランと中堅のお二人にご出席いただいておりますが,今回はまず,これからの保健婦への期待,あるいは注文でも結構ですが,福田さんからいかがでしょうか.

福祉部門で働く医師からの手紙

通園施設からの便り

著者: 本山和徳

ページ範囲:P.948 - P.949

 子どもの発達を支え,日々楽しさを展開していくためには,子どもの心や発達をみるよい目が必要である.子どもが今何に関心を持ち,どのようなコミュニケーションの方法をとれば気持ちが伝わるのかということを念頭におく必要がある.発達の様々なところで様々なレベルの障害をもつこどもにおいてはしばしば,ほかの子どもとのあそびやコミュニケーションがままならない.子どもの発達が,あそびに心を奪われその瞳が輝いているときになされることを思うときに,あそびの内容やコミュニケーションの積み重ねの大切さに気付かされる.

精神保健福祉—意欲を事業に反映するために

精神保健福祉行政の展開に向けて

著者: 竹島正

ページ範囲:P.950 - P.953

 今回は1年間のしめくくりとして,精神保健福祉行政における政策研究の重要性について述べることで,まとめに代えさせていただきます.なお原稿提出時期の関係から,主に9月号までの内容をもとにしたものになることをご了解ください.

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「公衆衛生」第61巻 総目次 フリーアクセス

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基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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