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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生61巻2号

1997年02月発行

雑誌目次

特集 病原性大腸菌O157の脅威

〔座談会〕堺市における病原性大腸菌O157の発生とその対応

著者: 小澤治子 ,   神木照雄 ,   高鳥毛敏雄 ,   中谷美子 ,   多田羅浩三

ページ範囲:P.77 - P.84

 多田羅(司会)今春の地域保健法の本格実施前に,保健所のあり方や市町村の保健センターを核とした地域保健体制の見直しが進められております.他方,政府の地方分権推進委員会では保健所長の医師問題についてかなり厳しい検討が進められております.
 そういう中で昨夏(1996年)には,病原性大腸菌O157が岡山県の邑久町や大阪の堺市など全国的な流行を見せました.そこで本日は,堺市のO157の流行の対策に関与され,推進された方々にお集まりいただき,堺市での経験から何を学び,何を今後の教訓とするかを検討したいと思います.

病原性大腸菌O157:H7の本態

著者: 城宏輔

ページ範囲:P.85 - P.88

 腸管出血性大腸菌[enterohemorrhagic Escherichia coli:EHEC]O157:H7(以下E. coli O157:H7と記載する)は1990年秋に浦和市の幼稚園においてわが国で初めての集団感染1,2)を起こして以来にわかに注目され,集団発生例,散発例がしばしば報告がみられるようになった.その後社会的には関心がやや薄らいだかにみえたが,1996年になり5月に岡山県,6月に岐阜県,広島県と集団感染が急増し始め,ついには7月の堺市における大集団感染となってE. cloi Ol57:H7感染は大社会問題として再び注目を浴びることになった.腸管感染の減少すべき秋になって岩手県,北海道でも集団発生があり,この菌の特異性を印象づけている.

わが国における病原性大腸菌O157の流行

著者: 高鳥毛敏雄 ,   井田修 ,   池田和功 ,   木本絹子

ページ範囲:P.89 - P.95

 大腸菌O157:H7が社会的に脅威であるとの認識は1982年に米国のオレゴン州とミシガン州で発生したハンバーガーによる食中毒事件にはじまる.この時Rileyらが原因菌として大腸菌O157:H7を分離し,この下痢症を出血性大腸炎(hemorrhagic colitis)と名づけた.この後,1983年にKarmaliが散発患者の調査から病原性大腸菌のVero毒素がHUS(hemolytic uremic syndrome)と関係していることを明らかにした.さらに,同年Johnsonらは大腸菌Ol57:H17がVero毒素を産生することを明らかにした.HUSについて記載したのはGrasserで,1955年にスイスにおける症例についてである.Vero毒素については1977年にKonowalchukらによって発見された.カナダにおけるふりかえり調査により1970年代の散発下痢症例からも頻回に菌が分離された.このことからすると1982年の食中毒事件以前からこの菌が存在していたと考えられる.1984年には米国ネブラスカ州で最初の死亡例(4名)が,1985年のカナダのオンタリオの老人ホームで17名の死者が発生するなど,米国,カナダ,英国で続々報告されるようになった.

腸管出血性大腸菌O157による食中毒の病態と治療

著者: 橋爪孝雄 ,   木谷照夫

ページ範囲:P.96 - P.100

 大腸菌は本来,健康人の腸管に常在する細菌である.しかし一部の大腸菌は人に有害に作用し,下痢症状などを起こすことが知られ,病原性大腸菌と呼ばれている.病原性大腸菌は腸管病原性大腸菌(enteropathogenic Escherichia coli, EPEC),腸管組織侵入性大腸菌(enteroinvasive E. coli, EIEC),毒素原性大腸菌(enterotoxigenic E. coli, ETEC),腸管出血性大腸菌(enterohemorrhagic E. coli, EHEC),腸管凝集付着性大腸菌(enteroaggregative E. coli, EAggEC)の5種類に分類されている.これらが属する病原性大腸菌はそれぞれ病原性を現わす機序が異なるが,大腸菌O157が属するEHECの特徴はベロ毒素(verotoxill, VT)を産生することで,別名ベロ毒素産生性大腸菌(verotoxin producing E. coli, VTEC)とも呼ばれ,この毒素により臨床症状が発現する.VTは色々な病態,症状を引き起こすがとくに溶血性尿毒症症候群(Hemolytic uremic syndrome,以下HUS)の原因となることが注目されている.

