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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生62巻8号

1998年08月発行

雑誌目次

特集 公衆衛生の現地訓練

保健所実習の重要性

著者: 小倉敬一

ページ範囲:P.540 - P.543

 現在,保健所では,医学生をはじめ,保健婦学生,看護学生,栄養学校生,各種福祉関係学生など,将来,保健・医療・福祉を担う多くの学生の実習を引き受けている.
 実習終了後に必ず感想文ないしはレポートを提出してもらっているが,それを読ませてもらうと,必ずといっていいほど書かれていることがある.それは,「実習にいって,保健所が住民の健康と生活を守る上で実に幅広い活動をしていることを初めて知りました」という一文である.なかには,「保健所は野良犬を捕まえるところだと思っていたが……」という書き出しで始まる医学生の感想文もあり,思わずこちらの顔色の変わるものもあるが,同じ意味のことが続いて書かれており,実に複雑な思いをすることもある.これを,実習の意義があったと素直に喜んでよいものか,日ごろの私どもの知らせる努力が足らないことを反省すべきか,いや保健所は空気のような存在だからこれでよいのだと割り切ってすませるのか,感想文が届くたびに実習関係者一同で,その評価をめぐって同じ議論が繰り返されているのが,多くの保健所の実情ではないだろうか.

医学生の公衆衛生実習を考える—保健所実習

著者: 赤松隆

ページ範囲:P.544 - P.547

 第二次大戦後,米国医学の導入とともに医師国家試験の条件として卒業後1年間のインターン(実地修練)があったが,この制度は医学部の教養課程,専門課程の融合とともに改変され,現在では6年聞の医学教育のなかで臨床部門の外来・病棟実習の形に変わっている.保健所実習は以前ではインターン期間中に数週間が当てられていたが,現在では卒前の必須科目に含まれていない.ここでは医学部の専門課程での保健所実習の必要性に関して多少の検討を加えた.

医学生の公衆衛生実習を考える—特によりよいテーマ実習を求めて

著者: 守山正樹

ページ範囲:P.548 - P.554

 公衆衛生学は,社会で生活する人々の健康を,その環境とともに,全人的に捉え,その保持増進を計るための原理・技法・実践を追求する科学だと考えられる.この公衆衛生学を医学部で学生に教えるに当たって,机上の空論に終わらせないために,実習は必須である.その際,現場の公衆衛生活動に触れてそこから学ぶ保健所実習が大切であるのはいうまでもないが,学生自らが課題を設定し,資料集め・調査などを経て,自分なりの回答を見いだしてゆくテーマ実習も,保健所実習に劣らず重要なものである.しかしどのようなテーマ実習が最善かを見極めようとすると,ことはそれほど簡単ではない.筆者自身,医学部の学生時代から現在に至るまで,様々なタイプのテーマ実習を,最初は一学生として,また医学部に職を得てからは指導する立場で経験してきているが,いまだに「この方法でいいのだろうか,もっと良いやり方はないだろうか」と悩んでいるのが現状である.それぞれに独自の公衆衛生実習を定着させながら,それに満足することなく,よりよい実習のあり方を目指して検討を重ねておられる全国の社会医学関連諸講座の努力を,毎年相互にお送りいただく各実習報告書から読み取るにつけても,実習のあるべき姿を一概に論じるのは容易なことではない.しかしテーマ実習に関する筆者の試行錯誤の結果,特に対話・体験型実習の重要性が浮き彫りにされてきたことも事実である.

医学部における公衆衛生実習の実態

著者: 大原啓志

ページ範囲:P.555 - P.557

 医学部における公衆衛生実習の実態を,現地訓練を中心に紹介することが与えられたテーマである.実態調査に基づく手元の資料として,医学部の衛生学・公衆衛生学担当者による教育協議会の公衆衛生教育カリキュラム調査1)(1992年)および保健所実習に関する調査2)(1991年,以下,協議会調査),全国保健所長会の「医学教育に果たす保健所の役割に関する研究」3)に伴う調査(1995年,以下,所長会調査)がある.これらをもとに実態を概観してみたい.

