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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生61巻5号

1997年05月発行

雑誌目次

特集 介護保険制度の特質と論点

<対談>介護保険の理念

著者: 樋口恵子 ,   多田羅浩三

ページ範囲:P.300 - P.307

介護の社会化は歴史的な大転換
 多田羅 介護保険制度については,先生は文字どおり老人保健福祉審議会(以下,老健審)をリードされてきたような印象ですが,まず介護保険制度の基本的な内容はどのようなものとお考えか,おうかがいしたいと思います.
 樋口 公的介護保険に関しては「高齢者介護・自立支援システム研究会」でたたき台になるレポートを作る作業からかかわっていました.その時にはこんなに性急に,公的介護保険制度が老健審にのせられるとは思っておりませんでした.ただ,変化を感じワクワクするものはありました.

介護保険制度案の概要

著者: 厚生省高齢者介護対策本部事務局

ページ範囲:P.308 - P.312

 去る平成8年11月29日に,介護保険制度の創設を内容とする介護保険関連3法案が,第139回臨時国会に提出された.
 同法案については,会期の関係から,継続審議の取り扱いとされ,今通常国会において,本格的な審議が行われているところである.

介護保険制度と医療—主として制度的な見地から

著者: 植松治雄

ページ範囲:P.313 - P.317

 21世紀を目前に控えたわが国は,急速な高齢社会を迎える中にあって,少産少子化の問題とともに高齢者対策が非常な重要課題となっている.とくに,介護問題を論議する中で最も重要課題と思われるのが,社会保障制度審議会将来像委員会が示しているように現在の年金5,医療4,福祉1という社会保障費の配分が,どうしても5対3対2にならざるを得ない点である.また,この点を医療保険の側から考えてみると,医療費が年間1兆円の伸びを示しているが,この中身の変化を見ると,長年の流れの中で,これが診療所から病院へとシフトされてきていることが著明になってきている.
 現在,高齢化が進むなかで,人口の9.8%の70歳以上の老人の医療費が,国民医療費全体の30%以上を占めるに至ったという現実があり,老人医療費をさらに分析をしてみると,その多くの部分が収容医療に流れている(図1).その中身をさらに分析してみると,社会的入院が医療費を大きく押し上げている実態が明らかになり,国においてはこれをなんとかしていく必要があるとの考え方が出てきた.そこで考えられたのが,病床規制や療養型病床群であり,さらには,在宅医療という形で社会的入院をなんとか病院から押し出していこうとする考え方である.

人間性を尊重した介護を保障するために

著者: 山田兼三

ページ範囲:P.318 - P.322

 高齢化社会を迎えて,介護を公的に保障する制度の確立が緊急に必要な課題となっている.しかし,現在国会に提出されている政府の介護保険法案には,多くの問題点がある.早急な制度化が求められるが,あわせて,十分な検討も必要である.なかでも,市町村が,公的介護事業と介護保険の業務を担って,直接住民に責任を負うためには,解決すべき課題が多い.
 筆者は,3年前に,デンマークとスウェーデンを訪問し,短い日数の視察であったが,基本的人権の尊重の立場に立った老人福祉の先進的施策の実態を目の当たりに見せていただいた.その時,最も大切に思ったことは,介護を受ける老人の人権を尊重し,本人の意志と人間性を最大限尊重していくことが必要であるということであった.

在宅ケアの推進

著者: 竹澤良子

ページ範囲:P.323 - P.329

 急速な少子高齢社会への進展は,滋賀県野洲町においても,平成12年の老人人口推計を上回ることが推測されることや,要援護老人の推計では痴呆と虚弱老人人口は既に上回ってしまったことなどからも予想以上の速さを感じている.
 また,ニーズの多様化もすすみ,住民の最も身近な市町村は,新しい発想での取り組みと,公平性を基本として効果的で効率的なサービスの提供が求められている.

介護保険制度(案)の財政基盤

著者: 里見賢治

ページ範囲:P.330 - P.334

 介護の公的保障のあり方については,筆者は,里見・二木・伊東『公的介護保険に異議あり』(ミネルヴァ書房,1996年)で述べたように,税を財源とする公費負担方式でそれを実施すべきであり,介護保険方式は将来に禍根を残す決定的に不味い選択であると考えているが,その詳細については拙共著の参照を願うこととして,ここでは本誌編集部の依頼に応じて,介護保険制度が前提としている財政基盤について検討することとしたい.

介護保険制度への期待

著者: 館石宗隆

ページ範囲:P.335 - P.338

 来たるべき超高齢社会へ向けた社会保障制度の要として検討されてきた「新たな高齢者介護システム」が,老人保健福祉審議会をはじめとする詳細な議論の場を経て「介護保険法案」としてまとめられ,今国会に上程された.今後の国会審議の動向が大いに気になるところであるが,本法案の中からの主なポイントをあげるとすれば,以下の4点に集約されると思われる.
 ①保健,医療,福祉にわたる縦割り制度となっている現行の高齢者ケアに関する諸制度が,新たに創設する介護保険制度の下に一元化されること.

視点

産業医の専門性とは

著者: 横山英世

ページ範囲:P.298 - P.299

産業医の「専門性」が求められる背景
 労働省によれば,近年,高齢化の進展などに伴い働く人の健康を保持増進する上でいくつかの新たな課題が生じている.作業関連疾患に象徴される脳・心臓疾患につながる有所見者の増加があり,いわゆる「過労死」が社会問題化する一方で,産業態様の変化により,ストレスを抱く者が増えているなど,働く人々の健康の確保を困難にする状況が認められることから,これに対応した対策を積極的に講じることが重要となっている1,2).このような状況を背景として平成8年の10月に労働安全衛生法が改正施行され,「産業医(法制度上の)」の専門性の確保が明文化されたため「産業医」の要件が話題になっている.
 これらの産業保健における今日の問題意識の高まりを予見したかのように,日本医師会,産業衛生学会,労働省などがそれぞれにまた三者一体となって時代の要請に応えるために着々と産業医学の専門家の養成に取り組んできた.

トピックス

公衆衛生におけるインフォームド・コンセント

著者: 中村好一

ページ範囲:P.339 - P.343

 医療の世界においては,インフォームド・コンセントとは「検査法や治療法を選択する場合に患者に十分な説明を行った上で了解を得ること」と一般に理解されている.改正が予定されている医療法にも努力目標としてではあるが,インフォームド・コンセントに関する事項が盛り込まれるといわれている.医療の現場ではインフォームド・コンセントという用語は,論じる人によって多少の違いがあるにしても,ある程度定着しており,概要についてはコンセンサスがあると考えてもよいと思う.一方,公衆衛生の場では,インフォームド・コンセントについての理解が不十分であり,「どのような場面で」,「どのように」適用したらよいのかが定かでないように見受けられる.
 本稿では,筆者の理解の範囲でインフォームド・コンセントの概要に触れ,その後に公衆衛生領域における考え方の一端を示す.

連載 暮らしに潜む環境問題

放射線と健康―チェルノブイリ原発事故による放射線汚染と被害評価

著者: 桜井醇児

ページ範囲:P.344 - P.348

1.チェルノブイリ原発事故による放射線汚染
 1986年4月26日,運転期間を終わって性能特性試験を行っていたチェルノブイリ原発は突然出力が激増し,大爆発を起こした.原発内部に溜まっていた死の灰が大量に空中にばらまかれてしまった.異常な放射線の増加がスウェーデンで検出されたニュースはまたたく間に全世界に広がった.ソ連政府も重い腰を上げ,3日後にチェルノブイリ原発の事故を認める声明を発表する.爆発により舞い上がった死の灰は上空1万メートルに達し,ジェット気流に乗り,1週間後には日本にも死の灰で汚染された雨が降り,パニックを引き起こした.
 出力100万キロワットの原発を1日稼働すると,原発の内部には広島原爆3発分の死の灰が溜まる.チェルノブイリ原発では事故以前,2年近く運転を行っていたので,広島原爆の死の灰およそ2,000発分(=3×365×2)が原発内部に溜まっており,その相当部分がまき散らされたのだ.広島では,原爆の直接の放射線被曝は受けなかったが,黒い雨に含まれていた死の灰の放射線被曝を受けて死亡した人も多い.チェルノブイリ原発事故による死の灰はけた違いに多かったのだ.すさましさが分かる.

福祉部門で働く医師からの手紙

健康診断書はだれのため?

著者: 松下彰宏

ページ範囲:P.350 - P.351

 「いつでも,どこでも,必要に応じて適切なサービスが受けられる.」は高齢者の保健福祉に関してもキャッチフレーズになっています.しかし,身近にサービス利用できないような場合もあるようです.
 ある訪問看護婦からの相談です.「老人訪問看護を受けるのには医師の指示書があれば足りる高齢者が,ホームヘルパーや特別養護老人ホームの入所などを申し込むと所定の健康診断書が必要で,かなりのお金がかかります.何とか利用しやすくなりませんか.」,「通院していれば月に1,020円,訪問看護を受けても基本的には1回250円の負担で済む人が,10,000円以上の負担をしてその上判定結果によってはサービスが利用できない可能性があるとすれば…….」,「かかりつけ医からの診療情報提供の形を取れればいいのですが.」

精神保健福祉—意欲を事業に反映するために

統計資料の活用法—既存の資料からの読み取り

著者: 大島巌

ページ範囲:P.369 - P.372

 近年,障害者基本法の改正や障害者プランの発表などにより,精神障害者のノーマライゼーション実現が,政策的に具体的に目指されるようになり,そのための計画立案が,国家レベルのみならず,都道府県レベルや市町村レベルでも求められています.そして,計画策定に当たって,精神障害者の保健福祉ニードの十分な把握が不可欠となります.
 地方自治体における保健福祉計画策定とそのための住民のニード把握は,高齢者領域で先行して取り組まれました.障害者についても,基本的な手順は同様ですが,とくに精神障害者の場合はニード把握の段階に大きな困難があり,これをどう克服するかが最重要課題と思われます.

活動レポート

保健所における「親子ふれあい広場国際コース」を通して今後の保健所のあり方を考える

著者: 内野英幸 ,   鎌田江美

ページ範囲:P.352 - P.358

 長年,保健所が主体的に取り組んできた保健事業が市町村に移譲され,より専門性の高い先駆的な機能が保健所に求められている.難病患者や,精神障害者,HIV感染者,エイズ患者など,いわゆるマイノリティ(小数者)の人権を守り,権利を高める新しい公衆衛生の使命を担った保健所としての機能である.母子保健に関しては,少子化傾向と高齢化社会の到来,さらには社会環境の変化など相まって,新たな母子保健の課題が浮上してきている.
 当保健所では,このような母子保健の大きなうねりの中で,定住化傾向にある在日外国人母子の問題は,まさに保健所が率先して取り組む重要課題であると認識し,これら在日外国人母子へのアプローチを開始することにした.

学校保健と連携した地域保健活動・1

ネットワークづくり—実務者間の研究会から首長を含めた組織間の協議会の発足まで

著者: 桑原優子 ,   津田芳見 ,   東郷絹江 ,   山本宏美

ページ範囲:P.359 - P.362

 日本の人口構造の高齢化は,これまでどこの国も経験したことのない速さで進行しているといわれている.そしてこの高齢化率の上昇の主因の一つに低出生率が挙げられる.この傾向は徳島県においても著しく,平成6年の高齢化率は18.2%(全国14.1%)と全国平均を大きく上回り,平成6年出生率は9.0(全国10.0)と全国平均を下回っている.このように高齢化・少子化が進展する今日,高齢化対策だけでなく少子化対策も社会的に重要な課題である.
 また,子どもたちを取り巻く生活環境や社会環境の変化は著しいものがあり,小児成人病,アレルギー性疾患の増加,小児心身症,不登校,いじめ,自殺の増加など現代の子どもたちは,心と身体に多くの健康問題を抱えるようになってきた.しかも,その問題の成因が複雑多岐にわたるため,関係機関が十分連携を図りながら問題解決を進める必要がある.また,小児期からのライフサイクルに沿った健康づくり施策を推進するためには,地域保健・学校保健および産業保健の連携が不可欠であり,今回保健所が中心となり,地域ぐるみで子どもの健康づくりを推進していく体制整備を行った.

調査報告

ベトナム障害児の実態調査—枯葉剤を浴びた北ベトナム帰還兵とその家族

著者: 洲濱扶弥

ページ範囲:P.364 - P.368

 インドシナ半島の東半分を,南北1,650キロにわたってS字状に位置するベトナム社会主義共和国(以下ベトナム)は,1976年に成立した国家で,90%をベトナム民族(キン族)が占めている.
 1986年ドイモイ(刷新)政策が採択され,計画経済から市場経済への傾斜,国有体制から私有体制の容認により,急激な経済成長をとげた.1992年頃の日本のODA(政府開発援助)再開も経済発展の一要因となった1).この経済発展の恩恵も,国民の70%を占める農村部ではほとんどなく,都市部と農村部の経済格差の問題が生じ,戦争の傷跡も色濃く残っている.とくにベトナム戦争で散布された2)枯葉剤に含まれるダイオキシン(以下TCDD)の後遺症といわれる奇形児出生の問題は,ベトナム全体の実態把握ができず,資金不足のため原因の究明が進んでいない.また保健衛生や医療に関する,纏まった資料に乏しいのが現状である.このような中,藤本文朗教授(滋賀大学教育学部所属)を調査団長として「①ベトナム戦争に参戦し,枯葉剤を浴びた父親を介しての子供への影響.②障害児をかかえる農村部の家族の実態調査」を目的とする調査に加わり,障害児の実態と課題をまとめた.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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