保健所における新しい感染予防対策および食品保健体制

著者: 發坂耕治

ページ範囲:P.101 - P.106

 岡山県邑久町において,学校給食を原因とする腸管出血性大腸菌O157(以下O157と略す)による集団感染が発生した.概要は表1のとおりである.O157は,潜伏期が比較的長いこと,症状は腹痛や血便を呈するものから無症状のものまで幅広いこと,溶血性尿毒症症候群(haemolytic uraemic syndrome;HUS)などの合併症を起こすこと,人から人への2次感染を起こすことなどから予防対策を進める上で多くの課題がある.とくに集団発生は食中毒として起きたが食中毒としての対応だけではなく,迅速な感染防止対策を学校など関係機関とともにすすめる必要がある.今回の事件を総括し衛生行政上の課題を検討するとともに,O157の流行を踏まえた新しい感染予防対策と食品保健体制を再検討する必要がある.

〔てい談〕病原体との共生とこれからの地域保健への教訓

著者: 吉川昌之介 ,   岩室紳也 ,   前田孝弘

ページ範囲:P.107 - P.115

 岩室 O157:H7(以下,O157)の発症で社会がかなりパニック状態になったことは否定できませんが,公衆衛生の現場でも,医学的あるいは公衆衛生学的判断がどこかにいき,マスコミを中心とした世間のパニックの波に流されてしまったのではないか,と個人的には反省しております.
 そこで,細菌学の立場から,改めて科学的に検証する必要があると考えお話をおうかがいしたいと思います.まず,一連のO157騒動をどう感じられたか,率直なところをお聞かせください.

視点

これからの感染症対策—臨床の立場から

著者: 神木照雄

ページ範囲:P.74 - P.76

感染症の変貌と現況
 感染症は様々な因子に修飾されて変貌を遂げる.この様々な因子は2つの群に大別される.すなわち,その1つは病原微生物側の因子であり,もう一方は宿主側に起因するものである.
 ここ数年の国際的動向として,WHOなどで問題とされているのは,新しく発見された病原微生物による感染症である.これらはエマージング・ディジース(emerging diseaseまたはemerging infectious disease)と呼ばれ,その対策に大きな関心が示されている.また,すでに制圧されたと考えられていた感染症が,再び流行するようになったもので,これをリエマージング・ディジース(reemerging diseaseまたはreemerging infectious disease)と呼び,これらの感染症にも注意を喚起することを促している.

連載 暮らしに潜む環境問題

化学物質過敏症

著者: 石川哲

ページ範囲:P.116 - P.119

1.化学物質過敏症(Chernical Sesitivity)
 化学物質過敏症という言葉を1992年に本邦に紹介して数年になった.最近では東京都やその他の公的部署も多大な関心を寄せており,この言葉も急速に市民権を得つつあるがまだ耳新しいかもしれない.しかし実際は本邦でも欧米でも歴史は古く,20年以上も前にすでに異なった病名で報告されている.有名なミュージシャンが自宅で芝刈り中に除草剤の過敏症で心臓麻痺のため死亡した,マラチオンの空中散布で目が見えなくなったなどの報告もあった.このように人類が作り出した化学物質でアレルギー様の反応が起こり,従来の中毒という概念からは考えられないほど微量の化学物質により様々な症状を来すこの疾患について正しい知識を身につけていただき,役立てていただきたいと思う.
 化学物質過敏症は過敏という名が示すように.ごく少量の物質にでも過敏に反応する点ではアレルギー疾患に似ている.最初にある程度の大きい量の有害化学物質に曝露されると過敏となり2度目に同じ物質に少量に曝露されると発症するという1型アレルギーに似た経過を取る(図1).時には最初に曝露された物質と2度日に曝露された物質が異なる場合もあり,その場合多種化学物質過敏症(multiple chemical sens itivity)と呼ばれる.一般のアレルギー疾患の花粉症でもスギがだめな人は,マツもだめ,カモガヤもブタクサもだめというのと類似しているかもしれない

精神保健福祉—意欲を事業に反映するために

国の予算と事業はどのようなスケジュールで決まるか

著者: 岩崎康孝

ページ範囲:P.120 - P.123

 国の政策は,「事業」という形で提供されることになっている.非常に大まかな説明としては,事業は法律と予算から構成されている.ここでは,その事業と予算の関係についてが課題である.このような観点からは,とくに精神保健領域に限り特殊な決定が行われているわけではないいため,行政一般の決定の仕方についてきわめて標準的な内容を述べることにする.

市町村保健活動と保健婦

<座談会>ウエルネスシティの展開と保健婦活動—宮崎県都城市・1—ウェルネス活動—まちづくりは人づくり

著者: 松岡忠昭 ,   池田文明 ,   池田順子 ,   朝倉信子 ,   新甫節子 ,   日高良雄

ページ範囲:P.124 - P.128

都城のプロフィール
 日高(司会) 都城市はウエルネス都市宣言をし,「人が元気,まちが元気,自然が元気」をモットーに活動されています.まず最初に,市のプロフィールとウエルネス活動について,池田係長さんに市の概要のお話をお願いします.
 池田(文) 都城市は宮崎県の南西部に位置し,西に霊峰高千穂の峰,東には鰐塚山系という山々に囲まれた広大な盆地にあります.市内には大淀川を中心に20数本の河川が縦横に流れる緑豊かな美しいまちです.水の豊富さ,おいしさは大きな自慢の1つです.

