icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生62巻3号

1998年03月発行

雑誌目次

特集 海外の公衆衛生専門教育—日本と比較して

日本の公衆衛生専門教育の現状と将来—国立公衆衛生院を中心として

著者: 古市圭治 ,   上畑鉄之丞

ページ範囲:P.180 - P.184

 わが国の公衆衛生行政は,第二次世界大戦後,GHQ指導のもとで都道府県に衛生部が設置され,保健所再編をすすめることで行われた.その後,結核死亡の急激な減少,母子保健の改善などがすすむに従って,保健所の役割が様々に議論されるようになった.1970年代後半以降,高齢化や少産少子化への対応では,身近な保健サービスの場として市町村保健センターが設置されるようになり,保健所法にかわる地域保健法のもとで新たな展開の時期を迎えている.また,近年は地球的規模の環境汚染や食品の安全問題,大規模災害などへの危機対応など,新しい課題が登場するなかで,保健・環境分野の専門技術者の役割の広がりや生涯教育を含めた卒後研修の重要性がたかまってきている.
 今日,保健所,市町村,衛生研究所など,地域保健の第一線現場には,表1に示すように数万人の保健・環境公務員が働いている.主な職種でも保健所,市町村を合わせた保健婦数は約25,000人,医師・歯科医師は約1,300人,獣医師,薬剤師各2,300人,管理栄養士1,200人のほか,食品衛生や環境監視,水道監視,廃棄物処理指導に従事する保健所,市町村の環境公務員数は約30,000人(うち専任約3,000人)であり,それ以外にも都道府県・政令市の衛生研究所には約3,000人の研究者や技術者が勤務している.

米国における公衆衛生学教育—ハーバード大学大学院課程について

著者: 佐藤元

ページ範囲:P.185 - P.190

 本稿は,米国における公衆衛生教育,とくにその大学院教育の概略を紹介する.筆者が修士・博士課程を通じて在籍したHarvard大学のケースを提示し,日本との比較において際だっている点を述べ,論ずることとする.
 米国における公衆衛生教育は,1909年に同大学医学部内にDepartment of Preventive Medicine and Hygiene(予防医学・衛生学教室)が,その後1919年にはMIT(マサチューセッツ工科大学)との共同でthe Harvard-MIT School of Health Officersが創設されたことに始まる.独立大学院としてのHarvard School of Public Healthはそれを引き継ぐ形で1922年に設立された.現在,同大学院は300名に及ぶ教官,世界40力国以上からの700名余りの学生と研究者を抱える.学生,教官ともに幅広い経歴を持ち,保健医療行政官,疫学者,看護婦,歯科医,法律家,統計学者,環境科学者,工学専門家,心理学者,ソーシャルワーカーなどを擁する.医師は全体の30%程度である1)

米国における公衆衛生学教育—ジョンズ・ホプキンズ大学大学院

著者: 坂井スオミ

ページ範囲:P.191 - P.194

 筆者は日本で医学部を卒業してその後国立公衆衛生院の専門課程を終え,1983年8月にフルブライト奨学金を得て米国ジョンズ・ホプキンズ大学衛生・公衆衛生大学院(Johns Hopkins University School of Hygiene and Public Health,以下ホプキンズと略)国際保健学部のドクター・オブ・パブリックヘルス(Doctor of Public Health,DrPH)課程に入学した.博士論文の口答試験に合格しDrPH課程を終了したのが1989年5月である.ホプキンズでは開発途上国における保健経済を主に勉強した.本稿ではまず当時のホプキンズにおける公衆衛生教育一般に関して説明した後,筆者自身の経験をケース・レポートのようなかたちで紹介する.

