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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生62巻2号

1998年02月発行

雑誌目次

特集 成人病から生活習慣病へ

「生活習慣病」の考え方

著者: 久道茂

ページ範囲:P.92 - P.94

 日本の国民に40年以上にもわたってなじんでいた「成人病」という名称を,厚生省は「生活習慣病」とすることになった.筆者は,厚生省公衆衛生審議会健康増進栄養部会・成人病難病対策部会合同部会生活習慣病対策専門委員会の委員であったことから,この名称変更にかかわる背景と経緯について,同審議会がまとめた「生活習慣に着目した疾病対策の基本的方向性について(意見具申)」(平成8年12月18日)と同専門委員会の「今後の生活習慣病対策について(中間報告)」(平成9年7月14日)を引用,参考にしながら概説する.

「生活習慣病」でよいのか—健康づくりの視点から

著者: 井形昭弘

ページ範囲:P.95 - P.98

 最近,成人病は生活習慣病と名称が変わり,厚生省にも最近の改組で生活習慣病対策室が生まれている.成人病との名称もいろいろ議論のすえ誕生した経緯があるが,使い慣れた成人病の名称が変更されたことに時代の流れを実感している.
 老化にも,老年病にもそれぞれ生まれつきの素因が関与してはいるが,その後の生活習慣が大きく関与しており,理想的な生活習慣を身に付ければ老化が予防でき,老年病も予防できることは当然である.

「生活習慣病」でよいのか—臨床医学の立場から—肥満・肥満症を中心に

著者: 池田義雄

ページ範囲:P.99 - P.101

 時代の変化とともに疾病構造に移行のみられることは,よく知られているところである.わが国においては,昭和20年代までは食物供給量の不足と劣悪な環境が,多くの感染症を蔓延させていた.その主要な疾患は結核であり,厚生行政もこれへの対策に多くの努力を払ってきた.
 時代の推移は結核を過去のものとし,疾病構造は感染症時代から非感染症時代へと推移し,ここに行政の造語として「成人病」が登場した.以後平成8年度まで,わが国の保健医療の主要なターゲットは成人病に置かれ,癌,脳卒中,心臓病への脅威に対する早期発見,治療,リハビリテーションが広くすすめられてきた.

「生活習慣病」でよいのか—臨床医の立場から

著者: 白水倫生 ,   福井次矢

ページ範囲:P.102 - P.104

 国民全体の疾病予防・健康増進が医療の目的である現在,臨床に携わる者は,すでに病気になってしまった人々の診断・治療を行うだけでなく,人々が健康を維持していくための個別的な支援を行うことが強く求められるようになっている.

「生活習慣病」でよいのか—脳卒中予防対策の現場から

著者: 横田紀美子

ページ範囲:P.105 - P.107

 茨城県協和町(人口1.7万人)では,1981年から町の健康づくりの重点事業として,脳卒中半減対策を継続して行っており,現在16年目を迎える.この対策は,1981年当時死亡の第1位を占めた脳卒中に関して,その発生率を半分に減らすことを目標にかかげた.この目標達成の具体的方策としては,まず町民40歳以上全員(勤務者も含む)を対象に健診を行い,高血圧者を把握して生活指導を行うとともに,必要な者に対して他の医療機関に受診勧奨を行い,適切な治療ルートにのせる(高血圧の2次予防)ことである1).1983年からは,高血圧者以外の住民に対しても高血圧の1次予防を目的として,メディア,健康まつり,小学校の授業,食品協会との協力活動を介した健康教育キャンペーンを実施してきた1).この結果,1980年代前半から1990年代後半にかけて,脳卒中の発生率は女子が半減,男子で20%の減少がみられ女子に関しては,当初の目標が達成された.本事業において対策を行ったスタッフのみならず,一般住民にも広めていった共通の認識として「成人病は予防できる.とくに脳卒中は,高血圧を中心とする管理で半減できる」という認識であった.高血圧の管理には,前述したように高血圧者の薬物治療と生活改善(2次予防),非高血圧者に対する生活改善による高血圧自体の予防(1次予防)から成る.

