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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生62巻7号

1998年07月発行

雑誌目次

特集 環境保健のトピックス

ごみ焼却とダイオキシン

著者: 内山巌雄

ページ範囲:P.468 - P.472

 一般家庭や事業所から出る一般廃棄物(いわゆるごみ)の処理に必要な埋め立て地が近い将来一杯になるという危惧が指摘されて久しいが,最近さらに焼却のさいに出るダイオキシンの問題が大きくクローズアップされてきた.ごみ処理の基本は,1)製造,流通,生活様式の見直しによる発生量の抑制,2)再利用,資源化の徹底による処理対象量の低減化,3)減容化,安定化,無害化を目的とした中間処理,4)埋め立てによる安全管理の徹底,といわれている.特に最終埋め立て処分場の敷地に乏しいわが国では,焼却処理は廃棄物の無害化,安定化とともに減容効果が高い(重量で1/10,体積で1/20)優れた中間処理の方法として積極的に導入してきた経緯があり,この考え方は今後も変えることはできないと思われる.そうであれば,どのようにしたらダイオキシンの発生を減らすことができるのか,ごみ焼却に伴うダイオキシン問題は,その毒性や汚染の現状を正しく理解したうえで,行政と住民が協力して考えていかなければならない問題である.

環境ホルモンの健康影響—精子への影響について

著者: 森千里

ページ範囲:P.473 - P.477

 環境ホルモン問題に関して書かれた『奪われし未来(Our Stolen Future)』(コルボーン,他著,1996年)は欧米をはじめ,日本でも非常に注目を浴びている.この環境ホルモン問題は,アメリカ政府や欧州諸国の政府機関が5〜6年前から最重要課題の一つとして取り組んでおり,『奪われし未来』の序文を米国ゴア副大統領が書いていることでも,この問題の重要性が認識できる.日本でも1998年になって,ようやく環境ホルモン問題に対する本格的な研究・調査が始まった.
 本稿では,環境ホルモンの定義,作用メカニズム,影響について概説し,環境ホルモンのヒトへの影響の一つとして疑われている精子数減少に関する報告を中心に述べる.最後に,この環境ホルモン問題で必要とされる日本での今後の研究と対策について筆者の意見を述べてみる.

核燃料再処理施設アスファルト固化処理施設の火災爆発事故と緊急時被曝医療

著者: 青木芳朗

ページ範囲:P.478 - P.481

放射線と被曝医療
1.放射能と放射線
 放射能は,不安定な原子核が放射線を放出して徐々に別の原子核に変化(壊変,崩壊)していく性質を意味する.わが国では,放射線を放出する物質すなわち放射性物質(放射性核種)を放射能とも呼んでいる.すなわち,放射性物質による汚染を放射能汚染と呼ぶこともある.放射性物質がアルファあるいはベータ壊変し,その際に放出される高いエネルギーの電磁波,すなわち波長の極めて短い電磁波と高速で飛ぶ粒子線を総称して放射線という.放射線の種類には,主としてアルファ線(α線),ベータ線(β線),ガンマ線(γ線)などがある.

緊急時の中毒対策

著者: 椎葉茂樹

ページ範囲:P.482 - P.484

 近年,化学物質による環境汚染やそれに伴う健康影響や生態系の影響への社会的関心が高まっている.特にごみ焼却施設から排出されるダイオキシン類による母乳や土壌汚染問題,および人や野生生物の種の存続に影響を及ぼすおそれのある内分泌撹乱化学物質(endocrine disruptors)問題などマスコミでは連日のように報道されている.これらは,複数の化学物質による低濃度汚染に起因する健康や生態系への影響の問題が中心であるが,危険有害物質を生産,使用,貯蔵している化学工場などの施設から火災,爆発など突然の事故により有害物質が大量に流出し,地域住民や一般環境に影響を及ぼすことも想定されている.このような災害時の対策といった問題も化学物質のリスクの一つであり環境政策上の一つの課題である.
 環境庁においては,今後の環境保健のあり方について検討を行い,平成8年6月に「21世紀における環境保健のあり方に関する懇談会報告書」をとりまとめている.この中で,環境リスクへの対応の必要性を指摘し,特に対応が急務と考えられる化学物質の環境リスク対策についてその考え方および内容を明らかにするとともに,そのために今後取り組むべき施策を提言している(表1).