福祉部門で働く医師からの手紙

本庁から見る高齢者保健福祉

著者: 松下彰宏

ページ範囲:P.130 - P.131

 「福祉部だけはいきたくない」,「福祉部では忍の一字やで」,「次に福祉のポストにいくのは先生やな.私は絶対に結構ですわ」,「○○先生は苦労してはるなぁ」まわりの保健所医師にさんざん不安をあおられて,みんなの期待どおり福祉部に来て2年目になりました.現在本庁の福祉部にいる医師は社会保険の指導医療官を除くと,1歳6カ月児健診や地域リハビリテーションを担当する保健福祉政策室にスタッフでいる1人と私の2人です.
 保健所から福祉部へといっても,私自身は2年の臨床研修と1年の保健所での研修の後,4年間福祉部所管の大規模な知的障害者施設の診療所に出向して内科系の医師として勤務していました.障害を持つ人たちに比較的時間をかけて健康管理も含めた診療を行っていると学ぶことが本当に多く,保健所への転勤を断りたいと思ったくらいでした.そのあと4年も保健所の保健予防課長をしながら,当直だけですが診療所の兼務もしていましたからそれなりの素地があったのかもしれません.

利用者のホンネ・タテマエ

障害者のホンネ・タテマエ

著者: 森山志郎

ページ範囲:P.132 - P.133

 1.脳梗塞の後遺症で私は右マヒ2級障害者手帳を持って患者の会に入会した.病院のサポートにより,再発不安を取り除く教育や障害者のふれあいの場に親しんだ.転勤したのでこの患者の会にも別れ,不慣れな土地で閉じ籠り症候群に侵されつつあった.その私を,保健所の訓練教室に引き出してくれた保健婦さんには,今でも天使だったと感謝している.
 この訓練教室は,私の社会復帰第一歩の最も貴重な「場」であった.自信を失っていた私は,同病の仲間とふれあい,保健婦さんの熱意と笑顔で自分を少し取り戻した.やがて「機能障害に苦しむ」私から「能力障害を克服」する私へ変身し始めていた.

活動レポート

御調町における訪問活動の現状と課題

著者: 林拓男

ページ範囲:P.134 - P.138

御調町の地域包括ケアシステムの概要
 御調町は広島県南東部に位置し,尾道市に隣接する人口8,368人,高齢化率24.7%(平成7年7月1日現在)の農村地帯です.公立みつぎ総合病院は御調町立の国保診療施設であり,「包括医療の実践」を理念としています.一般病床200床,療養型病床群20床(平成9年度より一般病床210床,療養型病床群30床の予定),15診療科を有し,新看護体系(2:1看護A加算),リハビリテーション総合承認施設指定を受けています.診療圏域は御調郡,世羅郡など半径20数kmにおよび,約7万人の人口を擁する地域の中核的総合病院です.
 御調町では公立みつぎ総合病院を核として,保健・医療・福祉の連携システム,すなわち地域包括ケアシステムを構築して,地域のニーズに応えてきました.御調町の訪問活動は,昭和49年病院の訪問看護に始まります.昭和40年代の御調町は「つくられた寝たきり老人」が多く,その理由は家庭の介護力の不足,不適切な介護,退院による医療の中断などであり,継続医療の一環としての訪問看護を開始しました.昭和54年には病院保健婦を採用,その後療法士も採用し,両者の同行訪問を開始,看護とリハビリテーションの連携による相乗効果もみられるようになりました.

住民参加型の保健活動・5

福島県大越町の保健活動—大越町すごやかな地域づくりプロジェクトチームの活動

著者: 渡部育子 ,   黒田裕子 ,   岩永俊博

ページ範囲:P.139 - P.141

 大越町の白山区住民による「年寄りになっても安心して暮らせる地域」をめざした,具体的な住民活動について前回報告した.その住民の活動を支えてきた大越町役場のプロジェクトチームがある.保健分野を越えた庁内各課のメンバーからなる横割りチームである.今回は,このチームの活動を中心に紹介する.

保健行政スコープ

国際化と検疫

著者: 清水美登里 ,   宮崎元伸

ページ範囲:P.142 - P.143

 今日,様々な分野でいかに正確な情報を集め,提供していくかが課題となっている.世界の感染症情報の収集と提供に果たす検疫所の役割は大きい.本編では検疫所の国際化に果たす役割について簡単に記すことにする.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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