イギリスの公衆衛生専門教育

著者: 今村恭子 ,   水鳴春朔

ページ範囲:P.195 - P.200

 筆者らはロンドン大学公衆衛生・熱帯医学大学院(London School of Hygiene and Tropical Medicine;LSHTM)での研究経験をもとに今回の特集企画に参加させていただくこととなった.本稿では,イギリスの公衆衛生分野における専門教育について概略を述べ,現在運用されている公衆衛生専門医資格制度について紹介する.また,先般来日したLSHTMのスペンサー学長の講演内容に基づいて1),その教育課程を具体的な事例として引用したい.

タイの公衆衛生専門教育

著者: ソムアッツ・ウォンコムトオン

ページ範囲:P.201 - P.206

タイ国における公衆衛生活動
 タイ国における公衆衛生専門教育に触れる前に,タイ国における公衆衛生活動,つまり公衆衛生専門家が必要とされる現場の体制およびその活動をまず簡単に紹介したい.
 タイ国の人口は現在54,532,300人で,面積は513,115平方km(日本の1.36倍)である.首都はバンコクであり,その人口は5,578,470人にのぼる.全国はバンコク都(Bangkok Metropolitan Administration;BMA)と75県(Province)に分かれ,さらに789郡(District),7,061タンボン(sub-district,いくつかの村をまとめる行政区)と65,310村(village)に分かれている.公衆衛生活動を行うには,バンコクではバンコク都(BMA)の衛生部(Department of Health)の管轄下にある52の保健所(タイ語でスン・ボリカーン・サタラナスック,Public Health Service Centerの意味)を通して行う.

ベトナムにおける公衆衛生教育

著者: レ・ホアン・アイン

ページ範囲:P.207 - P.211

ベトナムの概要
 ベトナム社会主義共和国(以下,ベトナムと省略する)は北を中国に,西をラオスとカンボジアに国境を接しており,面積は四国を除く日本のそれとほぼ同じで(33万平方キロメートル),南北に細長い国である.国土面積の75%は山岳地帯であり,耕作面積はわずかに5%である.
 人口の70%は農業に従事しており,1992年の一人当たりのGDPは年間220米ドルで,最貧国の一つとされている.ちなみにインドネシアは980米ドル,フィリピンは1,050米ドル,タイは2,740米ドル,マレーシアは3,890米ドルと報告されている.さらに農村部と都市部の生活水準,生活環境の格差はいまだに大きく,農村部,とくに山岳地帯では安全な飲料水を得ることが困難,衛生的な便所がないなど不衛生な状態にある.

中国における公衆衛生専門教育

著者: 趙林

ページ範囲:P.212 - P.217

 中国の実力者鄧小平が提唱した「改革,開放」政策が実施された1978年以降,中国の人々の考え方は大いに変わってきた.それは次の二つの点からいえる.一つは,人々は政治から経済効果または生活水準に大変な関心を持つようになった.二つは,教育熱の広がりである.あの文化大革命に終止符を打った1976年の翌年から,中国の大学は10年ぶりに正式の学生募集を始め,12月全国一斉に,社会人と高校卒業生を対象に入学統一試験を行った.この年の旧正月を前に,中国文化大革命以来,待望の大学生が誕生したのである.この突如の動きは全国民の心を大きく揺り動かした.「勉強すれば大学に入れる」ということが知らされたのである.親も子どもも教育問題への関心が一挙に高まった.当初はほとんど国立か公立大学しかなく,学校数も学生の募集数も極めて少ないため,入学競争率は想像以上に厳しかった.
 医科大学への進学も容易ではなかった.中国の大学は日本と違って,ほとんど専門ごとに分かれている.例えば,日本の東京大学に相当する北京大学は比較的数多い学部を持つ総合大学であるが,それでも文学部,経済学部,工学部,理学部などが中心となっており,医学部は設置されていない.中国の医科大学は昔からほかの専門分野とは別に独立して建てられている.そういう特別のところもあるためか,人々は医学に偉大さを感じているようだ.医者は中国でも昔から尊敬される職業である.

視点

ホームレスと公衆衛生

著者: 早川和男

ページ範囲:P.178 - P.179

 ホームレスの健康問題については救急あるいは入院を要する医療についての対応が主で,疾病の予防や早期発見のための対策は遅れている.このような状況のなかで,新宿保健所管内ではホームレスの結核が増加しており,対応に追われている.
 今回,ホームレスの健康問題に関して現場ではどのように考えているかについて,結核への対応を中心に報告させていただく.

アニュアルレポート・1998

公衆衛生学の動向—第56回日本公衆衛生学会を中心に

著者: 曽田研二 ,   土井陸雄

ページ範囲:P.218 - P.221

 第56回公衆衛生学会総会は平成9年1月10月16〜18日,パシフィコ横浜で開催された.本年は昭和22年の日本公衆衛生学会創設から50年の節目に当たり,また地域保健法が全面施行,介護保健法の国会審議など公衆衛生活動の激変のさなかにあり,公開シンポジウムも含めて約5,000名が参加する盛会であった.
 今学会のメインテーマ「世界にひらかれる保健—人類の健康と未来のために」とした.近年,国際交流が進展し,国内でも来日外国人が増え,さまざまな様態の労働者として種々の産業に従事しているが,彼らの保健・医療へのアクセスは必ずしも十分でなく,種々の問題を提起している.このように内なる国際化が進展する中で,国の内外や国籍を問わず健康は人類共通の目標でならなければならない.国内の公衆衛生の多くの重要課題は依然として存続するが,内なる国際化にかかわる保健問題を通してより普遍的な人々の健康問題の討議を期待した.今総会開催の基本コンセプトは「わが国が国際社会の一員として人類の基本的な健康生活に貢献すること」をアピールすることであった.

衛生学の動向

著者: 櫻井治彦

ページ範囲:P.222 - P.225

日本衛生学会の特色
 衛生学は広義にとれば,環境衛生学,公衆衛生学,産業衛生学など衛生学という名称を持つ学問領域のみならず,人の健康の保持増進を目的とするすべての科学を包含するものであるが,ここでは日本衛生学会における研究の動向を解説することとしたい.
 日本衛生学会は,広い領域を持つ衛生学の全体をカバーしながら,その基礎的な課題を追求しようとする学会である.約2,700人の会員はほとんど大学や研究機関の衛生学研究者で構成されており,昭和4年に第1回総会が開かれ,その後今年まで,昭和20年と21年を除いて毎年1回の学術総会が行われてきた.昨年春の第67会衛生学会総会は主に慶應義塾大学医学部のキャンパスを使って開催された.今年は3月23日から26日まで岡山大学医学部の青山英康教授を学会長として岡山で行われることになっている.この学会は比較的質素にやることをモットーにしているので,春休みの時期に大学のキャンパスなどを利用して行うことが多いのである.

産業衛生学の動向

著者: 加須屋実

ページ範囲:P.226 - P.229

 今世紀も終わりに近づき,地球環境の破壊,金融機関の破綻に象徴される長期不況など,まさに世紀末的様相を示している.このとき,産業衛生学の動向はどのようなものであろうか.第70回日本産業衛生学会(以下学会)が1997年4月9日から11日まで富山市において開催され(学会長;加須屋実),さらにその関連行事として特別研修会が12日に催された.このときの内容を紹介しながら,産業衛生学の動向について展望したい.

連載 福祉部門で働く医師からの手紙

24時間365日ケアできます—安心感と必要な時の在宅サービスの提供

著者: 松下彰宏

ページ範囲:P.230 - P.231

 いろいろと問題も指摘されますが,ゴールドプランの達成年度が迫り,高齢者などが病気や障害を持ちながら在宅での生活を送るための環境が整いつつあります.
 在宅福祉サービスというと寝たきり老人などへのホームヘルプサービス事業をはじめとする要介護老人対策,生きがいづくりを目指した老人クラブへの助成などの社会活動促進対策と電話相談に応じる高齢者総合相談センター(シルバー110番)や在宅介護支援センターの事業とされています.その対象というと寝たきり老人,虚弱老人,痴呆性老人,ひとり暮らし老人があげられ,数で評価できる指標としてホームヘルプサービス,デイサービスセンター,ショートステイ,在宅介護支援センター,老人訪問看護ステーションなどがあります.

