icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生63巻5号

1999年05月発行

雑誌目次

特集 地域保健の財政基盤

明日の地域保健と財政基盤

著者: 櫃本真一

ページ範囲:P.308 - P.312

 テレビから,「W市のある福祉団体が,行政に長年支援を要望してきたところ,行政がようやく重い腰を上げてその団体の集会に参加した」とのニュースが目に入ってきた.「重い腰」はしばしばマスコミが行政に使う言葉だなあと苦笑していたが,その後のW市福祉課長のコメントには考えさせられるものがあった.「団体の活動の意義や熱意は理解できたが,行政のルールからいって一つの団体だけを支援するわけにはいかない.現状を調査して,このような障害者の方に,行政としてどうかかわるべきか検討したい」マスコミが適当に切り取った恐れはあるが,おおむね以上のような内容だったと思う.一見優等生のそつのない回答に思えるが,まるで国の答弁のようで冷たい感じがしたのは私だけだろうか.国のやり方を真似てきた地方行政の限界をそろそろ痛感しなければ….行政のルールなど行政の立場を正当化し住民に押し付けようとしていること,現状が把握できていないことへの反省がないこと,「逃げ」の姿勢として視聴者(市民)から見られること,など,日ごろ公務員が陥りやすい過ちを再認識させてくれた.これまでの行政の指導的・管理的かかわりを是正しながら,地域づくり・健康づくりのために住民の自主的な活動をどう支援していくかを念頭に,財政配分についても,国とは違う,住民主役の「金の使い道」について,身近な事例を通じて,常日頃から考える姿勢が必要だ.

県の地域保健の財政基盤

著者: 松原了

ページ範囲:P.313 - P.320

 平成4年度以降,国,地方を通して税収が激減する中で,国においては数次にわたり大型の経済対策が実施され,本県においてもこれに呼応した取組みを行うため,財源として大量の県債を発行し,その総額は4年間で1兆2,000億円に達した.平成7年度一般会計決算においては,人件費や公債費などの経常経費を賄うのに必要な一般財源支出は,県税や交付税などのいわゆる自主財源による収入分の100に対して,103.0%となった.県税や交付税など通常の収入規模としてのいわゆる「自主財源」を越えた,公債費などによる巨額の「経常経費」のためである(図).

大都市における地域保健の財政基盤

著者: 藤原俊彦

ページ範囲:P.321 - P.325

 今年の年賀状の添え書きには,不況の2文字が随分と目についた.この雑誌が出るころには,どうなっているのか予測もつかないが,バブル崩壊に始まった金融不安に基づく景気の長期低迷に歯止めがかかるという見通しは持てないままでいるものと思われる.その回復のための大切な手立てとして,行財政改革,規制緩和,地方分権などが叫ばれはじめて久しい.とはいえ,これらの手段にしても,それほどのスピードアップは期待できないであろうし,カンフル剤的な速効性は望むべくもない.
 そのように,本市をめぐって内外ともに誠に厳しい財政事情のさなかに,かかるテーマを頂くことは,極めて皮肉でもあり困難でもあるが,現時点なりでの分析考察をしてまとめてみたいと思う.

地方都市における地域保健の財政基盤

著者: 藤原満喜子

ページ範囲:P.326 - P.330

上越市の現状
 上越市は新潟県の南西部に位置し,人口134,679人(平成11年3月1日現在),古くからの商工業都市である.
 平成8年に市民と行政が協働して,30年超長期ビジョン「のびやかJ(JOETSU)プラン」を策定し,30万人都市機能のまちづくりを進めている.昨年2月,環境ISO14001(国際環境管理規格)の認証を取得し「人・環境・まちづくり」を基本政策とした“市民と地球の健康づくり”ともいえる総合的なまちづくりに取り組んでいる.

特別区における母子保健の財政

著者: 西田みちよ

ページ範囲:P.331 - P.335

 特別区は自治法上,都道府県,市町村が普通地方公共団体として位置づけられているのと異なり,特別地方公共団体と呼ばれ憲法上の地方公共団体とは認められず,都の内部的な団体であるとされている.しかし,一般の「市」と同程度の事務処理機能が与えられており,実質的には大都市東京の基礎的自治体としての役割を果たしている.
 また,特別区は地域保健法第5条で新たに明記されたように保健所を設置する自治体であり,同時に住民に最も身近なサービス提供機関としての役割も担っている.

