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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生62巻10号

1998年10月発行

雑誌目次

特集 計画づくりの理念と方法

計画づくりの概念と役割

著者: 宮城島一明 ,   中原俊隆

ページ範囲:P.684 - P.690

計画の概念とその変遷
 わが国に関する限り,保健・医療・福祉分野の諸施策・サービスは主として行政府のイニシアティヴによって立案・実施されている.したがって,保健・医療・福祉を対象とする計画は,多くの場合,行政計画の一種であるといって差し支えない.行政計画の法律学的検討は行政学の成書に譲るが1),ここでは便宜的に行政計画を「根拠法令に基づき,あるいは直接の法令の定めによらずに,行政府がその権能の範囲において実施する一連の事業あるいは判断の集合を体系的に記述したもの」と定義するとしよう.
 行政計画を多用する典型的な例は,社会主義経済体制において顕著にみられ,計画経済の下での行政の枢要的要素であった.一方,自由主義経済体制においても,特定の事業体による業務独占が行われている分野において,あるいは,自由な経済活動を適度な規制によって望ましい方向に誘導する目的で,様々な計画的手法が幅広く用いられている.

政策科学の理論と保健計画づくり

著者: 信川益明

ページ範囲:P.691 - P.696

 今日の医療問題,福祉問題,環境問題,教育問題,資源・エネルギー問題,都市問題,人口問題などは,政策(行動の指針)の探求が強く求められている.これらの問題は,関連要因が多岐にわたり,利害関係など複雑であり,これまでの諸科学では問題を解決することが困難である状況に直面している.
 保健医療福祉関連の計画がどの程度合理的なものであるかを検証するためには,政策として行われる事業が合理的に行われているか,問題・課題の捉え方が適切かを判断するための一定の方法論が求められている.

評価計画とその実際

著者: 星旦二 ,   藤原佳典

ページ範囲:P.697 - P.701

計画と評価
1.計画の要素に含まれる評価計画
 事業の量を主な評価指標とする時代が過ぎ去ろうとしている.重視すべき評価指標は,実施した事業によってもたらされた効果を明確にすることである.保健計画の要素としては,事業の実施計画だけに限定せずに,活動効果としての最終目標を指標化して設定し,達成時期を明らかにし,そのために必要な基盤整備計画が計画の要素として含まれていた1).この中で最も重要となる計画の要素は,今回のテーマである評価計画である.つまり計画を策定する時点で,実施した効果を確かめるための評価計画を事前に立案し,その後の評価結果に基づいてシステムを改善することに応用することになる(表1).

市町村母子保健計画の評価と計画づくりの留意事項

著者: 田上豊資

ページ範囲:P.702 - P.705

 地域保健活動を効果的に推進するためには,地域住民,様々な専門職や関係機関,行政が健康を守るために取り組むべき課題や進むべき方向について共通理解し,それぞれの役割を明確にしたうえで共同して活動を進めることが必要である.計画づくりは,その第1歩でありコンセンサスづくりの手段であり協議の場と考えられる.しかしながら,これまでの計画づくりの多くは,保健分野に限らず「計画書づくりそのものが目的化し,具体の実践につながらない計画」,「労多くして益少ない計画」になりがちである.
 平成9年度厚生省心身障害研究「市町村母子保健計画の評価に関する研究」の中で,厚生省に提出された2,849の市町村母子保健計画を研究対象として,一定のフォーマットに基づいて評価するとともに,全国の都道府県に推薦していただいた優秀事例について,特に計画策定のプロセスに着目しながら訪問調査を行い,望ましい計画づくりの要素について検討した(表1,2).本稿では,その研究成果を踏まえながら,今後,地域保健従事者が老人保健福祉計画,母子保健計画の見直しや新たな計画策定に着手する際に留意しておくことが望ましいと考えられる事項と今後の検討課題について私見をまじえて整理してみた.

計画づくりの手法—保健計画推進に必要な要素からみた計画づくり手法について

著者: 福永一郎 ,   實成文彦

ページ範囲:P.706 - P.714

 計画的な保健活動の実施は,包括的保健の概念1)からみて重要な課題である.保健計画は,その具現化として,地域での保健活動の目的,具体的な目標および評価指標,活動方針,活動のやり方の意思決定を行うものである.保健計画を有効なものとするには,保健活動に携わる住民組織,地域の専門家集団,行政の各代表者・担当者が,場を共有して,地域の健康状態の理想を描き,現状を把握・検証し,解決すべき課題(あるいは目標と現状との格差)を見いだして,その対策を話し合い,役割分担を行って計画を立て,実行し,その実施結果と実施過程を評価するというplando-seeに基づいた過程が推進されることが望ましい.
 さて,最近,従来行われてきた保健計画手法が「課題解決型(ないしは事象解決型)」と位置づけられ,まず目標を設定することから始める保健計画手法を「地域づくり型(本稿では,便宜上目標設定型と称することとする)」としてその相違が論じられることが多い2).筆者らに与えられたテーマは保健計画の手法であるが,手法の詳細については成書に譲ることとし,保健計画推進過程についての筆者らの経験と意見を述べ,そこからおのおのの計画づくりの手法がもつ特徴や課題について解説してみたいと思う.

