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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生62巻9号

1998年09月発行

雑誌目次

特集 地方分権の推進について考える

地方分権の推進

著者: 橋本勇

ページ範囲:P.612 - P.615

地方分権の意味
 地方分権というのは,当該事案の発生している場所の近くで,それにかかわる諸問題を処理する仕組みのことである.この意味では,その処理の主体が誰であるかは問われず,それが国の出先機関であろうと,地方公共団体であろうとかまわないことになる.ここでは,権限や権力の集中を排除し,それを分散すること自体に意義があるとされるのである.この考え方は,「権力は腐敗する.絶対的権力は絶対的に腐敗する」という政治格言に凝縮されている.
 国の省庁再編の一環として,建設省,農林水産省および国土庁を統合することが考えられているようであるが,その権限が強大になりすぎるという批判に対して,出先機関に権限を大幅に委譲するという言い訳がなされているのは,国の出先機関による地方分権の1例である.そして,ここでは,その権限を行使する者がどのようにして選ばれ,誰に対して責任を負うのかの議論は意識して避けられている.単に,権力や権限の分散ということだけに着目すれば,江戸時代の幕藩体制の方が現在よりも数段上であり,これも立派な地方分権制度だということになるが,住民との関係においては,この幕藩体制における藩(大名)における権限の行使と国の出先機関における権限の行使との違いは必ずしも明確ではない.

地方分権の基盤と課題

著者: 辻山幸宣

ページ範囲:P.616 - P.619

 1998年5月29日.政府はこの日,明治以来のわが国の行政システムを大きく転換する「地方分権推進計画」を閣議決定した.計画は600頁に及ぶ膨大なものであり,改正を要する法令数は480件に達する.これは,各界の第一人者を集めての3年にわたる審議結果を実現に移す計画であり,省庁再編成,金融ビッグバンとともに21世紀の日本の基本設計の一つということができる.だが地方分権の意義は意外に知られていない.その理由の一つは,行政システムの転換という専門的な議論が中心になったことにある.とりわけ,一般の市民には聞き慣れない「機関委任事務」制度の廃止が焦点であったため,市民のみならず行政職員にまでも「難しい」と感じさせた.もう一つの理由は,地方分権の課題が「中央政府と地方政府の関係」の改革に設定されざるを得ないため,地域社会や市民の暮らし向きには関係のないものと受け止められたことにある.
 だが,地方分権とは地域づくりのあり方を変えるための制度的条件整備にほかならない.霞が関と永田町で政策を決定し,全国の自治体がそれを実施していく仕組みから,地域のことは地域で決定して実施し,その結果についても地域で責任を負っていくという仕組みへの転換が企図されているのである.本稿では,地方分権によってなにがどう変わるのかを法的・行政的な側面から明らかにし,分権型社会に向けての自治体の課題を考えてみたい.

地方分権と税財政

著者: 米原淳七郎

ページ範囲:P.620 - P.623

機関委任事務が廃止され国の関与も制限される
 地方分権推進委員会は,平成7年7月3日に発足して以来,今日まで精力的に活動し,「分権型社会の創造」というタイトルのついた報告書や勧告書を,これまで5回にわたって発表してきた.
 すなわち,平成8年3月29日に,まず「中間報告」と題する最初の文書が出され,同年12月20日に「第1次勧告」,平成9年7月8日「第2次勧告」,同年9月2日「第3次勧告」,同年10月9日「第4次勧告」が出された.そしてまた現在は「第5次勧告」が準備されているとのことである.

医師会活動と地方分権

著者: 柏木明

ページ範囲:P.624 - P.627

 熊本市は九州のほぼ中心部に位置し,人口65万人で熊本県人口186万人の約35%を占める.そのうち65歳以上の高齢者の占める割合は,平成7年で13.8%である.平成10年4月第3次県保健医療計画によると,熊本県を11の2次医療圏に分かち,熊本市は単独で2次医療圏を構成,一般病床の必要病床数11,000床,既存病床数12,260床で1,260床の過剰地域となっている.県内の公的医療機関の大半,3次医療を担当する施設のすべてが本圏域にあって,保健所2,保健センター3が設置されている.
 熊本市は昭和54年10月「健康都市宣言」を行い,昭和61年より10月1日を「市民健康の日」と定め10月を健康月間として毎年健康に関する多彩な行事が行われており,市民が健康で生きがいを持ち安心して暮らせる街づくりを目指している.

公衆衛生活動と地方分権

著者: 赤穂保

ページ範囲:P.628 - P.633

 平成7年の地方分権推進法に続く第1〜4次地方分権推進委員会勧告(以下,勧告)を踏まえ,平成10年5月に国の地方分権推進計画(以下,推進計画)が出されてきた.
 花盛りとも呉越同舟の混声合唱とも称され,様々な立場から異口同音に語られる今日の地方分権は,時として玉虫色の虚像に惑わされ,肝心の実像を見失いかねないという危険にも曝されている.