感染症新法における地方の事務と予算

著者: 佐野等

ページ範囲:P.336 - P.340

 4月1日,新しい時代の感染症対策を担う「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(以下,新法)のスタートが切られた.
 伝染病予防法(以下,旧法)は,全国約3,000の市町村に対して,一律に多くの事務権限を委ねているが,新法は,新たな感染症対策の広域性と専門性,統一的な基準,市町村の間の連絡調整の必要性などにかんがみ,原則として都道府県(保健所設置市,特別区を含む)が所要の事務を担うことを原則としている.このことから,市町村から都道府県へという権限の移動現象が起こっており,ともすれば時代の流れに逆行しているとの懸念さえ抱かせる.

財政効果からみた保健事業の展望

著者: 辻一郎 ,   久道茂

ページ範囲:P.341 - P.344

医療ニーズの減少で医療費の節減を
 高騰を続ける医療費を抑制するため,自己負担の引き上げ,保険給付範囲の制限,診療報酬の定額制など,様々な措置が世界的に試みられてきた.しかし,これら財政主義的な取り組みが長期的に成功した例はない.
 今こそ,予防医療の基本に立ち帰るべき時である.健康増進と疾病(障害)予防を拡充して医療のニーズを減らし,医療費の節減に貢献するという基本である1).筆者らの研究を例に,保健事業の財政効果を検討する.

視点

21世紀に向けての地域保健

著者: 阿彦忠之

ページ範囲:P.306 - P.307

地域保健の市場化
 「ビッグバン」という言葉が流行している.宇宙創造につながる大爆発ほどではないにしろ,新しい時代に向けて「大改革」が必要な分野で頻繁に使われている.火付け役となった金融ビッグバンの場合は,銀行,証券会社,保険会社などの業種の壁がなくなり,国境を越えた市場化と情報化によって業界再編が加速して,新たなサービス体系が創造されるという意味のようだ.
 われわれに身近な分野では,高齢者の保健・医療・福祉に関するビッグバン,すなわち公的介護保険制度の施行が目前に迫ってきた.このビッグバンも,金融界との共通点がかなりある.例えばホームヘルパーの養成だけをみても,福祉機関のほか,警備会社,進学塾,あるいは農協など,数多くの団体が積極的に参入している.これまで異業種と思われた分野を巻き込んで供給量を早急に増やし,かつ,利用者側にサービスの選択権を与えることで市場原理が働き,サービスの質も保てると説明されている.伝統ある福祉施設であっても,狭い意味の専門性にあぐらをかいて努力を怠れば,利用が減って淘汰されるというシナリオだ.でもその先には,どのような社会が創造されるのだろうか.将来を予測するにはまだまだ情報不足のため,希望よりも不安のほうが大きい.

連載 精神保健福祉計画の企画と実施—意欲を事業に反映するために

座談会 精神保健福祉はどのように動くか—法改正の読み解き・1

著者: 高畑隆 ,   藤井要子 ,   漆原和世 ,   東條敏子 ,   竹島正 ,   吉川武彦

ページ範囲:P.345 - P.352

 竹島 この2年間「精神保健福祉をどう進めるか」をシリーズで掲載してきましたが,法改正については触れることができませんでした.今回は,法改正に臨んで,「法改正の読み解き」をテーマに座談会を企画しました.
 公衆衛生審議会の意見書が先般出され,これをもとに法改正が検討されています.もちろんこの中で実現できること,まだ検討の必要なことなど整理がなされるのかもしれませんが,今の段階で,今回の法改正で検討されている方向について意見交換できればと思っています.

シリーズ 始動した新しい健康の町づくり—出雲健康文化都市プロジェクト・2

健康文化都市プロジェクトのあゆみ

著者: 塩飽邦憲 ,   齋藤茂子

ページ範囲:P.353 - P.357

市民が主人公となる活動をめざして
 「ある控えめな男のためにお祝いの会が開かれた.集まった人々は,ちょうどいい機会とばかり,てんでに自慢するやら,褒め合いをするやらで時間のたつのを忘れた.食事も終わろうという頃になって人々が気が付いてみると……当の主人公を招くのを忘れていた」(チェーホフ『手帖』1)).1980年代の健康福祉活動は,上記の物語と同じように,主人公抜きの活動展開ではなかったかとの反省がある.
 市民は活動の「対象」ではなく「主人公」であり,「パートナー」であるとの基本理念にたった出雲市健康文化都市プロジェクトを,1994年より開始した.本稿では,「出雲コミュニティケア研究会」のあゆみを中心にプロジェクトの準備過程(準備期),「健康文化都市いずもプラン21」を策定した過程(確立期),「プラン21」を実施しつつある発展期を通して(図1),関係したスタッフと市民の成長を価値観,企画能力,重点的活動,活動分野,学習技法の五つのフレームワークから検討した(図2).