保健医療福祉の基盤整備計画—その理論と実際

著者: 河原和夫

ページ範囲:P.715 - P.719

 保健,医療,福祉のシステム改革の中で,各領域において様々な行政計画が策定されてきている.なかでも,地域保健医療計画,高齢者保健福祉計画,老人保健計画,市町村保健計画,母子保健計画ならびに介護保険事業計画などの策定は,それぞれの地域の今後の保健医療福祉分野の展開を占う上で,その内容は極めて重要なものになっている.
 しかし,こうした計画がどの程度地域レベルでの問題点を把握し,その解決手順を具体的に示したものであるかは,問題が残るところである.

計画の活用方法・計画の育て方—福島県大越町

著者: 渡部育子

ページ範囲:P.720 - P.722

 大越町は福島県のほぼ中央,阿武隈高原に位置し,人口6,200人で老人人口は21%の緑豊かな小さな町です.
 その中の一つの行政区で,住民と行政のプロジェクトチームが,「いきいき白山構想」を作成して1年が経過しました.

計画の活用方法・計画の育て方—大分県玖珠町

著者: 日隈桂子

ページ範囲:P.723 - P.725

童話の里「玖珠町」
「むかし,この地に天にも届くクスの木がそびえておって,玖珠ちゅう地名がついたんじゃ.あまりに大きいので,年中,陽も射さん.そこで,通りかかった大男にこの木を切ってもらい,それから…」(玖珠の民話)
 本町は,大分県の西北部に位置し,総面積286.6km2,民話にもあるようにわが国第1のダブルメーサ台地に囲まれた自然の美しい農林業の町である.人口20,079人,うち老齢人口割合が23.6%と高く,「童話の里づくり」と「健康な町づくり」を町の基本施策としている.

計画の活用方法・計画の育て方—神奈川県城山町

著者: 升井孝子

ページ範囲:P.726 - P.729

 城山町は,昭和61年に町の総合計画に保健計画策定を位置づけ,平成元年に保健・医療・福祉・教育の連携と住民参加による地域を基盤とした総合保健計画「城山町保健計画—健やかさがこだまする城山町—」を保健所・町の職員で手づくりで策定した.
 この計画書をもとに保健婦と住民のイメージを重ね(ソーシャル・マーケティング)実施計画を作成し,保健事業を進めてきた.

視点

健康づくりとスポーツ

著者: 岡田邦夫

ページ範囲:P.682 - P.683

身体活動からみた健康づくり
 健康づくりをすすめるに当たって運動・スポーツは必要不可欠な視点といえる.しかし,運動・スポーツのみならず,日常生活における身体活動そのものを見直すことはさらに重要である.この点,厚生省「生涯を通じた健康づくりのための身体活動のあり方検討会報告書」は,「身体活動」を「骨格筋の活動によって安静時よりも多くのエネルギーを消費する活動」と定義し,日常生活,趣味・レジャー活動,運動・スポーツに含まれるすべての身体活動を対象としている.
 つまり,日常生活における積極的な身体活動を基盤として,その上に運動・スポーツを積み重ねていくことによって,安全で効果的な健康づくりがすすめられることになる.

連載 自治体の保健福祉活動における理学療法士の役割・8

東条町における理学療法士の活動と役割—地域に根ざしたリハビリテーション活動を目指して

著者: 時本日出見

ページ範囲:P.731 - P.735

東条町の概況
 東条町は兵庫県の南東部に位置する面積50.32km2の農村地帯で,平成10年4月現在,人口7,757人,高齢化率22.1%と5人にひとりが高齢者という高齢社会を迎え,65歳以上寝たきり出現率も4.1%となっている.その反面,人口の自然増加率は平成5年以降マイナスの値となり,3世代同居率も減少傾向にある.このような状況下で,「寝たきりになっても自宅で家族などの世話になりたい」,「在宅保健福祉サービスを活用しながら自宅で介護を続けていきたい」と,施設福祉よりも在宅福祉の意向が種々のアンケートに表れている.このような住民意識の高揚は,保健婦らによる寝たきり老人に対する地道な訪問活動に支えられ,直接的ケアを提供したり,往診のできる主治医をすべて持つよう働きかけるなど在宅療養の基盤を築いてきた.その経過の中で,リハビリテーション(以下,リハビリ)的視点と専門的アプローチが求められ,理学療法士の常勤採用につながっている.