実習評価結果からみた保健所・市町村における臨地実習の意義と課題

著者: 白井英子

ページ範囲:P.558 - P.561

 地域看護と公衆衛生看護の概念をめぐって議論されてきたが,最近では地域看護を構成する1領域として公衆衛生看護をとらえる概念が通説となっている.さらに,地域看護の方法技術は個人的アプローチに重点をおいたケアと集団的アプローチに重点をおいた地域ケアに特徴づけられるとする見解もコンセンサスを得ているといえよう.しかし,保健所・市町村の実習指導者の中には,保健婦(士)学生の臨地実習は「保健婦の実習」なのか,「地域看護」または「公衆衛生看護」を学ぶ実習なのかに戸惑いがある.重点の置き方によって実習の目標と内容は異なるが,共通していえることは,地域看護を構成する領域(公衆衛生看護,産業看護,学校看護,訪問看護)における看護の対象となる人々の理解と方法技術および役割・機能を理解することである.
 本学では,保健所・市町村における公衆衛生看護活動をとおして地域看護の対象特性および方法技術などを理解する実習方法をとっている.その理由は,地域で生活している多様な健康レベルの人々を理解し,さらに地域看護の方法技術を特徴づけている集団的アプローチに重点をおいた地域ケアを理解するうえで有効であると考えるからである.すなわち,公衆衛生看護領域(保健所・市町村)の実習のほうが「多様な健康レベルにある人々の生活」,「ライフサイクルにおける人々の生活」,「人々の生活共同体としての地域特性」の三つの視点を関連づけた学習ができると考えている.

学校の立場から看護学生の実習を考える

著者: 網野寛子

ページ範囲:P.562 - P.564

 病院のほかに看護職(保健婦)が活躍しているところはどこかと尋ねたら,看護学生なら保健所をあげる.
 行政機関であるメリットから煩わしい看護婦教育に真面目にかかわってもらえる,後輩に対する期待や理解が深い,この2点から看護専門学校にとって,保健所は昔も今も変わらない貴重な実習施設である.

公衆衛生院での合同臨地訓練

著者: 岩永俊博 ,   鈴木晃 ,   上畑鉄之丞

ページ範囲:P.565 - P.568

 公衆衛生院では,約4カ月間にわたる臨地訓練を実施している.これには現地の関係機関と学生,指導教官が一体となって当たっており,現在もよりよい訓練のあり方を目指して検討中である.ここにその概要や方向性を提示し,ご意見,ご指導を仰ぐものである.

保健婦から見た保健所実習について

著者: 三上昌子

ページ範囲:P.569 - P.574

 地域保健法の施行により,全国の保健所再編成が行われている.また,平成12年の公的介護保険法のスタートに向け,各自治体における組織的準備も慌ただしく検討され,東京都23区(特別区)においても各区がここ数年のうちに大きく変わろうとしている.
 それとともに保健所が従来果たしてきた役割についても,あり方の再検討が迫られている.今回のテーマである保健所実習についても,その影響を受け,検討をしなければならない地域もあるのではないかと考えられる.

看護学生の保健所実習のコーディネート

著者: 椚時子

ページ範囲:P.575 - P.578

 急速な少子高齢化の進展,医療の高度化・専門分化に伴い,在宅医療や訪問看護への需要が高まり,看護職の働く場が広域化してきている.看護ニーズに応えるために看護基礎教育のカリキュラムが平成9年度より改正された.「在宅看護論」などが新たに加わり多様な実習施設を活用することが望ましいこととなった.
 また,近年の傾向で看護の世界も大学化が進んでおり,東京都内でも看護大学の新設・定員増が著しい状況にある.

視点

新しい時代の感染症対策—伝染病予防法の見直し

著者: 竹田美文

ページ範囲:P.538 - P.539

伝染病予防法の見直しは必要か
 現行の伝染病予防法は,明治30年(1897)に施行された法律である.当時の伝染病の流行はすさまじく,例えば赤痢患者が年間10数万人に達した年があるし,コレラも明治27年には死者4万人と記録されている.こうした状況の下で,伝染病予防法の施行により国内における感染源を封じ込めて伝染病の拡大を防止しようとしたことは,当然であったと考えられる.そのため,伝染病予防法には,「病毒感染の疑ある者を隔離所其の他適当の場所に隔離すること」,「人民の群集することを制限し若は禁止すること」といった措置が規定されている.
 100年たった現在もこの法律が生きていること自体,驚きというほかない.いうまでもなく,伝染病を取り巻く状況は大きく変化している.まず伝染病という言葉そのものが死語に近く,感染症という用語に置き換えられている.伝染病という言葉が,伝染病予防法に規定する,法定伝染病および指定伝染病(現在14種類)に限定されるきらいがあるからである.