自治体の保健福祉活動における理学療法士の役割・3

回復期リハビリテーションにおける理学療法士—リハビリテーション医療の流れと理学療法士の役割・機能

著者: 田村茂

ページ範囲:P.232 - P.237

 理学療法士の活躍する場が施設から在宅へ,医療から保健・福祉へと拡大するなかで,公的介護保険がいよいよ2000年より現実のものになることになった.それと同時に,これからどうなるのだろうかなどの不安も一方に存在する.つまり日常生活活動(ADL)に介護を必要とする多くの脳血管疾患を対象にするわれわれにとって入院時から,外来,通院,訪問リハビリテーション(以下,リハと略)まで今までどおり医療としてかかわるだけでなく,新たに介護保険ともかかわることになる.それは訪問・通所リハを医療としてでなく,ケアマネジメントされたケアプランのなかで行いその回数などが決定される.そればかりでなく要介護認定によるサービスオリエンティドによるケアプランとニーズオリエンティドによるケアマネジメントとの間に差が生じ,それを埋めなくてはサービスの低下をきたすことも危惧される.改めてことの重大さに気付き意欲を奮い立たせている方も多いのではないでしょうか.
 医療保険と介護保険にかかわっていくことは今までの保険点数制度の改正とか,老人保健施設の開設とかと全く次元が違う.今後どうなるのか予測が困難である.いずれにしてもその対象者の状態に応じた適切なサービスと適切な場とが求められることに対し,われわれは最大限援助することは相違ないはずである.

精神保健福祉計画の企画と実施—意欲を事業に反映するために

東京都の経過と課題—都と区の取り組み

著者: 高畑隆

ページ範囲:P.238 - P.243

 計画づくりの実現には,本庁で事務を担う担当者が位置付けられ,企画や資料づくり,実現へ向けた関係部署との調整,作業の進行管理などを行います.関係部署への働きかけは,予算と事業の枠組みづくり,もう一つは実施体制づくりがあります.専門職の意欲を事業に反映させるには,企画や実施体制にどう協力するかがあります.ここでは,都の枠組みとその事業化について見てみます.

全国の事例や活動に学ぶ 今月の事例 鹿児島県大口保健所

保健所だよりによる保健所の健康情報提供活動

著者: 岩松洋一 ,   小窪和博

ページ範囲:P.244 - P.245

 大口保健所では,管内住民に対してさまざまな健康に関する情報を提供するために,「保健所だより」を年4回発行している.今回は,この「保健所だより」を題材に,保健所の健康情報提供活動について述べることとする.
 はじめに,当所の「保健所だより」の歴史についてふれておきたい.それは,昭和63年6月1日に「月刊保健婦」という統計資料を中心とした内容の情報誌が作られたことに始まる.当時は,毎月,管内の市町,医師会,県内各保健所などの関係機関向けに124部発行されていた.その後,平成元年8月に,この「月刊保健婦」が発展的に解消し,「保健所だより」として新たにスタートした.この時から年4回(4月,7月,10月,1月)の発行となった.発行部数および送付先は「月刊保健婦」のときと同じであった.内容も保健所の事業紹介,各種の普及啓発とかわってきたこともあり,平成3年5月に所内の検討会で協議の結果,情報の提供先は管内全戸約13,000部に拡大された.さらに,平成8年1月には,地域住民により親しんでもらうために,それまでのB4版横長・横書きからB4版縦長・縦書きにスタイルを一新し,平成9年11月現在33号を発行するにいたっている.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら