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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生63巻10号

1999年10月発行

雑誌目次

特集 地域保健法で保健所は変わった?

保健所の機能強化の成果—保健と福祉の合体への道のり

著者: 陣内一保

ページ範囲:P.692 - P.696

地域保健法の全面施行
 急激な人口の高齢化と出生率の低下,疾病構造の変化,地域住民のニーズの多様化,生活環境問題への住民意識の高まりなどに対応し,サービスの受け手である生活者の立場を重視した地域保健対策の総合的な見直しが,国において検討され,平成6年7月,保健所法,母子保健法などの改正を内容とした「地域保健対策強化のための関係法律の整備に関する法律」が公布された.
 そして,同年12月には,地域保健法に基づく「地域保健対策の推進に関する基本的な指針」が告示された.

保健所の機能強化の成果—保健所の企画調整・情報収集提供は機能しているのか

著者: 岡等

ページ範囲:P.697 - P.703

 神奈川県の12保健所は6支所が廃止され,平成9年度,地区行政センター福祉部から福祉関係の事務移管を受け,保健所と福祉事務所,これを統括する保健福祉事務所へと再編整備された.政令市を除く二次医療圏単位(横須賀・三浦,湘南東部,湘南西部,県央,県北,県西の6圏域)に2保健所が位置付けられ,企画調整機能は管理課所管が6カ所,新設の「企画調整室」所管が6カ所で圏域内の調整事務をあわせ所掌している.
 企画調整室は,おおむね保健婦1人を含む6〜7人配置で,1)主要施策・計画の企画調整,推進,2)保健福祉関係研修の企画調整,3)保健・医療・福祉に関する情報の収集・提供,4)調査研究の企画調整,5)保健婦業務の総合調整,6)衛生統計,社会福祉統計,7)医療事務および免許事務,8)災害時における情報拠点・総合調整,9)献血の推進などである.

保健所の機能強化の成果—保健所年報の統一

著者: 津野敏夫

ページ範囲:P.704 - P.707

 平成9年4月地域保健法が施行され,保健所および市町村などの新たな役割のもとに事業が展開されることとなった.情報化社会において,情報の重要性は保健・医療・福祉の分野においても例外ではなく,市町村や関係団体なども含めて安心して健康に暮らせる地域の施策づくりのためには,保健・医療情報の収集・加工・提供が保健所の重要な役割のひとつとなっている.
 神奈川県(横浜市・川崎市・横須賀市を除く)では,地域保健法の施行に合わせ保健所と地区行政センター福祉部(福祉事務所)が統合され,12保健福祉事務所(保健所および福祉事務所の3枚看板)となった.

保健所の機能強化の成果—保健所の専門的・広域的機能と専門職の役割

著者: 北原稔

ページ範囲:P.708 - P.712

 「保健所は一体何をしてくれるのですか?」しばしば市町村から浴びせられる言葉だ.地域保健法による新たな枠組みがスタートして,保健所は専門的・広域的な機能を発揮することが求められている.管内にいくつかの市町村を有する保健所にとって,「広域的」な機能は比較的理解してもらえるが,「専門的」な役割についての共通理解は内部的にも難しい.特に,神奈川県では平成9年度より保健所は県福祉部と衛生部の出先機関が併合した保健福祉事務所となった.この変革の中で,歯科保健を担当していた筆者も,保健福祉課長として新たな専門性を問われる立場に置かれた.そこで,専門職としての専門性をどのように生かし,組織として保健所の総合的な専門性を発揮していくのか? 筆者の経験を紹介しつつ,一緒に考えてみたい.

保健所の企画調整機能—「排徊老人のためのSOSネットワーク」における保健福祉事務所(保健所)の役割

著者: 星野ゆう子 ,   黒川理恵子

ページ範囲:P.713 - P.715

茅ヶ崎保健福祉事務所管内の概況
 管内の茅ヶ崎市,寒川町の地区概況は表のとおりである.平成10年度茅ヶ崎警察署管内で124人の俳徊老人が保護された.

保健所の企画調整機能—4カ月児腎エコーシステムの確立と推進における保健所の役割

著者: 原田久

ページ範囲:P.716 - P.718

 神奈川県では,平成2年度から秦野伊勢原地区において保健所が中心となってモデル的に,腎エコーによる尿路奇形スクリーニングを実施している.保健所が,専門的,技術的拠点としてモデル開発を行い,地域に定着させ,市町村支援を行っている参考事例として,この事業を紹介したい.

地域保健法における県の役割—専門機関としての保健所の支援

著者: 柴田則子

ページ範囲:P.719 - P.722

 神奈川県における広域的,専門的,技術的拠点としての保健所の機能強化を本庁が,どのような体制整備を行い支援しているかについて,9年度の保健所再編からの経過を,企画調整機能を中心としてまとめてみた.

