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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生62巻6号

1998年06月発行

雑誌目次

特集 エイズ対策の再検証—人権の視点から

〈インタビュー〉いま,なぜ,「エイズと人権」か—山形操六 エイズ予防財団専務理事に聞く

著者: 山形操六 ,   「公衆衛生」編集室

ページ範囲:P.396 - P.402

 編集部 昨年春にはらい予防法が廃止され,1988年12月に制定されたエイズ予防法(後天性免疫不全症候群の予防に関する法律)も,今般,伝染病予防法の改正に伴い「感染症予防法」にまとめられようとしています.この過程で人権の問題が論議されています.
 公衆衛生関係者はこれまで,人権やプライバシーの問題を突っ込んで考えてこなかったのではないでしょうか.今こそ,公衆衛生の立場から人権ということはどういうことかを深める必要があります.これを曖昧にしていろいろな施策が進むと混乱だけが残ってしまうのではないでしょうか.

保健医療福祉における「人権」とは

著者: 坂井眞

ページ範囲:P.403 - P.408

 1980年代に入り,アメリカ合衆国においてエイズ症例が報告され,HIVがその病原体として同定された後も,決定的な治療法がないままわが国を含めた全世界にエイズは広まった.その過程において,当初から,十分な根拠なしに,エイズは奇異な恐ろしい病気であるとして発症者・感染者が社会から差別を受けた.同時にわが国におけるエイズ感染者探し報道で発生したように,感染者のみならず,その近親者などに対する差別やプライバシー侵害がもたらされた.
 このような根拠のない差別やプライバシー侵害は,エイズに限らず他の疾患に関してもわが国においては日常的に起こってきたことであり,その最悪の実例がハンセン病に対するらい予防法体制であった.その人権無視の悪法ぶりは,なぜ最近までそのような法律が存続し得たのかという問題も含めて検討し,今後に生かすべき課題である.

輸血による感染症とインフォームドコンセント

著者: 前田平生

ページ範囲:P.409 - P.413

 この数年,血液事業,輸血医療は大きな変革期を迎えている.昭和50年ごろから始まり,60年ごろピークを迎えたアルブミンをはじめとする血漿分画製剤の使い過ぎ,そして時期を同じくして輸入凝固因子製剤によるHIV感染,さらに数百回に1回ではあるが致死的な輸血後GVH(graft-versus-host)病の発症,そして輸血患者の6人に1人が感染したといわれる非A非B型肝炎などわずか十数年前には驚くべき輸血の実体であったといわざるを得ない.このように,輸血医療は,大部分の患者が利益を受ける一方で,無視できない数の患者に副作用・合併症を与えてきた.現在,輸血の安全性は格段に高まったとはいえ,他人の血液を使用する限りにおいてその安全性の確保には限界がある.ここでは,輸血感染症について,献血の目的,献血者の責任と人権,輸血医療の現場でのインフォームドコンセントの視点から述べる.

保健所,医療機関での告知の問題点

著者: 池上千寿子

ページ範囲:P.414 - P.417

ぶれいす東京の日常活動から
 ぶれいす東京は,主に関東圏に在住するPHA(HIV感染者/患者)へのケア活動を行ってきた.具体的には,PHAの自助活動支援(場所の提供,昼食会,プログラム企画運営など),電話相談と面談,入院あるいは在宅療養中のPHAへのバディスタッフの派遣である.そんな日常活動のなかで,検査/告知の経験に起因するような医療不信の言葉を何度も聞いてきた.
 告知によって感染していることを知らされた人にとって,告知そのものが最初のサポートであってほしいと考える場である.告知が医療不信につながってしまうとしたら,どこに問題があるのだろうか.

医療機関における人権

著者: 小西加保留 ,   吉崎和幸

ページ範囲:P.418 - P.421

医療機関における人権とAIDSのかかわり
 日本では,憲法において,生存権,健康権,生命権,幸福追求権が制定され,医療法において,生命の尊重と個人の尊厳,信頼関係に基づく良質かつ適正な医療の提供が理念として規定されている.また「患者の権利法」制定への運動においては,医療への参加権,知る権利,学習権,最善の医療を受ける権利,自己決定権をはじめ国や自治体の義務,機関や従事者の義務などにも言及している.
 これらの諸規定において中心をなしているのが,自己決定権である.そしてそのために必要不可欠なものとしてのインフォームドコンセントのあり方が,日本病院会や厚生省から報告書として提出されている.1997年末の医療法改正においては,インフォームドコンセントの努力義務が制定された.

HIVに関する普及・啓発における「人権」のとらえ方

著者: 岩室紳也

ページ範囲:P.422 - P.425

 公衆衛生・地域保健活動におけるHIVに関する普及・啓発は重要な課題であり,保健所などが講師の派遣を依頼されることも少なくない.初期のエイズ教育は「予防」という観点が主でそれほど戸惑いなく対応できた保健所が多かった.しかし,近年,とくに教育現場では「HIVに感染している人との共生」,「感染している人の人権擁護」,「感染している人に対する思いやり」などの視点を重視した啓発活動が求められており,公衆衛生関係者も講義内容を時代のニーズ,教育関係者の要望に答えられるように組み立てる必要がある.単に言葉を羅列して「正しい知識をもって,感染している人が差別されないように人権を尊重し,お互い思いやりの気持ちをもった共に生きる社会を作りましょう」というだけではだめである.さらに感染不安や同性愛などへの偏見を克服できなければ実際には「共生」する気持ちにはなれない.ここではHIVに関する普及・啓発活動における「人権」のとらえ方,伝え方を改めて検証する.