「生活習慣病」でよいのか—公衆衛生の現場から

著者: 寺尾敦史

ページ範囲:P.108 - P.110

 大学を卒業した昭和55年,公衆衛生の実習指導を受けた縁で大阪府立成人病センター集団検診第1部に勤務した.以来,勤務地は変わったが一貫して循環器疾患の予防分野に身を置き仕事を行ってきた.
 昭和55年当時は老人保健法施行前の時代であり,先進的な市町村においてモデル的に成人病(循環器)検診が行われていた.集団検診第1部では地元の関係機関と協力して,秋田県井川町・本荘市,大阪府八尾市,高知県野市町において循環器検診を実施し,検診結果に基づく管理指導を徹底して行うことにより各地域で脳卒中の発症率を低下させる成果をあげていた1)

「生活習慣病」でよいのか—公衆衛生の研究者から

著者: 高橋恭子 ,   斎藤和雄

ページ範囲:P.111 - P.113

 長期にわたって用いられてきた成人病という名称は,生活習慣病になると,その名称から受けるイメージにはいろいろな問題が生じると思われる.そもそも成人病という用語は欧米にはなく,わが国独特のものであった.成人病とは,一般に中高年期以降に多い慢性の非感染性疾患を総称した名称で,三大死因である悪性新生物,心疾患,脳血管疾患は三大成人病と呼ばれてきたことは周知のとおりである.成人病とされてきた疾患群には,この三大成人病の他に糖尿病,高血圧症,動脈硬化症,高脂血症など原因も治療法も多様な疾患が含まれており,これらの疾患が生活習慣病と総称されることになり,様々な影響を及ぼすことが考えられる.したがって,この改定が妥当であるかどうかの命題を検討するために成人病とその要因について述べ,考えてみたい.

「生活習慣病」でよいのか—公衆衛生の研究者から

著者: 太田壽城

ページ範囲:P.114 - P.117

生活習慣と生活習慣病に関するデータ
1.運動習慣および塩分摂取と高血圧発症
 生活習慣として運動習慣と塩分摂取状況が生活習慣病としての高血圧の発症にどのように関連するかを2年間の追跡に基づいて検討した.

「生活習慣病」でよいのか—公衆衛生の研究者から

著者: 多田學

ページ範囲:P.118 - P.119

成人病から生活習慣病
 1.成人病対策の歴史
 第二次世界大戦後,わが国の主要死因のトップが結核という伝染病から昭和26年には脳卒中へと変化した.過去においては,食生活をはじめとして生活環境が整備されていない状態であったが,少しずつ生活環境が整備され,医療の進歩と普及によって,結核の死亡率は減少した.そして,死因の第1位となった脳卒中は,昭和20〜40年代にかけては脳出血タイプが多く,死亡年齢も働き盛り(一家の柱)の30歳代から50歳代にかけての人たちで占められていた.それらの対象者に対して,国は昭和30年代後半に「成人病対策」と呼ばれ「がん」とともに「脳卒中」予防も国において取り組まれた.この「成人病」という名称は,欧米先進国では使われておらず,日本独特の呼び方によるものであった.なお,平成9年4月から「成人病」という名称が「生活習慣病」に改められている.

生活習慣病対策について—都道府県行政の立場から

著者: 笹井康典

ページ範囲:P.120 - P.122

成人病から生活習慣病へ
 「成人病」から「生活習慣病」へという報道があった際,職員の間で「禁煙をしたいが,なかなか困難だ」,「肥満が気になるので,意識して歩くようにしている」という会話が盛り上がっていた.マスコミに取り上げられ,話題性があり,多くの人が関心を持っていると感じた.
 大阪府立成人病センターは昭和34年に開設された,がん,循環器疾患などの専門医療,研究機関である.わが国で初めて成人病という言葉を使用した医療機関とされており,その経緯を調べたが,そのルーツは,当時すでに行われていた厚生省主催の「成人病予防週間」という行事にあったようだ.いずれにせよ大阪府の公文書に「成人病」という言葉が初めて使用されたのは,昭和33年の成人病センター建設予算においてである.その後,成人病という言葉はがんや脳卒中,心臓病などを総称したものとして広く国民に定着した.

生活習慣病対策

著者: 中村吉夫

ページ範囲:P.123 - P.126

生活習慣病という概念の導入
 厚生省は,平成8年12月の公衆衛生審議会の意見具申を踏まえて,がん,脳卒中,心臓病,糖尿病などこれまで「成人病」と呼ばれてきた疾患を「生活習慣病(life-style related diseases)」と呼ぶことにした.平成9年7月には,地城保健を担当してきた健康政策局計画課,健康づくりを担当してきた健康増進栄養課,さらには成人病対策を担当してきた疾病対策課の一部をあわせて,保健医療局に地域保健・健康増進栄養課が設置され,課内室として生活習慣病対策室が設けられた.
 よく知られているように,疾病は,①遺伝要因(遺伝子異常,加齢など),②外部環境要因(病原体,有害物質,事故,ストレッサーなど),③生活習慣要因(食生活・運動・喫煙・飲酒など)など様々な要因が複雑に関連して発症し,予後にも影響を及ぼす.これまで成人病と呼ばれてきた疾病の発症には生活習慣が深く関与していることが明らかになっている.ブレスローは,①適正な睡眠習慣,②喫煙しない,③適正体重を維持する,④過度の飲酒をしない,⑤定期的にかなり激しいスポーツをする,⑥朝食を毎日食べる,⑦間食をしないの7つを健康習慣としている.

視点

臓器移植法施行によせて

著者: 小林秀資

ページ範囲:P.90 - P.91

 平成9年10月16日,「臓器の移植に関する法律」(以下「臓器移植法」という)が施行された.この法律が制定されるまでに,脳死と臓器移植をめぐる諸問題について,さまざまな場で議論が展開されてきた.平成2年3月に設置された臨時脳死及び臓器移植調査会(脳死臨調,永井道雄会長)においては,平成4年の1月の答申まで2年間にわたり各界の有識者による調査・審議が行われた.その後,関係省庁間で連絡を取りつつ,この問題の円滑な解決のため,立法化の問題を含め検討を行ったが,必ずしも政府提案という形には結びつかず,このため国会において,超党派の国会議員からなる生命倫理研究議員連盟や脳死および臓器移植に関する各党協議会において議論が重ねられ,議員立法による臓器移植の立法化の検討が具体化された.その結果,平成6年4月に法案が議員立法として衆議院に提出され,その後,平成8年9月の衆議院解散に伴う廃案,同12月に再提出という経過を経て,本年6月に一部修正の上,法律が成立をみるに至ったのはご承知のとおりである.
 こうした脳死と臓器移植の問題に関する論議の中で筆者なりに感じたことを少々述べてみたい.

トピックス

インフルエンザの流行と危機管理

著者: 根路銘国昭

ページ範囲:P.127 - P.138

 インフルエンザは,細菌とウイルスが主動する“かぜ症候群”を代表する.少なくとも,流行の規模と被害の大きさ,あるいは複雑な合併症による死因の増幅は,こうした見方の正当性を支持する.が,インフルエンザをも包容してかぜを曖昧な形で捉えているわが国の人々にとって,軽妙なかぜは“Cold”,インフルエンザの被害と重さは“Flu”とし,両者を明確に区分して見せる欧米の合理主義がいかに映るのであろうか.実際のところ,ワクチンを柱に据えたインフルエンザの危機管理を国家が標榜し,後者の文化圏で常識として受け入れられている風潮は,むしろ,わが国では多分に異端なのである.したがって,わが国でインフルエンザの危機管理を説く場合には,インフルエンザ疾患の被害の実態という病態を教条主義的に解き明かねばならず,いってみれば,国民の一部に対しては異教徒への布教活動にも似た困難さを伴うことを覚悟しなくてはならない.
 事実,インフルエンザ危害と,ワクチンを要としたインフルエンザ対策のありようについても,一般の人々の考え方,果ては,ウイルス学者の間でも意見は両極に分かれているのが現状である.かりに,背景に日本人特有の思想形成の歴史があるにしても,社会の諸相に影を落としているこの問題を,科学的視点に立ち真剣に論議する時期がきているのではないだろうか.

対談

市町村保健福祉活動における機能訓練事業・デイケア・デイサービスを検討する・4

著者: 浜村明徳 ,   山本和儀

ページ範囲:P.139 - P.145

ケアチームのあり方と行政の役割
 浜村 今回は保健・医療・福祉の連携と役割分担,システム,ネットワークの問題などについて話し合いたいと思います.
 障害のある方々のニーズは多岐にわたりますので,一つのサービスだけで完結することはほとんどありませんし,幾つかのサービスを組み合わせて提供せざるを得ません.また,そのニーズは経過のなかで変化しますので,ニーズに即時的に対応するためには,サービス提供者側もチームで考えなければならないことになります.ただ,現実には市町村ではケアチームがなかなかできにくい状況があり,保健婦さんもその点で苦労されていると思います.

連載 市町村保健活動と保健婦

<座談会>北海道芽室町の保健福祉活動における保健婦の役割・2—保健医療福祉計画の策定と医療保健資源の整備

著者: 関澤正茂 ,   前花千栄子 ,   鳥本ヒサ子 ,   江口久子 ,   貞本晃一

ページ範囲:P.146 - P.151

保健医療福祉計画の策定
 貞本 今回は芽室町の保健医療福祉計画の策定の話題を中心に,町内の医療の課題を話し合いたいと思います.
 芽室町では,平成6年に保健医療福祉計画を策定しましたが,町民の健康に関するサービスを町の内部で完結しようという考え方が強いという印象を,私は勝手に持っています.