地球温暖化防止京都会議と日本の今後の対応

著者: 小林光

ページ範囲:P.485 - P.491

地球温暖化の危機
 人類はその活動が大きくなるにつれ,自然環境を変えるに至り,その結果,様々な環境問題に直面するようになってきた.わが国でいえば,1960年代からの高度経済成長に伴い発生した産業公害が一番有名である.大気や水の中の有害物質に曝露されることにより,様々な疾病を引き起こし,多くの人命が失われた.また,自然の山河も土木工事で改変され,今まで享受されてきた多くの恵みが失われたし,貴重な野生動植物が絶滅した.
 近年の環境問題は,以上のような急性的なものだけでなく,さらに複雑化している.

人間地球圏の存続を求める東京大学(日本)—MIT(米国)—ETH(スイス)3大学国際学術協力について

著者: 松尾友矩

ページ範囲:P.492 - P.494

 環境という用語は,いまや現代の社会的関心を代表するキーワードの一つとなった観がある.環境問題のかかわる範囲は実に広い.例えば,①空間的には地上からはるか遠い成層圏のオゾン層の問題から,日々の人々の生活から排出されるごみの分類の仕方,集め方の問題まで,②時間的には産業革命以後の近代文明の発展の過程を振り返ることから,何世代も後の未来の社会のあり方の問題まで,③影響の現れ方では,直接的な人間の健康への影響から複雑な生態系全体への影響の評価にかかわる問題まで,④技術的な側面では,現代の文明社会を支える技術分野におけるエネルギー利用の効率化,環境負荷の削減の究極的な実現のための技術開発,⑤方法論の面では科学技術的な側面から,倫理を含む人文,社会科学的な側面まで,というように,その内容,テーマ,手法,目的,評価は実に多様な側面を持つものが現代の環境問題である.
 このように,21世紀を目前に控えた現代において,地球上における人間活動を総括的に持続させるために地球環境を保全していくことが,地球に依存してその活動を続けざるを得ない人類にとっての共通の課題であるといえる.ある意味ではこの課題は,地球上に生活する人類が造り出す人間社会にとって,すべての主体が共同して,国際的にも連帯して,取り組んでいくことが求められている課題である.このとき,現代の若者を教育し,地球社会の持続的発展にとって必要な基礎科学の研究に責任を持つべき大学の役割は大きなものであるといえる.

視点

食品の安全性と食生活の安全

著者: 碧海酉癸

ページ範囲:P.466 - P.467

 私は公衆衛生の専門家ではないし,取材を職業としている者でもないことをまずお断りしておく.ある官庁の委員会メンバーであった時,委員としての感想を「普通の人」の立場で述べてくれといわれた.おかしな頼み方だとは思ったが,これが意外にありがたく,肩を張らず,知識不足を省みずにものがいえる.今回も「普通の人」の言い分として読み飛ばしていただいても結構である.
 私は昭和8年生まれ,65年も生きていれば当然のことで,魚によるひどい食中毒の体験が2回ほど.いわゆる「サバのいきぐされ」でのプトマイン中毒が1回,なぜか家族の中で私ひとりが当たった.2回目は伊豆半島の突端にある海の家で,鮮度抜群,味覚的にも最高の「アジのたたき」で宿泊者の大部分が被害にあった.幼児だった末娘には「猫に小判」だからと食べさせなかったのがせめてもだったが,夫と息子2人ともども激しい腹痛と発熱で休暇は台なしになった.本で調べ,どうやら好塩菌という病原性の細菌のせいらしいとわかり,新鮮だけでは保証がないのだと身をもって悟ったのであった.

特別寄稿

精神と肉体,公衆衛生と個人のかかわりにおいて

著者: 川畑愛義

ページ範囲:P.495 - P.497

心の健康と体の健康
 公衆衛生の原点は健康であり,その単位が個人であるといえるであろう.さらにその内容は精神と肉体,あるいは心と体に分けて考えられる.そこで精神衛生を肉体の健康との相関について吟味するとき,この両者はそれほど透明な見解が得られそうもない.
 そもそもわが国に西洋医学が輸入された明治の中期から「健全なる精神は健全なる身体に宿る」という言葉がなかば格言のように国内で唱えられるようになった.