精神保健福祉計画の企画と実施—意欲を事業に反映するために

地方自治体における精神保健福祉事業の推進体制の実態

著者: 竹島正 ,   杉澤あつ子

ページ範囲:P.736 - P.740

 平成5年の障害者基本法の成立,平成6年の地域保健法の成立,平成7年の精神保健法の改正,というように,住民の精神保健福祉にかかわる法制度が,近年,大きく変貌してきており,地方自治体に期待される役割はいっそう高まっている.本稿では,都道府県および政令指定都市(以下,指定都市)を対象にして実施した調査結果をもとに,全国における精神保健福祉行政の推進の現状と課題を明らかにしたい.
 まず,調査の対象と方法について述べる.都道府県および指定都市の合計59自治体の精神保健福祉担当課長あてに調査票を送付し,記入後郵送により回収した.調査票は,精神保健福祉行政にかかわる本庁の組織体制と,保健所における精神保健福祉業務の実施体制についての設問などを柱にして構成した.本調査研究の枠組みについては竹島1)が既報で詳述した.調査期間は平成10年2月から3月末までであった.最終的に53の自治体から回答を得た.すなわち,調査票の回収状況は90%(53/59)であった.自治体の区分別にみた回答率は,都道府県で94%(4447),指定都市では75%(9/12)であった.以下にこの調査でわかったことを記述する.

福祉部門で働く医師からの手紙

「療育奔流」 通園施設からの便り

著者: 本山和徳

ページ範囲:P.742 - P.743

再診
 「歩けますように」,「ことばが出ますように」……今,さくらんぼ園のロビーには笹の葉に短冊が様々な願いを書かれて揺れている.子どもはそのそばを今日も無邪気に駆け回っている.
 先日,3年ぶりに1人の子どもを診察した.

全国の事例や活動に学ぶ 今月の事例 香川県丸亀保健所

参加者主体型学習「おもいッきり健康教室」を開催して

著者: 福永一郎 ,   平山宏史

ページ範囲:P.744 - P.745

 これからの健康増進は,住民個人が主人公となって行動し,まわりがそれを支えるということが必要となる.したがって健康教育も,今後は実施者側が設定したメニューをこなしてもらうような形から,参加者が主体的に内容を決定してゆき,実施者側はそれをサポートするようなものが有効となってくる.香川県丸亀保健所では,平成9年度に地域保健推進特別事業を利用して参加者主体型健康学習「おもいッきり健康教室」を実施したので,その経験を紹介する.
 従来より,健康教育はいろいろな法体系に沿って多くのメニューが行われているが,それらの多くは疾病予防あるいは教条主義的健康教育に偏りがちで,「地域で健康を確保するための本来あるべき包括的な目標」に沿って行われていることは少ない.今回,ヘルスプロモーション(個人技術の開発と能力付与,組織的アプローチ,環境整備など)を念頭におき,そのごく小さな試みとして,参加者が主体的に健康教育を運営し,将来的に組織的アプローチにもつながるような健康教室を行いたいと考えた.また,健康に関連することがらは単に疾病予防だけではなく,保健・医療・福祉・環境・文化などの多岐にわたっているはずであり,これらのグローバルな包括性を加味する必要があると考えた.企画の実際は管理栄養士を中心に行い,教室の名称はテレビの人気番組をもじってつけたものである.

総説

自覚的健康度と生命予後

著者: 川田智之

ページ範囲:P.746 - P.750

 自覚的健康度は,主観的健康状態の総合的評価指標である.わが国では健康意識調査の名目で,厚生省が保健衛生基礎調査の中で不定期に実施してきた.昭和61年以降は3年に一度,国民生活基礎調査大規模調査の中の健康票を用いて,「あなたの現在の健康状態はいががですか」という質問文と,「1.よい,2.まあよい,3.ふつう,4.あまりよくない,5.よくない」という回答選択肢を用いて調査している.保健衛生基礎調査と,平成元年以降の国民生活基礎調査の男女別年齢階級別データから,男女とも,同一性・年齢階級で自覚的健康度は少しずつ改善していることがわかる(図1).
 このような質問文が用いられる背景として,1)自覚的健康度は各個人が設定する健康の目標レベルに対する相対的な健康レベルであること,2)ある時点での評価にもかかわらず過去を踏まえた,すなわち評価に時間軸を含んだ健康度指標であること,3)国民生活基礎調査大規模調査でも対象者を6歳以上(ただし保護者の協力のもと)としているように,質問に対する回答が容易であること,などのメリットがある.この質問文は欧米での疫学調査でも1970年代から取り入れられはじめ,1980年代になると,それは生命予後や疾病発生の予測指標として使用されてきた.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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