トピックス
インフルエンザの流行と危機管理
著者:
根路銘国昭1
所属機関:
1国立感染症研究所呼吸器ウイルス研究室
ページ範囲:P.127 - P.138
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インフルエンザは,細菌とウイルスが主動する“かぜ症候群”を代表する.少なくとも,流行の規模と被害の大きさ,あるいは複雑な合併症による死因の増幅は,こうした見方の正当性を支持する.が,インフルエンザをも包容してかぜを曖昧な形で捉えているわが国の人々にとって,軽妙なかぜは“Cold”,インフルエンザの被害と重さは“Flu”とし,両者を明確に区分して見せる欧米の合理主義がいかに映るのであろうか.実際のところ,ワクチンを柱に据えたインフルエンザの危機管理を国家が標榜し,後者の文化圏で常識として受け入れられている風潮は,むしろ,わが国では多分に異端なのである.したがって,わが国でインフルエンザの危機管理を説く場合には,インフルエンザ疾患の被害の実態という病態を教条主義的に解き明かねばならず,いってみれば,国民の一部に対しては異教徒への布教活動にも似た困難さを伴うことを覚悟しなくてはならない.
事実,インフルエンザ危害と,ワクチンを要としたインフルエンザ対策のありようについても,一般の人々の考え方,果ては,ウイルス学者の間でも意見は両極に分かれているのが現状である.かりに,背景に日本人特有の思想形成の歴史があるにしても,社会の諸相に影を落としているこの問題を,科学的視点に立ち真剣に論議する時期がきているのではないだろうか.