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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生62巻1号

1998年01月発行

雑誌目次

特集 新しい地域保健の視点—実践例に学ぶ方法論

<インタビュー>地域社会,地域保健の基盤の変容—地域発信型政策づくりの必要性

著者: 前田秀雄

ページ範囲:P.4 - P.11

地域保健と政策づくり
 ●先生は先日の健康福祉政策学会(1997年6月29日)で「地域発信型政策づくりの必要性〜みんなで話し合い考えたことが政策になる」ということを発表されましたが,これはまさしく地域保健の新しい展開を見ていく中でみんなが押さえておかなければならない,基本的なことだという気がします.この発表はどのような思いがあってまとめられたのでしょうか.
 前田 「健康福祉政策学会」でのシンポジウムのテーマは「福祉政策学会」あるいは「政策学への期待」なのです.この学会は,まだ十分成熟された形でなくて,むしろ活動しながらその中身をつくっていこうという段階です.そういう状況の中で,現場で働いている者としてどういうことをしてもらえる学会であったらうれしいかと考えて発表した内容です.

地域保健の協働連携体制—市町村母子保健計画策定と推進における保健所の専門的支援

著者: 藤内修二

ページ範囲:P.12 - P.16

普通化のためのキーワード
①保健計画策定のノウハウ
②保健所間の連携
 地域保健法が全面施行されて1年近くが経過したが,母子保健事業の市町村への移行はスムーズに行われたであろうか.また,移行に備えて平成8年度に策定された母子保健計画は保健婦や担当者にとって母子保健施策の「指針」として活用されているであろうか.
 平成8年度に策定された母子保健計画は,地域保健法でその機能強化が唱われた保健所の企画・調整機能の試金石だったと言っても過言ではない.市町村の母子保健計画策定において,保健所はその企画・調整機能をいかんなく発揮できたであろうか.本稿では,母子保健計画の策定において,保健所の果たした役割を振り返りながら,保健所と市町村の協働連携体制,とくに保健所の専門的支援について考えてみたい.

地域保健の協働連携体制

著者: 日隈桂子

ページ範囲:P.17 - P.20

普通化のためのキーワード
協働連携は「役割」づくり
 これまでの保健婦は保健婦活動に始まり,保健婦活動で終わってきた嫌いがあります.
 つまり,その専門性に加えて職場の配属が固定されていたため,前向きで積極的な行動とはうらはらに,活動を他の職員になかなか理解されにくい環境にあったように思います.

地域保健の推進体制—個別組織体制—都道府県・保健所単位での組織改革と期待される成果

著者: 赤穂保

ページ範囲:P.21 - P.26

普通化のためのキーワード
①地域保健推進室,②企画・調整機能,③ヘルスプロモーション
 平成9年4月から,地域保健法の本格施行により新しい地域保健体制がスタートし,これにともなって東京都においても,保健所の再編整備と地域保健推進室の新設をはじめとする保健所組織の改革が行われた.
 都では平成5年9月以降,衛生局長を会長とする「衛生局地域保健対策会議」を発足させ,具体的な検討を開始する一方,市町村との合意形成の場として,平成6年12月以降「都・市町村地域保健対策協議会」を設置,平成7年8月には合意内容をまとめた『多摩・島しょ地域における地域保健体制整備に関する中間のまとめ』を明らかにした.

人の「生き方」を支える視点の「地域保健」—母子保健計画つくい芽生芽木プラン—計画ベースの施策の展開

著者: 清田京子 ,   高橋こずえ

ページ範囲:P.27 - P.32

普通化のためのキーワード
①行き詰まり感
②自己の内面に触れる
③「生き抜く力」への支援
 津久井町は,神奈川県の北西部に位置し,総面積122.04km2,84%の森林地帯と三つのダムに囲まれた水源地域で,豊かな自然に恵まれているところです.
 人口は,平成9年4月1日現在,30,912人(↑),うち0〜14歳までの年少人口割合は17.2%(↓),65歳以上の老齢人口割合は11.9%(↑),一世帯あたりの人数は3。2人(↓),平成8年度の出生数は213人(↓)で,出生率は6.9(↓)です.

健康な町づくりへの新たな取り組み—地域における聴力障害の現状把握と社会的支援の模索をとおして

著者: 飯法師直美 ,   宮北隆志

ページ範囲:P.33 - P.36

普通化のためのキーワード
①生活レベルでの障害を捉える
②相互学習をとおしての協働作業
③得られた知識や情報を変化につなげる
 「目に見えない」気づかない障害としての聴覚障害は地域における社会生活への参加あるいは,社会的役割の遂行を大きく阻害する一つの要因であるが,その障害に関する問題点やその性質,大きさについては十分な認識・理解がなされていない.車いす使用者や視覚障害者対策としての「段差のスロープ化」や「点字プロック」や「音響信号機の敷設」などは徐々に実施されているものの,中途失聴者や難聴者に関する「聞こえの保障」や「音環境の整備」に関しての取り組みは皆無に等しい.まして聴覚に関する専門職種のいない,町単独での聴覚障害に対する取り組みは,全くと言っていいほどなされていなかった.この現状を踏まえて,専門機関である大学と町との協働事業の成果についてここに報告したい.

共に生きる時代の保健所の機能—新たな地域食品保健の推進

著者: 小林美智子

ページ範囲:P.37 - P.43

普遍化のためのキーワード
①健康文化,②理念の共有,③組織の質,④活動の質
地域にとって保健所とは?
(住民のこれまでの保健所のイメージは?)

視点

新しい地域保健を考える

著者: 今井博久 ,   斎藤和雄

ページ範囲:P.2 - P.3

 昨年4月地域保健法が施行されてからすでに一年近く経過し,地域においてはその理念が徐々に浸透しつつある.本稿では,新しい地域保健法の施行に関連して地域保健体制の進むべき方向性についていくつかの提言をしてみたい.
 従来,衛生公衆衛生学分野では,結核などの伝染病や環境衛生問題の解決が中心課題であったが1),最近ではO157型大腸菌の感染やダイオキシンなどによる新しい環境汚染問題が注目されてきている.他方,わが国は歴史上類を見ない速度で高齢化が進み,少子高齢社会が到来しつつあり,医療福祉や健康増進施策が重要な課題となって来た.従来の関係諸法令や行政機構は,現場の実態と大きく乖離し,有効な機能を失いつつあり,いわゆる「制度疲労」に陥っているといえる.したがって,少子高齢社会の到来,疾病構造の変化,地方分権と住民自治への転換などの時代の変化に対応する地域保健計画を早急に構築する必要が生じてきた.

対談

市町村保健福祉活動における機能訓練事業・デイケア・デイサービスを検討する・3

著者: 浜村明徳 ,   山本和儀

ページ範囲:P.50 - P.56

機能訓練事業・デイケア・デイサービスの役割
 浜村 デイサービスもデイケアも機能訓練事業も,対象者をある程度特定しながら,住民から選択してもらえるようなサービスとして機能することが課題ですが,まず現在実施されているデイケアとデイサービス,機能訓練事業を,次の話を進めるために整理したいと思います.
 まず機能訓練事業は予防的な活動,どちらかというと自立を求めて支援していく活動で,私は教育的なデイケア活動だと思っています.

連載 暮らしに潜む環境問題

松枯れ対策としての農薬散布

著者: 中根周歩

ページ範囲:P.46 - P.49

1.なぜ松が枯れるのか
 林野庁をはじめとする行政サイドでは,松枯れはマツクイムシ(マツノマダラカミキリが運ぶマツノザイセンチュウ)が枯らすと説明してきました.ですから,ザイセンチュウを運ぶマダラカミキリを農薬で駆除すれば松枯れは止まる,と断言してきました.とくに,「松くい虫被害対策特別措置法」を1977年に最初に国会で成立させるにあたって,当時の林野庁長官は「5年もあれば松枯れは終息できる」と言い切ったほどです.しかし,その後3回にわたる「松くい虫法」の延長,すなわち,この20年間の大量の農薬散布にもかかわらず,松枯れは終息するどころか拡大し,その後も高い被害率(被害材積)が継続していったわけです(図1).
 さて,ザイセンチュウが松枯れの原因とする根拠は,多い場合で約半数の枯れた松から,ザイセンチュウが検出される.そして,健全な松でもザイセンチュウを接種すれば,かなりの頻度で松が枯れる,という実験結果です.

市町村保健活動と保健婦

<座談会>北海道芽室町の保健福祉活動における保健婦の役割・1—長寿の町の秘訣

著者: 関澤正茂 ,   前花千栄子 ,   鳥本ヒサ子 ,   江口久子 ,   貞本晃一

ページ範囲:P.57 - P.61

 貞本(司会) 芽室町は,ある面で独自に主体的ないろいろな形の保健事業,および医療対策に取り組んでいらっしゃるという印象を私は持っております.そういう面で他の町村とは少し違った形の取り組み方もあるようです.
 全国市町村別の生命表によると,芽室町は男性が77.7歳と全道1位の長寿であり,女性は84.4歳で,全道で第2位となっています.これは1990年の平均寿命,生命表に基づく数値ですが,1985年のデータでも確か上位を占めていたと記憶しています.