連載 ヘルスセクターリフォームの国際動向・6

ラテンアメリカ

著者: 北島勉 ,   長谷川敏彦

ページ範囲:P.579 - P.585

 ラテンアメリカとは,中部および南部アメリカの諸国の総称であるが,カリブ海諸島を加える場合も多い.現在,ラテンアメリカには33の共和国と13の非独立地域がある.総面積は2,055万km2で,日本の約54倍,世界陸地面積の約15%を占めている.1993年における推定人口は約4億6,000万人,21世紀初めには5億を突破すると推計されている1).スペインやポルトガルによって植民地化された国が大半であることから,ラテン系の文化を受け継いでいるという共通点はあるものの,ラテンアメリカ諸国はその大きさ,政治的,経済的,社会的において多様である.各国が抱えている保健医療分野における問題も一様ではないが,現在ほとんどの国において,国民が公平に基礎的な保健医療サービスを受けられるようにすることを目標として,ヘルスセクターリフォームが実施されている.本稿では,ラテンアメリカの社会経済状況,人口構造,疾病構造,保健医療サービスの状況を概観したうえで,ヘルスセクターリフォームの動向に関して報告したい.

自治体の保健福祉活動における理学療法士の役割・6

大都市における活動と理学療法士の役割

著者: 山本克己

ページ範囲:P.586 - P.589

 行政内で勤務する理学療法士は,私が神戸市に勤務を始めた12年前は75名程度にすぎなかった.しかし現在では約200人程度に増加している.この数字や増加数が適切であるか否かは別として,今後も確実にその数は増加していくものと思われる.これは世間一般のリハビリテーションに対する認識の深まり,障害者・高齢者問題に対する関心の高まり,老人保健法,介護保険法の制定などにより,行政内部においても,理学療法士の専門性が必要度を増していると考えられるからである.このような現況において,一般社会や行政に対しても,理学療法士がよりその理解を深めてもらい,また私たち理学療法士自身がその活動を広げ,行政施策の一翼を担い,市町村・地域でのリハビリテーションの充実がなされるように,私ともう1人の理学療法士2名の神戸市での例を紹介しながら,自己研鑽の意味もこめてこの文をまとめてみたい.

精神保健福祉計画の企画と実施—意欲を事業に反映するために

人口移動が精神保健福祉計画に与えた影響の可能性

著者: 西田茂樹

ページ範囲:P.590 - P.593

 現在のわが国の人口問題としては,高齢化と少子化があげられることが多い.しかしながら,ほかにも人口に関する問題はいくつか存在し,その一つに過密と過疎の問題がある.わが国では1960年代の高度経済成長期ごろより,地方,農山漁村から大都会への人口移動が活発化し,その結果,大都会の人口が急増するとともに地方の人口が相対的に減少する現象が起こっている.このため人口の都市への集中が過度になり,そのことによって様々な問題が発生している.これらの問題は,従来,住宅,生活環境,交通といった社会資本の整備不足などの側面から論じられることが多く,医学・公衆衛生の領域でも人口の都市集中が引き起こした劣悪な環境に起因した疾病といった視点での議論が多かったと思われる.
 しかしながら,都市への人口集中が始まって数十年たった現在,大都会ではなく,地方において従来想定されていなかった問題が精神保健分野において生じている可能性がある.これは,精神障害,特に精神分裂病の発症が10代,20代の若者に多く,同時に都市への転出者も若者に多いことに起因する問題である.

福祉部門で働く医師からの手紙

地域の施設をいかす(老人保健施設)

著者: 松下彰宏

ページ範囲:P.594 - P.595

 介護保険の実施が迫り現場ではこれに向けた準備がすすめられています.これまでは一部の人が使うと思われていたサービスが,すべての人を対象とするようになります.しかし,医療保険の利用はほとんどの人が経験していても,これまでも医療機関を比べたり選んだりすることに関しては情報不足もあり,まだ難しいところがあります.福祉については,いくら「措置される福祉」から「選べる福祉」にかわったとはいえ,利用者にはなかなかわからないことや知らないことがあります.また,福祉や医療に関しての性善説を悪用したいくつかの不祥事もあり,どのようなサービスが提供されているのか注目されています.施設の整備が急激に進んだためにサービス提供側にまだ十分な理解や心構えができていない場合もありました.保健所にいても,スタッフの発言などからまだまだ理解されていないなぁと思うところがありましたのでご紹介します.

