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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生62巻12号

1998年12月発行

雑誌目次

特集 「感染症新法」下における予防活動

新しい時代の感染症対策

著者: 村田三紗子

ページ範囲:P.836 - P.840

 「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(以下,「感染症新法」)は,平成10年10月2日に公布され,平成11年4月1日に施行される.新しい時代の感染症対策として法律の主要な内容について述べる.

「感染症新法」の運用上の留意点—現行法下での対応も含めて

著者: 品川靖子 ,   橋本雅美

ページ範囲:P.841 - P.844

 1974年に製作された野村芳太郎監督の映画「砂の器」に,ハンセン病患者である,主人公の父親が地方の村で保護され,村の隔離病舎に収容されるシーンがある.時代設定は戦前であろう.隔離病舎そのものは画面に出てこないが,その病舎は人里からだいぶ離れたところにあるようで,村人がリヤカーで患者を山奥のほうに運んでいく.もちろんハンセン病患者を隔離する必要がないのはいうまでもないが,当時の隔離病舎が想起できて興味深い.
 1997年に機能停止したが,東京都では都立荏原病院のキャンパスに「高度安全病棟」を設置していた.ラッサ熱をはじめとするウイルス性出血熱の患者が発生したときに備えて1979年につくられた病棟である.病院とは別棟で,設置当時には空気感染し極めて感染力が強いと考えられていたウイルス性出血熱の病原体を封じこめるために,ベッドアイソレータをはじめ,二重ドアの間には医療従事者のためのシャワー設備や陰圧設備が設けられた.平素は使われることはなく,患者発生時に各都立病院より精鋭の医師,看護婦,検査技師による診療班が編成されることになっていた.実際に使われたのは,1987年に「ラッサ熱再燃の疑い」患者が入院した一度だけである.この患者も結果的には,心のう炎の治療のため高度安全病棟から他の専門病院へ移り,手術を受けて救命された.

感染症予防活動と保健所の役割

著者: 阪上賀洋

ページ範囲:P.845 - P.848

 伝染病予防法が100年ぶりに改正され,その代わりに「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(以下,「感染症新法」)が平成10年10月2日に国会を通過し公布された.新法にはエイズ予防法,性病予防法も吸収されている.本稿では感染症新法が施行された場合,その後の感染症予防活動をどうすればよいか,また保健所はこれにどうかかわっていくのか,について可能な範囲で考えてみたい.なお,本稿では感染症の治療に携わる医師としての私見を述べているので,その点あらかじめご了承をお願いしたい.またエイズ予防法,性病予防法,および現行法がそのまま据え置かれる結核予防法に関連した保健所の役割については紙数の都合でごく簡単に触れるにとどめる.
 新法では法の対象とする感染症を五つに分類している(表1).これに加えて,1類感染症の疑似症患者および無症状病原体保有者は1類感染症の患者とみなされることになっている.2類感染症についても政令で定められた疾患(未特定)の疑似症患者は2類感染症の患者とみなすことになっている.

感染症予防活動と保健所の役割

著者: 河西悦子

ページ範囲:P.849 - P.852

 感染症予防活動の一端を担っている保健所の立場から,感染症予防活動のあり方,役割,機能などについて考えを述べる.

感染症病棟の運用と感染症患者の医療

著者: 相楽裕子

ページ範囲:P.853 - P.857

 伝染病予防法が明治30年(1887年)の制定以来100年ぶりに改正される.対応法が変わるのは当然として,伝染病という用語が法律上は用いられなくなる.現在の伝染病の発生状況,伝染病棟の運用状況とあわせて,「感染症新法」下における感染症病棟運用のあり方,感染症患者の医療について私見を交えてまとめてみたい.

1類感染症患者の医療

著者: 角田隆文

ページ範囲:P.858 - P.861

 感染力が強く,重篤となりやすい以下の疾患が1類感染症の範疇にはいる.すなわち,旧伝染病予防法においても第1条に掲げられたペスト,昭和51年に指定伝染病となったラッサ熱,新たに追加されたエボラ出血熱,マールブルグ病,クリミヤ・コンゴ出血熱の5疾患である.したがって臨床的にはペストとウイルス性出血熱とみなすことができる.

「感染症新法」法律制定の経緯

著者: 滝澤秀次郎

ページ範囲:P.862 - P.867

 新しい時代の感染症対策を担う「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(以下,「感染症新法」)が本年の9月25日に成立,10月2日に公布され,現在,平成11年4月1日の施行に向けて準備が進められている.感染症対策は,これまで明治30年に制定された伝染病予防法を中心として行われてきたが,今後は,伝染病予防法に加えて性病予防法とエイズ予防法を廃止統合した「感染症新法」に基づいて進められることになる.わが国の感染症対策の大きな転換点であり,関係者の方々のご理解とご協力に基づいた着実な施行が求められている.本稿では,「感染症新法」作成に至る背景およびこれまでの経緯,この法律の趣旨と内容,国会での審議などについて概説したい.

視点

自治体(市町村)の保健活動と財政—市民の健康づくりと首長の責務

著者: 近寅彦

ページ範囲:P.834 - P.835

 私どもの新発田市(434km2,82,000人)は,新潟県北部の穀倉地帯にあり,飯豊連峰に発する加治川の清流に灌漑された扇状地の中心にある古い城下町である.400年前の慶長3年,加賀大聖寺(現加賀市)より溝口秀勝が6万石で入封され,城下町づくりに着手されたが,見はるかす蒲の沼地であったという.歴代の藩主は治水利水で農業を興し,教育文化に傾倒され,いまに伝統文化をのこし,市民の精神風土を築かれた.
 新発田藩主が健康や福祉に関心の高かったことは有名で,日本で3番目に古い医学校があったこと,健康で長生きすると1年分の米を褒美として与えたことなどは,水戸藩の儒学者,長久保赤水が「新発田侯の仁政」として「和漢いまだかってあらざる事」と記録している.

連載 ヘルスセクターリフォームの国際動向・8

アメリカの医療改革

著者: 清滝裕美 ,   長谷川敏彦

ページ範囲:P.869 - P.875

 多くの先進諸国は政府主導の包括的な国民皆保険を導入しているが,アメリカにおいては医療の普遍的なプログラムの立法化を試みる努力はことごとく失敗してきた.アメリカ人の個人の自由を重んじ,政府の介入を好まないという国民性は医療にまで及んだ.大恐慌の後,ブルークロスおよびブルーシールドが成立し,戦後,雇用主による給与外給付として医療保険が給付され,民間営利保険が普及した.しかし,アメリカ人の価値観の多様化を背景に,医療保険の保険料もその給付範囲も様々であり,保険請求の事務手続きを複雑にした.1965年に社会的弱者である高齢者・障害者と低所得者を対象とした政府プログラムであるメディケアとメディケイドが成立し,無保険者の割合は15%程度まで減少した.その後も繰り返し国民皆保険制度が立案されるが,それを「小さい政府」,「少ない税金」でまかなうという難問に阻まれ,成立には至っていない.
 第二次世界大戦後のヒル・バートン法に基づく病院施設・病床数の増加,医師数の増加,医療保険制度の拡大,保険・医療テクノロジーの進歩によってアメリカの国民医療費は急増した.国民医療費の伸びはGDPの伸びをしのぎ,国民経済における医療費の負担の大きさは既に1970年代から指摘されていた.他のOECD諸国と比べると総医療費の対GDP比は1960年以来高水準であり,特に1980年代にはいると際立った伸びを示し,1997年には14.0%に至った.他の先進国は7%から10%にとどまっている(図1).

自治体の保健福祉活動における理学療法士の役割・10

離島における活動と理学療法士の役割

著者: 武原光志

ページ範囲:P.876 - P.879

 筆者には自治体に勤務した経験がない.離島の病院に4年,その後,同じ法人の老人保健施設に開設準備期間を含めて4年,併せて8年間しか理学療法士の経験がない.離島の壱岐における8年間の限られた活動のなかでの自治体とのかかわりの中心は機能訓練事業である.
 長崎県壱岐郡を構成している四つの町には理学療法士・作業療法士が1人も雇用されていない.そのため,病院・老人保健施設勤務の理学療法士(計8名)に機能訓練事業への派遣依頼があり,要請に従って参加している.そのほか,「健康祭り」などの事業や,「壱岐4町住宅マスタープラン策定委員会」の委員,地域の活性化を目的とした「地域開発プロジェクト委員」の依頼を受け,理学療法士の立場から必要な提言をしている.しかし,理学療法士として本来携わるべき「保健福祉計画」や「障害者プラン」など保健・福祉の施策の立案・作成過程には参画できていない.

精神保健福祉計画の企画と実施—意欲を事業に反映するために

人材育成と精神保健研究所の役割

著者: 白川修一郎

ページ範囲:P.880 - P.884

 精神保健における人材とは,周知のごとく,医師以外に看護婦(士),保健婦(士),作業療法士,社会福祉士,精神保健福祉士,臨床心理スタッフおよび精神保健福祉行政に携わる事務職など,多くの職種にまたがる.これは,精神保健が精神障害の予防・治療および社会復帰・社会的サポートのみならず精神の健康の保持・向上をも,その目的としている側面を有するからである.さらに,平成7年に精神保健福祉法が成立し,関連する分野や職種も拡大の一途をたどっている.
 精神保健研究所は,精神疾患,神経・筋疾患,精神神経領域の発達障害および精神保健に関するわが国の中心的機関である国立精神・神経センターを構成する4施設の一つである.国立高度専門医療センターの研究機関として,精神保健に関する研究を公的に行っているわが国で唯一の研究所である.精神保健に関する人材育成としての研修は,昭和27年に国立精神衛生研究所として設立されてから,研究活動と並行して,昭和34年度の社会福祉学課程を皮切りとして実施されてきた.研修の対象者は,平成9年度までは医師,保健婦,看護婦,臨床心理,精神科ソーシャルワーカーであったが,平成10年度からは,一部の研修課程で,精神保健福祉行政に従事する事務職や作業療法士にも対象を拡大している.

福祉部門で働く医師からの手紙

障害と疾患と医療と

著者: 古林敬一

ページ範囲:P.886 - P.887

 今回は,慢性便秘症のケース紹介を通じて,障害や慢性疾患を持っ人たちと医療とのかかわりの実情をお伝えしたい思います.

全国の事例や活動に学ぶ 今月の事例 香川県

こどもの聴覚健診に関する実践事例—香川県下での取り組み

著者: 福永一郎 ,   今西春彦

ページ範囲:P.890 - P.891

 平成3年度より,3歳児健診に聴覚健診が導入され8年目を迎えている.こどもの聴覚言語の健診を十分に機能させるには,健診の実施体制を整えたり,こどもの聴覚や言語のアプローチの重要性について,従事者のみならず専門家や保護者などの当事者(一般住民)の理解を得ることが必要である.香川県下においては,3歳児健診を中心とした聴覚健診は,足かけ8年の歴史を経て,それなりの成果を上げてきている.誌面の都合もあるので,これまでの香川県下でのこどもの聴覚や言語健診への取り組みについて,筆者が大学衛生・公衆衛生学教員(平成2年〜平成5年),保健所医師(平成5年〜現在)および日本耳鼻咽喉科学会香川県地方部会(以下,日耳鼻地方部会)乳幼児医療担当者(平成6年〜現在)として関与した部分を中心に,その概略をかいつまんで述べることとする.
 健診を実施するに当たっての問題は,その導入された健診が妥当なものであるか,そしてその健診が設計どおりにきちんと行われるかどうかということである.3歳児健診への聴覚健診の導入も,全国的にみるとそのあたりが十分ではない地域もあることが伺われる1)・香川県では,初年度(平成3年)モデル健診の実施により,中等度の感音性難聴,聴力低下を有する滲出性中耳炎,言語発達の障害をターゲットとし,幼児期の耳鼻咽喉科的問題に対し十分な保健指導も意図した健診方式を開発し平成4年から新方式で再出発した.なお,筆者は大学在職時代にこの作成に関与している.

フォーラム

高齢化社会における生活習慣病対策

著者: 鷲尾昌一 ,   荒井由美子

ページ範囲:P.888 - P.889

 従来,わが国の公衆衛生学の中心的課題は感染症などの急性疾患であったが,疾病構造の変化とともに虚血性心疾患,癌などの生活習慣病対策に力点がおかれるようになり,医療の中心も感染症から生活習慣病に移り,臨床の現場における治療と一体となった予防医学活動が重要な地位を占めるようになった.
 また,わが国では経済の成長が低迷している中で,人口構成の高齢化,少子化が急速に進行しており,国民医療費の増大を抑制することが緊急課題となっていて,「限られた資源の有効配分・有効利用」という意味での経済的視点から,医療,保健,福祉のヘルスサービスの重複を避け,有効活用を図ることが求められるようになっている.

報告

いきいき社会活動チェック表の開発

著者: 尾島俊之 ,   柴崎智美 ,   橋本修二 ,   大野良之

ページ範囲:P.894 - P.899

 高齢者というと,要介護老人を連想しがちであるが,実際には高齢者の多くは身体的障害もなく健康であり,社会の一員として種々の社会活動を行っている.高齢者の社会活動を積極的に評価する視点が必要といえよう.
 一方で,竹内1)は,社会交流を絶った老人,いわゆる「閉じこもり症候群」は,寝たきりや痴呆になるという説を提唱している.社会活動が極端に低下した高齢者を把握し,積極的な社会参加に誘い出す努力が必要と考えられる.

調査報告

結核新登録患者の状況分析

著者: 福永一郎 ,   實成文彦 ,   丸山保夫 ,   武田則昭 ,   浅川冨美雪 ,   笠井新一郎

ページ範囲:P.900 - P.904

 近年,結核罹患率減少の鈍化傾向,高齢結核患者の増加,集団感染,在日外国人の結核など1),結核対策は新しい局面を迎えている.とりわけ,高齢者の結核では,既感染者からの発病2),他の慢性病や生活習慣との関連3,4)など,結核対策の中でも重要な位置を占めており,また集団感染や家族内感染による若年患者・感染者の問題も看過できない.
 今回,ある地域での胸部結核新登録患者の状況について述べ,また,地域での結核予防に関する検討を行い報告する.

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基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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