icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生61巻3号

1997年03月発行

雑誌目次

特集 コミュニティヘルス・アプローチの昨日,今日,明日

解決すべき健康問題の推移の視点から

著者: 渡辺修一郎

ページ範囲:P.148 - P.154

 わが国で進行する,高齢化,都市化,産業・雇用形態の変化,国際化,情報化などの著しい社会変化の中で生活する住民の健康問題の推移を,主体である住民の分布と生活のあり方の推移を中心に総括を試みた.

コミュニティ変貌の視点から

著者: 尾崎米厚

ページ範囲:P.155 - P.160

 ウインズローのいうように公衆衛生活動はコミュニティをベースにした活動であるので,コミュニティの状況に沿った活動であるべきであり,その意味でコミュニティの現状や変遷を分析することはあるべき公衆衛生活動を考える上で大変重要となってくる.したがって,コミュニティの現状を分析し,将来を予測することは公衆衛生活動の基本となるべきであるが,コミュニティそのものの捉え方すらそう易しいことではないのでコミュニティの十分な検討を行いながら公衆衛生活動を行っている例はさほど多くないのかも知れない.あるいは,コミュニティ特性は既に公衆衛生従事者のなかに実感として認識されているので,ことさらそれを取り出して論じなくてもおのずと公衆衛活動に反映されているのかも知れない.ここでは,とくにコミュニティの変貌に視点を当てて,公衆衛生活動との関連を論じてみたいと思う.

健康教育からヘルスプロモーションへ—住民主体の健康な地域づくりをめざして

著者: 中川昭生

ページ範囲:P.161 - P.167

地区の文化祭に参加して
 秋も深まった11月の土曜日,地域ぐるみの健康づくり運動に10年来取り組んでいる管内の江津市川平地区健康まつり前夜祭(文化祭)に招かれた.会場となっている公民館(小学校廃校跡)は,日ごろの殺風景な様子とはうって変わり,子どもたちの絵画,介護用品,生け花や創作品,減塩バランス食,地域の健康づくり活動紹介などの展示物がにぎやかに並べられ,正面には立派な舞台がつくられていた.
 役員さんの司会で開会,健康づくり推進会長挨拶および来賓祝辞(保健所長,市企画調整課長,地元市議)のあと,昨年子どもからお年寄りまでみんなで出し合った地域の将来像(イラスト入り)に基づき,この1年間取り組んできた環境保全活動,健康づくり活動,高齢者や医療対策に関するアンケート結果などがスライドなどを用いて報告され,みんなで活発に論議された.

スウェーデンの公衆衛生の史的総括

著者: 竹﨑孜

ページ範囲:P.168 - P.172

社会と生活の変化
 「2000年までに健康をすべてのひとに」とは国連のWHOによる宣言であったが,スウェーデンではどのように受け止められてきたのであろうか.先進国としての国際的な評価が与えられるスウェーデンでは国民が健康に恵まれ,WHO目標の到達がさしせまったものとは受け止められてはいないものの,しかし,社会に備わった特性から派生してくる諸問題あるいは課題は少なからず残されている.そして今日のスウェーデンにおける社会動向のうちとくに代表的なのが“社会の高齢化”そして“女性の勤労”であろう.
 最初の高齢者の多さは,1993年の平均寿命が男性75.5歳,女性80.8歳とわが国とともに世界最高位に属し,さらに高齢化率すなわち人口全体に65歳以上が占める割合のほうも17.4%と,その高さでは他国に比類がなく,高齢化社会の段階ははるか後にして,もはや完全に超高齢化の時代に入ってしまった.スウェーデンにおいて起こった社会高齢化は加速的に進み,1985年には高齢化率が17.9%と現水準をさらに上回っていた.平均寿命のほうも過去10年間だけを見ても男性が1.9歳,女性が1.2歳と伸び,こうした傾向は今後も続いていくものと予測され,男女の寿命は一段と接近する傾向が認められるとしている(図1).

日本人の健康をどうするか—コミュニティカウンセリングアプローチへ

著者: 宗像恒次

ページ範囲:P.173 - P.178

 公衆衛生の歴史から学ぶことは,上下水道や医療施設など衛生環境の整備されない集落形成や大量かつ急激な人々の地域移動は様々な伝染病をもたらしやすい.そしてその疫病による人口が半減するような悲惨な死は,人々をして衛生的で管理的な生活環境を築かせてきたことである.しかし他方,衛生的で管理的な生活環境のなかで,ストレス関連疾患,いわゆるストレス病は蔓延し,いまやそれはとどまるところを知らない.遺伝病以外でストレスに関連しない疾病はないだろう.心身疾患,精神疾患,慢性疾患など,ストレスの関与する割合の高い疾病が日本をはじめ先進諸国に蔓延している.近代以降,疾病に対し通常の予防・治療法(教育,指導,相談,対症療法など)がこれほど無力な実態を示す時代もなかったろう.
 本稿では,これまでの手法ではなぜ疾病予防,健康増進,自己治療が効果的でないのか,もしできるとすればどのような方法なのか,そしてそれを踏まえこれからの日本人の健康づくりはどのような方法が必要なのかについて述べてみる.