英国NHSの改革と地方自治

著者: 星旦二 ,   藤原佳典

ページ範囲:P.634 - P.638

英国NHS改革の概要
 英国は,正式には大ブリテン・北アイルランド連合王国であるが,ここでは,イングランドにおけるNHS改革と地方自治改革について考察したい.
 英国は,1848年に世界で初めて公衆衛生基本法を制定した.その1世紀後には,「ゆりかごから墓場まで」を合い言葉に,すべての国民を対象とする総括的な保健医療サービスを提供する仕組みとして,「NHS(国民保健医療制度)」を確立し,今年は制度発足50周年を迎えた.ここでは,英国における最近の保健医療改革の現状と,保健医療改革の評価,英国の地方自治,地方自治改革の世界的動向についてまとめたい.

<対談>地方分権の推進について考える

著者: 北川定謙 ,   多田羅浩三

ページ範囲:P.639 - P.646

 多田羅 公衆衛生の分野では平成6年に地域保健法が制定され,さらに母子保健法の改正と地域保健の状況が大きく動きつつあります.他方,地方分権が非常に大きなテーマになっております.社会状況として,これらは非常に密接なつながりがあり,私たちとしては地方分権の問題を見過ごすことができません.
 そこで今日は,地方分権のあり方および,その推進について,北川先生にいろいろと教えていただきたいと思います.

視点

公衆衛生としての覚せい剤への対応

著者: 山本弘史

ページ範囲:P.610 - P.611

 わが国の薬物乱用問題の歴史は,戦後,覚せい剤の蔓延とともに始まった.戦中に軍において戦意昂揚などの目的で使用されていた覚せい剤が終戦直後の混乱の中で放出され,また当時,多くの製薬会社も製造販売を開始したことを反映して,覚せい剤犯罪の検挙者数は著しく増加し,昭和29年には,史上最高の55,664人が検挙された.これに対しては,覚せい剤取締法の整備による原料からの徹底した管理と取締の強化,社会環境の改善などにより昭和32年以後は一次的に鎮静化した.
 しかしながら,その後,昭和45年から再び覚せい剤事犯は増加に転じ,昭和48年の覚せい剤取締法の改正によっても鎮静化せず,昭和55年から63年まで,検挙者数は2万人台を維持し第2次乱用期となった.この時期の特徴は,暴力団の資金源として韓国・台湾などを仕出し地とする覚せい剤が密売されたこと,青少年の乱用が顕著であったことなどである.徹底取締りの結果,平成に入っていったん1万人台の半ばとなり,また,ピーク時には11%を超えた未成年者比率は5%台へと半減したが,完全には鎮静化しなかった.

連載 ヘルスセクターリフォームの国際動向・7

サハラ以南アフリカ

著者: 竹直樹 ,   インデラモハン・S・ナルーラ ,   長谷川敏彦

ページ範囲:P.648 - P.654

 本シリーズでは健康変革(Health Sector Reform,以下HSR)を,「健康転換(Health Transition)に対応したシステム総体の改革を目指す政策あるいは方向」と定義している.今回はサブサハラ・アフリカ地域(以下,SSA)1)の保健医療部門における現状を見るが,この地域に関しては各国の社会経済がそれを取り巻く外部環境に適応する流れの中で起こっているという点で,他地域とは異なる.

自治体の保健福祉活動における理学療法士の役割・7

松山市における活動と理学療法士の役割

著者: 金指巌

ページ範囲:P.655 - P.659

 高齢社会の到来やそれに伴う医療制度の変革などによって,老化や疾病により心身に支障を来した状態で在宅に戻って行かねばならない人は増加しており,理学療法士(以下,PT)の業務もそれに伴って医療機関から地域へと拡大してきた.
 松山市は昭和61年にPTを採用し,以来,事業の拡大に伴い増員を続け現在5名のPTが老人保健法(以下,老健法)に基づいての機能訓練(以下,リハビリ教室)や訪問指導,健康教育などの業務を保健婦,看護婦などと実施してきた.

精神保健福祉計画の企画と実施—意欲を事業に反映するために

市町村の精神保健福祉活動指標の検討と提案—高知県,新潟県の調査研究に続けての埼玉県調査報告

著者: 鵜沼耕一 ,   天野宗和

ページ範囲:P.660 - P.665

経緯と目的
 埼玉県は,地理的には東西にのびた地形をなしており,南は東京都に隣接している.県内人口は,約680万人と全国第5位である.市町村の数は92カ所と多く,人口規模も46万人の市から1,400人の村まであり地域の状況は様々である.特に県南地域を中心として人口規模が大きい地域に社会復帰関連施設が集中している状況であり,精神保健福祉施策において地域格差が生じている.このような状況から,当センターの役割として今後身近な対人保健サービスの担い手である市町村の地域精神保健福祉活動を数値で示し,戦力分析をすることで地域格差の要因を探ることにより,「障害者計画の策定支援」,「市町村支援の目標」,「今後の社会資源創出への手がかり」を把握することの重要性を感じているところである.そこで,高知県,新潟県の精神保健福祉センターの調査研究を知り,本県でも県内の市町村の精神保健福祉活動を数値化する指標を検討し,平成9年8月に調査を実施した.以下に,その調査結果を報告し,今後の市町村評価についての課題を述べる.

福祉部門で働く医師からの手紙

保健福祉の視点,法曹の視点

著者: 牧上久仁子

ページ範囲:P.666 - P.668

 最近,福祉関係の雑誌をながめていると痴呆性高齢者や知的障害者の権利擁護の観点から「財産管理」や「成年後見法」などという用語を目にすることが多くなりました.筆者の職場でも好むと好まざるとにかかわらず,「財産管理」の問題が持ち上がってきています.私たちの職場でも「財産管理」は大きな問題になっています.
 事の起こりは保健婦がとある困難事例に巻き込まれたからでした.そのお宅は一見瀟洒な住宅街にありますが,よく見るとしゃれた門には幾重にも施錠され,門の中には雑多なゴミが堆積し……といった感じで,経験を積んだ「その道のプロ」だけでなく,御近所の方もなんとなくその住人の異様さを察知できる風格? を備えていました.そのお宅には案の定,末治療の精神分裂病と思われる40歳代の娘と,今となっては痴呆だか精神疾患によるものかもわからない妄想を抱えた70歳代の母親が住んでいました.父親はとある中堅企業に勤務し,引退後も社宅(現在の大きな一戸建て)にずっと住み続けることを認められる程度の役職についていたようです.父親が死亡した後も母娘は寄り添うように元社宅であるこの家に住んでいました.

全国の事例や活動に学ぶ 今月の事例 香川県丸亀保健所

市町村保健活動支援ツールとしての「みんなのほけんかつどうハンドブック」の作成

著者: 福永一郎 ,   鈴木亮而

ページ範囲:P.678 - P.679

 保健活動の主役は住民である.都道府県型保健所は,一次的に住民と接する市町村段階の保健活動を支援することが地域保健法では明瞭に位置づけられており,保健所の市町村に対する二次機能というものは,本来「ノウハウ」を伴った支援でなければならない.企画調整,情報機能とか,市町村職員の研修機能は,単に技術的なスキルを提供するだけでは公衆衛生の機能を発揮しているとはいえない.市町村の公衆衛生従事者は,本来,公衆衛生理論を現場に応用できる能力を持たなければならないが,現実には日々の仕事に追われ,勉強する機会もなかなか得られない状態が一般に見られる.例えば保健婦では,免許取得後公衆衛生を系統的に学ぶ場は確保されていないし,栄養士や事務職員は,一度も公衆衛生(理論)を系統的に習った経験がないのが普通である.したがって,計画的な保健活動とか,疫学,保健行動という理論は,実際の仕事にはあまり使われていないのが普通で,多くの現場では,「本当に今して来ている仕事は住民に役立っているのだろうか」とか,「何か他にしなければならないことがあるのでは」という悩みや気づきをもっていても,多くはそれを具体化し解決する方法を持たされていない.保健所による市町村の支援にあたっての専門性とは,単に各論的な専門ではなく公衆衛生のプロセスのノウハウをもっていて,それを惜しみなく地域に提供するということであろう.

報告

岐阜県下における老人保健事業の現状と課題

著者: 井口恒男 ,   児玉文夫 ,   田中耕 ,   岩田弘敏 ,   矢島澄子

ページ範囲:P.669 - P.673

 地域保健法が平成9年度より全面施行されることとなり,主要な対人業務が市町村固有の業務となるが,母子保健事業や老人保健事業の向上が期待されるところであり,少なくとも事業の低下は防止されねばならない.
 そこで,法の全面施行前における岐阜県下の市町村の老人保健事業の実態を調査した.

調査報告

管内3歳児健診アンケートによる生活状況と齲蝕との関連について

著者: 中原由美 ,   倉住玲子 ,   十亀輝 ,   筒井博之

ページ範囲:P.674 - P.677

 生涯を通じた健康づくりを進めるなか,口腔の機能維持は,その重要な要素として取り上げられるようになってきた.本県においても,平成4年度「福岡県8020運動推進協議会」を設置し,歯科保健が生涯を通じた健康づくりの一翼を担うことを目的とした運動を推進してきている.特に,乳幼児期は,食習慣の確立期であり,この時期の歯科保健のあり方は,将来の口腔状況に大きな影響を与えると考えられる.
 乳幼児の地域歯科保健活動は主として1歳6カ月児および3歳児歯科健診が行われているが,乳幼児齲蝕を予防するには,幼児の家庭生活や生活環境を考慮した指導が重要であると考えられる.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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