福祉部門で働く医師からの手紙

疥癬狂騒曲

著者: 牧上久仁子

ページ範囲:P.62 - P.65

 最近身近で「疥癬」の2文字を耳にすることが増えてます.福祉現場で問題になる感染症というと,まずはじめに思い浮かぶのがMRSAですが,実際に問題が起こってみると混乱の規模は疥癬のほうが大きいことを,私も巻き込まれるまで知りませんでした.
 最初は区立の特別養護老人ホームで複数の利用者に発生し,疥癬の終息宣言がだされるまでショートステイ受け入れを休むかどうかで大もめになりました.私は騒ぎが峠を越えてから知らされ,対応マニュアル作成のために事例の経験談を収集しようとかかわりはじめたのですが,当該職場の苦労は予想以上でした.あらかじめ皮膚科学の成書に何冊か目を通してホームを訪ねたのですが,現場のスタッフからはそんな付け焼き刃では答えられない質問がたくさん浴びせられました.

自治体の保健福祉活動における理学療法士の役割・1

自治体の保健福祉活動における理学療法士の意義

著者: 山本和儀

ページ範囲:P.65 - P.69

 今日,わが国は高齢化や少子化,あるいは女性の就業率向上など社会情勢は大きく変化してきており,このような社会情勢を背景に,従来の社会保障システムでは複雑・多様化した国民ニーズに対応が困難な状況にある.このような状況のなか,福祉分野に関しては,高齢者会を展望した「新たな高齢者介護システムの構築」が求められ,その具体策として公的介護保険制度の導入が目前に控えている.さらに障害者(児)については障害者プランが,児童に関してはエンゼルプランが策定され,福祉全体が大きな変革期を迎えている.また,保健分野についても保健所法の大幅な改正による地域保健法が制定され,医療の分野でも医療制度の改正が検討されている状況にある.
 これら社会保障のあり方に対する見直しは,生活形態や国民ニーズを反映したものといえるが,そのなかで重要視されているのがノーマライゼーション思想と自立(意志,自己決定権の保障)という概念であり,それに伴い各種施策の施設から在宅中心へと移行しつつある.このことは,まさしく地域リハビリテーション活動の理念と共通のものであり,われわれ理学療法上の今後の活動が,保健・医療・福祉にまたがるものであることを示唆しているものと考えられる.

ヘルスセクターリフォームの国際動向・1

世界を飲み込む健康変革(Health Sector Reform)の人類史的潮流—総論

著者: 長谷川敏彦

ページ範囲:P.70 - P.79

本シリーズについて
 近年,欧米の公衆衛生学,政策科学の主要な雑誌で,健康変革という言葉を見ない月はまずない.そして健康変革の世界各国の現状や理論に関する書物が次々と出版されつつある1〜13).メキシコにある健康変革の情報集配センター(ICHSRI)による文献検索の結果では1992年から1996年の間に先進国のみならず41カ国の途上国14)について健康変革の関連記事が報告されている.
 今日,健康変革は世界的に見て公衆衛生学者や政策決定者の間では最も重要な課題といえよう.しかし残念ながら日本には,個々別々の事例報告はあるものの,世界の潮流が系統的に紹介される機会がなかった.今回シリーズの形をとり,本論文では総論編としてその人類史的潮流の背景,内容,意義などについて全般的に分析して報告し,次いで各論編として世界の各地域の健康変革の現状をまとめて報告していきたい.西欧,東欧,アジア,ラテンアメリカ,アフリカなどが予定されている.

精神保健福祉計画の企画と実施—意欲を事業に反映するために

精神保健福祉計画の課題と目標

著者: 竹島正

ページ範囲:P.80 - P.83

 1997年1月号から1年間掲載した「精神保健福祉—意欲を事業に反映するために」は,幸いよい反響と,編集部のご支持により,1998年も「精神保健福祉計画の企画と実施」をテーマに継続することとなりました.今年度も,1月号では総論と1年間の構成について述べることとします.1998年も毎月テーマを決めてのリレー執筆です.

全国の事例や活動に学ぶ 今月の事例 鹿児島県大口保健所

「伊佐(いざ)けんこう井戸端フォーラム」を実施して

著者: 岩松洋一 ,   岩室紳也

ページ範囲:P.84 - P.86

 大口保健所は,平成7〜8年度に「痴呆性老人対策事業」に取り組み,8年度には事業を総括する研修会を計画していた.初めは,専門家による講演会やシンポジウムという案で進められていたが,複数の職員から「今回は,何か違った内容にできないだろうか」という意見が出され,白紙の状態から再検討することになった.この中から生まれたのが「伊佐(いざ)けんこう井戸端フォーラム」である.今回は,フォーラム実施にいたるまでの検討過程を中心に報告したい.
 まず,事業の枠にとらわれずに自由な意見交換からはじめていった.その中で「所の各種教室・講座の受講生の参加」,「受講生同士の意見交換や発表の場」などの意見が出された.これがベースとなり,受講生の演者としての参加という方向づけができた.しかし,単なる学習発表会形式では方向性も異なり目的もわかりにくい.そこで,共通のテーマの設定と受講生以外の住民の参加が提案された.今回のテーマは「いきいきと健康で心豊かに過ごせる地域社会をめざして」と決まった.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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