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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生63巻1号

1999年01月発行

雑誌目次

特集 公衆衛生の経済学

医療経済学と公衆衛生

著者: 髙原亮治

ページ範囲:P.4 - P.9

公衆衛生学校と医療経済学
 意外な印象を持たれるかも知れないが,医療経済学は北米の公衆衛生学校(大学院)を中心に拡大していった学問領域である.米国の経済学は,その制度化,すなわち,教育内容,教育課程などの内容が,大学や教授によらず均質化されているところに特徴があり,例えば入門期用のミクロ経済学の教科書やコース名はIntroduction to Microeconomic,コース番号はEC100というように規格化されている.Introductionの次は,“Principles of”となり,さらに“Analysis of”といった構成となっており,それぞれの内容はほぼ規格化されている.
 医療経済学は,経済学としては,そのほとんどの部分が応用ミクロ経済学の領域に属すものである.しかしながら医療経済学の基礎領域をなすものは,単に(ミクロ)経済学ではない.少なくとも,疫学を中心とした医学医療の内容,医師や看護婦などの医療関係職種の労働市場などの特殊性,病院の機構,保険などに対する他産業にみられない規制などの政府の関与,さらに各国独自の医療費制度などに対する知見を要する,ミクロ領域を中心とした経済学,疫学を中心とした医学,医療制度といった,それ自体はそれぞれありふれた領域ではあっても,これらが統合可能な教育,研究環境は北米を中心とした公衆衛生学校であり,そこで,近代的医療経済学が成長したことに不思議はない.

健康日本21の経済

著者: 河原和夫

ページ範囲:P.10 - P.14

 現在,医療費をはじめとして国民の社会負担は増大しつつある.これを適正な水準に保ち,明るく活力ある社会を構築するためには,生活習慣病に代表される疾病を予防し,健康な状態を長く保ち続ける必要がある.最も有効な方策は平素からの積極的な健康づくりを行っていくことである.
 本格的な長寿社会の到来に備えた,初めての総合的な健康づくり対策として「第1次国民健康づくり対策」が1978年(昭和53)から実施された.その内容は,第1に生涯を通じての健康づくり推進策として,妊産婦,乳幼児,家庭婦人などを対象とした健康診査に加え,老人保健事業の総合的実施を図って,生まれてから死ぬまでの生涯を通じての予防・健診体制を整備していくこと,第2に健康づくりの基盤整備として市町村保健センターなどの設置と保健婦などの人材確保を推進していくこと,第3に健康づくりの啓発・普及活動を推進していくことであった.その後,人生80年時代が現実のものとなり,単に寿命を延ばすという量的な問題に加えて,生涯をいかに有意義に生きるかという質的な問題がより重要なものとなってきた状況を踏まえ,1988年(昭和63)から「第2次国民健康づくり対策(アクティブ80ヘルスプラン)」を実施しているところである.この間,国民の平均寿命や乳児死亡率などの健康指標も国際的に最も良好な水準に達した.

老人保健事業の経済的分析

著者: 武村真治 ,   藤崎清道 ,   中原俊隆 ,   近藤健文

ページ範囲:P.15 - P.19

公衆衛生サービスの経済学的特性
 公衆衛生サービスは「公共財」の一つとされている.公共財とは以下の性質をもつ財のことをいう1).
1)非排除性…特定個人に財が供給されると他の個人にもその財が供給されてしまう

保健婦(士)活動の経済的評価

著者: 川田智恵子

ページ範囲:P.20 - P.24

保健婦(士)活動の経済的評価の意味
 現在,保健婦(士)は多領域で活動しているが,なんといっても多いのは保健所,市町村つまり,狭義の地域保健行政の分野で,およそ22,000人(全体の80%弱)がこの分野で働いている.ここでは特に地域保健行政での保健婦(士)活動に注目して論を進めることにする.
 保健婦(士)の任務は乳幼児から高齢者までの種々の健康状態にある人を対象として,1)家庭訪問を中心とした家族保健事業,2)各種の健康診断における保健指導,3)健康相談・電話相談,4)健康教育,5)地区組織活動など幅広い.このように地域住民の日常生活に直結した活動をしているというところに特徴がある.

なぜ長野県民は長寿か—医療経済的視点からみた分析

著者: 川渕孝一

ページ範囲:P.25 - P.29

 21世紀になると,わが国は本格的な少子・高齢社会を迎えるが,国および地方自治体の借金は約550兆円(国鉄の累積赤字を含む)に近づいており,先行きの不透明感が国民に広がっている.特に,高齢社会が進むと,病気になったり要介護者になるリスクが高まるが,その一方で,少子化のためにその面倒をみる人が相対的に少なくなるので,国民はますます不安感を増幅させている.
 そこで政府は,こうした国民の「医療・福祉に対する不安」を払拭するために公的介護保険の創設を決定した.しかし不思議なことに,この公的介護保険の論議も今一つ盛り上がりに欠ける.その理由は,公的介護保険が創設されれば国民に広がる医療・福祉への不安が払拭され,本当に国が唱えるような社会全体で介護サービスを担うシステムが構築されるかどうかがわからないからである.

公衆衛生(保健医療福祉)への投資とその雇用効果

著者: 松田晋哉

ページ範囲:P.30 - P.33

 21世紀に本格化する高齢社会の到来に対処するために,現在わが国においては社会保障制度の大規模な改革が実行に移されつつある.特に,新ゴールドプランに示された基盤整備は,豊かな高齢社会を実現するために必要不可欠なものである.しかし,低経済成長期にあって,従来から非生産部門と位置づけられている保健医療福祉部門への過剰な資金投入は経済成長の妨げとなるという意見も強い.この根拠としては,「人口の高齢化は労働力の減少をもたらし,高齢期の貯蓄の取り崩しなどによる貯蓄率の低下を生じさせることにより,わが国の経済活力(実質経済成長率)の低下をもたらす.また,直接的には社会保障給付の増加をもたらすため,社会全体のコスト負担を増大させる.またそのための経費を税金あるいは社会保険料で負担することから国民負担率を引き上げ,その結果として国民の労働意欲を阻害する」という連関が想定されている.しかし,宮島も指摘しているようにこの仮説は必ずしも立証されているものではない1).
 また,経済のサービス化とともにサービス部門の国民経済全体の中で果たしている役割は近年急速に拡大しており,したがって,保健医療福祉部門についても,表1に整理したように国民経済に与えうる影響についてマイナス面のみならず,プラス面からも分析する必要がある2).そこで,本稿においては,これまでの研究成果に基づいて,保健医療福祉への投資の経済波及効果について検討してみたい.

公衆衛生の経済学ABC

著者: 小林廉毅

ページ範囲:P.34 - P.37

 公衆衛生は人間集団や社会の組織的な取り組みによって,人々の健康を維持・増進する活動(実践),ならびにそのための技術・知識(学問)の総体とされる.一方,経済学は人間社会における財(モノ)やサービスの交換の効率性と公平性について考える学問である.人々の生活や福祉に貢献することは学問共通の目的であるとしても,公衆衛生と経済学はともに直接の対象が人間社会であること,人間集団の行動観察が基本になること,社会への実践的役割が強調されることなど共通点が多く,両者の親和性はかなり高いと思われる.しかしわが国における両者の学際的発展の歴史はまだ浅く,用語の混乱すら見られる場合も少なくない.本稿ではまずHealth Economics(注:わが国では訳語として「保健経済学」や「医療経済学」が使われているが,両者に本質的な違いはない.理論的には予防,治療,リハビリ,介護などの活動を区別する理由はないと考えられる)の概念や考え方のうち,公衆衛生活動に重要と思われるものを紹介し,わが国の状況における意義づけや適用可能な方法論について述べてみたい.

視点

21世紀に向けての地域保健

著者: 高鳥毛敏雄

ページ範囲:P.2 - P.3

 わが国の21世紀の地域保健について,高知県の農山村での保健調査活動,大阪府の保健所での活動,阪神・淡路大震災下の保健活動の調査,堺市における腸管出血性大腸菌O157の保健活動,わが国の主要都市の結核対策に関する調査など,これまでの地域保健の実践活動を行ってきた中で感じてきた検討課題について述べてみたい.
 結論的には都市固有の保健活動の構築が大きな課題であるということである.今日の地域保健の原点は長与専斎が欧米諸国を視察した政府機関の中に国民の健康保護を担当する特殊な行政組織があることを発見し,帰国後に「衛生は自治の元素」であり,「衛生事務は自治実体事務である」という考えのもとに,公布された医制の中で全国の衛生事務の施政と組織を定めたことにあると言われている.この長与専斎が描いた地方の衛生行政組織を基盤とする公衆衛生体制は120余年の年月を経た平成6年の地域保健法の成立によって定住人口が多い地域における地域保健制度は完成したといってよいのではないかと思われる.しかし,今日の都市的な社会については考えが及んではいなかったであろうと思われる.いわゆる都市固有の地域保健体制は曖昧なまま今日に至っているように思われる.

トピックス

ダイオキシン対策の現状と課題・1

著者: 小野昭雄

ページ範囲:P.38 - P.47

 近時,ダイオキシンや内分泌撹乱化学物質による健康影響について社会の関心が高まっており,国会の審議の中で,また,マスコミにもこれらの問題がしばしば取り上げられている.本誌においても1998年7月号で「環境保健のトピックス」として特集が組まれ,これらの諸問題の実情と対応についての関係者の報告が掲載されている.この中で,ダイオキシンについては国立公衆衛生院の内山氏が『ごみ焼却とダイオキシン』と題した論文を掲載している1)
 既に内山氏の論文において,ダイオキシンの発生,毒性,人体の摂取量,母乳中の濃度については簡明にまとめられているので,これらとの重複を避けて,その後に明らかになった知見も加えつつダイオキシン対策の現状とこれからの課題について述べてみたい.

