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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生61巻6号

1997年06月発行

雑誌目次

特集 ノーマライゼーションの実現へ

<てい談>ノーマライゼーションとは

著者: 岩室紳也 ,   稲垣智一 ,   高橋儀平

ページ範囲:P.380 - P.387

 岩室(司会) ノーマライゼーションという言葉が使われて十数年になりますが,私をはじめとして現場ではノーマライゼーションの本質は何なのか,よくわからずに進めているところもあると思います.障害者プランなど,ノーマライゼーションの考え方を適応していく施策が増えていく中で,「ノーマライゼーションって何か」ということが今日のお話で見えてくればと思います.
 まずお二人のノーマライゼーションという言葉との出会い,また,今実際どんなことをお考えかお話しください.

障害者基本法から「障害者プラン」へ—その流れと課題

著者: 山本和儀

ページ範囲:P.388 - P.392

 わが国の障害者(児)施策は,1981年(昭和56年)の国際障害者年を契機とし大きく飛躍したといっても過言ではない.また,今日においては,老人保健福祉計画の策定や公的介護保険制度の導入など,高齢者に関する施策が推進され,福祉の方向性も施設中心から在宅中心へと移行してきている.
 一方,障害者(児)に関する施策の現状を考えると,高齢者施策と比較して依然立ち遅れている事実は否めないものの,障害者基本法の策定や障害者プランの策定など,徐々に基盤などの整備がなされてきている.このような状況に鑑み,本稿では今日までの障害者(児)に関する施策の経過などを中心に,今後の課題も含め私見を述べてみたい.

障害者プランと基礎的自治体の立場

著者: 高橋紀雄

ページ範囲:P.393 - P.396

 金ケ崎町は,岩手県の南部に位置しており稲作を中心とした農業と岩手県中部工業団地(規模310ha県内最大の工業団地)の産業が一体となった農工一体型のまちづくりを行っている人口16,500人足らずの小さな町である.
 また,戦後日本の家族制度の変容や社会・経済構造の変化がもたらした少子・高齢社会は本町においても同様の結果をもたらしている.高齢化率は19.8%である.

ノーマライゼーションとアメリカ障害者法—とくに日本の障害者施策と比較して

著者: 斎藤明子

ページ範囲:P.397 - P.401

 1993年に障害者基本法が制定されて以来,障害者の施策をめぐっては95年12月の「障害者プラン」の策定とそれに続く都道府県,政令指定都市の障害者基本計画と早いテンポで進んで来ている.市町村の障害者計画はそれほどスムーズな進展を見せていないようだが,国レベルでは「介護保険法案」,「市民活動促進法案」が国会に上程されており,一見ドラスティックな変化の時期を迎えているように見える.
 しかしなぜか「アメリカ障害者法・ADA」が制定されたときのような「何かが変わる」という確かな予感,熱い期待が感じられない.1973年に,ある法律家がリハビリテーション法(以下,リハ法と略)にすべりこませた「障害に基づく差別を禁止する」という条文が燃え上がらせた障害者自身による権利擁護運動,自立生活運動は障害者に対する世間の考えを一変させてしまった.「障害者が望んでいるのは保護と愛情,親切な特別扱い」と決め込んでいた世間に対し彼らは「私たちが望んでいるのは平等な機会と社会への参加」と高らかに宣言したのである.その後,1978年には障害者自身が運営することを要件とする自立生活センターに予算がつき,1988年には「公正住宅法」が成立.4戸以上の集合住宅は障害を持つ人にも使えるようにしなければならなくなった.

痴呆性高齢者からみたノーマライゼーション

著者: 三宅貴夫

ページ範囲:P.402 - P.403

 わが国の高齢社会のなかで痴呆性高齢者は確実に増加し,その現状に対しさまざまな対策が試みられ制度が導入されてきた.十数年前に痴呆性高齢者が社会問題化されたが,当初は痴呆性高齢者の対応が困難な「問題老人」ととらえられ,介護家族が痴呆性高齢者の「被害者」と見なされる傾向が強く,痴呆性高齢者をかかえる介護家族をどのように援助するかが痴呆性高齢者対策の視点であったといえるであろう.しかし,痴呆性高齢者への保健・医療・福祉での多様なかかわりやさまざまなケアを試みるなかで,痴呆性高齢者自身も痴呆という障害を持ちつつ困難な生活を強いられた個々の人間とみなされるように視点が変わってきた.例えば,当初は家族の介護の休養を目的として導入された老人ホームのショートステイやデイサービスセンターでの経験,あるいは老人病院,老人保健施設,老人ホームにおける介護の経験から痴呆性高齢者への適切な介護とふさわしい生活空間を整備することで痴呆性高齢者自身の精神機能の改善や情緒的に安定することが決して稀ではないことが理解されてきた.

HIV感染者からみたノーマライゼーション

著者: 斉藤祐治

ページ範囲:P.404 - P.406

 筆者がHIVの感染を知ってから2年経つ中で,HIV感染者が抱えている問題を考えると,医療や生活や社会的問題が多くあり,その中で自分自身にとって重要な課題とされる問題を述べたいと思う.この中で述べることは,個人的な考えであって感染者全員を代弁するものでないことをご了承ください.
 最初に,感染していることを医療従事者に伝えられるときに感じることと,感染していることを第三者に伝える精神的負担について述べたい.

<インタビュー>障害者プランと国の立場—篠崎 英夫 厚生省障害保健福祉部長に聞く

著者: 前田孝弘 ,   篠崎英夫

ページ範囲:P.407 - P.413

 前田 ノーマライゼーションという考え方は1950年代に出てきて,それ以後「国際障害者年」,「国連・障害者の十年」,「アジア・太平洋障害者の十年」を含めて様々な施策がなされてきたわけですが,歴史的に非常に進んだ部分と,また掛け声は大きかったけれど,歩みの遅かった部分があると思います.「障害者プラン」に至るまでの歴史的な成果と,どういう課題を整理されて「障害者プラン」が生まれたのか,まずおうかがいいたします.
 篠崎 現在,わが国には身体障害者が約300万人ぐらいます.知的障害者が約40万人,精神障害者が約160万人で,合わせて500万人を対象に総合的に施策を進めようということで,障害保健福祉部が昨年の7月1日にできました.その背景には,国際障害者年や国連障害者の十年などの一連の国際的な動きがあります.

視点

難病ケアについて保健所に期待するもの

著者: 川村佐和子

ページ範囲:P.378 - P.379

 難病対策はスモン患者救済活動に起源をもち,医療と福祉の恩恵から疎外されている人々に共通する課題を改善するものとして存在してきた.
 従来の難病対策における保健所の役割について,筆者は予防的な思想をもって,住民の保健問題を発掘し,それを解決に導くための地域的な施策を見いだして,普及し,最も適切なチームにそれをゆだねていくという活動を見てきた.その経過を振り返ってみると,昭和47年に,国は特定疾患対策(いわゆる難病対策)を開始し,厚生省は,昭和50年に特定疾患「難病の治療・看護調査研究」班を設け,難病患者の生活実態調査を行った.初めの調査結果で明らかになったことは,難病療養者は診断確定が困難,症状が悪化しても医療継続や入院が困難,身体的障害が重度化しているにもかかわらず,福祉の恩恵を受けられないという実態であった.そこで,同研究班に参加していた東京都東村山保健所や日野保健所,三鷹保健所,京都府向陽保健所,富山県の保健所などが,それぞれの地域で,医師会と連携する「難病の地域ケアシステム」の開発に着手し,各種の事業が開発された.

連載 暮らしに潜む環境問題

ダイオキシン(1)

著者: 宮田秀明

ページ範囲:P.414 - P.419

 ダイオキシン類はポリ塩化ジベンゾ-p-ジオキシン(PCDD),ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)およびコプラナ-PCB(Co-PCB)からなる化合物の総称である.それぞれ多数の異性体が存在するが,表1に記載する30種類のものについて毒性評価を行っている.Co-PCBはノンオルト(Non-Co-PCB),モノオルト(Mono-Co-PCB)およびジオルトCo-PCB(Di-Co-PCB)に大別できるが,Non-Co-PCBは毒性が強く,環境汚染的に影響が大きい.
 毒性評価対象のダイオキシン類には2,3,7,8-TCDDの毒性を1としたときの相対毒性である2,3,7,8-TCDD毒性等価係数(TEF)が設定されており,(表1),各異性体の実測濃度にTEFを乗じた値の総和を2,3,7,8-TCDD毒性等価量(TEQ)とし,この数値を用いて毒性評価が行われる.

市町村保健活動と保健婦

<座談会>箕面市総合保健福祉センターを拠点とした保健福祉活動・1

著者: 池本恭子 ,   逢坂悟郎 ,   関口洋太郎 ,   松尾高子 ,   宮川純子 ,   多田羅浩三

ページ範囲:P.420 - P.424

 多田羅(司会) この4月から地域保健法が本格実施に入る段階で,お忙しい毎日かと思います.この地域保健法の課題に関しては,この数年間,議論されてきましたが,高齢化社会では市町村が主役となり,地域保健を構築しなければならないという理念のもとで検討が進み,計画も立案されてきていると思います.
 私なりの理解では,高齢化社会が進めば進むほど多様な健康状態の人が生まれてきますが,そのような多様な状態の人が生活できる地域づくりをすすめ,保健サービスを提供しなければならないと思います.

