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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生62巻11号

1998年11月発行

雑誌目次

特集 21世紀へ向けての産業看護活動

産業看護の現状と将来

著者: 河野啓子

ページ範囲:P.756 - P.760

 産業保健の中心課題が業務起因性の健康障害防止対策から健康づくり・職場快適化対策へと大きく転換している現在にあっては,看護職がその専門性を発揮すべき新しい仕事,例えばTHP(total health promotion plan)での生活指導,職場快適化への参画,健康診断後の保健指導などが次々と出てきており,産業看護に対するニーズは年ごとに高まりをみせている.しかし,それらのニーズに十分応えているかといえば現実は厳しく,かなり前進したとはいえ,まだ多くの課題をかかえている.
 これらの課題を解決し,より良い産業看護活動を行うためにはどうしたらよいか,ここではまず産業看護の歴史をひもとき,次いで平成3年10月に日本産業衛生学会産業看護研究会(現産業看護部会)によって明確化された産業看護の定義,産業看護職の役割と職務を紹介する.そしてそのあるべき姿と現実のギャップから問題点を把握し,将来に向かっての方向性を探ってみたい.

産業保健における看護職—総括管理の立場から

著者: 小澤乃智子

ページ範囲:P.761 - P.765

 ものごとはほぼ10年単位で進歩し,変化するものだという.そう思って産業看護の来し方をみると確かにそうかもしれないと思う.「産業看護」という呼び方が定着しはじめるのは1969年,国際労働衛生会議が東京で開催されて以降である.ここを基点にみると,ほぼ10年後の1978年,日本産業衛生学会産業看護研究会が発足.また,日本看護協会が産業看護の卒後教育を開始している.
 1991年,前出の産業看護研究会が新たに産業看護部会として発足している.また,産業看護研究会時代の1989年,概要がまとまっていた「産業看護の定義・産業看護職の役割」1)を報告(以下,報告)し,全国でシステマティックな産業看護活動が始まっている.産業看護活動を跡づける出来事は他にもあるが,社会情勢の変化によっても産業看護活動が促進されている.

健康管理と産業看護活動

著者: 遠藤俊子

ページ範囲:P.767 - P.770

 近年労働安全衛生法などの度重なる改正とともに,産業における健康管理業務もその密度を増し,保健婦などに対する役割期待も大きくなっている.労働安全衛生法では職場の健康管理は「健康管理」として総括されているが,通常職域における健康管理は作業管理・作業環境管理とならび労働衛生の3管理の中の一つとして位置付けられることが多い.
 職域における健康管理とは,働く人々が充実感を持ち,労働の場に適応しながら生きがいをもって働くための組織的・専門的支援であり,活動の中心は従業員に対する保健サービスである.

環境管理と産業看護活動

著者: 佐藤知子

ページ範囲:P.771 - P.774

環境管理とは
 労働者の健康は,いわゆる労働衛生の3管理(健康管理,作業管理および作業環境管理)が,相互に円滑に効果的に働いてはじめて保つことができる.
 職場環境として考えていかなければならないものとして,
 ・物理的環境……物理的尺度で測定されるエネルギーの存在する環境
 ・化学的環境……作業に使用される物質によって形成される環境
 ・生物的環境……病原微生物やその媒体動物に影響される環境
の3点と,政治,経済,教育,文化など人間集団の生活している「場」そのものの仕組みを含み,人間関係に重きのある社会心理的環境を含めた社会環境がある.

作業管理と産業看護活動

著者: 脇谷小夜子

ページ範囲:P.775 - P.778

 産業保健活動の基本となる3管理,すなわち作業環境管理・作業管理・健康管理のうち産業看護活動は健康管理,その中でも近年特にTHP推進活動に重点が置かれがちであるが,それらの活動も作業環境管理,作業管理を絡ませながら総合的に推進してこそ効果的な産業看護活動となる.
 特に作業管理は,作業時間,強度,方法やその影響などをはじめ,作業そのものの状況にかかわりを持つことで,作業者がより快適な職場で健康への影響をできるだけ少なくしていく産業看護ならではの活動である.