これからの保健婦活動のあり方

著者: 湯澤布矢子

ページ範囲:P.49 - P.55

 地域保健法が全面施行され,1年半が過ぎた.また介護保険制度の導入を控えて,わが国の保健・医療・福祉の分野では,まさに変革期を迎えている.そして地域保健活動の主たる担い手とされる保健所と市町村保健婦には,ますます大きな期待がかかるとともに,活動のあり方が,多面的に議論されるところとなった.保健婦は既に60年の歴史を歩んでいるが,その活動の方向は,時代や社会の変化に沿って,当然変わっていかなければならない.ある意味では現在の変革期を,いかに飛び越えられるか否かに,将来の保健婦活動の発展のしかたがかかっているといっても過言ではないといえよう.
 そこでこの度本誌の編集室から,先般発表した「これからの行政組織における保健婦(士)活動のあり方に関する研究II,—介護保健制度の導入を視野に入れて—」に関連して,これまでの保健婦活動の流れや機能の変遷,本研究の背景および今後の保健婦活動のあり方などについて,まとめるようにとの依頼を受けたので述べてみる.

連載 公衆衛生へのメッセージ〜福祉の現場から

疥癬狂騒曲ふたたび

著者: 牧上久仁子

ページ範囲:P.56 - P.59

 「昨日C先生に往診していただいて,12人の利用者が疥癬と診断されました」7月中旬のある日,B老人ホームの看護婦さんからの電話で,私の「特養通いの夏」が始まりました.

全国の事例や活動に学ぶ 今月の事例 香川県

保健所の情報機能について

著者: 福永一郎 ,   大神貴史

ページ範囲:P.60 - P.61

 筆者は平成9年度公衆衛生協会の地域保健総合推進事業「保健所情報研究班(研究代表者:新山徹二)」のメンバーとして保健所の情報機能について研究を行い,その中で香川県下のいくつかの事例を検討した.その経験を簡単に紹介して,保健所情報というものを考えてみたい.
 都道府県型保健所が持つべき情報の提供相手は,要約すれば次の三つである.直接住民に対するもの,市町村など関係機関に対するもの,そして,保健所間など都道府県内部での情報交換である.今回は関係機関に対する情報機能について,筆者が経験した二つの情報提供に関し,表にまとめてみた.

レポート

健康政策学とその国際的な動向

著者: 宮城島一明 ,   中原俊隆

ページ範囲:P.62 - P.64

 わが国の行政は,戦後,地方自治の原則に基づく地方分権体制として再整備されたが,その後の実際の運営は戦前の伝統を引きずった中央集権的体制により行われてきたことは異論のないところである.健康に関してもその政策のあり方などについて各方面で種々活発な議論は行われてきているが,実際の政策の立案・決定は厚生省主導で行われてきたといっても過言ではない.このことは逆にいえば,健康政策に関する議論は厚生省から離れたところではあまり実効のあるものとはならないため,健康政策学を構築するというような動きは大きなものとはならなかったといってもよいであろう.しかし米英では,わが国と異なり,健康政策学はSchool of Public Healthにおける大学院レベルの研究・教育の対象として確立したものとなっており,その動向が実際の健康政策に及ぼす影響も大きい.
 わが国の行政は,現在戦後体制の変革が進められており,健康政策においても例外ではない.地域保健法を例にとれば,保健所の財政に対する国庫補助がなくなり,地方に権限が委譲され,保健所の機能強化という題目の下,地方独自,また保健所独自の施策の展開が求められている.このような時,保健関係者は自らの考えに基づく健康政策を構築し提案していくことを求められている.こうしたとき,海外の健康政策研究の動向はなにがしかの示唆を与えてくれるものと思われる.本稿では,世界各地域の健康政策研究の動向を最近開催された健康政策国際学会の議論から紹介したい.

報告

M市の知的障害者の社会就労センター通所者からみた母子保健の実態

著者: 谷掛千里 ,   高鳥毛敏雄 ,   多田羅浩三 ,   坂口征男

ページ範囲:P.65 - P.70

 母子保健は昭和40年母子保健法による3歳児健診の実施,昭和52年の1歳6カ月児健診の実施以降,早期発見に関しては充実してきている.平成9年4月1日に母子保健事業が全面的に市町村に移管されることになり,障害児のフォローについても一貫して市で行うことができるようになった.そのような中で,障害児のフォロー体制のいっそうの充実が強く望まれている.そのための基本資料を得ることを目的に,大阪府下では,障害者の施設が比較的充実しているM市の知的障害者の社会就労センター(以下,授産施設)に通所する障害者の早期発見,早期療育の実態について調査したので以下に報告する.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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