西生田の杜から

仕事と学習

著者: 足立紀子

ページ範囲:P.358 - P.359

私にとっての学び
 西生田の杜は四季折々美しい.よみうりランド駅前から数分歩くと大学の正門に入るが,一歩足を踏み入れると奥多摩でも歩いているような気分になる.3年あまり前,社会人入試で初めて訪れたとき,私はこれだけで満足したくらいだ(大学の本質とは関係なく).だらだらと続く坂道の両脇には桜,楓,松が,そして落葉樹がうっそうと茂っている.真っ白な校舎と手入れのゆき届いたキャンパスはいかにも女子大らしい清潔感がある.
 歩くことの嫌いな現代の若者は,この坂道を嫌い,エスカレータか“歩く歩道”をつけてほしいなどと言っている.56歳の新入生には考えられない.とりわけ歩くことの好きな私には“もったいない”とさえ思ってしまう.こんなすばらしい環境と健康な足に恵まれて何を言っているのだろう,貧しい時代に育ったおばさん学生は思う.

公衆衛生へのメッセージ〜福祉の現場から

疥癬狂騒曲ファイナル—そして疥癬はありふれた感染症になった

著者: 牧上久仁子

ページ範囲:P.360 - P.363

 このコーナーは続き物ではないのですが,期せずして疥癬に関して書くのはこれが3回目になってしまいました.はじめて読んでいただく方のためにこれまでの経過をざっとご紹介いたします.

老人保健法にもとづく機能訓練事業全国実態調査報告

2.機能訓練事業の実施開始年度,実施型,実施場所

著者: 澤俊二 ,   亀ケ谷忠彦 ,   岩井浩一 ,   安岡利一 ,   大仲功一 ,   伊佐地隆 ,   大田仁史

ページ範囲:P.364 - P.365

 『作業療法』1999年2月号において厚生省の担当者は,これから老人保健事業に関する専門委員会の中で老人保健法の見直しが進めば,機能訓練事業がその存続をあやぶまれる可能性もあると語っている.しかし本事業が過去16年間にわたって地域の在宅障害者の生活を支えてきた足跡は軽んじられるべきではなく,むしろその実績は積極的に評価していくことが必要であろう.
 今回は,調査に協力の得られた3,389施設の事業開始年度(設問2),実施型(設問4),実施場所(設問3)について報告する.

全国の事例や活動に学ぶ 今月の事例 沖縄県宮古保健所

保健所医師と国際保健協力

著者: 国吉秀樹 ,   楠本一生

ページ範囲:P.366 - P.368

 平成9年度に約2カ月,ボリビア国サンタクルス県の「地方公衆衛生向上プロジェクト」の短期専門家として派遣される機会があった.語学は得意なほうではないし,特に国際協力に興味があったわけでもなかったので派遣前は「自分でよいのだろうか」との戸惑いを感じたが,日頃職場で得にくい学習がかなりできたし,プロジェクト進行にもある程度貢献できたと思う.プロジェクトの内容は,母子保健を中心とした衛生教育の実践とシステム作りであるが(表),私自身は「疫学専門家」という立場で,長期専門家の実施した調査の分析・まとめが主な仕事となる予定であった.ところが,プロジェクトの活動全体を把握するのに,事前の目標と計画に沿ってさらに整理をする必要が生じたので,調査の分析と同時に,PCM(プロジェクト・サイクル・マネジメント)を用いて関係者で再度プロジェクトの活動を見直してみた.その結果,プロジェクトのデザインとそれぞれの役割がはっきりし,現在の状況確認とこれからの進行管理について関係者の共通認識を得ることができた.
 わずかな経験からではあるが,保健所の医師などが国際保健協力で寄与できる可能性を(筆者は十分できなかったが)次のように考えた.

自治体の保健福祉活動における理学療法士の役割・14

乳幼児期のリハビリテーションにおける理学療法—通園施設の場合

著者: 田中幸夫

ページ範囲:P.370 - P.373

 東大阪市は,大阪市の東部に隣接する人口約52万人,面積約62平方km,全国でも有数の「中小企業のまち」である.
 東大阪市療育センターは1980年(昭和55)に開設された.当市にはそれまで小規模の無認可施設しかなく,障害児(者)をかかえる保護者や関係者にとって,本格的な専門的施設の開設は長年にわたる願いであった.また,市内では統合教育・統合保育が一定進み,学校や保育所などの現場からも専門性を活用できる施設への大きな期待があった.そのようなニーズに応えるため,市は東大阪市社会福祉事業団を設立し,東大阪市療育センター(第一はばたき園・第二はばたき園)の運営を委ねた.以来,療育センターは障害児福祉の基幹施設としての役割を担ってきている.ここでは療育センターにおける理学療法士の活動を報告する.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら