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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生62巻5号

1998年05月発行

雑誌目次

特集 産業医の新たな体制と活動

公衆衛生と産業保健

著者: 荒記俊一 ,   佐藤元

ページ範囲:P.324 - P.330

公衆衛生と産業保健
 近代の産業保健(Occupational Health)と公衆衛生(Public Health)は産業革命期の英国で誕生し,グローバルに発展してきた学術である.それぞれ1833年の工場法(Factory Act)と1847年の公衆衛生法(Public Health Act)の制定が歴史上のエポックスになっている.今日の公衆衛生の研究と実践活動の基本的な方法になっている疫学と統計学を含め,産業保健,環境保健,予防医学,国民保健,社会福祉,地域保健など公衆衛生の伝統的な領域はすべて産業革命期の英国にルーツをたどることができる1).ただし,文献学的にみると産業保健の主要テーマの一つである職業病の歴史はそれらより古く,西洋文化発祥の地ギリシャにおけるヒポクラテスの鉛疝痛の記述(BC370年)にまでたどることができる.本稿は,産業保健の起源とその後の展開を世界の公衆衛生史の観点からまとめ,さらに産業保健の理論と実践活動,および最近の課題と動向を紹介する.

産業医活動の展望

著者: 高田和美

ページ範囲:P.331 - P.334

 急速な高度技術化,国際化,人口の高齢化など最近の健康問題に対応する産業医の職務は,質・量ともに大きく変化しつつある.また,昭和47年(1972)に施行された労働安全衛生法によってはじめて法制化された産業医制度が昭和63年(1988),さらに平成8年(1996)に一部改正されたこともあって,産業医活動は一転換期を迎えたといっていい.日本医師会の産業医認定制度,日本産業衛生学会の専門医制度および産業医部会などの動きも活発になってきている.

職場における健康づくり—常勤産業医の立場から

著者: 沖野哲郎

ページ範囲:P.335 - P.340

 昭和61年5月号の桶川製作所広報に,定期健康診断の結果の説明のため次のような一文を載せた.
「(前略)健康管理区分は例年の通りで表1に記しておきました.A0,A1の方はご自分で管理できる状態,B,Cの方は何らかの形で医療関係者の支援を受けながら管理すべき状態と考えてください.」

嘱託産業医と地域医師会活動

著者: 瀬尾攝

ページ範囲:P.341 - P.344

嘱託産業医とは
 嘱託産業医という用語は厳密にいえば慣用上の用語であって法律に明文化されたものではない.より正確な言葉を用いるならば「専属産業医ではない産業医」とでも称するべきであろう.
 法律の規定からいえば,産業医の選任を定めた労働安全衛生法(以下安衛法と略す)第13条1項の2に「常時1,000人以上の労働者を使用する事業場又は次に掲げる業務に常時500人以上の労働者を従事させる事業場にあっては,その事業場に専属の者を選任すること」とあって以下に有害業務が14にわたって列挙されている.これが専属産業医と称せられるものである.

日本医師会認定産業医制度とその教育システム

著者: 大久保利晃

ページ範囲:P.345 - P.348

制度発足までの背景
1.日本医師会の産業医学講習会
 日本医師会は,昭和40年度より毎年産業医学講習会を開催してきている.そして昭和48年度の第5回講習会から受講修了者に対して,日本医師会産業医認定証の交付を開始し,昭和62年度の第19回講習会までに8,530名に発行した.また,昭和47年に発足した労働安全衛生コンサルタント制度の筆記試験免除講習会として指定されている.

地域産業保健センターと地域医師会

著者: 平山正樹

ページ範囲:P.349 - P.352

 国民の健康への関心の高まりは,数多くの資料が物語っており,論じられている.
 とりわけ,経済活動を支える労働者の健康問題は労働者自身のみならず,労働力人口の高年齢化などから事業者および行政にとり重大な関心事となっている.