保健所の企画調整・計画策定機能の評価—市町村の視点から

著者: 斉藤満貴子

ページ範囲:P.723 - P.725

 平成9年4月の地域保健法の実施により神奈川県では12保健所6支所が12保健福祉事務所に再編,統合されました.当市を管轄していた支所もそれに伴い閉鎖されました.地域保健法施行前・後の保健婦(士)活動から今後の保健所活動に期待することを報告したいと思います(図).

保健所の企画調整・計画策定機能の評価—市町村の視点から

著者: 高橋こずえ

ページ範囲:P.726 - P.729

 津久井町は,神奈川県の北西部に位置し,総面積122.18km2,84%の森林地帯と三つのダムに囲まれた水源地域で,豊かな自然に恵まれています.地域が分散しており,経済力が低く施設整備などがなかなか整わない状況にあります.
 人口は,平成11年4月1日現在30,917人(→),老齢人口割合12.9%(↑)一世帯当たりの人数3.2人(↓),平成10年度の出生数は210人です.

視点

公衆衛生に国境はない−21世紀に向けての地域保健

著者: 中村安秀

ページ範囲:P.690 - P.691

地球規模での健康問題
 1990年代は,旧ソ連の崩壊とそれに伴う東西対立の構図が崩れ,地球規模のグローバルな課題が噴出した時代であった.1990年の「子どものための世界サミット」以来,「国際人口開発会議(カイロ)」,「世界女性会議(ペキン)」など政府やNGO(非政府機関)を巻き込んだ国際会議が立て続けに開催された.これらの会議での重要な争点,すなわち,環境,人権,リプロダクティブ・ヘルス・ライツ,HIV/AIDS,開発などは,いずれも地球規模での健康問題と深く関連していた.
 日本も例外ではない.HIV/AIDSや再興感染症,内分泌攪乱物質に代表される環境問題,国際的な人的交流の増加などにより,地球規模での健康問題と日本国内の公衆衛生の課題は直結している.国内問題と国際問題,先進諸国と開発途上国という垣根の中で考えるのではなく,ボーダレスな公衆衛生の発想をもち,地域での取り組みを行う時代になったといえる.

トピックス

有害化学物質対策とPRTR制度

著者: 澤宏紀

ページ範囲:P.730 - P.735

 事業者による化学物質の自主的な管理の改善を促進し,化学物質による環境の保全上の支障を未然に防止することを目的とした,「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」が制定された.これにより制度化される環境汚染物質排出・移動登録(PRTR:Pollutant Release and Transfer Register)を中心に有害化学物質対策を紹介する.

シンポジウム 第17期日本学術会議環境保健学研連主催公開シンポジウム 「内分泌攪乱化学物質(環境ホルモン)の影響はどこまでわかっているか」

生態への影響・1

著者: 堀口敏宏

ページ範囲:P.760 - P.766

 私に与えられたテーマは環境ホルモンの生態影響であるが,私が実際に取り組んできた巻貝にしぼって述べる.インポセックスというのはもともと存在しなかった言葉であり,スミスという人が,1971年に造った言葉である.その定義は,簡単にいえば「雌の巻貝に雄の生殖器官が形成される現象およびそのような巻き貝」ということである.私どもは1990年から調査をしてきた.何種類ぐらいの日本の巻貝にインポセックスという現象が起きているかを検討してきたところ,これまでに38種類の巻貝で確認されたが,それ以外にもまだあるかもしれない.本稿では,この中でイボニシを中心としてバイについても一部紹介したい.
 イボニシは,長さが2〜3cmの小型の巻貝で,北海道から,九州まで広く分布しているフジツボやムラサキガイなどを食する肉食性の巻貝で,岩場の潮間帯と呼ばれる場所でわりと簡単に見つけられるものである.

連載 シリーズ 始動した新しい健康の町づくり—出雲健康文化都市プロジェクト・7

座談会 生命輝く市民主体の健康文化のまちづくり・2

著者: 齋藤茂子 ,   齋藤誠 ,   田中佑子 ,   山根洋右 ,   渡部英二

ページ範囲:P.736 - P.741

それぞれの能力を生かせるまちづくり
 渡部 出雲市は広い意味で農村地域の中に属するかもしれませんが,農村地域というのは老いにやさしい地域ではないかと思います.私の母親が82歳ですが,毎日畑へ出ます.長い時間は出ませんが,自分がやりたい部分だけ,できる時間帯だけやります.ところが用事があって市の中心部へ出ると,帰ってきたらぐったりしてしまいます.畑へ出て働くのはなんともないのですけれど.
 齋藤(誠)それが生きがいでしょうね.地域力でしょうか.