福祉部門で働く医師からの手紙

通園施設からの便り

著者: 本山和徳

ページ範囲:P.152 - P.153

秋を迎えるころ
 夏を過ぎて朝夕涼しくなるころ,運動会が迫ってプログラムがたてられ園庭では帽子をかぶった園児と保母の姿が多くなる.
 落ち着きのなかった子どもたちも通園に慣れ保育者との信頼で結ばれるこのころ,集団行動も十分とはいえないまでもなんとかまとまっていく.運動会の日,空は高く晴れテントには両親をはじめ家族が熱いまなざしを送っている.去年はじっとしていられなかったわが子がみんなと同じように走り,音楽に合わせ踊ることを目の当たりにする時,大きな喜びがあるのだ.園にはめったに顔をみせることのない父親もいつのまにかしっかりと目を据えて子どもに見入っている.運動場にひかれた白線の傍らで両親にすれちがう時,会釈をし一言声をかけ合う.入園式の時以来,出会うことのなかった父親もいて,どの園児の父親であるのか改めて確認できる.人の子の父親として何か共通感を感じる瞬間だ.

ヘルスセクターリフォームの国際動向・2

ヨーロッパ(西欧・北欧・南欧)

著者: 竹内百重 ,   長谷川敏彦

ページ範囲:P.155 - P.162

欧州における健康変革の概観
 ヘルス・セクター・リフォーム(健康変革)は前号で述べたように国際的に広がっており,本稿で概観する欧州地域においてもほとんどすべての国でなんらかの健康変革が進行中である.
 前回示したように,欧州の医療システムは,ファインナンシングと医療供給のパターンにより大まかに三つに類型化される.すなわちイギリスNHS(National Health Service)に代表されるビバレッジ型,社会保険のビスマルク型,そして旧ソ連邦に代表されるセマシュコ型である.各類型の特徴は表1のとおりである.本稿ではさらに,社会保険制度を導入していたにもかかわらず,1970〜80年代にかけてNHSを導入して様々な問題を抱える南欧諸国や,NHS型でコミュニティ型福祉国家としての行き詰まりをみせている北欧諸国についてもビバレッジ型の類型として言及する.なおセマシュコ型の健康変革の詳細については,本連載第4回において別稿で論じることとする.

自治体の保健福祉活動における理学療法士の役割・2

急性期リハビリテーションにおける理学療法—理学療法士の役割と課題を中心に

著者: 小笠原正 ,   伊藤隆夫 ,   松木秀行

ページ範囲:P.163 - P.166

 リハビリテーション医療を発症から時期別に分類すると,急性期病院(病棟)で行う急性期リハビリテーション,リハビリテーション専門病院(病棟)で行う回復期リハビリテーション,長期慢性期に施設内もしくは在宅にて行う維持期リハビリテーションの3段階に分類可能である.このうち急性期リハビリテーションは発症急性期から廃用症候群の防止とADL訓練の早期開始を主体に実施するものである1).当法人では急性期から維持期まで一貫したリハビリテーションサービスを提供しているが,本稿ではこの中でも急性期部門における理学療法士の役割や課題にについて当法人の現状をふまえ報告したい.

精神保健福祉計画の企画と実施—意欲を事業に反映するために

神奈川県の経過と課題—地域支援を中心として

著者: 助川征雄

ページ範囲:P.167 - P.171

神奈川県における精神保健福祉対策の概要
1.全体の状況
 まず,神奈川県の精神保健福祉対策の全体状況について述べる.

全国の事例や活動に学ぶ 今月の事例 鹿児島県大口保健所

所内WISH-NET講習会の試み

著者: 岩松洋一 ,   山口亮

ページ範囲:P.172 - P.173

 WISH-NETは,厚生省と保健所などの間のパソコン通信を介した情報通信システムである「厚生行政総合通信システム(通称WISH)」の中の,電子メールおよび電子掲示板システムに関する共用システムである.今回は,このWISH-NETを保健所の一職員が使い始め,その利用を所内に広げていこうとした試みを報告したい.
 平成8年4月に筆者が大口保健所に赴任した当時は,所内でWISH-NETは利用されておらず,筆者自身もその使い方は全くわからなかった.ただ,このようなシステムがあることだけは知っていたので,何とか動かしてみたいと考えていた.パソコンに詳しい職員の助けを借りながら,どうにか動かすことができるようになったのは平成8年の6月ごろであった.その後,腸管出血性大腸菌感染症の情報がWISH-NET上に次々と掲載されたこともあり,利用頻度が高まっていった.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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