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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生63巻3号

1999年03月発行

雑誌目次

特集 結核とハンセン病について考える

ハンセン病対策の反省

著者: 村上國男

ページ範囲:P.148 - P.153

 国の政策が後世になって誤りであったと反省させられることがある.その多くは最初は国民の大部分によって熱狂的に支持されていた時代を経て,なんらかのきっかけによって価値観のどんでん返しが起こり,世論がその誤りに気付くという図式をとる.国際政治の世界では日韓併合とか大東亜戦争(第二次世界大戦)がそうであり,経済の世界ではバブル経済の崩壊がそうであった.公衆衛生の世界で最も顕著なものがハンセン病対策であって,これを象徴するのがらい予防法とその廃止である.
 誤った政策は,形式的には一握りの政策決定者によって策定されているが,世論がこれを強く支持したという事実を無視してはなならない.見方によっては世論が操作されたと考えられなくはないが,むしろ容易に操作される国民的合意(コンセンサス)が土壌としてあったと考えるべきであろう.ハンセン病対策の場合,その土壤とは公共の福祉の論理であり,弱者排除(優生思想)の論理である.

らい予防法の廃止

著者: 岩尾總一郎 ,   長田浩志

ページ範囲:P.154 - P.159

 らい予防法が廃止されて2年が経過した今,廃止に至る道のりを担当者として振り返り,取りまとめておくことは意義深いものがあろう.

繰り返してはならない「らい予防法」の過ちを—いまだ道遠し人間回復

著者: 神美知宏

ページ範囲:P.160 - P.163

 1907年(明治40年)以来,90年にわたって日本のハンセン病対策の規範となってきた「らい予防法」は,1996年4月1日をもってようやく廃止された.
 1951年(昭和26年)に全国ハンセン病療養所入所者協議会注)(以下,全療協)が結成されたが,結成の最大の目的は,患者の強制隔離撲滅を基本理念とした憲法違反の「らい予防法」を政府に抜本的に改正させるためであった.

結核予防会60年の軌跡

著者: 島尾忠男

ページ範囲:P.164 - P.169

 結核予防会は平成11年に創立60周年を迎える.創立当時の結核の蔓延状況と現状を考えると隔世の感があるが,筆者はその中の50年を予防会の職員として過ごし,結核の移り変わりとそれにに対する対策の変遷を間近に見ることができたので,この機会に予防会の辿った軌跡を中心に,日本の結核とその対策の変貌について展望を試みる.

日本の結核対策に学ぶもの—日本は世界の範になりうるか

著者: 石川信克

ページ範囲:P.170 - P.174

 日本の対策は世界のモデルになり得るか,と問われれば,答えはYesそしてNoである.この内容に言及するには,背景の分析から始めねばならない.

新たな結核対策—DOTS,耐性菌サーベイランス,院内感染対策の展開

著者: 橋本雅美

ページ範囲:P.175 - P.180

東京都の結核の特徴
 東京都の人口は1,200万人,人口密度は5,380/km2と人口が密集している.また,交通手段も発達しており,都内はもちろん周辺地域からの人口移動が活発である.外国人登録は約27万人で国際化も特徴である.
 1997年,新登録結核患者数は3,967人,り患率は33.6である.り患率の減少程度はわずかで,ここ10数年横ばいである.全国の都道府県別り患率で東京都についてみると,1986年には,低いほうから12位であったが,1997年では31位と順位を落とし,り患率の減少が他の道府県より鈍化していることがわかる.

視点

21世紀に向けての地域保健

著者: 櫃本真一

ページ範囲:P.146 - P.147

はじめに…保健所の役割
 O157感染症や和歌山カレー事件などをきっかけに,危機管理体制の整備が緊急課題とされ,感染症新法の成立と合わせて,保健所の役割が見直されている.またダイオキシンや環境ホルモンなど,未知の環境問題対策が,新たな保健所の役割として期待されている.保健所統廃合の強制的な推進とは矛盾するように思えるが,マスコミへの対処に奮闘中?!の厚生省としては,これまで頼りにしてこなかった保健所であっても,とりあえずシステム構成上の楯として必要と判断したのだろう.しかし保健所スタッフ自身が,これらの動きに保健所サバイバルを託しているとしたら問題だ.危機管理については,既に伝染病や食中毒対策として保健所が担ってきた役割であり,一方環境ホルモン対策は国・世界レベルで汚染状況や人体への影響を研究する段階で,保健所が直接研究にかかわる問題とは思えない.マスコミや国の指示ではなく,地域・住民に目を向け,刻々と変化する現状を見据えて,目的達成のために実施してきたこれまでの手段を,日々見直し改善することが重要だ.国レベルの情報収集も必要だが,今までの積み重ねにしっかりとスタンスを置かないで,「専門性」という言葉を誤認して,国からマニュアル付きで新たな事業が降りてくるのを待っているのでは,役に立たないとレッテルを貼られていずれ処分?!されるのがおちだろう.

アニュアルレポート・1999

衛生学の動向

著者: 青山英康

ページ範囲:P.182 - P.184

 日本衛生学会の会員の主要部分は大学関係者であり,最近の動向として若手研究者による会員増が認められ,会員数も約3,000名に達しようとしている.一方,日本産業衛生学会は産業現場で研究と教育,そして実践に従事する産業医や産業看護職など幅広い職域保健と医療の専門職が会員を構成しており,会員数も7,000名を超えている.日本公衆衛生学会は地域保健と最近は福祉分野にも幅を広げて,保健と医療と福祉の各分野の専門職,特に国や都道府県や市町村,そして保健所や市町村保健センターなどの行政官が会員の主要部分を占めており,会員数も3学会のうちでは最大を誇っている.
 これら各々に特徴を持つ学会において,いずれも研究分野は近時拡大しているが,地域保健と職域保健の両分野におけるフィールド研修を卒前学部教育や卒後研修,そして生涯学習として担当できる教職員の数は決して増えていないどころか減少傾向にある.今日の社会的状況からいえば,その必要性は日々高まっており「多数派ではないが主流派」といった状況である.

産業衛生学の動向

著者: 中屋重直 ,   角田文男

ページ範囲:P.185 - P.188

日本産業衛生学会の変遷
 昭和4年暉峻義等を初代理事長に,製鉄所や紡績工場の工場医らで設立された産業衛生協議会が現在の日本産業衛生学会である.暉峻は財閥大原孫三郎の肝いりで作られた倉敷労働科学研究所の所長である.戦前の研究は鉱工業の労働力強化が目的であるから,結核やペストなどの疾患予防と疲労や温熱などの労働環境対策が主題となった.劣悪な作業環境にあったから,水銀・鉛・二硫化炭素の各中毒や珪肺といった職業病の発生が多かった.それらが,戦後の産業衛生学研究の主要な流れを築いたのである.そして原因が解明した健康障害については,当然予防対策が優先とされた.にもかかわらず,現在も職業病の被災者が完全になくなったわけではない.戦後の産業衛生学の著しい進歩は間違いないのだが,原因がまだ解明されていない疾患もあろうし,犠牲が悲惨な状況を呈する直前に救っている例はいくらでもある.
 こうして日本産業衛生学会は創立70周年を迎えるが,本年度の学会内容を要約して紹介して,斯界の今日の課題を展望したい.

公衆衛生学の動向—第57回日本公衆衛生学会総会を中心に

著者: 岩田弘敏

ページ範囲:P.189 - P.192

 公衆衛生学は広範な領域であって,専門的には学会総会の分科会にあたる名称の学術学会がいくつも独立して存在し,そこで学術的に議論されているので,ここでは日本公衆衛生学会総会での概要を述べて公衆衛生学の動向としたい.
 日本公衆衛生学会総会は年に一度,全国を七つのブロックに分け,それらをむらなく巡ってブロック内の一つの都道府県で開催されている.この学会総会を通して,わが国における1年間の公衆衛生の流れが把握されるものと考える.

トピックス

介護保険制度下における守秘義務

著者: 岡本悦司

ページ範囲:P.193 - P.198

 2000年よりスタートする介護保険制度においては,施設サービスとともに居宅における介護サービスが重視される.居宅というプライバシーの中に,外部の複数の事業者を招きいれてサービスを受給する居宅サービス事業においては,異なった事業者間で情報を共有しチームワークを強化すると同時に,受給者のプライバシーも保護しなければならない,という二律背反を負わされる.
 介護保険制度下において,だれにどの範囲まで守秘義務が負わされるのか,裏返せば情報の共有はどの範囲まで許されるのか,また守らねばならない個人の秘密はどこまでの範囲に及ぶのか,を理解することは介護サービスに携わるすべての事業者,施設そしてケアマネジャーにとって極めて重要となる.さもなければ,受給者のプライバシーが侵害されたり,また逆に,不必要に慎重になるあまり,情報の共有が阻害され,有効なチームワークを発揮できなくなる恐れもあるからである.

連載 公衆衛生へのメッセージ〜福祉の現場から

介護保険時代を迎え老人保健事業に期待すること

著者: 出口安裕

ページ範囲:P.208 - P.210

 前回(本誌62巻11号),保健・医療・福祉がひとつの変革点に直面していることについて示した.また,平成12年の介護保険制度の導入により,高齢者の介護を中心とする高齢者福祉と老人保健制度が大きく変わることについて述べたが,今回は特に,介護保険時代を迎えての老人保健法に基づく老人保健事業について,現時点における一考察を述べたい.
 老人保健法に基づく老人保健事業は,健やかな老後を営むという観点から,40歳以上の国民を対象にして,早期発見・治療に加え予防的視点から表1にまとめたようないわゆるヘルス事業を市町村実施主体として昭和58年以降行っているものである.ヘルス事業のうちがん検診(胃・子宮・大腸・肺・乳房)とがんに関する健康教育などの保健事業は,国民の健康保持の観点からは引き続き重要であるものの,既に市町村事業として定着したなどの理由から,平成10年度より,老人保健法の規定(および老人保健事業の目標を示した保健事業第3次計画の目標「平成11年度末達成目標」)から除外され,財源についても一般財源化(地方交付税措置)されることとなった.

全国の事例や活動に学ぶ 今月の事例 沖縄県中央保健所

ローカルテレビを活用した保健所制作番組健康福祉情報番組「大世(ウプユー)をめざして」

著者: 国吉秀樹 ,   恵上法男

ページ範囲:P.212 - P.213

 沖縄県那覇市から海上200km余を隔てた離島に宮古島がある.人口5万人余のこの小さな島は,全日本トライアスロン大会宮古島やオリックスブルーウェーブのキャンプ地などスポーツで知られる島でもある.ここでの保健上の課題は様々であるが,脳出血の死亡率が沖縄県の中では比較的高いことがあって,早くから「脳出血ゼロ作戦」と銘打った高血圧予防の普及啓発キャンペーンを保健所や市町村,地区医師会で展開していた.
 平成7年度に老人保健対策特別事業の指定を受けて予算が確保されたので,より広域的な啓発事業として地域のケーブルテレビ局と共同で健康福祉の情報番組を制作,放映することになった(表).また番組制作と同時に,番組を通しての住民への情報提供の効果を知るために放送の前後で番組内容に関する周知度のアンケートを行った.

自治体の保健福祉活動における理学療法士の役割・12

都道府県行政と理学療法士の役割

著者: 備酒伸彦

ページ範囲:P.215 - P.218

 保健福祉活動における理学療法士の役割について,都道府県行政の立場から兵庫県立但馬長寿の郷(以下,当郷)の事業を通して考える.
 当郷が所管する兵庫県但馬地域は,全県面積の1/4を占めながら人口は県人口の1/25に満たず,地域を構成する1市18町のうち12町が「過疎地域活性化特別措置法」の適用を受けている典型的な過疎地域である.また,平成10年2月現在の高齢化率が全県で15.6%であるのに対して但馬地域は24.0%,一部の町では30%を超えており,既に超高齢化社会が現実のものとなっている(図1).一方,但馬地域は豊かな自然環境に恵まれ,都市部で失われつつある地域コミュニティが機能しているという面もある.

活動レポート

NGOと川口保健所の共催による在日外国人健康相談会

著者: 野本親男 ,   平野詩子 ,   尼崎瑞恵

ページ範囲:P.199 - P.202

 埼玉県川口保健所の管内(川口市,鳩ケ谷市)は,荒川をはさんで東京に隣接しており,何事においても東京の影響を強く受けている地域である.その労働力を必要とする大都市とそこにある企業から下請けの仕事が供給されている小規模工場が多い川口市は,外国人登録者数が県内で最も多く,ニューカマーの外国人が増えて10年になり,定住化が進んでいる.
 保健所は地域保健法の改正により,精神障害者対策,感染症対策,難病対策などの機能の充実と人権擁護の観点からの公衆衛生活動が求められている.今回,在日外国人の健康相談会を実施したのでその活動内容を報告する.

ニコチンガムを用いた禁煙教室の試み

著者: 植田美津江 ,   通木俊逸 ,   杉山釼一 ,   森下宗彦

ページ範囲:P.203 - P.206

 喫煙による健康被害については,既に世界中に広く周知されており,たばこ対策の遅れの点をしばしば指摘されるわが国においても禁煙や分煙の動きは徐々に高まっている.しかし依然として日本の喫煙率は先進諸国のなかでも高いといわれ,男女平均では31.7%である1)
 米国では,1997年6月に,たばこ会社が総額3,685億円支払うことで,原告である州との合意に達し,健康被害訴訟に関する歴史的和解と称して話題を呼んだ.しかし,これにより,米国たばこ会社のターゲットが海外に向けられ,ますます輸出戦略に重点が置かれることになるのではないかと,新たな懸念を生んでいる.日本でも,このような米国の動きを受けて1997年7月16日に「たばこPL訴訟準備会」がスタートしたほか2),1998年5月には,肺がんなどの患者が,国とJTを相手に損害賠償などを求める訴訟を起こした3)

レポート

グローバル・ヘルス・ネットワーク・スーパーコース

著者: 関川暁 ,   西村理明 ,   佐藤敏彦

ページ範囲:P.219 - P.222

 人間集団の健康の基本的指標である平均寿命をみると,今世紀,人類はいまだかつて経験したことのない改善を享受しており,先進国で平均25年,発展途上国で平均20年以上の延びを示している1).この改善の大部分はパブリック・ヘルス(public health)によるというのが定説である2,3)
 パブリック・ヘルスとは,「地域住民全体を対象とした,健康増進,予防に焦点をあてた科学及び活動の集学的総体」と定義されている4).その基礎科学は疫学であり5),人類全体の健康(グローバル・ヘルス)の改善に大きく貢献してきた.天然痘,ポリオの撲滅における感染症の疫学6),心筋梗塞,脳卒中などの危険因子の同定から予防における非感染性慢性疾患の疫学7)などが例としてあげられる.また,パブリック・ヘルスの活動の方法論は,地域での適応可能な技術や社会状況によって異なる.ある地域では,栄養の改善や衛生の向上,別の地域では母子保健,予防接種の普及,他の地域では疾病の社会,経済,文化的因子を解析し,疾病予防対策を施行することかもしれない.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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