連載 ヘルスセクターリフォームの国際動向・5

ヨーロッパ—中東欧・旧ソ連邦新興独立国・2

著者: 竹内百重 ,   長谷川敏彦

ページ範囲:P.498 - P.502

セマシュコ型における健康変革(6号より続く)
2.供給体制
 図1に示したように,セマシュコ型の諸国においては人口当たりの病床数も医療従事者数も,また医師とのコンタクト回数も多い傾向にあり,とくにCISにおいてそれが顕著である.また,世界の同程度の中所得国の平均から比べてもCEE/NIS諸国の病床数は人口千当たりで2〜6倍,医師数に関しては1.5〜6倍もの数である.しかし一人当たり医療支出をPPP(購買力平価)ドルで比較すると,CEE/NIS諸国のそれは中所得国の半分から一番多くても2倍でしかない.さらに,入院医療費に多くの資源が費やされてしまうため,おのずとプライマリ・ケアや予防医療までには資源が分配されないことになる.また,医師の構成をみても,専門医は多いが,第一線医療を受け持つ一般診療医(general practitioner;GP)は多くない.GPの総医師に占める割合はいずれも2〜3割とそれほど変わらないのだが,そのうち資格をもった医師を比較すると西欧は4割程度なのに対し,まだ1割にも満たない.

自治体の保健福祉活動における理学療法士の役割・5

維持期リハビリテーションにおける理学療法士—特別養護老人ホームでの役割

著者: 髙口光子

ページ範囲:P.503 - P.506

 特別養護老人ホーム(以下,特養と略)たりとも,終生収容の概念から脱皮し,地域化・多機能化の中から,家庭または社会復帰をすすめなければならない.というのが,介護保険制度導入を決定した社会からの要請である.特養における家庭・社会復帰の考え方と実践を理学療法士の立場からまとめてみる.
 一般的なひとりの障害老人が特養に入居するまでのおおむねの流れは,ある疾患や機能障害を発症・受傷し,救急か一般病院に入院.生命の安定を確認され,回復期のリハビリテーションを目的とした転入院または老人保健施設入所.様々な検討や試みを経て,特養入居となる.この間に数年の時間を費やす老人・家族は決して少なくない.

福祉部門で働く医師からの手紙

知的障害者施設における「隠れたコモン・ディジーズ」

著者: 古林敬一

ページ範囲:P.510 - P.511

 昨年11月号のこのコーナーで赤痢アメーバ症の話題を出したのがいけなかったのか,今年の3月に私どもの施設でアメーバ赤痢が1名発生してしまいました.
 前にも書きましたが,知的障害者施設で赤痢アメーバの健康保菌者が稀でないことは医動物学の専門家の問では周知の事実です.したがって,私どものような大規模施設では数年に1回ぐらいは患者が発生すると覚悟しておく必要があります.当施設にとっては8年ぶり,開所以来5回目の発生ということで,特に驚くべき事態ではありませんが,伝染病予防法が絡んできて対応がいささか面倒になるので,起こってほしくない病気の一つです.

精神保健福祉計画の企画と実施—意欲を事業に反映するために

都道府県・指定都市の評価方法—検討と提案

著者: 竹島正

ページ範囲:P.530 - P.533

 今後,地域の精神保健福祉活動が,地域性を発揮しながら,柔軟かつ着実に伸びていくためにも,都道府県・指定都市の精神保健福祉行政の「熟度」が高まることが望まれる.今回は,都道府県・指定都市の精神保健福祉行政の「熟度」を測る「ものさし(評価指標)」について検討した.
 もちろん,「メートル原器」のようなものはあるはずもなく,複数の指標による把握を試みる.このような評価指標が,行政現場の実情を反映するようになるには,試行錯誤と漸近法を重ねるしかないのであるが,とにかく,個々の都道府県・指定都市自体が,精神保健福祉行政の「熟度」において,全国のどの位置にあるかを知ることは重要である.