新しい産業保健体制

著者: 古木勝也 ,   三觜文雄

ページ範囲:P.353 - P.355

 平成8年度のわが国の職業性疾病による発生状況は9,250人と,10年前の約3分の2まで減少した.しかしながら,依然として腰痛などの負傷に起因する疾病や,じん肺症,酸素欠乏症などの重度の健康障害を引き起こす疾病,さらに有機溶剤中毒,一酸化炭素中毒などの急性中毒も跡を絶たない状況である.
 また一方,最近における労働者の健康をめぐる状況をみると,高齢化の進展などにより脳,心臓疾患につながる所見を有する労働者の割合の増加,仕事や職場生活で悩み,ストレスなどを感じる労働者が増加している.さらに「過労死」が大きな社会問題となっている.このような状況を踏まえ,すべての労働者が職業生涯を通じて,健康で安心して働くことができるように労働者の健康確保対策を充実強化するため,平成8年に労働衛生管理体制の充実,職場における労働者の健康管理の充実を内容とする労働安全衛生法の改正が行われたところである.

視点

明日の思春期保健

著者: 髙石昌弘

ページ範囲:P.322 - P.323

 昨年そして今年と連続した殺傷事件の加害者が中学生だったことに,信じ難い出来事として社会は大きな衝撃を受けた.経済の低迷が続き,関連した不祥事が相次ぐためか,世紀末の暗い影が色濃くなっているような気がする.しかし,そのようなムードを拭って,新しい世紀を担うはずの若い世代には,いろいろな意味で明るい話題の立役者になってもらいたいものだ.“Today's children-Tomorrow's World”といわれるとおり,子どもは未来を担う主役なのだが,とりわけ,子どもと大人の架け橋に位置づけられる思春期の課題は大きく重い.新しい公衆衛生活動の視点からみても,思春期保健の役割はますます大きなものになるであろう.

連載 暮らしに潜む環境問題

産業廃棄物処理の現状と課題

著者: 田中勝

ページ範囲:P.356 - P.361

1.産業廃棄物の排出状況
 産業廃棄物は,1994年度には全国で年間4億500万トンが排出されたと推定されており,1993年度の排出量3億9,700万トンに比較して800万トンの増加であり,ほぼ横ばいであるといえる.1985年度から1990年度までの年平均増加率(約5%)に比較しても増加が鈍っており,1990年度以降安定傾向で推移してきている(図1).これは1990年度ごろから景気に陰りがみえていることなどに起因しているものと考えられる.
 種類別の排出量を図2に示した.汚泥の排出量が最も多く,約1億8,413万トンで総排出量の約45.4%を占め,次いで動物のふん尿が約7,455万トン(18.4%),建設廃材が約6,024万トン(14,9%)となっており,この3品目で全排出量の約8割を占めている.

トピックス

21世紀に向けて保健所はどうあるべきか

著者: 柳尚夫

ページ範囲:P.363 - P.367

 本文は,全国保健所長会創立50周年記念誌に入選した論文に大幅に加筆したものであり,掲載に当たっては,全国所長会役員会の了承を得ている.なお,筆者自身は,保健予防課長および支所長として10年以上大阪府の保健所に勤務しているが,あくまで一自治体での経験に過ぎず,保健所のあり方について全国的な視野で十分には検討できておらず,この文章は全国の保健所に当てはまるわけではない.また,保健所の機能は各都道府県の実情により,地域のニーズにより異なっているはずであり絶対的な答えは存在しないが,各都道府県,保健所で21世紀の保健所のあり方を検討されるに際し,参考になれば幸いである.
 なお,本文は組織論にはふれておらず,また保健所機能全般を検討したわけではなく,あくまで21世紀に役立つ機関として保健所を変革するための課題とくに福祉分野との統合を中心に,個人的なアイデアをまとめたものである.

福祉部門で働く医師からの手紙

ニードとデマンド

著者: 牧上久仁子

ページ範囲:P.368 - P.370

 先日北海道医療大学の古谷野先生からいただいたご指摘が「とっても膝ポン」だったので思わず今回のネタにさせていただきました.
 クライアントから出される要望「デマンド」を,本人や家族などにとって本当に必要なデマンド(ニード)と,主観的な思い込みにのみ基づき,実現するとむしろ有害ですらあるデマンドに鑑別する必要がある,というのがテーマです.実例を出しますと,「テレビでみたCMの“シルバーカー”というのがとってもよさそうなので区の日常生活用具として給付して欲しい」ということは,適切なデマンドかどうかの鑑別を必要とします(適切なデマンド=ニードとなります).シルバーカーというのはご存じの方も多いと思いますが,乳母車に似た手押し車で,蓋のついた買い物カートです.カートの蓋が座面になっていて,お年寄りが座って「よっこいしょ,あぁ,これは楽で助かりますねぇ」などとつぶやくCMをご記憶の方もいらっしゃるのではないでしょうか? これは手押し車なのでそこそこ杖の代わりになりますし,荷物も入るし,疲れたら椅子にもなって一石三鳥などと思われるのか,お年寄りの間での人気はなかなかです.

市町村保健活動と保健婦

<座談会>北海道芽室町の保健福祉活動における保健婦の役割・4—地区組織の支援と保健活動の課題

著者: 関澤正茂 ,   前花千栄子 ,   鳥本ヒサ子 ,   江口久子 ,   貞本晃一

ページ範囲:P.372 - P.376

 貞本 私の前の赴任地の稚内市でも,日高の浦河町でも,地区組織活動がいずれの町でも活発でした.
 芽室町内では「ひばり友の会」,「リハビリ友の会」などは,本当に自主的に活動されています.また,「育児クラブ」は会員は少なくてもひとり歩きしている活動で,本当に子育てを支援するような地区組織として機能しています.こういった地区組織活動が地域全体の共通した特徴だというような気がしますが,そこまでに育ててきた町の行政のご苦労は大変だったと思います.

精神保健福祉計画の企画と実施—意欲を事業に反映するために

ソフトな精神科救急の確立を目指して

著者: 藤田健三

ページ範囲:P.383 - P.387

 昭和53年に東京都が精神科救急制度を設けて以来,行政による精神科救急とは社会の側の危機に対応する入院中心のハードな救急を意味していた.しかし,最近は各地域で休日や夜間の,当事者や家族の危機状況における援助要請,重篤な身体合併症への対応のあり方についての模索など精神障害者の地域生活を支えるための精神科救急活動の実践が報告されるようになってきている.
 岡山県では平成6年1月に「精神科休日相談センターおかやま」(以下休日センター)を開設した.

全国の事例や活動に学ぶ 今月の事例 鹿児島県大口保健所

保健所医師と研修

著者: 岩松洋一 ,   岸本泰子

ページ範囲:P.388 - P.389

 保健所医師に要求される専門性とは,一体どのようなものであり,またそれはどのようにすれば獲得しうるものであろうか.地域保健法に関連して,保健所長についてはかなり幅広い議論がなされてきたが,保健所医師という視点からはそれほどでもないように思われる.今回は,一人の医師の立場から,これらの課題に関連する話題として,保健所医師の研修を取り上げてみたい.
 初めに,卒前研修としての大学での保健所実習の経験を紹介したい.実習期間は大学4年の夏休み期間中に約1週間.実習場所は,鹿児島県の離島にある県型保健所にお願いした.この時の実習内容の大半は,当時の保健所長から,いわばbed side teachingのように保健所医師の仕事を教えていただくことであったと記憶している.実習生が1人だったこともあるだろうが,医学生の保健所実習の一つのモデルを示されたように思う.

資料

医薬分業に関する意識調査研究—茨城県つくば保健所管内における薬局来店者による意識調査

著者: 高橋秀人 ,   原田彩織 ,   田崎公 ,   茂手木甲壽夫

ページ範囲:P.379 - P.381

 医薬分業は病院で外来患者に対して院外処方せんを発行し,患者は院外の保険薬局で処方を受ける制度であり,処方内容の開示,医師の処方の経済的なかかわりからの分離,患者の薬局の選択の自由という理念に根ざしている1).医薬分業は日本の医療現場において,必要性が叫ばれつつも長年その進展がみられなかったが2),ここ数年行政と医療機関の積極的な取り組みにより,急速に進展の兆しをみせ始めている3)
 茨城県つくば保健所では医薬分業定着促進事業の一貫として,医薬分業の理解啓発,一層の定着を図るために薬局来店者を対象に住民意識調査を行った.若干の興味ある知見を得たので報告する.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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