福祉部門で働く医師からの手紙

通園施設からのたより

著者: 本山和徳

ページ範囲:P.426 - P.427

通園施設のこどもたち
 私の勤める通園施設にはさくらんぼ園という名前が付いている.クラスを三つに分けている.パンダ組には自閉や多動,ゾウ組には精神発達遅滞,ウサギ組には重複障害の子どもたちが日々通ってきて保育や訓練を受けている.私は小児科医として習慣的に,被っている障害や診断をとおして彼らを見つめてしまう.しかし彼らの表情はどうだろう.そんな私を彼らは生き生きとした輝く澄んだ瞳で見つめてくれ,微笑んでくれる.そんな心からの信頼や親しみのこもった姿を目の当たりにするとき心打たれる思いがする.医療の場では診断をつけることから始まる.診断をすることは医師にとって大切なことであり,たとえ治療法がなかったにしても診断をすることで責任を果たしたと満足することもあるほどである.発達障害をきたす疾患のほとんどはしばしば有効な治療法のないことが多い.それらは染色体異常であったり先天性の脳奇型であったりする.また出生時の仮死のための低酸素性脳障害や出生後の脳炎,髄膜炎後遺症であったりして根本的には治す手段がないことが多い.かつての私は痙攣や腹痛,嘔吐,下痢,発熱などのために昼夜,病院を訪れる子どもたちの診療に明け暮れていた.

利用者のホンネ・タテマエ

生きる営みへのこだわりから

著者: 山本いま子

ページ範囲:P.428 - P.429

生きる営みへのこだわりから
 10歳で原子爆弾による被爆と敗戦,その混乱の中で育ち,人間の思想・欲望の屈折した中からおこる「命と暮らし」を破壊する“戦争”は絶対にあってはならないものであるとの思いとともに,戦争は人間が創るものとの認識を持ち,人々が「幸せでありたい」と思う共通の願いを権利として要求するならば,税金を収め選挙に参加することを通して信託するという義務を果たすととともに,社会に自ら「志願」し,生活を創る努力をしていかなくては真の平和は創れないとの思いで,日々の暮らしで紡いでいた.
 昭和51年「ボランティア活動」という言葉を知り,生活を営む中で出会うさまざまな出来事を「おかしいものはおかしい」といえる人としてありたいとの思いが醸成されていくなかで,昭和53年住民主体によるボランティア講座を開催(すべて自己資金による),学びと実践に向けて動きだし,紆余曲折を経て昭和55年2月に実現した.

精神保健福祉—意欲を事業に反映するために

既存資料による精神障害者福祉ニーズの推定

著者: 大島巌

ページ範囲:P.444 - P.447

 保健福祉計画にかかわるニードのとらえ方として,「福祉に欠ける状態」と「要援護状態」からなっていることを前回に触れました.計画立案のプロセスでは,「福祉に欠ける状態」を踏まえて,社会的に合意できる援助サービス内容を考慮し,その必要量を明らかにすることになります.本稿では,援助必要性の判断に基づき援助資源の必要数を算出する方法を概観し,いくつかの調査結果に基づいて,現在日本の精神障害者に標準的に必要とされている社会資源数を示すことにします.

活動レポート 学校保健と連携した地域保健活動・2

子どもの心とからだの健康づくりへの取り組み

著者: 津田芳見 ,   東郷絹江 ,   桑原優子 ,   山本宏美

ページ範囲:P.430 - P.435

 少子高齢化時代の子どもの心とからだの健康づくりは,地域全体で有機的な連携のもとに行われて初めて,効果的であることはいうまでもない.この報では,先報で述べた組織の専門部会別に,その実践活動について述べたい.

聴覚障害者に対する歯科疾患予防用ビデオ「歯・みがこっ!」を制作して

著者: 吉森和宏 ,   三村芳子

ページ範囲:P.436 - P.438

 歯科保健に関するビデオは多くあるが,聴覚障害者が,歯科疾患の予防方法について習得できるよう,手話および字幕で説明したビデオは今までなかった.そこで,千葉県では,平成7年度に厚生省の補助金を受けて,聴覚障害者が学校や家庭などで,歯科疾患の予防方法について習得できるよう,手話および字幕で説明するビデオを制作した.これからビデオを作る方々の参考になればと思い,われわれはビデオを制作した時の経験について述べたい.

報告

保健所における出生コホート分析の活用について—結核の死亡率・罹患率の年次推移から

著者: 玉貫良二 ,   竹内義廣

ページ範囲:P.439 - P.443

 今日まで保健所が行ってきた事業の大きな柱に結核対策があり,それは今後も重要な公衆衛生課題である.
 さらに,地域保健法が改正され,保健所を地域保健の広域的・専門的・技術的拠点とし,その機能を強化することが求められている.「地域保健に関する情報の収集,整理および活用」もその一つである.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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