全国の事例や活動に学ぶ 今月の事例 鹿児島県大口保健所

「わたしの散歩道」事業を実施して—組織の特性を活用した事業例

著者: 徳永貴子 ,   東久保道夫 ,   菅野晶夫

ページ範囲:P.534 - P.535

 大口保健所では,平成9年度に「わたしの散歩道」事業と銘打って当所の組織上の特性を生かした独自の事業を行ったのでこの取り組みについて紹介したい.
 当所は,通常の保健所業務のほか当県の独自の仕組みとして総務課に,その地域の振興連絡協議会事務局が設置されており,地域振興などの事務を担当している.また,県の管内各事務所間の連絡調整などを行っている.このような総務課のもつ地域振興などの業務や,連絡調整機能と保健予防課のもつ広域的な健康づくり推進業務を,なんらかの形でリンクさせられないかという発想が今回の事業のヒントになった.

活動レポート

大病院の多い地域での「保健・医療・福祉」のネットワークづくり

著者: 藤本務 ,   花辺精子 ,   境美津枝 ,   渡辺和彦

ページ範囲:P.507 - P.509

 北九州市における施策の最重点課題の一つが高齢社会対策である.
 要援護高齢者の抱えている問題は,保健・医療・福祉・生活面全般の多岐にわたることから,総合的に相談に応じる相談窓口(年長者相談コーナー)が設置された.要援護高齢者の相談の中でも退院直後の在宅ケア調整の問題では,とくに対応に苦慮させられていた.

報告

新潟県上越地区における福祉制度の実態調査

著者: 岩島由子 ,   福原信義 ,   坂田八重 ,   八子円

ページ範囲:P.512 - P.515

 高齢者や身体障害者が在宅生活を目指そうとした場合,家族だけの介護力に頼るには限界があり,それを社会および地域全体で支えていく体制が必要である.新潟県上越地区では,高齢者,身体障害者への様々な取り組みが行われているが,これらの人々が安心して在宅療養を送れる状況ではない.高齢者,身体障害者の在宅ケアを推進するためには,保健・医療・福祉サービスの効果的利用1)が望まれるが,各地域の福祉施策に対する格差や,高齢者(6.4万人),身体障害者(1.2万人)に提供されているサービスの格差などにより,サービスを必要としている人に,サービスが適切かつ公平に届くよう援助していくことに困難が生ずる場合がある.サービス利用者が一般化し拡大していく中で,社会資源が合理的に適正に配分され,地域全体のレベルアップを図っていくにはどうしていくべきか,新潟県上越地区22市町村(総人口約32万人)を対象に検討した.

調査報告

米国サンフランシスコ市公衆衛生サービスの概要

著者: 山田敦弘 ,   高鳥毛敏雄 ,   多田羅浩三 ,   ,  

ページ範囲:P.516 - P.521

 地域保健法が施行され,わが国の公衆衛生制度は本格的な改革期に入っているということができる.このような中で,最近では参考として諸外国との公衆衛生制度の比較を取り上げる機会が増え,その多くはマクロ的視野による公衆衛生制度について取り上げた資料である.しかし,諸外国の公衆衛生制度をより深く理解するための一つのアプローチとして,地域に密着している公衆衛生活動の実際をミクロ的視野でとらえることも有効なのではないだろうか.
 ここでは米国サンフランシスコ市の公衆衛生局の組識と活動について,地域の現状を踏まえながら,米国の地方自治体をベースとした公衆衛生活動とその組織の1例として取り上げてみる.

海外事情

ベトナムにおけるHIV/AIDSの流行と対策の現状

著者: 洲濱扶弥

ページ範囲:P.523 - P.529

 53の省・市からなるベトナム社会主義共和国(以下,ベトナム)は,インドシナ半島の東半分を占め,南北1,650kmにわたりS字状に位置する(図1),総面積331,710km2,人口7,064.2万人の国である1).1986年ドイモイ政策が採択されてから,南ベトナム(とくにホーチミン市)を中心に,急激な経済成長を遂げた2)が,その社会発展に伴い,現在では麻薬,売春などが引き起こすHIV/AIDSが,保健・社会問題として取り沙汰されている.
 本稿では,ベトナムが公表している資料に基づき,ベトナムにおけるHIV/AIDSの現状と対策について報告する.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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