座談会

堺市における病原性大腸菌O157の発生とその対応・2

著者: 小澤治子 ,   神木照雄 ,   高鳥毛敏雄 ,   中谷美子 ,   多田羅浩三

ページ範囲:P.179 - P.186

(「公衆衛生2月号」84頁より続く)
 多田羅 それでは前号での初動の対応に引き続き,原因究明の動き,2次感染の予防対策および今回の事件を経験しての課題について話し合いたいと思います.

視点

環境問題と公衆衛生

著者: 中島正治

ページ範囲:P.146 - P.147

環境行政のあゆみ
 環境問題は,最近ではごみ問題やリサイクル,自然保護など国民の一般的話題に上るまで関心が高まったといえるが,わが国の公衆衛生健関係者にとっては,環境問題は依然として馴染みの薄い存在であり,少なくとも身近な差し迫った問題とは考えられないのではないだろうか.
 保健所など自治体で働く方々にとっても,保健行政と環境監視などの環境行政が組織の、上からもそれぞれ独立して行われているところも多く,保健関係者が環境問題にかかわることはあまりないのが現状であろう.

アニュアルレポート・1997

公衆衛生学の動向—第55回日本公衆衛生学会を中心に

著者: 多田羅浩三

ページ範囲:P.187 - P.190

 21世紀に向けて,保健,医療,福祉の各制度に関して,わが国は今や,大きな改革期にあることは,周知のとおりである.地域保健法の本格実施を4月に控え,また地方分権推進委員会による保健所や保健所長のあり方に関する検討がすすむなか,また厚生省から介護保険法案が国会に上程されるというような状況のなかで,わが国の地域保健はまさに,今世紀の歩みを総括する改革期にあるといっても過言ではない.
 第55回日本公衆衛生学会総会は,平成8年10月30日から11月1日まで,大阪において,全国から医師,保健婦ら約5,000入の参加を得て,盛会裡に開催された.

衛生学の動向

著者: 齋藤和雄

ページ範囲:P.191 - P.197

衛生学の歴史
 健康科学としての衛生学の起源はギリシャ時代に遡る.ギリシャ医学は,疾病の原因を空気に求めたHippocrates(460〜377BC)の学説をさらに進めて,空気,水,場所などの環境因子と疾病との因果関係を体系的に表現し,人間の健康を阻害する諸要因の追求を行った.すなわち,衛生学は単に健康や保健という意味だけではなく,行政としての衛生事業の意義を包含する予防医学であり,その目標は人間をとりまく自然的,社会的環境要因と健康との関連を考究し,疾病の予防,早期発見および健康の維持増進に役立てようとするところにある.
 日本衛生学会の起源は第1回日本聯合医学会(明治35年)の衛生関連部会(会長:緒方正規)にみられるが,全国的規模で学術集会を持つようになったのは昭和4年の第1回日本聯合衛生学会からで,以後,昭和20,21年の両年に中止された以外は毎年1回開催され,昭和24年には日本衛生学会と改名された.

産業衛生学の動向—第69回日本産業衛生学会(旭川)を通じて

著者: 山村晃太郎

ページ範囲:P.198 - P.200

 産業衛生学会の開催は北海道旭川市では初めての試みであり,いろいろな困難もあったが産業衛生北海道地方会の総力を挙げた努力により何とか開催にこぎつけ,6月2日は特別研修会(健康管理対策の実際,5テーマ,後述),3日から5日までの3日間は学会が開催された.
 さて,産業医学会は生産活動が勤労者healthに与える影響を評価し,対応を考える場であるが,これには全国的または国際的な視点からの取り組みとは別にその地域の産業の特性も考慮しなければならない側面があることは当然であろう.

連載 暮らしに潜む環境問題

電磁波

著者: 荻野晃也

ページ範囲:P.202 - P.206

1.電磁波とは
 われわれの暮らしは,いまや電気なしでは成り立たなくなっているが,その「電気のゴミ」といってよいのが電磁波である.「最後の公害ではないか?」と言われるようになってきたのはここ10年ほどのことであるが,欧米と異なり日本で話題になってきたのは,つい最近である.電磁波(欧米では電磁場)問題とは,いわば非電離放射線の人体影響のことである.γ線やx線,太陽光線・紫外線・赤外線も電磁波の仲間ではあるが,ここでは一般的に言われている電波領域の電磁波に限定しておく.
 暮らしに潜む電磁波には,大きく分類して「高周波」と「低周波」とがあり,前者の放出源は携帯電話・電子レンジぐらいで,多くの電気製品からは低周波(それも極低周波)が放出されている.電気・通信技術の進歩によって,電磁波被曝が増え始めたのは第二次世界大戦以降のここ数十年であり,携帯電話のような高周波被曝はここ数年のことである.

市町村保健活動と保健婦

<座談会>ウエルネスシティの展開と保健婦活動—宮崎県都城市・2—人づくりとしての連携の推進と計画づくり

著者: 松岡忠昭 ,   池田文明 ,   池田順子 ,   朝倉信子 ,   新甫節子 ,   日高良雄

ページ範囲:P.207 - P.212

連携による健康づくり
 日高 前回,人づくり活動ということでいろいろな具体例をあげていただきましたけれども,この他にもまちづくり,人づくりということでは,いろいろな関係機関との連携も重要かと思います.そういった関係団体,関係機関とお互いに手を取り合うことでより健康づくり活動がスムーズにいったという例として何かありますか.
 新甫 医師会との関係によってできてきた事業について1つ紹介したいのですが,昭和63年度から基本健康診査と胃癌検診をセットで受診できる節目検診を「あやめ検診」という名称で医師会が運営している検診施設で開始しました.その後国が総合健診をメニューに加えたのに伴って,平成5年度からスムーズに総合健診という形で実施ができました.また,7年度からはその中に骨粗鬆症検診を加えることができましたし,8年度からは歯周疾患検診も導入できています.これは協力していただける機関と十分な連携があったからできた事業だと思います.

福祉部門で働く医師からの手紙

発達障害児にかかわる療育施設の医師から

著者: 本山和徳

ページ範囲:P.213 - P.214

診察室の向こう側で
 「たっちゃん,おしっこ,おしっこ」,「あー,こうちゃんが歩いた」,保育室ではこどもの声と保母の声が合わさって賑やかな朝が始まる.「先生,しーちゃんが元気がありません.ちょっと診て下さい」私の出番である.保育室で診察を始めるとほかの園児が心配そうに覗きこむ.言葉でのコミュニケーションはなされなくとも園児の間にいつの間にか仲間意識が育っていることに気づかされる.年齢にそった明らかな発達はみられなくとも心の成長に気づかされる時,あたりはやさしい雰囲気に包まれる.外には緑の山の斜面,連なる家並,上には白い雲を抱く青い空…いつもの風景がある.そして,いつも子どもの周りには発達の変化に心を寄せる親心がとりまいている.ここは精神薄弱児通園施設とよばれる発達の心配される児の日々の療育の場である.
 当地に平成4年,4月,障害福祉センターがオープンした.精神薄弱児通園施設(第一さくらんぼ園)と心身障害児通園事業(第二さくらんぼ園)が同じ建物の中に創設された画期的な発達障害児の療育の場である.したがって保育を担当する保母,児童指導員とともに,運動訓練や,言語,感覚統合療法など発達障害に見合った訓練を行うために理学療法士,言語療法士,作業療法士,臨床心理士を置き,さらに診療所を併設し小児科医を常勤として配置したのである.

精神保健福祉—意欲を事業に反映するために

県・市町村の予算と事業はどのようなスケジュールで決まるか

著者: 三代浩肆

ページ範囲:P.219 - P.223

市町村への新たな期待
 地域保健法は,身近な保健福祉サービスは「市町村」が実施するという方向で制定されました.そしていよいよ来月の平成9年4月から,乳幼児健診をはじめとする母子保健事業が市町村で全面的に実施されるようになります.
 市町村においては,老人保健事業がやっと定着し,これからいよいよ量的にも質的にも充実を図ろうとする時期に,母子保健事業が拡充されることは,市町村にとっては財政的にもマンパワーにおいても負担となっていることは否めない現実です.

活動レポート

市町村機能訓練事業システムへの支援—石川県小松保健所

著者: 村井千賀

ページ範囲:P.215 - P.218

 石川県は,西南から東北に向かって細長い県であり,総人口は,現在で約118万人で,老年人口比率は,16.7%となっている.県下には,県保健所が8カ所と1支所,政令市保健所が2カ所ある.
 当県は,昭和58年老人保健法施行に伴い,市町村が実施する機能訓練事業を円滑に推進するため,昭和59年県保健所に作業療法士を配置し,全県下市町村に対し技術支援などの巡回指導を行った.その後,昭和61年にさらに1名を増員し,県北の能登地区19市町村と県南の加賀地区21市町村をそれぞれの担当地区とした.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら