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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生63巻12号

1999年12月発行

雑誌目次

特集 地域保健活動とボランティア

ボランティアの発展過程と今後の課題

著者: 松田正巳

ページ範囲:P.844 - P.848

海外・日本でのボランティアの発展過程
 地域保健領域におけるボランティアというと,PHC(プライマリ・ヘルス・ケア,1978年)の登場以来,話題の絶えることのないヘルス・ボランティアをまず思いうかべる.ヘルス・ボランティアは住民参加の核となる活動であり,その十分な理解は,公衆衛生活動の成立用件の一つにあげられるほど,重要なものである.わが国の公衆衛生活動の歴史を振り返っても,アルマ・アタ宣言の前から,結核予防婦人会,母子愛育会,保健委員,食生活改善普及員,などの活動が全国的に多々ある.また近年は,精神衛生分野や難病,HIV/エイズの分野の地域保健活動においても,ボランティアの果たしている役割は大きい.
 国際保健の分野では,政府を補完する活動として,非政府組織・民間非営利団体(NGO)の役割が年々拡大している.国際赤十字の活動のごとく,国際連盟,国際連合,その専門機関である世界保健機関(WHO)などに先立って,民間のボランティア活動が世界の人々の健康に貢献してきた.ノーベル平和賞を受賞した地雷の撤廃運動やMSF(国境なき医師団)も,ボランティアを核とした国際活動の成果である.

ボランティア活動の拠点づくり

著者: 岡島龍彦

ページ範囲:P.849 - P.854

 ボランティア活動が活発になるためには「行政の支援が必要だ!」とよくいわれます.
 また「本来,市民活動を支援するのは自律した市民だ!」という意見もあります.

市民によるボランティアの育成と活動の実際

著者: 福原啓子

ページ範囲:P.855 - P.859

成立まで
 かながわ・女のスペース“みずら”(以下,“みずら”)は,「均等法(男女雇用機会均等法)に反対する神奈川の会」というグループに参加していた女性たちを中心に,2年の準備期間を経て1990年5月に発足しました.
 日本経済の高度成長の過程で,女性の社会進出,職場の拡大は時代の要請として進んでいきました.憲法には,男女の平等が謳われていますが,職場における男女の様々な差別や格差はなくなってはいませんでした.1985年に施行された「均等法」は,待遇や昇進,募集,採用の平等すら確保できていないにもかかわらず,労働基準法の女子保護規定を緩和することで,女性に今日問題になっている過労死をもたらす長時間労働への道を開いたのでした.

保健所における精神保健福祉ボランティア講座を実施して

著者: 曽我八重美

ページ範囲:P.860 - P.864

 精神障害者が地域で安心して暮らし,生活上の様々な問題を解決していくためには,同じ地域で暮らす近隣住民の理解あるかかわりが重要である.このようなことをふまえ,長崎県では平成7年より,精神保健福祉ボランティア養成講座を保健所事業として位置づけた.当保健所においては,平成6年度から長崎県精神保健センター(以下,センター)主催によるボランティア養成講座が先駆的に開始されたのを契機に精神保健ボランティアグループが誕生し,現在3団体が管内で活動を展開している.特に平成9年度には地域活動所(共同作業所)の設立に向けた動きが当事者・家族・ボランティア団体を中心に起こり,平成10年度に2カ所の地域活動所が開設された.その推進的役割を果たしたボランティアグループの活動に焦点を当てながら育成経過について報告する.

阪神淡路大震災とボランティア—コーディネータの役割

著者: 宮本保子

ページ範囲:P.865 - P.868

 年が明ければ,阪神淡路大震災から5年が経過する.被災地では,震災による時間や空間の断裂を抱えながらも,街並が整備され,人々は仮設から恒久住宅へと移り,震災の面影が徐々に薄れている.
 「震災とは何だったのか」自問自答してみる.やはり浮かんでくるのは,あの時の「人の温もり,こころ」である.ボランティアが育たないといわれていた日本で,1995年が「ボランティア元年」となったのは,集結したマンパワーの量とこころによると考える.

ボランティア活動における無報酬と有償活動

著者: 兼間道子

ページ範囲:P.869 - P.872

 地域保健事業などに関する客観情勢が激変している.従来の公衆衛生活動などは主に行政立案が主流であった.住民は常に与えられる存在として需要してきたが,ここ数年の動向を見ると新たな活動形態が顕在化している.特に顕著かつ活発なのは保健,医療,福祉(介護)や環境問題についてである.これまでは公の専門職らが地域住民を育成または指導助言(上から下に推進)という「縦」構造であった.
 ところが,地域住民自らが身近な問題を主体的に解決を図ろうとする「横」構造でのアクションを起こしはじめた.健康づくり,高齢者介護その他の様々な社会貢献ネットワークを生み出している.特に,平成10年3月,特定非営利活動促進法(NPO法)が成立したことによる影響も相まって行政や企業と異なった「あり方」が住民の手によって展開されはじめたということである.本稿では,行政または企業などとは異なった「ボランティア活動」について日本ケアシステム協会を紹介しながら考察したい.

視点

21世紀に向けての地域保健—国際保健の視点から

著者: 坂井スオミ

ページ範囲:P.842 - P.843

 先進工業国では病気,死亡,障害の主な原因は慢性疾患や傷害である.これに対して開発途上国では疾病負担の49%は感染症,栄養失調および周産期,母体の要因による疾病である.サハラ以南のアフリカではこれらの要因による疾病は疾病負担の66%を占め,インドでは56%を占める.合計すれば世界人口の4分の1を占めるこれらの地域はまた乳幼児死亡率も高い.生まれる子どものうち10〜20%は5歳の誕生日を迎えることなく死亡する.乳幼児死亡の主な原因は呼吸器感染症,下痢症そして麻疹などワクチンによって予防可能な疾患および周産期のコンプリケーションである.もちろんビタミン欠乏症を含む栄養失調も根底で大きくこの高い死亡率に貢献している.これらの地域はまたエイズり患率も既に非常に高いか上昇中である.また妊産婦死亡率も高く毎年1,000人の妊産婦のうち5〜10人,国によっては15人もがその妊娠が要因で死亡する.婦人の識字率は50%以下である.

トピックス

結核対策を中心とした国際保健における保健政策の形成

著者: 遠藤昌一

ページ範囲:P.873 - P.879

 筆者は過去20年にわたり,結核対策をはじめとして国際保健にかかわってきた(1973〜1989年WHO西太平洋事務局で韓国結核専門医官,結核対策担当部長,駐マレーシアWHO代表など歴任,1995年以降JICAフィリピン結核対策プロジェクト専門家).そのかかわりや一般保健政策との関連のなかで,結核対策の分野における国際協力のあり方,問題点について検討を行った.
 保健に限らず一般に行政施策は,テクノロジーの発達や社会状況の変化から影響を受け,時に極端に偏った政策により悪い影響を被ることも多々ある.結核対策の場合,化学療法の発達と広く多くの市民に対策の恩恵を与えるためのHealth Services Researchの結果から,専門医療機関でなく一般保健サービス機関(一般病院や診療所)でも実行可能な診療方法(適正技術,appropriate technology)が開発され,結核対策が一般保健サービスに組み入れられ,保健所などでも患者の診療が行われることになった.

地域リハビリテーション活動における医療機関,老人保健施設の役割と今後の展望

著者: 山本和儀 ,   井手伸二 ,   森山雅志 ,   武原光志

ページ範囲:P.880 - P.886

 今日,地域リハビリテーション活動は住民ニーズを反映し,ますますその重要性を増している.また,わが国の社会保障制度も施設中心から在宅中心へ施策が移行するに伴い,自助・互助を中心とし,社会全体で支え合うものへと変換しつつある.
 これら社会保障制度の変革は,従来から実践されてきた地域リハビリテーション活動に少なからず影響を与えるものであり,地域リハビリテーション活動のいっそう活発な展開が要請されている.このような状況を顧みるとき,地域リハビリテーション活動が目指すべきものは何か,そして今後の展望について述べてみたい.

シンポジウム 第17期日本学術会議環境保健学研連主催公開シンポジウム 「内分泌攪乱化学物質(環境ホルモン)の影響はどこまでわかっているか」

内分泌攪乱化学物質(環境ホルモン)問題の現状と課題

著者: 森田昌敏

ページ範囲:P.908 - P.911

環境ホルモンとその生物影響
 環境ホルモンとは環境中に存在して(すなわち外因性の)ホルモン様の作用を示す物質のことである.このような物質として女性ホルモン(エストロジェン)作用を示すものが,かなり以前より知られており,環境エストロジェンとか,植物エストロジェンというものが報告されている.前者の代表的な物質が,農薬DDTの代謝物であるDDE,後者の代表例は豆科の植物に多いイソフラボン類である.一方,私たちの体においてエストロジェンばかりでなく,非常に多くのホルモン類が,生体の維持に用いられているので,その対象をエストロジェンから,ホルモン全体に広げて,環境ホルモンという言葉(概念)が生まれたわけである.この言葉に対して,内分泌学を専門とする学者からは,内因性の物質であるホルモンという言葉の定義を混乱させるものであるという批判があるが,言葉として日本の社会に定着しつつあることもあり,ここではあえて環境ホルモンという言葉を使うことにする.
 ある種の化学物質が内分泌系に作用して生殖への悪影響を及ぼしていることに関しては,野生生物の世界ではかなり古くから指摘されてきた.1960年代までに多用されたDDTによって,はげわしの卵殻がうすくなり,ふ化率が低下したというのはそのような例である.その後,この種の知見が集積し,そのような影響例と指摘されているものに表のようなものがある.

シンポジウムのまとめ

著者: 角田文男

ページ範囲:P.911 - P.912

 今日の環境保健問題のなかで,いわゆる環境ホルモンほど一般国民に健康影響への不安を与えた問題はないであろう.しかも,この問題は一挙に登場し,特大な社会問題と化した.この問題に関する報道の見出しや内容と科学的知見との間に大きな乖離を来していたからである.それは,この問題を専門とするか,あるいは深い関心を持つ科学者が,わが国にあまりにも少なすぎたことに,ひとつの大きな原因がある.科学者の責務の怠慢ともいえる.
 当研連が今期日本学術会議活動計画の基本的方向に沿って,最初の公開シンポジウムに本テーマを最優先させたことは,当然の選定であった.幸いにも,この分野の研究で最も活躍中の先生方が,当研連の意図するところを十分に理解いただき,繁忙のなかを日時調整して講師陣に加わっていただいた.

連載 老人保健法にもとづく機能訓練事業全国実態調査報告

9.機能訓練事業に関与しているスタッフ(2)

著者: 澤俊二 ,   亀ヶ谷忠彦 ,   岩井浩一 ,   安岡利一 ,   大仲功一 ,   伊佐地隆 ,   大田仁史

ページ範囲:P.887 - P.889

 今回は,機能訓練事業に関与しているスタッフの職種と主な仕事内容などについて,調査に協力を得られた全国3,389施設の集計結果を報告する.

西生田の杜から

看護の哲学?

著者: 足立紀子

ページ範囲:P.890 - P.891

苦しみを選ぶ
 いよいよこの稿も終わりになった.何度書いても苦しい.テーマが決まるまでも,決まってからも,書きはじめてからも書き終わってからも,そして刷り上がった雑誌が届いてからもである.それなのにどうして引き受けてしまうのだろう? 自問自答し理屈をつけてみるが,要するにできないことをしてみようという好奇心と,本来人間はなまけものだから,自罰的な状態に自分を置いて少しでも向上しようということだろう.損な性格だと家族に笑われている.
 「考える」ことをじっくりしたいと思って仕事をやめ大学に入った.片手間にできない性格だからそのことを専門にする.あれから4年,卒論のときがきた.「50歳を越えると転がるように歳をとるわよ」とはよく先輩に言われた言葉だが本当に速い.

公衆衛生へのメッセージ—福祉の現場から

成人ダウン症者の健康状況

著者: 古林敬一

ページ範囲:P.892 - P.893

 この文章が掲載される頃には済んでいると思いますが,日本ダウン症ネットワーク(インターネットのホームページhttp://jdsn.gr.jp)主催のフォーラムが今年10月に大阪で開催されることになり,健康管理に関するシンポジウムでダウン症者の成人期の健康管理について話すようにとの依頼がありました.
 「健康管理」や「検診」という言葉に日頃疑問を持っている私などはシンポジストとして適任でないと思ったのですが,ダウン症の成人を数多く診ている医者はあまりいないということで結局引き受けることになりました.ダウン症者が知的障害者の中で占める割合はさほど多くない(例えば当施設では入所者の約1割程度)ため,ダウン症だけに注目して詳しく調べるのは恥かしながら今回が初めてです.

全国の事例や活動に学ぶ 今月の事例 福岡県北九州市

動物業務の転換—アニマルセラピーと地域活動を目指した活動事例

著者: 小橋清 ,   藤岡正信

ページ範囲:P.894 - P.895

 世界的に少ない狂犬病清浄国となって30余年経た今日,動物愛護法(略称)の改正など動物業務は大きな転換を求められている.
 本市は,平成5年に動物管理センターを移転改築した際に子犬舎を建築し,表1のような愛護業務への転換を模索していた.

自治体の保健福祉活動における理学療法士の役割・21

地域の社会資源の育成と活用—訪問看護ステーション

著者: 齋藤正美

ページ範囲:P.904 - P.907

 訪問看護ステーションは,平成4年4月より,老人訪問看護制度として創設され,平成6年12月の新ゴールドプランにより全国5,000カ所の整備目標が明示された.その背景には,在宅医療の推進によって高齢者の社会的入院を是正し,よって医療費の膨張に歯止めをかける必要があったからである.そして在宅医療を推進する上で訪問看護制度の普及は必要不可欠であり,そのために訪問看護ステーションの整備が図られることになった.
 本稿においては,その訪問看護ステーションを紹介しながら訪問看護ステーションにおける理学療法士の役割を中心に述べていく.

活動レポート

精神障害者の生活とニーズ調査

著者: 内野英幸 ,   長田憲冶 ,   篠田武宣

ページ範囲:P.896 - P.899

 管内の精神障害者数は,平成9年3月末現在,338人(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第32条申請者および第33条医療保護者数)で,ここ数年通院者数は,増加傾向にある(図1).
 社会復帰施設などについては,共同作業所が平成元年,県下7番目の施設として設置されたが,その後,新たな共同作業所や共同住居などの整備には至っていない.

海外事情

ニューヨーク州の保健行政・2—ニューヨーク州の成人病予防活動

著者: ホスラー晃子

ページ範囲:P.900 - P.903

 現在のニューヨーク州の保健省(New York State Department of Health)では,医療インフラの管理(医療機関や医師の認可と監督),医療アクセスの確保(各種健康保健事業),情報収集(人口動態統計や法定病の登録バンクなど)といった中央官庁的な業務の他に,住民の健康の向上を目的とした公衆衛生の活動も幅広く行っている.ニューヨーク州では公衆衛生法の規定により,住民に対する直接のサービスは郡(カウンティ)の衛生局の管轄となっている.したがって保健省の公衆衛生活動は州民全体,あるいは最も公的補助を必要とするグループ(低所得者,老人,母子,マイノリティなど)を対象にした,包括的なプログラムの企画とサポートに重点を置いている.
 現在保健省の公衆衛生部門は,州立試験所,環境衛生局,コミュニティ保健局,それにエイズ局という四つの組織に分けられている.その中で予防健康医学に基づいた総合的な住民保健の活動を行っているのがコミュニティ保健局である.ここでは伝染病疫学,母子と青少年保健,栄養保健,成人保健の四つの部があるが,今回はその中で筆者が所属する成人保健部の,成人病予防活動を掘り下げて紹介する.

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基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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