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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生62巻4号

1998年04月発行

雑誌目次

特集 公衆衛生の視点からみた事故予防

なぜ,公衆衛生で事故予防に取り組むか

著者: 原田美江子

ページ範囲:P.252 - P.254

 戦後,日本の公衆衛生は結核をはじめとする感染症,脳卒中,胃がんの激減に目ざましい成果を挙げ,今日,日本は世界のトップレベルの健康水準を誇るに至った.ところが,そんな中で意外に忘れられているのが事故予防対策である.
 昭和36年以来,死因の第4位,または5位を占めてきた「不慮の事故」をわれわれは何気なく見過ごしてきた.

小児の事故予防

著者: 田中哲郎

ページ範囲:P.255 - P.259

 米国科学アカデミーは1988年に「事故は米国が抱えている公衆衛生問題のうちで,最も理解が不足しており,事故の研究によって,罹病率や死亡率は大幅に減らすことができ,人道上も重要であり,また,財政的にも節約が可能と考えられ,対策にはさほど大きな費用は必要としない」と報告1)し,これを受けるかたちで1992年には疾病対策センター(CDC)内に国立事故防止センターが設置され,事故対策に乗り出している.
 わが国においても事故の問題は米国と同様の状況にあるものの,事故が公衆衛生上の大きな課題と考えている人はまだ少ない.ここでは子どもの事故の問題について考えてみることとする.

高齢者の事故予防

著者: 牧上久仁子

ページ範囲:P.260 - P.265

 事故には阪神大震災のような天災によるものや,いわゆる交通事故もふくまれるが,今回は日常生活における転倒・溺水などの事故を中心に述べさせていただく.
 東京理科大学教授の直井英雄氏は建築安全学という立場から事故予防の研究をされている1).氏らは主として家庭内で発生する転倒や溺水などの事故を総称して「日常災害」と呼び,それとほぼ重なる語として「建築災害」という概念も紹介している.つまり住宅などの建築物の不備や,誤った使用が事故を生み出していると考え,事故の分析から建築のあり方を見直そうというスタンスである.直井先生のインタビューを建築関係の雑誌で初めて拝読し,「事故予防」にはさまざまな分野からのアプローチがあるのだなと思い,またそれが必要であると考えさせられたので,冒頭に引用させていただいた.

労働災害事故予防

著者: 吉村健清 ,   徳井教孝

ページ範囲:P.266 - P.270

 労働災害には,業務に起因する疾病ならびに傷害があるが,ここでは労働災害事故を中心にして,その発生の現状,原因究明の現状ならびに安全衛生対策について述べる.

交通事故の疫学

著者: 谷原真一 ,   槙尾崇 ,   轟木敦子

ページ範囲:P.271 - P.274

 人口動態統計(厚生省)によると1995年の不慮の事故による死亡は45,323人と全死亡原因中第5位であった.不慮の事故はとくに1歳から29歳での年齢階級にかけては死亡原因の第1位であり,若年者にとって重要な問題である.その中でも交通事故によるものは15,147人と不慮の事故全体の3分の1を占め,くも膜下出血の14,424人や肝硬変の11,301人よりも多い.交通事故死亡の予防は循環器疾患や悪性新生物の予防と同様に公衆衛生における重要課題の一つとして取り組む必要がある.
 人口動態統計による交通事故死亡率を1985年モデル人口を用いた直接法による年齢調整を行った結果を5年間隔で男女別に図1に示す.すべての年にわたって男性の死亡率は女性に比べ3倍以上高い値を示した.これは,男のほうが外出する機会が多く,不慮の事故に遭遇する可能性が高いものであると説明されている1).また,人口動態統計特殊報告「自動車事故死亡統計」による1990年の自動車事故死亡者のうち自動車運転者およびオートバイ運転者・乗員の占める割合は,男性がそれぞれ26.1%,26.9%,女性ではそれぞれ10.8%,8.7%となっている.交通事故総合分析センター発行「交通事故統計年報」記載の1995年男女別免許保有者数から人口100人あたりの免許保有者数を求めると,男性では68.2人,女性では43.2人と男性は女性よりも多く,男性は運転する機会が女性より多いと考えられることにも関連すると思われる.

薬物中毒の予防

著者: 山下衛

ページ範囲:P.275 - P.278

 薬物を含めた化学物質の中には毒性の強いものもあり,誤飲事故を予防することが大切である.予防対策を考えるためには,事故状況を分析し,対応策を講ずることが実際的である.中毒事故件数では,子どもの事故が一番多く,次いで成人,老人の順であるが,年齢構成で補正すると成人より老人の頻度が高い.
 さらに,小児や老人では不慮の事故として発生する中毒事故が多く,ここでは,小児や老人の事故状況とそれをふまえた予防対策について述べる.

警察の犯罪被害者対策について

著者: 杉浦史郎

ページ範囲:P.279 - P.284

被害者対策の現状
 イギリス・アメリカなどの被害者援助の先進国では,レイプの被害者を救済していこうという発想が1970年代のウーマンリブの運動と合致して,ひとつの社会運動となりました.
 さらに,80年代になりますと,被害者を支える複数の組織が誕生しはじめ,被害者,専門家,一般市民が一緒になって大きなうねりを作りだし,国を動かして法律の改正,被害者補償制度の整備へと導き,レイプ被害救援運動をより充実した被害者支援運動へと発展させていきました.

PL法と安全性

著者: 長見萬里野

ページ範囲:P.285 - P.289

PL法施行の影響
 産業界,法曹界,行政,消費者団体などが大騒ぎで論議した製造物責任法(PL法)が施行されたのは,1995年7月1日だった.産業界は訴訟が増えることと,損害賠償額の高額になることを理由にこの法律の制定に反対していた.しかし,消費者団体側は裁判に持ち込まれるものが大幅に増えることはないだろう,PL法は社会的規範として,消費者の権利として重要なのだとみていた.
 1997年11月現在,PL法に基づく訴訟は7件にすぎない(表1).そのうち3件は,事業者によって訴えられている.PL法は消費者に限らず,「被害者の保護を図り」とされていて,事業者,労働者,法人も対象となり得るためである.これらの訴訟はまだ,結審に至っていない.

板橋健康福祉センターの事故予防対策

著者: 小林万里 ,   入江昌子 ,   永田容子 ,   上間和子

ページ範囲:P.290 - P.293

 東京都板橋区は,人口約50万人の住宅と工場が混在する郊外型都市である.板橋健康福祉センターは,その中でも官公庁が集中した住宅密集地域を所管している.管内の平成8年の出生数は1,062人,出生率は7.9(人口千対)で漸次減少傾向にあり,小児の健全育成のために,よりきめ細かな母子保健事業対策を目指してきている.その重点課題の一つとして事故予防の啓発・推進を掲げ,既存事業の様々な場面を捉えて安全教育を実施している.
 この度,厚生省心身障害研究「小児の事故とその予防に関する研究」の一環として異物誤飲事故に関する意識調査を行った.その調査結果をもとに,今後の事故予防推進事業のあり方を検討したので報告する

視点

環境リスクのスペクトラムを考える

著者: 橋本道夫

ページ範囲:P.250 - P.251

 公害対策基本法は4半世紀の歳月を経て,その役割の一区切りをつけて,環境基本法に吸収された.公害対策の理念,原則,計画などはそのまま新しい法律に引き継がれているが,環境という人間をとりまく地球次元までも含めた枠組みの中の基本的な分野として役割を担っている.
 共生,循環,参加,国際協力という基本法の目標の中で,公害対策基本法制定当時とは異なるはるかに広い人為的,自然的な環境のダイナミックスの中で「健康を保護し,生活環境を保全する」という発足以来の基本的課題に取り組む時代となっている.

連載 暮らしに潜む環境問題

レジオネラ症

著者: 石井孝夫 ,   庭田茂 ,   鷹箸右子

ページ範囲:P.294 - P.299

1.レジオネラ症とは
 レジオネラ症は,レジオネラ属に分類される菌による感染症であり,1976年のアメリカ在郷軍人会総会の参加者や周辺の通行人などに肺炎症状を起こし,4,400人の参加者中184人が発症,29名が死亡するという高い死亡率を呈した原因の菌として有名である1).また,平成8年1月に東京都内の某大学病院で,この菌を原因とする新生児の死亡事件が発生し,近年にわかにクローズアップされてきた.
 レジオネラ属菌は土壌をはじめ河川や湖沼などの自然界に広く生息しており,水中の原生動物への寄生や藻などを栄養源として繁殖する.ヒトの体温に近い35〜37℃を生育至適温度とし,この温度の範囲では非常に増殖力が強いが,20℃以下では増殖せず,60℃以上では死滅すると考えられている(図1)2)

市町村保健活動と保健婦

<座談会>北海道芽室町の保健福祉活動における保健婦の役割・3—保健婦活動を中心に

著者: 関澤正茂 ,   前花千栄子 ,   鳥本ヒサ子 ,   江口久子 ,   貞本晃一

ページ範囲:P.300 - P.304

町民の声を取り入れた健診体制
 貞本 今回は,この町の保健活動で保健婦さんがどのような役割を果たしているかに焦点を絞って話を進めたいと思います.
 まず,町の特徴的な保健事業の概要をご紹介いただけますか.

ヘルスセクターリフォームの国際動向・3

東アジア

著者: 井上肇 ,   長谷川敏彦

ページ範囲:P.305 - P.309

 本シリーズでは初回の総論で述べたように,健康変革(Health Sector Reform)を「健康転換(Health Transition)に対応したシステム・総体の改革を目指す政策(policy)あるいは方向(initiative)」と定義し,各地域ごとの健康変革の現状を報告している.より具体的には健康転換—すなわち人口構造や産業構造といった社会・経済システムの転換と一体となった疾病構造の変換—に対応して,医療費財源,医療供給体制,政府の役割がどのように変化しつつあるのかを問題としている.今回は東アジア地域について急速に進展しつつある健康転換にどのように対応しているのかを概観する.

福祉部門で働く医師からの手紙

大規模知的障害者施設の1997年—附属診療所のカルテから

著者: 古林敬一

ページ範囲:P.310 - P.311

 今回は,昨年の当診療所での活動を振り返って,思いつくままを雑記することにします(この文章を書いているのは1998年1月初旬です).昨年もいろいろなことがありました.

全国の事例や活動に学ぶ 今月の事例 鹿児島県大口保健所

健康運動指導士と健康運動実践指導者をどう支えるか

著者: 岩松洋一 ,   吉田京

ページ範囲:P.312 - P.313

 連載4回目のテーマは「健康運動指導士と健康運動実践指導者」(以下それぞれ運動指導士,実践指導者と略す)を取り上げたい.これらは,厚生省が昭和63年から進めてきた「アクティブ80ヘルスプラン」の一環として養成された,健康づくりのための運動指導者である.これらの資格を取得するには,保健婦,管理栄養士,体育系大学卒などの一定の資格要件のもとに養成講習会を受けた後,試験に合格しなければならない.また,5年ごとの更新のために所定の単位を取らなければならない.なお,いずれも健康体力づくり事業財団による資格である.
 鹿児島県では,平成7年に県内の運動指導士・実践指導者からなる鹿児島県健康づくり運動指導者協議会が発足し,研修などの活動を行っている.筆者は運動指導士の1人として平成9年4月から当協議会の下部組織の6支部の1つである姶良支部の支部長を仰せつかっている.新米支部長の初めの仕事は,会員向けの研修会に関するアンケート調査であった.ところが,寄せられた回答の中に「資格更新の予定はない」という意見があったため,さらに詳しくインタビューを行った.その結果,このような回答の背景として「これらの資格を保有するメリットや運動指導士・実践指導者の役割がよくわからない」ということが明らかになった.

精神保健福祉計画の企画と実施—意欲を事業に反映するために

京都府における行政の取り組みから考えること

著者: 三品桂子

ページ範囲:P.314 - P.318

組織
 京都府は,平成7年4月に組織改正を行い,保健と福祉を統合し保健福祉部とし,精神保健係は,身体障害や知的障害対策を担う障害者保健福祉課に移り,三障害を同一の課で担当するようになった(図1).
 「身体障害者施策は100メートル先を,知的障害者施策は50メートル先を走っている.精神障害者福祉施策はこれからがスタート」と叱咤激励される毎日が始まった.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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