健康教育と産業看護活動

著者: 上野美智子

ページ範囲:P.779 - P.783

 看護職の健康教育活動は,はじめに健康教育ありきというより,より良い健康診断をしたい,より良い健康管理をしたい,そしてその結果が働く人々の健康と幸福に結びつくようにしたいと願って実践してきたことが少しずつ形をなし,発展して健康教育になってきた.「健康管理は健康教育に始まり健康教育に終わる」といわれているように,効果的な健康管理をするためには健康教育がおのずと必要になる.
 筆者の所属する健康管理センタは本年7月に創立40周年を迎えた.そこでの健康教育の一部を紹介しながらその現状および看護職の機能と役割,今後の課題などについて考えてみたい.

これからの産業看護教育

著者: 加藤登紀子

ページ範囲:P.785 - P.788

産業看護教育の現状
 これからの産業看護教育を考えるためにまず産業看護教育の現状を卒前教育,卒後教育および継続教育に関して把握しておきたい.
 産業看護に関する卒前教育は保健婦教育課程に位置づけられている.1991年より,保健婦教育690時間以上のうち,ミニマムでも保健指導各論165時間,そしてそのうち産業保健指導30時間が初めて位置づけられた(文部省・厚生省共同省令).しかし1991年以前においても,保健婦教育は,対象を生活の場における健康レベルの高い個人および集団ととらえ,その保健指導を教授していたので産業看護を理解する基本の一部は満たしていたと考えられる.1996年8月,時代の要請にかなう多様な人材育成を目指して保健医療職教育が見直され,保健婦教育カリキュラムの改正がなされた.これは合計675時間以上であること,教科目別時間の縛りを廃止し,教育内容の大枠と単位制となったことである.保健指導各論は(母子,成人,高齢者,地域精神,産業,学校のそれぞれの保健指導で)計4単位となった.この新カリキュラムは1997年4月より実施され,産業保健指導は各教育機関の考えにより教育時間にばらつきがでてきている(しかしながら産業保健指導に関する設問が保健婦国家試験に出題されている状況は,改正前と変わらない).

視点

自治体(都道府県)の保健活動と財政

著者: 長岡常雄

ページ範囲:P.754 - P.755

 地方自治体の財政が悪化する中で,新たな保健施策を展開してゆくことは大変困難となっている.またここ数年担当している保健対策において時代の変化を肌で感じることも少なくない.
 最近の都における疾病対策の動きをみると,精神障害者施策では,平成9年を福祉元年としてホームヘルプサービスなど4種の福祉サービスを開始し,10年度からは従来都が全額補助を行っていた精神障害者共同作業所の運営費について1/3を市町村が新たに負担する制度改正がなされた.難病対策においては,10年5月から医療費の一部患者負担が導入され,それとともに重症者と在宅患者に対する福祉施策が強化された.HIV感染者については,10年度から身体障害者として認められ,医療費の公費負担と障害者としての福祉施策を受けるようになった.環境保健の分野では10年度から母乳や食品にもダイオキシン類の調査を広げ,内分泌かく乱化学物質についても調査を開始された.また感染症予防・医療法が改正され,都と区市町村の役割分担が変わることとなった.

連載 自治体の保健福祉活動における理学療法士の役割・9

山間部における活動と理学療法士の役割

著者: 一ノ宮孝司

ページ範囲:P.789 - P.792

 新幹線「高齢化」号は,フルスピードで日本列島を駆け抜けていっている.
 2000年に世界の最高齢国となり,2010年には高齢化率21%の超高齢社会に突入するが,その対策は鈍行なみである.前途は厳しい.

精神保健福祉計画の企画と実施—意欲を事業に反映するために

計画推進と事業の評価

著者: 竹島正

ページ範囲:P.793 - P.796

 事業とは「一定の目的と計画とに基づいて経営する経済的活動」(『広辞苑』)である.これは,行政の事業においても基本的に変わることはない.ただ企業の事業活動においては,収支決算に結果が表れるが,行政の事業においては,「地域住民の福祉の向上」という物差しが用いられるので,評価が困難な場合がある.ここでは精神保健福祉計画が立案され,計画が事業化されている段階を想定して,計画の進捗状況の把握と事業の評価について述べることとする.

福祉部門で働く医師からの手紙

これからの高齢者福祉施設と老人保健事業—〔1〕介護保険時代を迎え老人保健施設に期待すること

著者: 出口安裕

ページ範囲:P.822 - P.823

 私どもが担当している高齢者福祉施設と在宅サービスおよび老人保健事業は今,ひとつの激動期の中にある.新ゴールドプラン(高齢者保健福祉計画)および保健事業第3次計画の目標達成年次をあと1年余りにひかえ,またそれと続く形で導入の決まっている(平成12年4月),介護保険制度の準備と基盤整備のためであり,保健・医療・福祉の制度上の変革点を目前にしているためである.また,老人保健法に基づく老人保健事業の規定からがん検診関連が本年4月より削除された.
 わが国では欧米先進国に比べ人口の高齢化が急速に進行したわけであるが,その本格的な超高齢化社会の到来を迎え,保健・医療・福祉の連携のもとに,高齢者福祉については,その適切な福祉サービス提供のためのシステム構築が求められている.特に,わが国においては,人口の高齢化の進展と75歳以上の後期高齢人口の急速な増加に伴って,寝たきりや痴呆などにより介護を必要とする者が着実に増加している.今日,高齢者の介護の問題は重要で,現行の老人福祉と老人保健の二つの異なる制度の再構築を図り,社会全体で介護を必要とする者の介護を支える新たな仕組みとして,介護保険制度が創設されることとなった.介護保険制度は,利用者の選択により,保健・医療・福祉にわたるサービスを総合的に利用できるシステムを創設するものであり,また,サービスの質の向上と地域の実情に応じた介護サービス基盤の拡充を図ろうとするものである.

全国の事例や活動に学ぶ 今月の事例 香川県丸亀保健所

健康診査に関する調査を実施して—保健所による市町村支援の1例

著者: 福永一郎 ,   今西雅彦

ページ範囲:P.824 - P.826

 香川県は従来より結核罹患率の高い地域である.丸亀保健所管内のある自治体(人口約8万人)は,結核検診や,老人保健法の各健診受診率があまり高い地域ではなく,主に結核対策の面で健診受診率向上が課題であった.この自治体でも従来より受診を促すいくつかの工夫が行われてきたが,これまでの経験からは,必ずしも単なる受診勧奨や受診機会の確保で受診率が向上するものではなく,「健診未受診者が受診行動を起こすためには何が必要であり,そのためのアプローチは何が必要か」といった受診行動に関する課題を見いだしてゆく必要性が示唆されていた.また,健康教育については多くの工夫が行われ,県下でも屈指の実施状況を誇っている地域でもあるため,この実績を有効活用した健診とのリンクなども課題であった.筆者は自治体所属担当保健婦らから相談を受け,この課題に関する話し合いや基礎分析を行ってきたが,その結果,健康診査受診に対する実態や,健康診査に関する意識を調査することが望まれていた.しかし,予算・人員などの面で,自治体での単独調査には難しい面があった.
 平成7年度に,県の結核対策特別促進事業による指定を受け,その中で健康診査に関する調査を行える予算が確保されたため,これらの課題を解決するために,保健所が実施主体となり,自治体の協力と参加を得て健康診査に関するアンケート調査を行った.

資料

地域での保健所医師の役割に関する一考察—市町村保健婦を対象とした意識調査から

著者: 福永一郎 ,   倉山幸治 ,   丸山保夫 ,   實成文彦

ページ範囲:P.797 - P.801

 地域保健法の全面施行によって,老人保健,母子保健などの一次保健サービスは市町村機能であると位置づけられたが1),市町村保健活動と保健所の支援,地域での包括的な保健医療の供給体制,健康増進に対する地域住民と市町村,都道府県行政,医師会など地域専門家スタッフなどの協働については,まだ解決すべき問題が多い.
 市町村事業に対する保健所の二次的機能を中心に,保健所機能の一つとしての医師が果たす役割に関して,市町村保健婦を対象に意識調査を行ったので,若干の考察を加えて報告する.

活動レポート

痴呆性老人に関する社会調査

著者: 内野英幸 ,   長田憲治 ,   二木勝清 ,   川村吉郎

ページ範囲:P.803 - P.807

 長野県の平均寿命は,全国順位が上位に位置し,出生数の減少の中で高齢化が進み,寝たきり老人や痴呆性老人などの要介護対策が急務となっている.
 大町保健所管内(大北保健医療圏)は,長野県の西北端,松本平の北部に位置し,中山間地域が多く,高齢化率が21.2%と県平均をさらに上回っており,老人福祉施設なども少ない.

上野保健所企画調整課の活動

著者: 佐甲隆 ,   明石悦子

ページ範囲:P.809 - P.812

 上野保健所は忍者で有名な旧伊賀の国,2市3町2村(人口約18万)を所管している.まだ里山の多い静かな邦邑にも,当然ながら地域保健法は全面施行され,これに伴って平成9年4月三重県の保健所も一部組織改革された.従来の保健予防課と保健指導課(旧保健婦室)が統合され,新たに企画調整課と地域保健課が生まれた.保健所機能強化の目玉であるはずの企画調整課ではあるが,当初新事業を組む予算もなく,また医務や免許事務の一部も担い,企画の仕事に専念できないなど大きなハンディを背負いながら,短期間のうちに,なんとか保健所の新しいカラーを出そうと努力してきた.まだ暗中模索の段階ではあるが,とりあえず,活動の一部を報告し諸兄のご批判を仰ぎたい.

大学における健康管理—インターネットを活用した健康管理

著者: 宮崎美千子 ,   山崎力 ,   菅野健太郎

ページ範囲:P.813 - P.816

 東京大学ではコンピュータシステムが学内各部局の教育を主とする共同利用に供することを目的として1962年に設置され,現在本郷キャンパス,駒場キャンパスの双方に,全部で2,000台あまりのワークステーション,パソコンのクライアントサーバシステムを展開しており,これらのほとんどすべてが東京大学情報ネットワークシステム上で相互接続され,一般的に運用されている.
 保健センター駒場支所が所属する駒場キャンパスでは1993年の新入生から,前期課程での「情報処理」の講義が必修となり,これに伴い1995年4月から前期課程・後期課程,大学院の学生全員に電子メールアドレスが供給され,研究生も端末からの申請で利用できるようになった.さらに,コンピュータ端末は教育情報棟,図書館,各学部,研究科など,キャンパスの各所に1,047台が分散配置された.これは,駒場キャンパスの研究生を含む在籍者9,475人に対して約9人に1台の割合でコンピュータ端末が供給されたことになり,東京大学がネットワークシステムの教育に力を入れている一つの指標として挙げることができよう.

調査報告

ミャンマー北部の注射薬物濫用者のエイズに関する知識と危険行動

著者: 大森絹子

ページ範囲:P.817 - P.821

 ミャンマーは長年にわたり不法のケシ栽培の産地国として,そして精製されたアヘン,つづくヘロインの世界市場への介入国として名をつらねてきた.ミャンマーの薬物問題は隣国であるタイ,中国南部のユンナン省,北東インドのマニプルといった国境沿いの広範囲の地域に及んでいった.
 注射による薬物の濫用(主にヘロイン)は,おそらく1970年代頃から始まったとされる1).ミャンマー政府は,1974年から薬物濫用者の治療,リハビリテーションや予防にのりだしたが,1980年代後半からのHIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染の広がりは隣国をも含めて,主要な新しい感染疾患として社会問題化するに至った.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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