西生田の杜から

仕事,その前に…

著者: 足立紀子

ページ範囲:P.742 - P.743

この原稿について,いつものようにあれこれ考えていると電話が鳴った.かなり前に,日程だけはくれぐれも押さえておいてほしいという研修講師の依頼があった団体である.あと一月しかないのに正式依頼がないので,こちらから問い合わせた結果である.「実はちょっと不都合が起きたので日程を変更してほしい」と言う.「チョット,チョット,あまりにも勝手が過ぎないか? 私だってその日を避けるためにずいぶん無理をした予定だってあったのに…」と思ったけれど,仕事には突然不都合が起きることは重々承知の身だから,極力声を抑えて,「そうですか,また次の機会にしましょう」と応えた.「●○月はいかがでしょう?」,「いや,自分の予定もあるのでこの日以外はお引き受けできない」,「それでも,△▲ではだめですか?」,「いや,ともかく自分の計画があるので…」とやりとりした挙げ句,ようやく今回の話はなかったことにしてくれた.こんなことなら中国行き計画すればよかった…と憮然としていると,20〜30分した頃だろうか,また電話が鳴った.「やはり,最初の予定通りお願いしたい」
 危うくキレかかった.そんなに簡単に変更できる理由なら人を煩わせるな…理由を聞くに及んで本当にキレてしまった.その1,研修を担当している保健婦のだれかが事業の関係で当日都合が悪くなった.その2,前年度の担当者から引き継いでいなかった.その3,今,話し合って事業のことはだれかに都合をつけることにした,というものである.

公衆衛生へのメッセージ—福祉の現場から

二つの世界

著者: 本山和徳

ページ範囲:P.744 - P.745

 「小学生,知的障害児と交流」…ある日の朝刊の記事の見出しである.私がかかわっているさくらんぼ園はまさに知的障害児通園施設にほかならないのだが….
 その前日,さくらんぼ園児と小学生との交流がなされていた.20人ほどの元気な小学生が活発に園児と遊んだ.遊んだとはいえ,発達を十分に遂げている小学生とは対等には遊べない園児は,抱っこされたり手をつながれたりして受け身になり目をまん丸くしていた.初めて交流した小学生がほとんどであったろう.彼らの心にはどのように映ったのであろうか.朝刊は健常児と障害のある児との交流を意義ある教育の新しい試みとして報道したのである.

全国の事例や活動に学ぶ 今月の事例 福岡県北九州市

啓発事業と住民ニーズの把握による業務の発展を目指して

著者: 小橋清 ,   稲松登

ページ範囲:P.746 - P.747

 前号(63巻9号)で紹介した取り組みは,対物行政としての転換事例であり,「量から質への転換」,「スクラップ&ビルド」の考察によるものである.
 もともと対物行政は住民の視点が弱く,このような取り組みを継続するだけでは,地域保健の推進は困難である.根本的な業務の転換のためには,「住民を主軸に置いて考察するという発想の転換」が必要である.

老人保健法にもとづく機能訓練事業全国実態調査報告

7.参加目的,プログラム内容

著者: 澤俊二 ,   亀ヶ谷忠彦 ,   岩井浩一 ,   安岡利一 ,   大仲功一 ,   伊佐地隆 ,   大田仁史

ページ範囲:P.748 - P.750

 今回は,機能訓練事業の参加目的,プログラムについて,調査に協力を得られた全国3,389施設の回答の集計結果を報告する.

自治体の保健福祉活動における理学療法士の役割・19

民間組織の役割と連携

著者: 森山雅志

ページ範囲:P.751 - P.754

 今日,わが国の保健・医療・福祉をはじめとする各種社会保障制度は,大きな転換期を迎えている.周知のとおりわが国の社会保障制度は,戦後本格的に整備されてきたが,時代の変遷とともに多くの問題を包摂するようになった.このことは,保健・医療・福祉の各分野に携わる専門職の自己変革をも迫るものであり,今後よりいっそうこの傾向が強まるものと推察される.
 このような背景には,財政面での行き詰まりもさることながら,今日まで主に行政主導で展開,推進されてきた各種サービスの提供方法では今後対応が困難であることを意味している.すなわち,国民ニーズの複雑・多様化,家族形態の変化,女性の就業率向上,あるいは地域連帯の希薄化など,社会情勢そのものが大きく変化し,従来の固定化した一律の概念では対応困難になりつつあることに他ならない.

資料

韓国の老人福祉施設政策に関する研究

著者: 崔用旻

ページ範囲:P.755 - P.759

1.研究の背景および目的
 現代社会は人間の平均寿命が継続して伸びて高齢化率が増加している高齢化社会である.韓国の場合,全体の生活保護対象中,極貧者である居宅保護対象者の65歳以上の老人の人口比率は58.3%で,老人人口の貧困状態が他の年齢階層に比して並外れて高い.このような現象の深化は憲法第34条に保障されている「人間らしい生活をする権利」と生活保護法第5条の「健康であり文化的な最低限の生活」の保障に背馳され得る.
 生活水準の向上,医療技術の発達,平均寿命の延長で老人人口が大きく増加している.その結果,1960年度には65歳以上の老人人口が全体人口の2.9%に過ぎなかったが,1997年には6.3%に増加し,2000年には7.1%を超えて高齢化社会に進入すると推定され,2022年には14.3%を超えて本格的な高齢社会となる展望である.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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