行政のエイズ対策の課題

著者: 牛島和美

ページ範囲:P.426 - P.429

 伝染病予防法,性病予防法,エイズ予防法を統合した「感染症予防法(案)」では,入院手続その他において,患者の人権を配慮した法体系がとられている.昨年末の医療法改正では,医療提供にあたってインフォームドコンセントの努力義務が明文化された.人権擁護施策推進法においても,行政全般にわたってすべての人の人権を尊重した施策の推進が求められている.
 エイズ対策に関しては,法整備を待つまでもなく,プライバシーの保護や人権の尊重には特別な配慮をしてきたが,人々の人権への関心が高まっているこの時期に,改めてその内容を再認識しておく必要がある.

視点

がん検診の意義について考える

著者: 多田羅浩三

ページ範囲:P.394 - P.395

がん検診の意義—医療保険制度と健康診査事業は車の両輪
 わが国は,昭和36年に国民健康保険体制が達成されて以来,すべての国民はなんらかの保険制度によってカバーされている.このような医療保険制度の高い普及率が,わが国が世界一の平均寿命を達成している最も大きな要因となっていることは明らかである.この医療保険制度は便利な制度ではあるけれども,なんらかの症状があって医療機関を訪れるというところからすべての対応が始まるという,特性を有している.医療機関を訪れ,医師から初めて疾病の存在を指摘されたとき,こんなことならなぜもう少し早く診察を受けなかったのかと,思う人は決して少なくないはずである.
 この点の認識に立って,わが国の国民健康保険制度では,戦後の早い時期から,「予防にまさる治療はない」とのキャッチフレーズのもとに,保健施設活動という仕組みのなかで保健婦を設置したり,住民の健康診査を行って,住民の疾病の早期発見の機会をつくるための事業を実施してきた.それらの地域保健活動の貴重な実績をもとに,昭和57年の老人保健法のなかに保健事業の実施が規定されることになったのである.

連載 福祉部門で働く医師からの手紙

春の季節を迎えて—通園施設からの便り

著者: 本山和徳

ページ範囲:P.430 - P.431

東京にて
 寒風の吹き抜ける2月初旬,東京・虎の門の一角にある発明会館ホールには全国から通園施設と通園事業の代表者が集い,熱心な思いを抱きながら意見交換をし合っていた.
 全国発達支援4通園連絡協議会・緊急全体会と称して発達に障害のある子どもの療育について活動内容を紹介し合い,療育に関する厚生省の行政プランの説明を受けようとするものであった.実はこの会合は昨日今口の短期間の経過でなされたのではなく数年の経過を経てなされた肢体不自由児,精神薄弱児,難聴幼児通園施設の3通園施設部会と療育形態の異なる心身障害児通園事業の合同の部会という画期的な会合であった.日ごろそれぞれの地域で子どもたちの療育にかかわっている者にとっては歴史的な会合であったとも思えるのである.

全国の事例や活動に学ぶ

今月の事例 鹿児島県大口保健所

保健所内の企画調整を考える

著者: 岩松洋一 ,   阿彦忠之

ページ範囲:P.432 - P.433

 今回,この新しいコーナーでいろいろな活動事例を紹介させていただいた.本誌1月号での岩室先生のコメントにもあるように,公衆衛生の現場で活動されている方々の多くは「その程度のことはうちでもやっているよ」というご意見をお持ちのことと思われる.正直に申し上げると,「学んでいる」のは事例を紹介している筆者本人なのではないかと最近気づいた次第である.
 今回は,同じく岩室先生からご指摘があった「事業の枠にとらわれない自由な意見交換」,「井戸端会議をも企画に結びつける」という点などから,保健所での企画調整について考えてみたい.

ヘルスセクターリフォームの国際動向・4

ヨーロッパ—中東欧・旧ソ連邦新興独立国・1

著者: 竹内百重 ,   長谷川敏彦

ページ範囲:P.435 - P.440

セマシュコ型の保健医療システムとは
 本稿では中東欧や旧ソ連邦からの新興独立国に代表される「セマシュコ型」におけるヘルスセクターリフォームについて述べる.日本ではこれらの国の情報はあまり入ってこないが,欧州ではセマシュコ型の改革がどのように進められているか非常に関心を集めており,EU(欧州連合)やWHO(世界保健機関)欧州地域事務所では中央アジアも含めてこれらの社会主義からの移行国の改革を支援している.
 まず,セマシュコ型に該当する地域の総称であるが,本稿ではCEE/NIS(Central and Eastern Europe/Newly Independent States of the Former USSR:中東欧・旧ソ連邦新興独立国)で統一する.この場合バルト3国はNISに含まれるが,バルト3国をCEEに含む場合は,CEE/CIS(Central and Eastern Europe/Commonwealth of Independent States:中東欧・独立国家共同体)の名称が使われることが多い.

自治体の保健福祉活動における理学療法士の役割・4

維持期リハビリにおける理学療法—老人保健施設での理学療法士の役割

著者: 野津原裕

ページ範囲:P.441 - P.444

老人保健施設とは
 ご存じのように老人保健施設(以下,老健施設と略す)は,その役割から「中間施設」,「通過施設」などと呼ばれ,病院と家庭,もしくは福祉施設などとの間の円滑な調整機能を求められている.また職員配置についても,老人病院と特別養護老人ホームの中間的な基準で医師,看護・介護職員を置くが,そこに理学療法士(PT)または作業療法士(OT)の配置が義務づけられている.
 当施設の活動の概要を紹介すると,入所定員80名,通所定員25名(現在30名)で,平成6年4月に開設以降,年間の延べ退所者数は平均300名程度となっている.退所者の内訳は,家庭からの入所が約6割,医療機関からの入所が約3割で,退所先としては約7割が家庭,約2割が医療機関,残りは福祉施設などという状況である.ちなみに,当施設の現在の職員数は次のとおりである.医師1(他に兼務2),看護婦9,介護職30,理学療法士1(他に兼務1),作業療法士1,相談指導員2,薬剤師3(すべて兼務),栄養士1,調理員5である.

精神保健福祉計画の企画と実施—意欲を事業に反映するために

市町村における障害者計画の策定と精神保健福祉

著者: 阿部弘樹

ページ範囲:P.445 - P.448

 いうまでもなく,心身ともに健やかな日々を送ることは,国民すべての願いであり,特に地域の中で精神障害者が共に生活してゆける社会の実現は喫緊の課題です.
 厚生省においては,障害者の総合的な推進を図るため,平成8年障害保健福祉部を新たに設置し,「障害プラン」の着実な推進を図っていろところです.「障害者プラン」については,財政状況が厳しい中,平成10年度政府予算案において,プランの推進に必要な予算を確保したところです.このうち,精神障害者社会復帰施設・事業等関係予算は1%増の120億円です(表1).

民間保健施設の展開

ストレスマネジメントからライフスタイルの改善まで—武田病院グループ「セリエ」の取り組み—武田 隆久 京都・武田病院グループ理事長に聞く

著者: 武田隆久

ページ範囲:P.449 - P.452

・株式会社セリエ(Selye)はストレスマネジメンおよび健康増進,ライフスタイルの改善の3本の柱をテーマにしたメンタルフィットネスクラブ.京都市の武田病院グループの武田隆久理事長(開設当時は医療法人医仁会副理事長)が1991年に開設した民間の健康増進施設である.現在は株式会社の業態を取っている.
 京都市内のほぼ中央,四条河原町の近くにあり,マンションの2階および3階を使っている.施設の概要は表のとおりだが,セリエの上記3本の柱の取り組みについて,武田理事長およびマネージャの風早栄子さんにおうかがいした.

調査報告

末期医療,インフォームドコンセント,在宅ケアなどに関する医学・看護学教育の現状—全国の医学部,看護婦・保健婦養成施設へのアンケート調査から

著者: 中村良子 ,   足達淑子 ,   土肥佳子 ,   横田清

ページ範囲:P.455 - P.458

 昨今,末期医療,インフォームドコンセント,がんの告知などの議論が盛り土がっている.保健所も在宅ケアを実施する土でこれらの問題に直面することが多くなり,医師,看護婦,保健婦,介護福祉士などの卒前教育における実習機関としての役割も大きくなってきている.
 足達ら1)は1994年,保健従事者,一般住民,医学・看護学生を対象に意識調査を行い,未期医療に対する希望は職業,立場,経験で差が大きいことを確認した.さらに,医学生に対する1年前の予備調査と比較すると延命処置を望む率は減少していることを見いだし,学生の意識形成には医学教育や社会情勢が影響していると推察した.また,末期医療に関する学校教育の現状についての報告1)〜7)は一部に限られ情報が乏しく,その内容は短期間で変化していると想定した.

予防接種法改正に対する埼玉県内市町村の対応

著者: 柴﨑智美 ,   永井正規

ページ範囲:P.459 - P.462

 予防接種法は昭和23年に制定されて以来,義務接種として実施され,わが国の感染症予防対策として確実に成果を見せてきた.しかし,感染症や健康に対する社会の考え方の変化に伴い,予防接種のあり方についての考え方も大きく変わってきた.そこで平成6年に予防接種法の大改正,および結核予防法の一部改正が行われた.今回の法改正の要点は①義務接種から勧奨接種への変更,②対象疾病および対象年齢の変更,③集団接種からかかりつけ医による個別接種への変更,④禁忌事項の変更,⑤接種間隔の変更,⑥任意予防接種対象疾患の変更,⑦健康被害救済制度の充実などである1).われわれは新予防接種法移行に対しての現場の問題点などを明らかにすることを目的として,埼玉県内の市町村に対して,法改正前後の予防接種の実施状況,法改正に対する市町村の対応についての調査を行った.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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