全国の事例や活動に学ぶ 今月の事例 香川県丸亀保健所

市町村のための保健所医師活動とはいかにあるべきか—保健所による市町村支援機能の充実のために

著者: 福永一郎 ,   石山明

ページ範囲:P.596 - P.597

 地域保健法によって,老人保健,母子保健などの1次保健サービスは市町村機能とされ,これに関して保健所は調査研究,企画調整,情報機能などにより支援を果たすことが期待されている.この中で保健所長に期待される役割については従来より多く論じられてるが,「2人目の医師」の果たすべき役割については,健診やクリニックなどの診療以外には実務においてもあまり明瞭に位置づけられたものではなく,文献的にも語られていなかった.しかし,地域の人的資源として,「2人目の医師」も行政医として市町村支援に果たすべき役割をはっきりと明確化し,その具体的な実践を行うことが必要であると感じていた.平成8年度保健所医師調査研究事業を利用して,香川県丸亀・琴平両保健所が合同で保健所医師機能の検討を試みたので,今回その過程を紹介したい.
 検討は,まず2保健所の保健所医師,保健所長が集い「地域住民に役に立つ保健所医師のあるべき姿を描く」を目的に,その実現手段として「市町村に存在しない行政職種としての医師の役割」をとらえ,企画調整,調査研究,情報機能などを一つ一つ検討し,その中での医師の役割を明らかにするところから始めた.次に,過去の管内老人保健事業を題材として,1)現状,2)保健所医師の支援状況,3)現状の課題に対して,保健所医師の役割は何か,を検討し,表に示すように支援役割を整理した.

調査報告

タイ国パヤオ県C総合病院における感染事故予防対策の展開

著者: 福田英輝 ,   紺山和一 ,   木本絹子 ,   小川正純 ,   曽田研二 ,   多田羅浩三 ,  

ページ範囲:P.598 - P.602

 タイ国でのHIV感染の広がりは,HIV感染者と医療従事者との接触機会を増大させた.タイ国内の医療機関においては,そこに従事する者のHIV感染に関する知識の不足や,医療機関における感染事故予防対策の不備からHIV感染者に対する偏見を生じているのが現状である.また,この偏見は,医師,看護婦などの医療専門職よりも,清掃職員,患者移送担当者,看護助手などの非専門的医療従事者において深刻のようである.
 タイ国エイズ予防対策プロジェクトは,国際協力事業団(JICA)により1993年から1996年まで実施されたプロジェクトである.当プロジェクトの公衆衛生活動の一つとして「タイ国総合病院における感染事故予防対策」の拡充を目的とした協力があり,タイ国北部に位置するパヤオ県C総合病院をモデルとして,現状分析から評価までの一連の活動が展開された.今回は,筆者らが参画した当協力活動を通じて得られた知見をもとに,タイ国総合病院の感染事故予防対策の現状とその課題を考察し,これらの課題を乗り越えるために実施した活動を紹介する.

海外事情

マレーシア国大クチン地区末端部の保健医療—農村保健所Klinik Desaを中心として

著者: 安達國雄

ページ範囲:P.603 - P.606

 筆者は1991年来インドネシア,ネパールの地域末端における保健と医療の状態を調べている.1995年冬,開発途上国の中で経済的に高成長を遂げているマレーシア国サラワク州(ボルネオ島)大クチン地区(クチン市Kuching,ルンドゥ地域Lundu,バウ地域Bau,図1参照)を訪ね,地域末端部での保健医療の現状を調べた.保健医療の重要な指標である乳児死亡率は,マレーシア国では1992年14.0(出生1,000人当たり),サラワク州では9.8で開発途上国中で上位にある.
 州の保健医療行政は図2に見るような管理運営段階がある.農村保健所と呼ばれているKlinik Desa(英訳,rural clinic)は3種類がある.すなわち,1)一般診療と保健衛生の場,2)母と子の診療と保健衛生の場,3)救急のみを扱う場(今回省略)である.診療所(dispensary)と小規模診療所(subdispensary)は大クチン地区にはない.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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